新しい音伝導ルートによる新補聴システムの開発-現存の気導補聴器が使用できない難聴者(耳漏のある耳、外耳道閉鎖症など)も使用可能な補聴器の開発-

文献情報

文献番号
201027029A
報告書区分
総括
研究課題名
新しい音伝導ルートによる新補聴システムの開発-現存の気導補聴器が使用できない難聴者(耳漏のある耳、外耳道閉鎖症など)も使用可能な補聴器の開発-
課題番号
H20-感覚・一般-002
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
細井 裕司(公立大学法人 奈良県立医科大学 医学部 耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 西村 忠己(公立大学法人 奈良県立医科大学 医学部 耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座 )
  • 柳井 修一(東京都健康長寿医療センター研究所 老化制御研究チーム)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中耳炎で耳漏がある難聴者や外耳道が閉鎖している難聴者では気導補聴器が使用できない。骨導補聴器は固定が困難で使用は限られている。骨導補聴器の固定の問題を解決するために開発されたBAHA(Bone Anchored Hearing Aid)は手術が必要で術後の合併症も報告されている。気導補聴器が使用できない難聴者に対し、手術を要せず新しい音伝導ルート(軟骨伝導)を用いた補聴システムを開発する。
研究方法
本研究では試作器の作製と、より効果のある補聴システム作製のために軟骨伝導そのものの検討を行った。試作器の作製は、振動子の開発と本体の作製からなる。作製した補聴システムは、数値計算を用いシミュレーションを行い、実際の人の耳での音の伝導効果、歪などを予測し補聴器の設定に役立てるほか、実際のヒトの耳を用いてその効果について検証する必要がある。それらの結果を用いて調整した補聴器を再評価し徐々に最適な状態へと近づけていく。軟骨伝導の検討ではヒトを用いた聴覚実験と動物実感を行った。気導および骨導との違いを見ることで音の伝搬経路の解明を行った。
結果と考察
より効果のある補聴システムとして今年度は両耳補聴可能な試作器を作製した。また昨年度までの試作器で問題となったハウリングに対応するためクロスヒアリングタイプの試作器の作製を行った。試作器を外耳道閉鎖症の症例で試聴していただいたところ十分な補聴効果が得られた。
軟骨伝導の解明については振動および音響特性や聴取実験で耳栓の効果を測定したところ、低音域は骨導に近い特徴があり高音域では気導に近い特徴があることが分かった。動物実験においても軟骨伝導は気導および骨導とことなる可能性が示唆された。
本研究の結果、新しい伝導経路である軟骨伝導経路を用いた補聴システムの有用性が示された。軟骨伝導の伝搬経路は気導や骨導と異なり、周波数によって伝搬経路が異なることが示唆された。これらの結果は補聴システムの改良および補聴器の適応を判断する上で有益な情報をもたらすと考えられる。
結論
本研究で得られた結果を基に開発を進めることで、軟骨伝導補聴器の実用化が可能であると考えられた。また軟骨伝導での音の伝搬経路は既知の気導や骨導とはことなる性質を持つことが分かった。

