健康診査・保健指導における効果的な実施に資する研究

文献情報

文献番号
202308010A
報告書区分
総括
研究課題名
健康診査・保健指導における効果的な実施に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22FA1006
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 智教(慶應義塾大学 医学部 衛生学公衆衛生学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 三浦 克之(国立大学法人滋賀医科大学 社会医学講座公衆衛生学部門)
  • 後藤 励(慶應義塾大学 経営管理研究科)
  • 荒木田 美香子(川崎市立看護短期大学 看護学部)
  • 由田 克士(大阪公立大学大学院 生活科学研究科 食・健康科学講座)
  • 古井 祐司(東京大学 未来ビジョン研究センター)
  • 寳澤 篤(国立大学法人東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)
  • 山岸 良匡(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
  • 神田 秀幸(岡山大学 学術研究院医歯薬学域)
  • 平田 あや(慶應義塾大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
7,693,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、科学的根拠を提示して、第4期特定健診・特定保健指導(2024年度~)の見直しに貢献すると同時に、さらに将来の健診制度の改正に貢献するエビデンスを創出することを目的とした。
研究方法
研究代表者(岡村)は研究全体を統括し、厚労省の検討会やWGや関連学会の動向を踏まえながら健診の内容、受診勧奨や保健指導の介入効果を含めた総合的な健診・保健指導のシステムを提案すると同時に、その中のエッセンスを第4期の特定健診・特定保健指導に反映させる。なお基本健診項目の有用性、詳細な健診項目の対象者基準の設定、新規項目案の検証は、各フィールドでの調査や既存データを用いて行った(岡村、三浦、寳澤、山岸、神田、平田)。保健指導の有効性の評価、アウトカム指標の設定、遠隔実施の進め方については、岡村、古井、神田、荒木田、由田が中心となって検討した。岡村、平田はNDBを用いた現行の制度の疾病予防に対する有用性の評価や健診後の受診や保健指導の実態を明らかにし、制度変更に与える影響を示した。古井は健診・保健指導制度をデータヘルス計画などの近縁の保健医療制度との整合性の面から検証し、施策としての位置付けを検討した。後藤、山岸は短期的、長期的な費用対効果の分析を担当した。なお本研究では厚労省検討会の動きをみながら機動的に研究成果を出していく。岡村は厚労省「第4期特定健診・特定保健指導の見直しに関する検討会」の座長代理かつ「健康増進に係る科学的な知見を踏まえた技術的事項に関するワーキング・グループ(WG)」の主査、古井は同じく検討会の下に設置され保健指導の内容を検討する「効率的・効果的な実施方法等に関するワーキング・グループ」の構成員であり、公的な検討会との連携に支障はなかった。
結果と考察
日本動脈硬化学会の最新のガイドラインに合わせて、中性脂肪の保健指導判定値の基準値の修正を行い、NDBの解析から保健指導対象者が0.16%減少すると予測した。またHDLコレステロールの受診勧奨判定値も削除された。また肝機能検査については、脂肪肝、特に近年話題になっているMAFLD (Metabolic Dysfunction Associated Fatty Liver Disease)を絡めて、特定健診の指標として有効活用できる可能性を示した。一方、内臓脂肪面積が優れた指標であるという考え方もある一方、BMIや身長、腹囲を組み合わせた指標でも同等以上の動脈硬化性疾患の予測精度を示す可能性もあり、評価指標についてはさらなる検討が必要である。また必ずしも肥満と関連がない場合も多い、ナトリウム・カリウムの摂取量やその尿中比、アルコール依存度などは重要な指標であるが、現在の制度ではスクリーニングも事後指導もうまくできていないのも課題である。さらに詳細な項目は、よりハイリスクの者を発見するために有用であり、心電図と眼底の意義が再確認された。保健指導については、「予備群」該当者が長期追跡でも常に特定保健指導の対象者になりやすいことも明らかにした。さらに内臓脂肪症候群の該当者割合を下げるためには、特定保健指導の実施率と改善率は独立に影響していることが示され、「量」と「質」それぞれの重要性が明らかとなり、第4期からのアウトカム評価の根拠を提示できた。最後に、特定保健指導の費用対効果が示され、特定保健指導参加群では非参加群に比べて1人当たりの総費用が53,014円減少し、QALYsは0.044増加すること、メタボリックシンドロームの他の危険因子のうち、血圧と血糖値の両方を改善するプログラムが費用対効果を改善するために不可欠であることが示唆された。
結論
本研究は、特定健診第4期の策定に貢献した。しかしながら同時に改善すべき方向性もいくつか示唆している。特定健診は全保険者に義務化された制度であり、国民皆保険であるわが国ではすべての国民の生活に影響を与える制度である。最新の科学的知見に基づいて将来のさらなる発展が必要である。

