パーキンソン病の定位脳手術の適応と手技の確立に関する多施設共同研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900600A
報告書区分
総括
研究課題名
パーキンソン病の定位脳手術の適応と手技の確立に関する多施設共同研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
湯浅 龍彦(国立精神・神経センター国府台病院)
研究分担者(所属機関)
  • 渥美哲至(聖隷浜松病院)
  • 阿部康二(岡山大学)
  • 安藤肇史(国立療養所宮城病院)
  • 石川厚(国立療養所西小千谷病院)
  • 板倉徹(和歌山県立医科大学)
  • 井上雄吉(富山県高志リハビリ病院)
  • 大江千廣(日高病院機能脳外科ガンマーナイフセンター)
  • 大槻泰介(国立精神・神経センター武蔵病院)
  • 大本堯史(岡山大学医学部)
  • 片山容一(日本大学医学部)
  • 加藤丈夫(山形大学医学部)
  • 川井充(国立精神・神経センター武蔵病院)
  • 亀山茂樹(国立療養所西新潟中央)
  • 楠正(日本疫学学会)
  • 葛原茂樹(三重大学医学部)
  • 久野貞子(国立療養所宇多野病院)
  • 近藤智善(和歌山県立医科大学)
  • 澤村豊(北海道大学医学部)
  • 島史雄(九州大学医学部)
  • 島本宝哲(久留米大学医学部)
  • 高橋宏(都立神経病院)
  • 田代邦雄(北海道大学大学院医学研究科)
  • 武内重二(京都きづ川病院)
  • 飛松省三(九州大学医学部)
  • 中野今治(自治医科大学)
  • 中野勝磨(三重大学医学部)
  • 楢林 博太郎(楢林神経内科クリニック)
  • 南部篤(東京都神経科学総合研究所)
  • 橋本隆男(信州大学医学部)
  • 長谷川 一子(北里大学医学部)
  • 波多野 和夫(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 久永欣哉(国立療養所宮城病院)
  • 松田博史(国立精神・神経センター武蔵病院)
  • 丸山哲弘(鹿教湯病院)
  • 水谷智彦(日本大学医学部)
  • 横地房子(都立神経病院)
  • 横山徹夫(浜松医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
32,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
長期に経過し、薬物療法の効果が減弱し、治療が困難になった慢性のパーキンソン病、あるいは、薬物治療に難治な症候(wearing-offやドパ関連ジスキネジア)を有するパーキンソン病に対して、一定の基準を設けて定位脳手術を施行し、わが国におけるパーキンソン病に対する定位脳手術の施行基準を策定する
研究方法
パーキンソン病に対する定位脳手術に対して本邦独自の実施基準を策定することを目的として脳神経外科と神経内科医師、そして基礎・臨床病態研究を含めたパーキンソン病の定位脳手術に対する本邦初の総合的研究班が組織された(現在手術実施施設は11施設、術者12名、カウンターパート14名、そして、臨床病態研究者5名、基礎病態研究者2名、臨床統計1名を加え総勢33名の研究者組織である)。 パーキンソン病に対する定位脳手術の登録基準を定め、一定の評価基準に則して臨床効果、副作用、そして高次脳機能に与える影響や、脳代謝への影響、さらに患者のQOLに及ぼす効果、医療経済効果などについて検討する。
本研究班では、共通のインフォームドコンセントの様式を整備し、患者に十分説明し、同意を得て本研究に参加して頂いている。
結果と考察
実務的活動として①過去の文献的レビュー、②定位脳手術の患者登録基準の作成、③班共通のインフォームドコンセントの作成、④運動機能評価基準、うつ状態評価スケール、ADL評価スケールなどの整備、⑤班共通の評価プロトコールを整備した。
(1)大脳基底核神経回路網の研究:
大脳基底核神経回路網の研究はパーキンソン病定位脳手術の病態を理解する上で重要な事項である。
a) 南部班員は昨年度は大脳皮質から直接視床下核に至る経路(ハイパー直接路)が存在することを明らかにしたが、平成11年度は、脚橋被蓋核の意義を明らかにした。つまり、これを予め破壊しておくとニホンザルのMPTP投与モデルによる黒質ドーパミン細胞死や、その結果起こるパーキンソン病を抑制出来ることを示した。
b) 中野勝磨班員は前庭神経核は視床の束傍核の外側部およびnucleus centralis lateralis(CL)を介して、また、小脳歯状核からもCLを介して大脳基底核に投射することを示した。
(2) 各手術手技と病態生理研究:
①淡蒼球破壊術;
a) 久野班員、武内班員によれば、後腹側淡蒼球破壊術はoff時の運動症状を改善させ、この効果は平均20.5カ 月経過後も残存したb) 安藤班員、久永班員は、後腹側淡蒼球凝固術を施行した14例にてADLを改善させるが、高次大脳機能が低下する例も存在するとした。c) 淡蒼球内節手術においてその破壊部位が淡蒼球内節の感覚運動領域に限定して いれば認知機能には影響しない(丸山班員)。
