B型慢性肝炎に対する新規逆転写酵素阻害剤テノホビルの有効性・安全性に関する検討

文献情報

文献番号
201227001A
報告書区分
総括
研究課題名
B型慢性肝炎に対する新規逆転写酵素阻害剤テノホビルの有効性・安全性に関する検討
課題番号
H22-肝炎-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
三田 英治(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター(臨床研究センター) 消化器科)
研究分担者(所属機関)
  • 八橋 弘(独立行政法人国立病院機構長崎医療センター臨床研究センター)
  • 中牟田 誠(独立行政法人国立病院機構九州医療センター(臨床研究センター)消化器科)
  • 鈴木 義之(虎の門病院肝臓科)
  • 宇都 浩文(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科健康科学専攻人間環境学講座消化器疾患・生活習慣病学)
  • 柘植 雅貴(広島大学自然科学研究支援開発センター生命科学実験部門)
  • 今井 康陽(市立池田病院副院長)
  • 加藤 道夫(独立行政法人国立病院機構南和歌山医療センター副院長)
  • 太田 肇(独立行政法人国立病院機構金沢医療センター消化器科)
  • 正木 尚彦(国立国際医療研究センター国府台病院肝炎情報センター長)
  • 肱岡 泰三(独立行政法人国立病院機構大阪南医療センター統括診療部長)
  • 島田 昌明(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター消化器科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
35,254,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
核酸アナログの導入によってB型肝炎の鎮静化、ひいては肝発癌の抑制が期待できるようになった。しかし長期投与例が増えるにしたがい、反応不良例や耐性化例が報告されるようになった。欧米ではテノホビルが反応不良例や耐性化例へのキードラッグとなっているが、日本では保険適応がない。そこで、テノホビルの有効性を日本人において検証することが本研究の目的である。また同族のアデホビルの副作用対策がテノホビルに応用可能と思われ、腎障害の観点からの安全性を検証した。
研究方法
有効性に関しては「ラミブジン・アデホビル併用療法効果不良例に対するテノホビル切り替え臨床試験」を行った。対象は、ラミブジン・アデホビル併用療法2年目にHBV-DNAが4 log copies/mL未満を達成できなかったB型慢性肝疾患症例で (i) HBe抗原の有無は不問、(ii) 肝細胞癌がない、もしくは良好にコントロールされている、(iii) ALT値も不問、(iv) 他の肝疾患が否定されている、(v) HIV感染がない、(vi) 腎機能が正常である、の条件を満たしているものとした。切り替え後2年後にHBV-DNAが測定感度下限(=2.1 log copies/mL)未満となる頻度を主要評価項目とした。一方、ラミブジン・アデホビル併用療法耐性例で、上記条件を満たした場合、rescue therapyとしてアデホビルをテノホビルに切り替えた。また各種核酸アナログ耐性株を導入したプラスミドを培養細胞にtransfectし、in vitroでのテノホビルの抗HBV効果を検討した。安全性はテノホビルと同族のアデホビルの腎障害、Fanconi症候群の報告をまとめ、発症前の予知が可能であるかを検討した。またHIV感染症に対するテノホビル治療の安全性も検討した。
結果と考察
「効果不良例に対する切り替え試験」はHBe抗原陽性14例、陰性2例の計16例(切り替え前HBV-DNAの中央値は4.5 log copies/mL)に対し行った。3ヶ月後にHBV-DNAが測定感度下限未満となったのは8例(50.0%)、6ヶ月後には13例(81.3%)、12ヶ月後には16例(100%)であり、切り替えの抗HBV効果は良好であった。特に長期間(4年以上)反応不良であった症例でも良好な抗HBV効果を認めた。「耐性例に対する切り替えrescue therapy」は7例に対し行っている。切り替え前すでにラミブジンをエンテカビルに変更していた2例が含まれていた。1年後にHBV-DNAが測定感度下限未満となったのは7例中5例で、残り2例も2.3、3.2 log copies/mLと抗HBV効果は良好であった。ただ1年後HBV-DNA 3.2 log copies/mLの症例はアデホビルの耐性変異であるrtA181TとrtN236Tを有しており、その後HBV-DNAの低下がにぶったことから、同変異がテノホビルに抵抗性である可能性が示唆された。in vitroでのテノホビルの抗HBV効果を検討したところ、A181T変異単独では野生株と同等のHBV複製抑制効果を認めたが、A181T/N236T株でテノホビル添加培養によるHBV複製抑制効果が減弱していた。したがって、テノホビルに対する抵抗性にはN236Tが重要と考えられた。安全性ではアデホビルによる検討で、腎障害・Fanconi症候群発症前にはクレアチニン/eGFRの悪化のみならず、血清P値ならびに尿酸値の低下、ALP値の上昇、骨痛などの自覚症状が出現しており、テノホビル治療のモニタリングに有用と思われた。またHIV感染症に対するテノホビル治療では、長期使用後の腎障害ほど回復が見込めないことが示された。
