健康文化のまちづくり推進に関する政策科学的研究

文献情報

文献番号
200000884A
報告書区分
総括
研究課題名
健康文化のまちづくり推進に関する政策科学的研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
山根 洋右(島根医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 杉村 巌(旭川厚生病院)
  • 林 雅人(平鹿総合病院)
  • 丸地信弘(信州大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
21世紀の日本の健康福祉政策において、一層強まるグロバリゼーションや地方分権の動きを背景として、市町村自治体の健康文化のまちづくりは重要な命題となっている。特に、行政評価の時代といわれるなかで、介護保険制度、健康日本21などの健康福祉に関連する計画、事業、活動の評価方法の開発や効果的効率的運営の発展は、健康福祉のまちづくり戦略と切り離して考えることはできない。このため、第2年度は、国連ミレニアム宣言にもられた国際情勢と関連させて、WHOの健康文化都市第3期(1998-2002)を中心に国際的な健康都市、健康なまちづくり活動の動向、成果、課題を文献・資料によりレビューした。
また、ヨーロッパで国境を越えて都市や農村がネットワーク化し、機能を連携させ、単一都市を上回る効率性とアメニティを追求する実験がシティ・リージョンという名で進められていることや日本の都邑連合体あるいは広域市町村圏形成が進められていることを考え、日本国内の健康文化のまちづくりモデル実態調査として、第1年度に調査を行った市町村に加え隣接する地方中核都市を加え、都市と農村を1ユニットとして、実態の統一的把握を行い、健康文化のまちづくり計画の問題を分析し、政策科学の課題を明らかにした。また、イギリスのベスト・ヴァリュー計画(Best Value Performance Plan)や国際標準化評価(ISO: International Standardization for Organization)を参考にし、健康福祉行政評価法のモデル作成を試みた。
研究方法
最近の健康都市および健康コミュニティづくりに関する文献・資料を検討し、健康都市・コミュニティプロジェクトの現状、課題など国際的な動向を整理分析した。また、国内で1960年代から永年にわたり、地域の健康対策を継続している北海道の鷹栖町と旭川市、秋田県の増田町と横手市、長野県の朝日村と松本市、島根県の佐田町と出雲市を対象に、健康なまちづくりの現状を調査分析した。調査方法は、既存報告書類の分析、政策担当者や計画立案者へのインタビュー、市民リーダーへのインタビュー、市町村の各種委員会、審議会の構成、内容、機能などの分析、関係者への配布アンケートなどで行った。また、それぞれの市町村の健康福祉関係担当課の行政職、保健婦、社会教育関係スタッフ、公民館関係者、あるいは住民リーダーなどと討論をしながら、調査する「参加行動型調査研究」(Participatory Action Research : PAR)を行った。
研究の枠組みは「コミュニティプロフィール」を基盤に、「政策形成システム」と「情報システム」をおき、その中に、「活動システム」「活動プログラム」「住民参加システム」「エンパワーメントシステム」を位置づけ、「サービス総合評価」とした。調査票は、共同調査班で作成した健康文化のまちづくり政策分析シートを用いた。
結果と考察
町村や地方中核都市に共通した健康文化の「まちづくり政策課題」として、政策Policyと計画Planと事業Projectと行動展開Performanceのアウトカム評価を科学的に行うこと、政策形成への広範な住民の参加と住民・行政・研究者の協働行動を強化すること、社会的資源とマンパワーと情報に関する社会的ネットワークを強化すること、コミュニティの発展とコミュニティのニーズを的確に把握し政策化すること、住民の生活の質に関わる経済、環境、健康、医療、福祉、景観、産業、建築、道路、教育、コミュニティ心理、政策、文化などの複雑なダイナミズムを分析し政策、計画、事業、行動に反映させること、行政部局間や行政部局内の連携に基づく包括的サービス政策を策定すること、住民によるシステムへの介入と公正さを保障すること、サービス提供者の力量形成と質の保障を図ることなどが重要と考えられる。
一方、「政策研究課題」としては、政策などの科学的評価法、多様な政策モデルや活動モデルの形成、住民の政策参加のプロセス、政策の成果分析、多様な社会ニーズ対応と問題解決の戦略、市民の自立性の保障と市民性の成熟、コミュニティ発展への住民参画、住民・スタッフ・研究者のネットワーキング、ボランティア活動の成熟化、民間活動と公的活動の融合、エンパワーメントを図る教育研修、参加行動研究と政策形成、コミュニティ・ダイナミクス、コミュニティ・ディベロップメント、住民とスタッフのエンパワーメント、有効な社会的資源の開発などがあげられる。
「計画の実践的遂行課題」としては、次の諸点の急がれる改善、改革点が明らかになった。
・行政部局内部のセクショナリズムの解消と横断的包括的サービス開発
・計画とシステムへの合意と科学的な介入
・継続的評価とそのモニタリングシステム
・計画の修正と効果判定と経済比効果分析
・政策立案者及びサービス提供者の力量形成と質の保障
・計画推進の質的量的データベースの構築
・地域計画(健康、医療、福祉、教育、道路、建築、環境、景観、産業など)の政策形成・計画策定調査研究および策定への住民の主体的参加(Participatory Action Research)
・教育、マンパワー養成などコミュニティエンパワーメント
・総合発展計画と重層的計画構成、その摺り合わせ、優先性の確定
・情報サービスへのアクセス、情報と内容の質
・本計画に対する代替え案、修正案、補強案の用意
・効果的施策推進のための予算計画と行政トップ、議会の意思決定プロセス
・財政基盤と社会的資源の正確な評価
・行政、住民、関係スタッフのニーズ対応協働活動計画
・費用ー効果分析評価視点とその方法の確定
・ニーズとアクションの「ずれ」の発見とモニタリング
・コミュニティケア過程の記録の確保
・行政エンジニアリングの手法の導入
結論
世界における最近の健康文化都市づくりの動向、課題を文献でレビューし、日本における健康文化都市づくり政策と活動へ国際的経験の導入と教訓化を試みた。また、国内の地方中核都市と隣接する町村を対象に、共同研究班で作成した調査票を用い、現状を把握した。
これらを踏まえて、日本における健康なまちづくりの成果と課題を明らかにし、サービスの品質管理の視点から、行政評価の方法論開発を試みた。健康なまちづくりは多くの成果と経験を蓄積しつつ、同時に地方分権と広域行政圏再編や都邑連合という新たな地方行政をめぐる情勢に対応することが緊要な課題となっている。また、都市と農村の共生、環境の持続的発展など国連宣言を受けた健康文化都市政策を考える時、政策科学的視点から、行政リエンジニアリング、学際的協働的研究、住民参加行動研究などの一層の推進が課題と考えられる。

公開日・更新日

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