文献情報
文献番号
202209002A
報告書区分
総括
研究課題名
生涯にわたる循環器疾患の個人リスクおよび集団リスクの評価ツールの開発及び臨床応用のための研究
課題番号
20FA1002
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
村上 義孝(東邦大学 医学部医学科社会医学講座医療統計学分野)
研究分担者(所属機関)
- 岡村 智教(慶應義塾大学 医学部 衛生学公衆衛生学教室)
- 二宮 利治(九州大学大学院医学研究院 衛生・公衆衛生学分野)
- 大久保 孝義(帝京大学医学部衛生学公衆衛生学講座)
- 村木 功(大阪大学大学院 医学系研究科)
- 玉腰 暁子(北海道大学大学院医学研究院 社会医学分野公衆衛生学教室)
- 小久保 喜弘(国立循環器病センター予防健診部)
- 三浦 克之(国立大学法人滋賀医科大学NCD疫学研究センター)
- 大西 浩文(札幌医科大学 医学部)
- 辻 一郎(東北大学 大学院医学系研究科 公衆衛生学分野)
- 櫻井 勝(金沢医科大学 医学部)
- 立川 佳美(放射線影響研究所臨床研究部)
- 丹野 高三(岩手医科大学医学部衛生学公衆衛生学講座)
- 木山 昌彦(大阪がん循環器病予防センター 循環器病予防部門 )
- 石川 鎮清(自治医科大学情報センター)
- 八谷 寛(名古屋大学 医学部 公衆衛生学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
13,500,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者交替
磯博康(令和2年4月1日~4年3月31日) →村木功(令和4年4月1日以降)
山田美智子(令和2年4月1日~4年3月31日) →立川佳美(令和4年4月1日以降)
坂田清美(令和2年4月1日~4年3月31日) →丹野高三(令和4年4月1日以降)
研究報告書(概要版)
研究目的
高血圧や脂質異常症、喫煙、糖尿病などのリスク因子は個人の循環器疾患の発症に影響を与えるが、ベースライン時の測定値による発症リスク等の予測能やリスク因子の経時的変動の影響や予測可能な年数など、現時点で結論がでていない課題も多い。今回、わが国の循環器疫学を中心とするコホート統合研究であるEPOCH-JAPAN(Evidence for Cardiovascular Prevention From Observational Cohorts in Japan)により、循環器疾患の生涯にわたるリスクを対象に、危険因子の変動や予測可能期間の影響の検討と、より精緻な予測可能なツールの開発を目的とする。
研究方法
3年目の本年は、(1) 個人における経時的なリスク因子の変動を考慮した解析、(2) 今後の健康づくり運動(健康日本21)の目標設定や評価指標の開発、(3)集団レベルのリスク因子情報の利活用による、地域における中長期的予測(10年以上)の可能性の検討、(4)個々のコホートの追跡期間延長と新規コホートの追跡調査、の4つの研究テーマを実施した。(1) ではEPOCH-JAPAN参加のコホート研究データを用い、個人の経時的リスク因子が循環器疾患に及ぼす影響を網羅的に検討するため、メタアナリシスを実施した。検討法として5年平均値と単年値のハザード比の比較、5年平均とバラツキ(SD)を加えた統計モデルにおける疾患発生・死亡との関連の検討などで、検討した危険因子は血圧(収縮期、拡張期)、脂質指標(総コレステロール、Non-HDL)、HbA1cである。(2) では危険因子の目標設定の基本資料の作成を目的として、国民全体の収縮期血圧の変化の疾患死亡への影響をシミュレーションにより定量化した。EPOCH-JAPAN循環器データベースから、性・年齢別および血圧水準別の死亡率をポワソン回帰モデルにより算出した。つぎに令和2年人口動態統計における各疾患(循環器疾患、脳卒中、CHD)の疾患死亡率と比較し、両者の死亡率の比(以下、修正乗数)を算出、令和2年における日本の血圧水準別・性・年齢別死亡率を推計した。この死亡率を令和元年国民健康・栄養調査の血圧分布に乗じることで、各疾患の死亡者数の推計値を算出した。また血圧分布を下方シフトさせたときの各疾患の疾患死亡数を仮想的に算定、比較することで国民全体の血圧低下の影響を検討した。(3)では個人の検査値(血圧、脂質、HbA1c)の経時的な変化(傾き)が循環器疾患発生に及ぼす影響について検討した。検査項目の頻回測定値から、経時的な変化の指標として時間軸に対する傾きを求め、その傾きとアウトカムとの関連を示すハザード比を交絡要因で調整したもとで算出した。これら解析を実施するにあたり研究事務局にて解析計画を立案し、計画に基づいて各コホートにて解析を行い、結果を集積・統合するという手順で実施した。
結果と考察
(1)個人における経時的なリスク因子の変動を考慮した解析では、収縮期血圧やHbA1cにおいて5年平均や最大値を用いたハザード比の方が、従来の疫学研究で用いられる単年値によるハザード比より大きな値を示した。従来から単年値を用いたハザード比に対し平均への回帰の影響が指摘されており、今後のPersonal Health Recordsによる疾患リスクの評価で経時データを用いた要約指標を活用する重要な根拠が示された。(2) 今後の健康づくり運動(健康日本21)の目標設定や評価指標の開発では、収縮期血圧に関しては循環器疾患、脳卒中、CHD死亡数に及ぼす影響が、血清総コレステロールに関してはCHD死亡数に及ぼす影響を定量的に評価できるツールが開発された。(3)集団レベルのリスク因子情報の利活用による、地域における中長期的予測(10年以上)の可能性の検討では、変化パターンを連続量・二値(正負)としたどちらの解析においても、有意な傾向は示されなかった。その原因として5年間の変化が小さくハザード比の精度が低かったこと、ベースライン値の調整など問題などが考えられた。(4)個々のコホートの追跡期間延長と新規コホートの追跡調査では、個々のコホート研究から数多くの論文が公表され、統合研究・個別研究で総計81本の論文が学術雑誌に掲載された。
結論
EPOCH-JAPANの統合データなどを用いることにより、循環器疾患の生涯にわたるリスクを対象に、危険因子の変動や予測可能期間の影響が検討され、より精緻な予測可能なツールが開発できた。
公開日・更新日
公開日
2023-07-24
更新日
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