公開日・更新日

公開日
2025-04-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2025-04-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202308010B
報告書区分
総合
研究課題名
健康診査・保健指導における効果的な実施に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22FA1006
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 智教(慶應義塾大学 医学部 衛生学公衆衛生学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 三浦 克之(国立大学法人滋賀医科大学 社会医学講座公衆衛生学部門)
  • 後藤 励(慶應義塾大学 経営管理研究科)
  • 荒木田 美香子(川崎市立看護短期大学 看護学部)
  • 由田 克士(大阪公立大学大学院 生活科学研究科 食・健康科学講座)
  • 古井 祐司(東京大学 未来ビジョン研究センター)
  • 寳澤 篤(国立大学法人東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)
  • 山岸 良匡(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
  • 神田 秀幸(岡山大学 学術研究院医歯薬学域)
  • 平田 あや(慶應義塾大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、第4期特定健診・特定保健指導(2024年度から開始)の見直しに科学的根拠を提示して貢献すると同時に、さらに将来の健診制度の改正に貢献するエビデンスを創出することを目的とした。本研究は、先行研究である厚生労働科学研究「健康診査・保健指導における健診項目等の必要性、妥当性の検証、及び地域における健診実施体制の検討のための研究」の研究成果を引き継いで実施されているが、その成果を踏まえながらも、制度改正の直前ということもあり、現実的な対応を重視して研究を進めた。
研究方法
厚労省の検討会やWGや関連学会の動向を踏まえながら健診の内容、受診勧奨や保健指導の介入効果を含めた総合的な健診・保健指導のシステムを提案すると同時に、その中のエッセンスを第4期の特定健診・特定保健指導のマニュアルである「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」に反映させる。なお基本健診項目の有用性、詳細な健診項目の対象者基準の設定、新規項目案の検証は、各フィールドでの調査や既存データを用いて行った。保健指導の有効性の評価、アウトカム指標の設定、遠隔実施の進め方も検討した。またNDBを用いた現行の制度の疾病予防に対する有用性の評価や健診後の受診や保健指導の実態を明らかにし、制度変更に与える影響を示した。さらに健診・保健指導制度をデータヘルス計画などの近縁の保健医療制度との整合性の面から検証し、様々な保険者において施策としての位置付けを検討し、制度を円滑に実施するための構成要因の抽出を試みた。短期的、長期的な費用対効果の分析を担当した。なお岡村は厚労省「第4期特定健診・特定保健指導の見直しに関する検討会」の座長代理かつ「健康増進に係る科学的な知見を踏まえた技術的事項に関するワーキング・グループ(WG)」の主査、古井検討会の下に設置され保健指導の内容を検討する「効率的・効果的な実施方法等に関するワーキング・グループ」の構成員であり、公的検討会等との連携に支障はなかった。
結果と考察
日本動脈硬化学会の最新のガイドラインに合わせて、中性脂肪の保健指導判定値の改正を行い、National Data Baseの解析から保健指導対象者が0.16%減少することを予測した。またHDLコレステロールの受診勧奨判定値を削除した。肝機能検査については、脂肪肝、特に近年話題になっているMAFLD(Metabolic Dysfunction Associated Fatty Liver Disease)を絡めて、特定健診の指標として有効活用できる可能性を示した。これらの成果は「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」に反映された。また同プログラムの中の「健診結果とその他必要な情報の提供(フィードバック文例集)」の作成にも研究班として多大な貢献をした。今後の課題としては、BMIや身長、腹囲を組み合わせた指標の意義、高齢になって健康の悪化と関連する「痩せ」の問題をどう考えるか、詳細項目のうち心電図と眼底、クレアチニンと貧血の実施基準をどう扱うかという点についても課題があることが示された。保健指導では、国保加入時の健診の案内や健診会場までの移動手段の重要性、内臓脂肪症候群の該当者割合を下げるためには実施率と改善率の双方が独立して寄与すること、予備群への保健指導の実施率を上げることが重要であることが示唆されたが、現状ではうまく制度化されていないことも浮き彫りになった。また飲酒については必ずしも問題飲酒者が肥満しているわけではないため、第4期の問診の改訂で飲酒量や過去飲酒、Binge drinkの把握ができるようになった意義は大きく、今後、深掘り解析が可能となった。さらに循環器病の危険因子である高血圧と関連が強いナトリウム・カリウムの摂取量やその尿中比は重要な指標であるが、現在の制度ではスクリーニングも事後指導もできていないため何らかの制度化が必要であることも強調しておきたい。また家庭血圧の測定もリスク評価の手段として活用すべきであろう。最後に、特定保健指導の費用対効果が評価され、特定保健指導参加群では非参加群に比べて1人当たりの総費用が53,014円減少し、QALYsは0.044増加すること、メタボリックシンドロームの構成要素のうち、血圧と血糖値の両方を改善するプログラムが費用対効果の改善には不可欠であることが示された。
結論
本研究の結果、現状の特定健診・保健指導の有用性が改めて示されると同時に、今後、改善すべき方向性も示すことができた。特定健診は全保険者に義務化された制度であり、国民皆保険であるわが国ではすべての国民の生活に影響を与える制度である。保険者等への負担を考えると激変を伴う大きな変更は望ましくないが、最新の科学的知見に基づいて今後も継続的に見直しを進めていくべきであろう。