d) Pallidotomy後のパ-キンソン病患者中脳のMR画像では2年以上の症例では同側の大脳脚の萎縮が生じていることが示された(加藤班員)。e) 亀山班員は、31例の淡蒼球手術群で、左側手術で大脳の血流増加が両側性にみられた。
②淡蒼球内節の刺激部位/破壊部位による効果の差;
a) 淡蒼球内節の刺激部位により改善される症状に差がみられる。16例のパーキンソン病に対して淡蒼球内節慢性刺激術を施行した。筋固縮、振戦、dyskinesia は淡蒼球内節腹側刺激で改善し、背側刺激ですくみ足などの歩行障害が改善した(板倉班員)。b) 田代班員、澤村班員は、同様に若年性パーキンソニズムの患者に対し一側の淡蒼球内節破壊術を行い、四肢・体幹の寡動、筋固縮に対しては淡蒼球内節腹内側部、両下肢の振戦に対してはそれより背外側部の破壊が有効であることを示した。
③視床下核(STN)刺激の臨床効果と病態生理;
a)STN刺激20例の検討により、off-periodの症状を改善し、on-period の levodopa投与量を軽減することができた(片山班員)。b)島班員、飛松班員は、21例にて、一側STNに電極を挿入しただけで対側肢の固縮、振戦、日内変動 が短期間ではあるが軽減し、ADLの改善がみられた。しかし、多くの場合、2-3ヶ月後から刺激効果は減衰した。一側刺激だけで満足がいく顕著な効果が長期間持続した著効例は2例にすぎなかった。
c) STN手術に伴う高次脳機能への影響は極めて少ない(横山班員)。d) STNの刺激が淡蒼球内節ひいては大脳ネットワークにどのような影響をおよぼすかは重要なポイントであるが、橋本班員はサルのパーキンソン病モデルの視床下核高頻度電気刺激を実施し、期待に反して淡蒼球内節の発火頻度は増加した。このことからSTN刺激の臨床効果は淡蒼球内節の発火パターンの変化に依存すると推定した。
(3) 新薬の導入による治療体系の変化:
a) 新薬の導入によりパーキンソン病の手術療法選択の時期に変化が生じると予想される(石川班員、近藤班員、長谷川班員、横地班員)。 b) 湯浅主任研究員は、① MAO-Bインヒビターはwearing-off現象について、off時のスコアを改善し、② MAO-Bインヒビターの併用はレボドパ製剤の投与量の減量を可能にし、それによって3例中1例ではdopa-induced dyskinesiaも減少できた。以上より、③ MAO-Bインヒビターの併用によって定位脳手術の適応時期を遅らせることができることが示された。
(4) パーキンソン病定位脳手術予後全国調査:
葛原班員は568名の神経内科医にアンケート調査を実施し、279名の回答を得た(回収率49%)。これらの医師が担当するパーキンソン病患者中、定位脳手術の候補患者数は804名(全担当患者の6.4%)であった。定位脳手術の既往患者380名中43%の患者が「患者自身の希望」で手術を受けた。淡蒼球破壊術が223例、視床破壊術が100例、視床+淡蒼球破壊術が17例、視床下核刺激が17例、淡蒼球刺激が8例、視床刺激が6例、その他9例であった。
それらの中で神経内科医が手術が有効と判定したものの割合は、視床破壊術が75%、視床刺激が67%、淡蒼球刺激が63%、淡蒼球破壊術が49%、視床+淡蒼球破壊術が47%,視床下核刺激が41%,
であった。視床破壊術については、確実な効果が長期にわたって得られたが、淡蒼球破壊術の効果は短期であった。術後の評価は57%の患者が執刀医の下でなされて、UPDRSの実施率は40%に過ぎなかった。手術巣の正確さなど手技的な問題も今後の課題である。
(5)考察:
以上本年度の実績報告を中心に過去2年の経過を述べた。本研究班の最終目標であるパーキンソン病の手術基準の作成には至っていないが、登録患者数としては順調に達成されていて、今後は個別の経過報告を集計し、結論に持って行く必要がある。
過去2年間本研究班討議され整備された具体的な成果は、① 班共通のインフォームドコンセント(IC)の作成、② 手術登録のための基準(第一次基準)の作成、③ 評価バッテリーの整備(日本語版UPDRSの整備を含む)、④ 過去のパーキンソン手術に関する世界の文献の収集と文献集の作成などである。以上の成果は一般的に広く利用して頂けるように準備されている。また、定位脳手術の基礎的/臨床的研究が重要であり、基礎的神経回路網の研究、大脳基底核と大脳皮質の基礎生理学的研究、手術手技術の改良と向上の為の研究、神経生理学的検討、高次脳機能検査、そしてパーキンソン病のlife spanを見越した全体的治療戦略の整備、患者のQOLの向上の観点からの検討を進めててきた。
疫学調査としては、班研究発足以前の手術実施例について全国調査を実施し、結果は本年度の成果として報告されている。
他の研究班との関連については、発足当初より神経変性班(田代班)との連携を綿密に計っている。尚、登録症例の解析は次年度以降の作業となる。
結論
以上本年度の研究経過と来年度以降の見通しを述べた(特許取得の関する事項、実用新案登録に関するものはなかった)。

公開日・更新日

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