結論
臨床試験の検討によって、核酸アナログ多剤反応不良例および耐性化例に対するテノホビルの抗HBV効果は極めて良好であった。特に長期効果不良例に対しても有効なことから、今後テノホビルが保険適応拡大されると、全例切り替えを行うことが望ましい。また耐性化例に対しても有効であり、耐性化例も切り替えがすすむものと思われる。一方、A181T/N236T変異を有していた場合、テノホビルに抵抗性を示すことが実臨床とin vitroの検討から明らかとなった。「反応不良の状態が長期化し、N236Tの変異が入ると耐性化する」と考えられるため、2年経過してもHBV-DNAが測定感度下限未満にならなければ、テノホビルの使用が推奨される。副作用については同族のアデホビルで腎障害やFanconi症候群の詳細な検討が行われ、クレアチニン/eGFR、P、ALP値のモニタリングが有効と結論した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201227001B
報告書区分
総合
研究課題名
B型慢性肝炎に対する新規逆転写酵素阻害剤テノホビルの有効性・安全性に関する検討
課題番号
H22-肝炎-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
三田 英治(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター(臨床研究センター) 消化器科)
研究分担者(所属機関)
  • 八橋 弘(独立行政法人国立病院機構長崎医療センター臨床研究センター)
  • 中牟田 誠(独立行政法人国立病院機構九州医療センター(臨床研究センター)消化器科)
  • 鈴木 義之(虎の門病院肝臓科)
  • 宇都 浩文(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科健康科学専攻人間環境学講座消化器疾患・生活習慣病学)
  • 柘植 雅貴(広島大学自然科学研究支援開発センター生命科学実験部門)
  • 今井 康陽(市立池田病院副院長)
  • 加藤 道夫(独立行政法人国立病院機構南和歌山医療センター副院長)
  • 太田 肇(独立行政法人国立病院機構金沢医療センター消化器科)
  • 正木 尚彦(国立国際医療研究センター国府台病院肝炎情報センター)
  • 肱岡 泰三(独立行政法人国立病院機構大阪南医療センター統括診療部長)
  • 島田 昌明(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター消化器科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
核酸アナログの導入によってB型肝炎の鎮静化、ひいては肝発癌の抑制が期待できるようになった。しかし長期投与例が増えるにしたがい、反応不良例や耐性化例が報告されるようになった。欧米ではテノホビルが反応不良例や耐性化例へのキードラッグとなっているが、日本では保険適応がない。そこで、テノホビルの有効性・安全性を日本人において検証することが本研究の目的である。
研究方法
有効性に関しては「ラミブジン・アデホビル併用療法効果不良例に対するテノホビル切り替え臨床試験」を勘案した。対象は、ラミブジン・アデホビル併用療法2年目にHBV-DNAが4 log copies/mL未満を達成できなかったB型慢性肝疾患症例で (i) HBe抗原の有無は不問、(ii) 肝細胞癌がない、もしくは良好にコントロールされている、(iii) ALT値も不問、(iv) 他の肝疾患が否定されている、(v) HIV感染がない、(vi) 腎機能が正常である、の条件を満たしているものとした。切り替え後2年後にHBV-DNAが測定感度下限(=2.1 log copies/mL)未満となる頻度を主要評価項目とした。一方、ラミブジン・アデホビル併用療法耐性例で、上記条件を満たした場合、rescue therapyとして「テノホビル切り替え臨床試験」を行った。また各種核酸アナログ耐性株を導入したプラスミドを培養細胞にtransfectし、in vitroでのテノホビルの抗HBV効果を検討した。安全性はテノホビルと同族のアデホビルの腎障害、Fanconi症候群の報告をまとめ、その対策に関する考察を行った。またHIV感染症に対するテノホビル治療の安全性も検討した。
結果と考察
