文献情報
文献番号
202023008A
報告書区分
総括
研究課題名
労働安全衛生法の改正に向けた法学的視点からの調査研究
課題番号
19JA1001
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
三柴 丈典(近畿大学 法学部法律学科)
研究分担者(所属機関)
- 井村 真己(沖縄国際大学 法学部)
- 石崎 由希子(横浜国立大学大学院国際社会科学研究院)
- 森 晃爾(産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健経営学研究室)
- 梅崎 重夫(独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 安全研究領域)
- 大幢 勝利(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 研究推進・国際センター)
- 豊澤 康男(独立行政法人産業安全研究所 建設安全研究グループ)
- 吉川 直孝(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
- 平岡 伸隆(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所)
- 南 健悟(日本大学 法学部)
- 大藪 俊志(佛教大学 社会学部)
- 佐々木 達也(名古屋学院大学 法学部)
- 阿部 理香(九州国際大学 法学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
3,850,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究事業は、法学的観点から安衛法改正の提言を行うことを最終目的としているが、今後も永続的にそうした提言が可能な知的、人的なインフラ整備を一義的課題としている。すなわち、労災が発生する現場と有効な法的対策の模索の過程が事務系の読み手にも鮮明に伝わり、法解釈学、規制科学的な学問的水準も高い体系書を発刊することと、安全衛生法に関する学会を設立することの2つの作業を通じて、「労働安全衛生法をめぐる学問的な脈絡を創ること」を目的としている。
そのため、条文の起源(立法趣旨、基礎となった災害例、前身)と運用(関係判例、適用の実際)、主な関係令等(関係政省令、規則、通達等)を、できる限り図式化して示すと共に、現代的な課題や法解釈学的な論点に関する検討結果を記した体系書の発刊と共に、安全衛生法のありようを探究する学会の創設を図っている。
そのため、条文の起源(立法趣旨、基礎となった災害例、前身)と運用(関係判例、適用の実際)、主な関係令等(関係政省令、規則、通達等)を、できる限り図式化して示すと共に、現代的な課題や法解釈学的な論点に関する検討結果を記した体系書の発刊と共に、安全衛生法のありようを探究する学会の創設を図っている。
研究方法
今年度は、計9回の研究会を通じて、研究班員の持つ知識経験の共有、安衛研の研究者や安全衛生に詳しい監督官、元安全衛生行政担当者による研究班員向けの講演の開催、法学者・行政学者による逐条解説の書き進め、森晃爾教授による化学物質管理政策の概要の紹介、課題の呈示、浅田和哉氏による特別安全規則の趣旨・概要、制定経緯の紹介と統合の可能性の検討、藤森和幸氏による特別衛生規則の趣旨・概要の紹介と統合の可能性の検討等を行った。また、法令の適用の実際等を知るため、全国の都道府県労働局や主要な監督署、関係団体に所属する行政官(監督官・技官)・元行政官を対象に、法令の適用例のほか、検討を要する点、改正を要する点について、アンケート調査を行い、監督官49名、技官15名、元監督官12名、元技官2名、不明3名から相当量の情報を得た。さらに、初年度に日本で行った社会調査とほぼ同様の調査をUKでも実施した。
結果と考察
1 日本の安衛法は、道交法などと同様に、人の生命・身体・財産を主な保護法益としてきた。以前は、技術者が解明した労災の再発防止策をそのまま義務規定としていたが、十分な災防効果を挙げられなかったことから、経営工学等を活用した、より本質的な対策が盛り込まれて、災防効果が現れた。
