特定疾患の疫学に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900591A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患の疫学に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
稲葉 裕(順天堂大学)
研究分担者(所属機関)
  • 田中平三(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
  • 中村好一(自治医科大学)
  • 玉腰暁子(名古屋大学)
  • 川村 孝(京都大学保健管理センター)
  • 永井正規(埼玉医科大学)
  • 簑輪眞澄(国立公衆衛生院)
  • 中川秀昭(金沢医科大学)
  • 佐藤俊哉(文部省統計数理研究所)
  • 杉田稔(東邦大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
48,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特定疾患に関する疫学研究の究極的な目標は、人口集団内における各種難病の頻度分布を把握し その分布を規定している要因(発生関連/予防要因)を明らかにすることを通じて、難病患者の発生・進展・死亡を防止し、患者の保健医療福祉の各面、さらには人生および生活の質(QOL)の向上に資するための方策をあらゆる疫学的手法を駆使して確立すること、および難病の保健医療福祉対策の企画・立案・実施のために有用な行政科学的資料を提供し、難病対策の評価にも関わることである。
研究方法
以下のプロジェクトを研究目標(課題)とし、分担研究者および研究協力者が複数のプロジェクト課題に関わりながら、各臨床研究班と緊密な連携のもとに疫学研究を推進する。
①発生関連要因・予防要因の解明
②医療受給者の臨床調査票による患者実態調査とその体系的利用
③難病患者の保健医療福祉ニーズ把握
④医療受給申請時、または認定時の調査票による簡易疫学調査法の開発
⑤特定の難病の全国疫学調査
⑥1997年度医療受給者の全国調査資料の分析集計
⑦地域ベースのコホート研究の実施
⑧特定の難病の予後調査
⑨行政資料による難病の頻度調査
⑩治療研究対象疾患の見直しに関する調査研究の詳細分析
⑪定点モニタリング・システムの運用と新たな疾患についての検討
⑫難病全国疫学調査資料データベースの年度別比較
⑬特定疾患難病疫学研究連絡会議の開催
結果と考察
プロジェクト①は、まず対象疾患を何にするか、何を主な要因とするか、の検討を始め、文献検索と臨床各班との話し合いが中心となった。疾患としては、潰瘍性大腸炎とクローン病、後縦靱帯骨化症および全身性エリテマトーデスを候補とし、要因としては、宿主要因、特に遺伝子と生活習慣要因の交互作用について取り上げることとした。(田中ら)
プロジェクト②は、都道府県から調査票送付時、入力時、利用時の個人情報の保護対策が大きな問題となり、予定していた入力作業を終えることができなかった。来年度以降の実施を見込み、今年度はこの調査票を利用した時の利点と問題点を検討した。(中村ら)
プロジェクト③は、患者のニーズ把握のために、患者団体にアプローチすることが決まり、ベーチェット病、パーキンソン病および炎症性腸疾患の各団体と交渉を始めた。一方で、介護保険導入に伴う保健所の対応が問題となり、平成8年度の「ケアシステム研究班」の調査票を参考に、来年度保健所を対象とした調査を実施する予定である。(山路ら)
プロジェクト④は、プロジェクト②と重複している部分が多く協同プロジェクトの形で進んでおり、今年度の報告はない。
プロジェクト⑤は、1999年1月に実施した調査(肝内結石症(馬場園ら)、門脈血行異常症(中川ら)、特発性心筋症(中川ら)、急性膵炎(玉腰ら))の一次調査、二次調査の結果が報告された。
肝内結石症の全国受療患者推定数は5,900人(4,200~7,600)で、対象者の性比:0.86、年齢:50歳~70歳台が80.1%、「主に入院」と「入院と通院」が合わせて38.7%であった。
門脈血行異常症の二次調査では、特発性門脈圧亢進症(168例)は性比0.32で、40歳以上に多く、肝外門脈閉塞症(97例)は性比1.16で年齢分布は0~高年齢までと広く、バッドキアリー症候群(44例)は性比0.63で全年齢層に分布していた。受療状況は3疾患とも「主に通院」が54~65%と最も多かった。
アミロイドーシスの全国患者数は、免疫グロブリン性アミロイドーシス510人(410-620)、反応性アミロイドーシス1,800人(700-2,900)、透析アミロイドーシス4,500人(3,400-5,600)と推計された。
特発性心筋症の全国患者数は拡張型17,700人(16,500-18,800)、肥大型21,900人(20,600-23,200)、拘束型300人(250-350)と推計された。
急性膵炎の年間受療患者数は、19,500人(17,000-22,000)と推計された。二次調査解析対象1,688例から、性比は約2.0で年齢分布は、男性では40~60歳にピークが広く分布し、女性では加齢とともに増加して65~69歳にピークが見られた。成因は男性がアルコール性、胆石性、特発性の順で、女性では特発性、胆石性、アルコール性の順であった。
また、2000年1月COPD(慢性閉塞性肺疾患)(縣ら)の調査が開始された。
プロジェクト⑥は、1997年度の医療受給者の都道府県を対象とした全国調査の結果であり、別冊の報告書(その1基本的集計)として発刊された。(永井ら)
プロジェクト⑦は、1998年度にスタートした研究で現在35の保健所が参加して、受給者の調査を実施している。今回は、ベースライン調査結果が報告され、神経疾患の割合が高く、QOL調査で、疾患別にやや差のあることが認められている。(川南ら)
プロジェクト⑧は、IgA腎症患者の予調査のみが報告された。登録時点の腎機能低下の程度が累積腎透析導入率に影響していることが明確になった。(川村ら)
プロジェクト⑨では、ICD10と特定疾患名との比較が報告された。目的外利用の申請を提出し、次年度以後解析が予定されている。(簑輪ら)
プロジェクト⑩では、1998年度の臨床各班へのアンケートから、治療研究事業対象疾患の選定方法につき3つの立場(患者、行政、研究者)での解析が行われた。(佐藤ら)
プロジェクト⑪では、特発性大腿骨頭壊死症(廣田ら)とレックリングハウゼン病(NF1)(縣ら)の定点モニタリングの成績が報告された。
プロジェクト⑫,⑬は、今年度は実施されなかった。
前回の大野班の時から実施され始めた臨床班と疫学班に連絡担当者を置いて、密接な連携をはかる体制を継続している。初めての主任研究者の方もいて、必ずしも十分な話し合いのできない班もあったが、おおむね順調に進められていると考えている。次年度以降さらに密接な連携をはかっていきたい。
結論
厚生科学研究費の補助を受ける形での最初の年度であり、結果が報告できたのは、1998(平成10)年度に開始された研究(全国調査と受給者調査)のみであった。しかし新しいプロジェクトが着実に出発できたので、次年度以後の報告に期待したい。

公開日・更新日

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