「効果不良例に対する切り替え試験」はHBe抗原陽性14例、陰性2例の計16例(切り替え前HBV-DNAの中央値は4.5 log copies/mL)に対し行った。3ヶ月後にHBV-DNAが測定感度下限未満となったのは8例(50.0%)、6ヶ月後には13例(81.3%)、12ヶ月後には16例(100%)であり、切り替えの抗HBV効果は良好であった。特に長期間(4年以上)反応不良であった症例でも良好な抗HBV効果を認めた。「耐性例に対する切り替えrescue therapy」は7例に対し行っている。切り替え前すでにラミブジンをエンテカビルに変更していた2例が含まれていた。1年後にHBV-DNAが測定感度下限未満となったのは7例中5例で、残り2例も2.3、3.2 log copies/mLと抗HBV効果は良好であった。ただ1年後HBV-DNA 3.2 log copies/mLの症例はアデホビルの耐性変異であるrtA181TとrtN236Tを有しており、その後HBV-DNAの低下がにぶったことから、同変異がテノホビルに抵抗性である可能性が示唆された。in vitroでのテノホビルの抗HBV効果を検討したところ、A181T/N236T株でテノホビル添加培養によるHBV複製抑制効果が減弱しており、臨床像で観察されたことが証明された。A181T単独では、この現象は観察されず、テノホビルの抵抗性には両部位の変異が必要であった。安全性ではアデホビルによる検討でクレアチニン/eGFRの悪化のみならず、Pの低下、尿酸値の低下、ALP値の上昇が腎障害やFanconi症候群の兆候であり、テノホビル治療のモニタリングに有用と思われた。HIV感染症に対するテノホビル治療では、長期使用後の腎障害ほど回復が見込めないことが示された。
結論
臨床試験の検討によって、核酸アナログ多剤反応不良例および耐性化例に対するテノホビルの抗HBV効果は極めて良好であった。日本人での有効性が証明されたことで、保険適応拡大の環境は整ったと言える。アメリカFDAのpregnancy categoryで、テノホビルは唯一category Bを獲得している抗HBV核酸アナログで、大半が垂直感染でHBVキャリア化している日本の現状では、挙児希望の女性でも使えるものと期待されている。一方でA181T/N236T変異を有していた場合、テノホビルに抵抗性を示すことも明らかとなった。同変異の検査体制の確立と、変異する前の対応に関しても、本研究は方向性を示せたと考える。特に、このA181T/N236T変異に関してはin vitroのアッセイ系でもテノホビルの抵抗性が証明されており、今後新規薬剤が出た場合のA181T/N236Tに対する有効性の検証に役立つものと思われる。副作用については同族のアデホビルで腎障害やFanconi症候群の詳細な検討が行われ、クレアチニン/eGFR、P、ALP値のモニタリングが有効と結論した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201227001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
A181Tのみのアデホビル変異ではテノホビルに対し反応性であるが、N236T変異が加わるとテノホビルにさえ抵抗性を示すことをin vitroで証明した。臨床サンプルを用いた検討でも、アデホビル耐性例の多くはN236Tが検出されず、アデホビルからテノホビルへ切り替えた場合の抗ウイルス効果は良好であった。以上のことから、アデホビル治療の反応が不良であった場合、N236T変異が生じない早期にテノホビルへの切り替えを推奨するべきと結論した。
臨床的観点からの成果
ラミブジン・アデホビル併用療法の20~30%、エンテカビルの5%程度が核酸アナログ治療の反応不良例と判明した。反応不良例から耐性化を起こすことを示し、テノホビルの追加併用により多くが測定感度下限未満までHBV-DNAを低下させることを証明した。テノホビル保険認可前でも、耐性化による急性増悪時はテノホビルで対応することが有効であることをコンセンサスとすることができた。また適応拡大後は副作用軽減の観点からアデホビルは原則テノホビルへの切り替えが妥当であることを示した。
ガイドライン等の開発
保険適応外薬剤のテノホビルであるが、本研究班が日本人への投与経験・安全性を報告し、日本肝臓学会が作成したB型肝炎治療ガイドラインの「アデホビル耐性ウイルス」と「エンテカビル耐性ウイルス」の項で、使用選択肢として取り上げられることとなった。核酸アナログに耐性化・ブレークスルー肝炎を発症した症例に対し、緊急待避的な治療としてテノホビルを保険的適応外使用することはコンセンサスを得たと考える。多くの問い合わせに対し、研究班で対応している。
その他行政的観点からの成果
分担研究者の他に、国立病院機構共同研究班のメンバーを研究協力者に加えたことから、核酸アナログ耐性で肝炎が増悪した症例のrescue therapyの受け皿を全国的に設けることが可能であった。肝炎の医療費助成が制度化されている現在、核酸アナログ耐性化例に対する対応策を検討することは行政施策にマッチするものである。
その他のインパクト
