特定疾患の疫学に関する研究(総括研究報告)

文献情報

文献番号
200200732A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患の疫学に関する研究(総括研究報告)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
稲葉 裕(順天堂大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中村好一(自治医科大学保健科学)
  • 永井正規(埼玉医科大学公衆衛生学)
  • 玉腰暁子(名古屋大学大学院医学研究科健康社会医学専攻)
  • 中川秀昭(金沢医科大学公衆衛生学)
  • 簑輪眞澄(国立保健医療科学院疫学部)
  • 懸 俊彦(東京慈恵医科大学・環境保健医学)
  • 横山徹爾(国立保健医療科学院技術評価部)
  • 小橋元(北海道大学大学院医学研究科老年保健学分野)
  • 阪本尚正(兵庫医科大学衛生学)
  • 鷲尾昌一(札幌医科大学公衆衛生学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
48,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人口集団内における各種難病の頻度分布を把握し、その分布を規定している要因(発生関連/予防要因)を明らかにすることを通じて、難病患者の発生・進展・死亡を防止し、患者の保健医療福祉の各面、さらには人生および生活の質(QOL)の向上に資するための方策をあらゆる疫学的手法を駆使して確立すること、および難病の保健医療福祉対策の企画・立案・実施のために有用な行政科学的資料を提供し、難病対策の評価にも関わることである。この目的に添って、新しい3年間の計画を立案し、1年目が終了した。
研究方法
初年度にプロジェクト研究9件を企画したが、内容は前3年間とほとんど変わらず、対象疾患が少し変わっている。
①発生関連要因・予防要因の解明 : 前3年間に研究協力者として参加した若手研究者から数人を分担研究者に加えて、前回果たせなかった遺伝子多型と環境因子の相互作用を中心とした症例対照研究を企画している。対象疾患としては、継続して行う後縦靭帯骨化症の他に、新たに全身性エリテマトーデス、神経線維腫症、筋萎縮性側策硬化症、サルコイドーシス、ベーチェット病などを取り上げている。まだ臨床班との交渉の段階が多く、来年度に具体的な計画を決め、各機関の倫理審査委員会の承認を経て実行されることになる。
②医療受給者の臨床調査票による患者実態調査とその体系的利用 : 平成13年度からオンラインシステムの入力になったが、都道府県の協力は必ずしも十分ではない。15年度からは新規・継続を合わせて入力するシステムへの切り替えも行われることになったため、受給者臨床調査個人票の有効利用を図るための研究は、まだ立ち上がっていない。医療受給者の疾患別、性・年齢別の数値が地域保健事業報告で毎年厚生労働省に収集されていることから、この資料を利用する計画も検討を開始した。
③「難病30年のまとめ」作成 : 1972年に開始された難病対策事業が30年を迎えたことから、すでに報告されている「難病20年のまとめ」を土台として、30年の節目でのまとめを作成することにした。各臨床班の協力をお願いして作業が開始されている。
④特定の難病の全国疫学調査 : 2003年1月にはベーチェット病と魚鱗癬を対象として調査を開始しており、呼吸不全研究班を始めとして2004年の調査対象疾患の調整が行われている。全国調査に関しても2次調査はやり方によっては倫理審査委員会の承認を必要とする。
⑤地域ベースのコホート研究の実施 : 対人保健サービスの評価を目的に難病患者個人の臨床情報、疫学・保健・福祉情報、福祉サービス利用状況等の調査を実施し、保健所をベースとした難病患者情報システムが1999年から35の保健所で構築されている。
⑥特定の難病の予後調査 : 「疫学研究の倫理指針」に従って、インフォームドコンセントの得られた患者さんの追跡を実施し、予後を明らかにしていきたい。対象疾患は腎疾患、ベーチェット病、心筋炎などである。
⑦行政資料による難病の頻度調査 : この3年間では死亡統計は扱わず、目的外使用の許可を得て、患者調査に基づく特定疾患患者数の推計、受療率について、平成14年患者調査を用いて検討する予定である。
