行動科学に基づいた喫煙、飲酒等の生活習慣改善のための指導者養成システムの確立に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101047A
報告書区分
総括
研究課題名
行動科学に基づいた喫煙、飲酒等の生活習慣改善のための指導者養成システムの確立に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
中村 正和(大阪府立健康科学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 生山 匡(山野美容芸術短期大学)
  • 足達淑子(あだち健康行動学研究所)
  • 増居志津子(大阪府立健康科学センター)
  • 大島 明(大阪府立成人病センター)
  • 島井哲志(神戸女学院大学人間科学部)
  • 内藤義彦(大阪府立健康科学センター)
  • 伊達ちぐさ(大阪市立大学大学院医学研究科)
  • 須山靖男(明治生命厚生事業団・体力医学研究所)
  • 岸本益実(広島県呉地域保健所)
  • 山口幸生(福岡大学スポーツ科学部)
  • 本庄かおり(ハーバード大学公衆衛生大学院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
22,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生活習慣は、基本的には個人が自らの責任で選択する問題であるが、実際には、個人の力のみで、その改善を図ることはむずかしい。そこで、個人が健康的な生活習慣を確立できるよう、社会環境の整備とともに、教育面から支援を行い、行動変容への動機づけや行動変容に必要となる知識・スキルの習得を促すことが必要である。
本研究は、平成10年度より12年度にかけて厚生科学研究費補助金の下で過去3年間実施した研究成果(H10-健康-048)を踏まえ、健診や外来等の既存の保健医療の場での行動科学的手法を用いた生活習慣改善支援の普及を目指して、最新の教育手法や情報技術(IT)を活用した指導者教育養成システムを開発、評価し、その確立を図ることを目的とする。
研究方法
研究の初年度~2年次前半(平成13年度~14年度上半期)にかけて開発する指導者養成システムは、ワークショップ(基礎講習1日間、体験指導3カ月間、フォローアップ講習1日間)とeラーニングによる通信教育で構成される。まず、ワークショップのプログラムについては、行動科学の理論コースと適正飲酒のプログラムを開発することとし、指導者用の教材やワークショップのプログラムを試作するとともに、その使い勝手と効果を検討するための研究を開始した。また、禁煙、ストレス、運動については、平成10~12年度にかけて研究申請者らが開発したプログラムの簡易化と改良の検討を行った。次に、ワークショップのプログラムの簡易化に伴う講義や実習時間の短縮を補うため、eラーニングによる通信教育システムを開発し、ワークショップに組み合わせて用いることとした。今年度はワークショップのプログラムと組み合わせて用いるeラーニングのシステム設計を行うとともに、eラーニングにふさわしい学習内容の検討やシステム開発に必要なコンテンツの整理を行った。その他の研究として、1)効果的な健康づくりリーダー養成プログラムの開発と評価、2)指導者教育や生活習慣改善の介入の効果検証に関わる研究の文献レビュー、3)自記式質問票による生活習慣行動の簡易評価法の開発、を行った。
結果と考察
1.まず指導者養成システムの全体設計として、従来のワークショップ方式による指導者養成の効率化と効果の向上を図るために、eラーニングによる通信教育を導入し、両者を組み合わせた指導者養成システムを設計することとした。研究の初年度である今年度は、指導者養成システムの全体設計を行い、次に述べる5つのステップで構成される指導者養成システムを考案した。すなわち、1)eラーニングによる事前学習、2)1日ワークショップ、3)実務研修としての体験指導とその事例に対する添削指導、4)eラーニングによる継続学習(知識習得とスキル習得の2つのコースを設定)、5)修了試験、である。
2.行動科学の理論や手法に関する指導者トレーニングプログラムの開発では、行動療法による指導者教育のレビューと教育上の問題点の検討を行うとともに、受講生にとって学習負担の少ない簡便な行動理論の学習テキストとクライアントの準備性に応じた指導面接のビデオ教材 (約20分)を作成した。また、禁煙、適正飲酒、運動、ストレスなどの指導者教育養成プログラムと関連づけた、効果的な行動理論の指導者教育の実施方法の検討を行った。
3.適正飲酒のための指導者トレーニングプログラムの開発においては、ワークショップ方式のトレーニングプログラムを開発するとともに、開発したトレーニングプログラムの有効性を調べるためのパイロット調査を実施した。講習についてのわかりやすさ、満足度、内容ごとの有用度については概ね高く、適正飲酒の指導に対する態度(適正飲酒指導に対する受講者の動機、効果や問題点に対する認知、研修の必要性の認知など)についても、受講前に比べて事後において上昇がみられた。