公開日・更新日

公開日
2025-04-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

総合研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
その他

公開日・更新日

公開日
2025-04-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202308010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
第4期特定健診・特定保健指導(2024年度から開始)の見直しに科学的根拠を提示して貢献し、「第4期特定健診・特定保健指導の見直しに関する検討会」、「健康増進に係る科学的な知見を踏まえた技術的事項に関するワーキング・グループ」の推進に貢献した。
臨床的観点からの成果
日本動脈硬化学会のガイドラインの策定に貢献した。同時にガイドラインの改訂に合わせて、中性脂肪の保健指導判定値の改正を行い、りNational Data Baseの解析から、この改定により保健指導対象者が0.16%減少することを予測した。また肝機能検査については、脂肪肝、特に近年話題になっているMAFLD(Metabolic Dysfunction Associated Fatty Liver Disease)を絡めて、特定健診の指標としても有効活用できる可能性を示した。
ガイドライン等の開発
本研究成果の一部は、日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」の作成に貢献した。また直接的な研究成果が、厚生労働省「健康増進に係る科学的な知見を踏まえた技術的事項に関するワーキング・グループ」が用いられた(2022年8月31日に議論のまとめが公表)。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-kenkou_00001.html

その他行政的観点からの成果
厚生労働省:「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」の策定、特に同プログラムの中の「健診結果とその他必要な情報の提供(フィードバック文例集)」の作成を研究班として行い、関係学会との調整も行った上で最終版を同プログラムに反映させた。
その他のインパクト
研究成果の一部を、東京都保険者協議会、滋賀県健康づくり財団、神奈川県特定健康診査特定保健指導研修会、静岡県健康増進課.特定保健指導研修会、岩手県国保連合会国民健康保険フォーラム、全国健康保険協会新任支部長研修会、大阪府保険者協議会特定健診・特定保健指導研修会、高知県特定健診・特定保健指導研修会で講演した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
58件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
24件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
厚生労働省の特定健診・特定保健指導の見直しの検討会、WGで活用された。
その他成果(普及・啓発活動)
7件
東京都保険者協議会等で研究成果の一部を講演した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tanabe A, Hirata A, Kuwabara K, et al.
Association between visceral fat accumulation and decline in the estimated glomerular filtration rate based on cystatin C in the Japanese urban population: the KOBE study.
Endocrine Journal , 70 , 97-106  (2023)
10.1507/endocrj.EJ22-0218
原著論文2
Kaneyama A, Hirata A, Hirata T, et al.
Impact of hypertension and diabetes on the onset of chronic kidney disease in a general Japanese population.
Hypertension Research , 46 , 311-320  (2023)
10.1038/s41440-022-01041-9
原著論文3
Wu D, Hirata A, Hirata T, et al.
Fatty liver index predicts the development of hypertension in a Japanese general population with and without dysglycemia
Hypertension Research , 46 , 879-886  (2023)
10.1038/s41440-022-01161-2
原著論文4
Nakagoshi N, Kubo S, Nishida Y, et al.
Determinants of double product: a cross-sectional study of urban residents in Japan
Environ Health Prev Med. , 28 , 37-  (2023)
10.1265/ehpm.23-00002.
原著論文5
Akune Y, Anezaki H, Nakao YM, et al.
Cost-effectiveness of behavioural counselling intervention compared with non- intervention for adult patients with metabolic syndrome to prevent cardiovascular diseases and type 2 diabetes in Japan: a microsimulation modelling study.
BMJ Open , 14 , e072688. -  (2024)
10.1136/bmjopen-2023-072688.
原著論文6
岡村智教
健康診断の項目をめぐって
産業医学ジャー ナル , 46 (4) , 3-9  (2023)
https://doi.org/10.34354/ohpfjrnl.46.4_3

公開日・更新日

公開日
2024-05-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
202308010Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,000,000円
(2)補助金確定額
10,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,811,078円
人件費・謝金 1,869,420円
旅費 1,435,361円
その他 2,577,141円
間接経費 2,307,000円
合計 10,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2025-01-16
更新日
-