⑧定点モニタリング・システムの運用と新たな疾患についての検討 : 前回から継続して、特発性大腿骨頭壊死症とNF1の定点モニタリング・システムの運用を通して本システムの有効性と限界を検討する。新しい疾患についても臨床班に呼びかけている。
⑨ニーズ調査と食事介入試験 : 前回のニーズ調査から発展して、炎症性腸疾患の食事調査と介入試験を実施してみることにした。特に食事中のn-3/n-6 比が1に近いほど抗炎症効果があるという仮説を検証したいと考えている。
結果と考察
①発生関連要因・予防要因の解明 : 後縦靭帯骨化症については、2000(平成12)年11月から2001(平成13)年10月末までに症例78例、病院対照62例の調査票が回収されている。100例を目標にして、遺伝子検査と調査票の解析を行う予定である。全身性エリテマトーデスに関しては、九州大学附属病院を中心に約100例の症例を集め、佐賀医大整形外科の100例、短大の学生約100例を対照として、遺伝子と生活習慣を調査する予定である。神経線維腫症1型については、孤発例の患者100例と対照として呼吸器感染症の患者200例を対象に、生活習慣調査を実施する予定である。筋萎縮性側策硬化症に関しては、孤発型100例と対照として非該当疾患で同じ病院の神経内科受診患者200例を対象に、遺伝子および食事習慣の調査を実施する予定である。ベーチェット病については、臨床班の分担研究者の病院を中心に、症例100例と対照として皮膚科受診患者100例、住民健診対象者100例を対象に、質問紙調査と、HLA、S.Sanguisなど微生物抗原 のクリック反応を実施する計画をたてている。その他サルコイドーシスも検討中である。
②医療受給者の臨床調査票による患者実態調査とその体系的利用 : これまでの臨床班で入力された調査票を使用して、強皮症の臨床データが解析され、消化器病変と肺線維症の関連、男性症例の特徴などが明らかにされた。また、過去4回の医療受給者全国調査の結果から、性比の年次推移が明らかにされた。さらに将来推計が実施され、2010年度の受給者数が推定された。
④特定の疾病の全国疫学調査 : 2002年1月に開始した急性高度難聴・ムンプス難聴の一調査結果がまとめられた。突発性難聴は35,000人(95%信頼区間32,000~38,000)、人口100万対275.0、ムンプス難聴は650人(95%信頼区間540~760)、人口100万対5.1と推定された。魚鱗癬については、水疱性先天性様紅皮症を対象とするが、参考疾患として類縁の5疾患も調査することにした。1月に807の皮膚科に1次調査票を送付した。ベーチェット病に関しては、内科1250、眼科873、皮膚科809に1次調査票を送付した。2次調査の際に、予後調査・QOL調査を実施する予定である。
⑤地域ベースのコホート研究の実施 : 当初の1563人について現在は約80%の追跡率であり、QOL変化の関連要因として、保健サービスの利用の変化と日常生活動作(ADL)の変化が認められた。
⑦行政資料による難病の頻度調査 : 特定疾患名のICD-9とICD-10コードとの対応表を作成した。
⑧定点モニタリング・システムの運用 : 神経線維腫症1型で2回の全国調査と2回のモニタリング調査を利用して1985年~2000年の臨床疫学的所見の推移を検討した。女性の初診時年齢、診断年齢の低下傾向が見られること、治療状況で入院が減り、通院が増えていること、予後では徐々に悪化がふえていることなどが認められた。
⑨ニーズ調査と食事介入試験 : 前回のニーズ調査から発展して、炎症性腸疾患の食事調査と介入試験を実施してみることにした。特に食事中のn-3/n-6 比が1に近いほど抗炎症効果があるという仮説を検証したいと考えている。
前回も臨床班と疫学班に担当者を置いて連絡を密接にする体制を作成したが、今回も同様に進めていく予定である。
結論
研究目的に添って、3年間の計画を立案し1年目が終了した。プロジェクト研究9件は①発生関連要因・予防要因の解明、②医療受給者の臨床調査票による患者実態調査とその体系的利用、③「難病30年のまとめ」作成、④特定の難病の全国疫学調査、⑤地域ベースのコホート研究の実施、⑥特定の難病の予後調査、⑦行政資料による難病の頻度調査、⑧定点モニタリング・システムの運用と新たな疾患についての検討、⑨ニーズ調査と食事介入試験である。臨床班と疫学班に担当者を置いて連絡を密接にする体制を作成し進めていく予定である。

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