4.禁煙サポートのための指導者トレーニングプログラムの開発においては、指導者教育のノウハウや学習用の資材が多く蓄積していることから、他の領域に先行して、ワークショップのプログラムの改良に加えて、eラーニングによる通信教育システムの具体的な開発作業に着手した。今年度は、eラーニングによる事前学習と継続学習の知識習得コースのコンテンツを作成するとともに、コンピューターのシステム開発に着手した。来年度は、今年度未着手のスキル習得コースを含めたeラーニングシステムの試作版を完成し、ワークショップと組み合わせて使い勝手と有効性の評価を行う。
5.ストレスコーピングのための指導者トレーニングプログラムの開発においては、eラーニングによる教育方法を従来のワークショップに組み合わせて用いることとし、その具体的な学習内容は、平成10~12年度の研究によって開発したストレスコーピングの小冊子「イライラのマネジメント」の内容をベースとして、平成12年度に開催した指導者養成のための講習会で受講者からでた質問を参考に新たな内容を加えることとした。さらに、今年度は指導者養成のための基礎的検討として、ストレスコーピングに関連して、平成12年度に実施された精神保健福祉調査を詳細に分析した。分析の結果、多くの割合の人々がストレスを感じていること、その具体的な内容から、対象集団の特性やニーズに合わせた学校、職場、地域でのさまざまな取り組みの必要性が考えられた。
6.運動支援のための指導者トレーニングプログラムの開発においては、新たに講習会を開催するためのテキストと講習会の運営計画を作成した。具体的には、個人レベルの行動変容の理論や技術に加えて、集団的アプローチの理論と技術に関する教育を強化することとし、その基礎となるヘルスプロモーションを支える理論をカリキュラムに加えた。また、eラーニングを活用した運動支援のための指導者養成システムを構築するために、来年度以降の試作にむけて、提供すべき情報やサービスについて検討し、課題や問題点を整理した。
7.指導者教育や生活習慣改善の介入の効果検証に関わる研究の文献レビューでは、本研究班で開発する指導者養成システムの効果検証のあり方を検討するための基礎的研究として、指導者教育養成システムの有効性と、医療、特にプライマリ・ケアの場や職域における生活習慣改善指導の効果をテーマとして文献レビューを行った。
8.効果的な健康づくりリーダー養成プログラムの開発と評価に関する研究においては、これまでの健康づくりリーダーの養成および活動内容に関する情報の収集と分析を行い、行動科学に基づいた、より効果的なリーダー養成のプログラムの基本的な枠組みを検討した。また、行動科学の素養のない健康づくりのリーダーでも運用可能なコンピューターによる身体活動促進のための支援プログラムを開発した。市町村の健康教室の場で、開発したプログラムの使い勝手と効果の検討を行ったところ、健康づくりのリーダーでも、参加者の日常身体活動量を向上させることがわかった。
9.自記式質問票による生活習慣行動の簡易評価法の開発では、平成11~12年度に開発した食生活、特にエネルギー、塩分、脂肪の摂取状況に関する自記式の簡易評価質問票について、その妥当性と再現性を検証するための予備的調査を今年度実施した。来年度は今年度の結果を踏まえて全国の4~5地域で、1地域あたりの対象者を多くして本調査を実施する。
10.わが国において、ワークショップとITを活用した通信教育から成るトレーニング方法を用い、保健医療従事者に対して、行動科学に基づいた効果的な生活習慣改善支援の方法論の普及を図るための研究は、これまで例がなく、本研究がわが国で最初の研究と考える。本研究で確立された指導者教育養成法を地域や職域、医療等の場に、それぞれに合った形で広く普及することにより、国民の生活習慣の改善が促進され、その結果、生活習慣病の一次予防に少なからず貢献することが期待できる。また、本研究の成果は、健康日本21の地域展開にあたり、その基盤づくりのための行政施策として活用されうるものと考える。来年度は、今年度に引き続き指導者教育養成システムの開発を行うとともに、開発した教育養成システムの有効性の評価についても、開発が終了したプログラムから順次研究を開始する予定である。
結論
わが国では健康日本21の策定や健康増進法の制定に伴い、医療や健診等の場での生活習慣改善支援のための指導者教育養成システム構築の必要性が高まってきている。今後、早急に行動科学や最新の情報技術を用いて効果的かつ効率的な生活習慣改善のための指導者教育養成プログラムを開発するとともに、効果検証を行った上で、その普及を図ることが必要である。

公開日・更新日

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