その後、衛生問題や健康問題に焦点が当たると、作業環境測定法、長時間労働面接制度、ストレスチェック制度のように、専門家の活用を重視する法制度の整備が進んだ。近年は、がん患者の治療と就労の両立支援、副業・兼業・フリーランスの健康促進策のように、安衛法に基づき、労働者のみならず、その関係者のQOLやQOWLの実現を図る政策が進められるようになっており、技術的法制度が社会的法制度に変質してきたということである。
こうした法制度の展開を通じて、技術的な再発防止策をルール化した安全衛生基準の整備や、安全衛生技術の開発は進んだが、リスク創出者等の管理責任負担原則や、経営者・組織の意識や知識の向上、未解明のリスク対応などの積み残し課題も多い。そうした課題の集積とも言えるのが、化学物質対策である。
こうした日本の法制度とそれを支える文化は、日本より高水準の安全衛生を達成しているイギリスなどとは異なるが、民事法上の安全・健康配慮義務が発展し、使用者らに安全衛生上のリスク管理を幅広く求めるようになっている。少子高齢化も背景に、特に健康配慮義務の展開が著しい。
2 安全衛生法に関する学会の設立は、2020年11月の日本産業保健法学会(JAOHL)設立をもって果たされた。多様な専門性を持つ理事約70名を擁し、産業保健に関する3学会と連携し、国内外のeditorがリードする邦語と英語のジャーナル発刊が決定し、既に多くの媒体に掲載され、570名(2021年5月段階)が入会している。2021年9月には、産業保健に関する様々な法的課題について議論する第1回大会を開催予定で、厚生労働省、日本医師会、全国社会保険労務士会連合会など、多くの機関の後援を受けている。
本学会は、安全衛生全体の推進を目的としているが、産業保健の法律論に関心を持つ方が増えているため、そうした方々の集うプラットフォームを形成しつつ、安全衛生全般の法学研究と法教育も積極的に行うことを想定している。
その後、衛生問題や健康問題に焦点が当たると、作業環境測定法、長時間労働面接制度、ストレスチェック制度のように、専門家の活用を重視する法制度の整備が進んだ。近年は、がん患者の治療と就労の両立支援、副業・兼業・フリーランスの健康促進策のように、安衛法に基づき、労働者のみならず、その関係者のQOLやQOWLの実現を図る政策が進められるようになっており、技術的法制度が社会的法制度に変質してきたということである。
こうした法制度の展開を通じて、技術的な再発防止策をルール化した安全衛生基準の整備や、安全衛生技術の開発は進んだが、リスク創出者等の管理責任負担原則や、経営者・組織の意識や知識の向上、未解明のリスク対応などの積み残し課題も多い。そうした課題の集積とも言えるのが、化学物質対策である。
こうした日本の法制度とそれを支える文化は、日本より高水準の安全衛生を達成しているイギリスなどとは異なるが、民事法上の安全・健康配慮義務が発展し、使用者らに安全衛生上のリスク管理を幅広く求めるようになっている。少子高齢化も背景に、特に健康配慮義務の展開が著しい。
2 安全衛生法に関する学会の設立は、2020年11月の日本産業保健法学会(JAOHL)設立をもって果たされた。多様な専門性を持つ理事約70名を擁し、産業保健に関する3学会と連携し、国内外のeditorがリードする邦語と英語のジャーナル発刊が決定し、既に多くの媒体に掲載され、570名(2021年5月段階)が入会している。2021年9月には、産業保健に関する様々な法的課題について議論する第1回大会を開催予定で、厚生労働省、日本医師会、全国社会保険労務士会連合会など、多くの機関の後援を受けている。
本学会は、安全衛生全体の推進を目的としているが、産業保健の法律論に関心を持つ方が増えているため、そうした方々の集うプラットフォームを形成しつつ、安全衛生全般の法学研究と法教育も積極的に行うことを想定している。
結論
最終目的である法改正提案は、この研究プロジェクトの前身である「リスクアセスメントを核とした諸外国の労働安全衛生制度の背景・特徴・効果とわが国への適応可能性に関する調査研究(H26-労働-一般-001)(研究代表者:三柴丈典)」の示唆、本研究プロジェクトの逐条解説と横断的課題の整理、行政官・元行政官対象のアンケート調査等を踏まえ、今年度の班会議で検討するが、内容の洗練には時間を要するため、足りない部分は別のプロジェクトに引き継ぎたい。
公開日・更新日
公開日
2022-05-24
更新日
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