核酸アナログ治療の反応不良・耐性化例の調査をまず行った際、アデホビルによる腎機能障害および薬剤性Fanconi症候群が既報以上に高頻度であることが判明した。このことは日本肝臓学会でも積極的に取り上げられ、アデホビルの添付文書が改訂されるに至った。また、アデホビルの腎機能障害のモニタリングと対処法も日本肝臓学会および厚労科研のガイドラインに反映されるようになった。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
25件
その他論文(和文)
16件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
40件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Suzuki F, Arase Y, Suzuki Y, et al.
Long-term efficacy of interferon therapy in patients with chronic hepatitis B virus infection in Japan.
Journal of Gastroenterology , 47 (7) , 814-822  (2012)
原著論文2
Ono A, Suzuki F, Kawamura Y, et al.
Long-term continuous entecavir therapy in nucleos(t)ide-naive chronic hepatitis B patients.
Journal of Hepatology , 57 (3) , 508-514  (2012)
原著論文3
Mori N, Suzuki F, Kawamura Y, et al.
Determinants of the clinical outcome of patients with severe acute exacerbation of chronic hepatitis B virus infection.
Journal of Gastroenterology , 47 (9) , 1022-1029  (2012)
原著論文4
Hosaka T, Suzuki F, Kobayashi M, et al.
Clearance of hepatitis B surface antigen during long-term nucleot(s)ide analog treatment in chronic hepatitis B: results from a nine-year longitudinal study.
Journal of Gastroenterology , 48 (8) , 930-941  (2013)
原著論文5
Chayama K, Hayes CN, Hiraga N, et al.
Animal model for study of human hepatitis viruses.
Journal of Gastroenterology and Hepatology , 26 (1) , 13-18  (2011)
原著論文6
Tsuge M, Takahashi S, Hiraga N, et al.
Effects of hepatitis B virus infection on the interferon response in immunodeficient human hepatocyte chimeric mice.
The Journal of Infectious Diseases , 204 (2) , 224-228  (2011)
原著論文7
Kobayashi M, Hosaka T, Suzuki F, et al.
Seroclearance rate of hepatitis B surface antigen in 2,112 patients with chronic hepatitis in Japan during long-term follow-up.
Journal of Gastroenterology , 49 (3) , 538-546  (2014)
原著論文8
Tanaka M, Suzuki F, Seko Y, et al.
Renal dysfunction and hypophosphatemia during long-term lamivudine plus adefovir dipivoxil therapy in patients with chronic hepatitis B.
Journal of Gastroenterology , 49 (3) , 470-480  (2014)
原著論文9
Hosaka T, Suzuki F, Kobayashi M, et al.
Long-term entecavir treatment reduces hepatocellular carcinoma incidence in patients with hepatitis B virus infection.
Hepatology , 58 (1) , 98-107  (2013)

公開日・更新日

公開日
2016-05-23
更新日
-

収支報告書

文献番号
201227001Z