公開日・更新日

公開日
2011-05-24
更新日
-

文献情報

文献番号
201027029B
報告書区分
総合
研究課題名
新しい音伝導ルートによる新補聴システムの開発-現存の気導補聴器が使用できない難聴者(耳漏のある耳、外耳道閉鎖症など)も使用可能な補聴器の開発-
課題番号
H20-感覚・一般-002
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
細井 裕司(公立大学法人 奈良県立医科大学 医学部 耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 阪口 剛史(公立大学法人 奈良県立医科大学 医学部 耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座 )
  • 西村 忠己(公立大学法人 奈良県立医科大学 医学部 耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座 )
  • 田村 光男(NECトーキン株式会社)
  • 吉野 和巳(NECトーキン株式会社)
  • 舘野 誠(リオン株式会社)
  • 柳井 修一(東京都健康長寿医療センター研究所 老化制御研究チーム)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
補聴器の性能は近年向上してきたが、中耳炎で耳漏がある難聴者や外耳道が閉鎖している難聴者では気導補聴器が使用できない。骨導補聴器は固定が困難で使用は限られている。骨導補聴器の固定の問題を解決するために開発されたBAHA(Bone Anchored Hearing Aid)は手術が必要で術後の合併症も報告されている。気導補聴器が使用できない難聴者に対し、手術を要せず新しい音伝導ルート(耳珠軟骨経由)を用いた補聴システムの開発を行う。
研究方法
この新しい伝導経路を軟骨伝導と名付け、軟骨伝導を用いた補聴システムの開発のため本研究では軟骨伝導の音の伝搬経路の解明と振動子および補聴器の開発を行った。最初に軟骨伝導に適した振動子の作製を行い伝搬経路の解明のための研究と補聴器の作製を行った。伝搬経路の解明は、正常者および難聴者での聴覚実験、物理特性の測定、動物実験を行った。振動子および補聴器の作製では作製した試作器を難聴者で試聴し評価したうえで改良を加えた。さらに評価聴力正常者を用いた聴取実験、動物実験を行い軟骨伝導の解明を行い、得られた結果をもとに振動子および補聴器の改良を行った。そして改良した補聴器で再評価を行い改良を加えることでより効果のある補聴システムの作製を行った。
結果と考察
最初に開発した振動子および補聴器本体で試作器を完成させ(ポケット型)。外耳道閉鎖症症例でその効果を評価し、補聴器として実現可能なことがわかった。次により効果的に軟骨を振動させることが可能な振動子を開発し、その振動子が使用可能な補聴器を開発および改良を行い、ポケット型、耳かけ型、両耳装用型の3種類の試作器を開発した。軟骨伝導そのものについては物理計測および聴覚心理学的計測、動物実験を行い、音の伝搬経路が周波数により異なること、外耳道閉鎖症ではより効果的に音が伝わることがわかった。
本研究の結果、新しい伝導経路である軟骨伝導経路を用いた補聴システムの有用性が示された。また軟骨伝導での音の伝搬経路は既知の気導や骨導とはことなる性質を持つことが分かった。この経路を用いると既存の補聴器で十分な効果が得られない症例であっても有効であることがわかった。
結論
本研究で得られた結果を基に開発を進めることで、軟骨伝導補聴器の実用化が可能であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2011-05-24
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201027029C

成果

専門的・学術的観点からの成果
音の伝搬経路についてはこれまで気導および骨導の2つのルートで論じられてきた。本研究では軟骨伝導がこの既知の2つのルートと異なる性質を持つ伝搬経路であることを示しており、これまで知られていない新しいルートを発見したといえる。この新しい伝導ルートを用いることで、これまでの補聴器とは全く異なる特徴を持った補聴器の開発も可能となり、本研究の成果で聴覚および補聴器の分野を大いに進歩させることができる。
臨床的観点からの成果
本研究では軟骨伝導を用いた補聴システムとして試作の振動子および補聴器の作製を行った。この試作補聴器は実際の難聴者で試していただき評価していただいている。難聴者の中には外耳道閉鎖症もしくは耳漏のため既存の補聴器が使用できない症例が含まれており、このような症例では非常に有用であることが分かった。現時点では実用化されていないものの、今後さらに改良を行い実用化する上で本研究の成果は有益であると考えられる。
ガイドライン等の開発
特記すべきことなし。
その他行政的観点からの成果
特記すべきことなし。
その他のインパクト
2012年5月10日に第113日本耳鼻咽喉科学会の宿題報告で研究内容の報告を行った。2013年6月1日にIFOS2013(世界耳鼻科学会)ソウルのシンポジウムで成果の報告を行った。また軟骨伝導および軟骨伝導補聴器は日経(2012/4/24)、読売(2012/4/24)、朝日(2012/4/24)、毎日(2012/4/24)、産経新聞(2012/4/26)をはじめ数多くの新聞で取り上げられた。さらにBSジャパンのNIKEI×BS LIVE 7PM(2012/5/15)で紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
13件
その他論文(和文)
13件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
59件
2012/12/31まで
学会発表(国際学会等)
18件
2012/12/31まで
その他成果(特許の出願)
1件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
1件
特許番号:4541111
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hosoi Hiroshi, Yanai Syuichi, Nishimura Tadashiet al.
Development of cartilage conduction hearing aid
Archives of Materials Science and Engineering , 42 (2) , 104-110  (2010)
原著論文2
Shimokura R, Hosoi H, Iwakura T, Nishimura T, et al.
Development of monaural and binaural behind-the-ear cartilage conduction hearing aids
Appl Acoust  (2013)
原著論文3
Nishimura T, Hosoi H, Saito O, Miyamae R, et al.
Benefit of a new hearing device utilizing cartilage conduction
Auris Nasus Larynx  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201027029Z