先進諸国の少子化との動向と少子化対策に関する比較研究

文献情報

文献番号
199900030A
報告書区分
総括
研究課題名
先進諸国の少子化との動向と少子化対策に関する比較研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
阿藤 誠(国立社会保障・人口問題研究所所長)
研究分担者(所属機関)
  • 津谷典子(慶應義塾大学)
  • 原俊彦(北海道東海大学)
  • 小島 宏(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 西岡八郎(国立社会保障・人口問題研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、すでに四半世紀にわたって進行している少子化傾向に対して、それを変更しうる社会政策の可能性を探ることを目的とする。この目的のためには、ひとつは、日本国内の出生動向、経済社会の動向、社会政策の動きとそれらの相互関係を実証的に分析する方法が考えられるが、これについては、すでに本主任研究者の平成8~11年厚生科学研究プロジェクト「家族・労働政策が出生率に及ぼす影響に関する研究」も含めて多くの研究が蓄積されつつある。もうひとつは、日本と同様の少子化傾向に直面する先進国を個別に、あるいは全般的にとりあげ、それらの時系列的あるいは横断的な比較分析から日本の少子化対策のヒントをえる方法が考えられる。本研究の直接的目標は、このような先進諸国の出生動向、経済社会動向、社会政策の動きとその相互関係を、主要国について個別的かつ時系列的に、また先進諸国全体について横断的に比較分析することにより、出生率に大きな影響を及ぼす経済社会特性、ならびに社会政策を特定することである。
1980年代半ば以降日本の少子化が特に急激に進行し、今日、労働力の供給制約が大幅に強まり、従属人口指数の急上昇にともない現役世代の高齢者扶養負担が高まり、経済成長の鈍化に加え、社会保障制度の危機など、21世紀第1四半期に確実に訪れる、少子・高齢化のマイナス面の影響がクローズアップされている。しかし、さらに大きな危機は、現在の少子化傾向の継続を前提とした21世紀半ばの超高齢・人口急減社会の訪れであり、それを回避するためには、今後、人権に配慮した有効な少子化対策がとられる必要がある。本研究はそのような有効な少子化対策の選択・策定にとってきわめて有意義と考えられる。
研究方法
本年度は、少子化と家族政策の関係についての比較分析の方法論を検討するために文献サーベイを行った。マイクロアプローチの部分について、日本を事例としたモデル的試算を行った。地域別分担研究者は、それぞれに現地調査を行い、出生率を中心とする人口動態のデータ、社会経済変数に関するデータ、家族・労働政策に関するデータを収集するとともに、各地域の研究協力者を定めるとともに、今後の研究方向を協議した。
結果と考察
(1)親委員会では、少子化と家族政策の関係の国際比較分析の方法論に関する文献レビューを行い、方法論の検討を行った。
(2)親委員会では、モデル家族による子育て支援政策と子育てコストの比較分析の共通分析フレームを固め、日本のデータを用いて複数のモデル家族を設定し、シミュレーションを行った。
その結果、以下の知見が得られた。
・ 所得税、地方税は、子ども数(扶養家族)が多いほど少ない。
・ 社会保険料は、父母の働き方によって異なるが、子ども数・年齢による違いはない。
・ 現在、日本で平均的な収入がある家族は、所得制限により児童手当を受けることができないが、サラリーマン家族の場合は特例給付を受けることができる。
・ 保育料は所得税額から計算されるため、収入の多い共働き夫婦で特に負担が大きくなる。
分析の問題点として、子どもの年齢、賃金カーブ等、ライフサイクル的な要因をどの程度、またどのように考慮するのか、高等教育にかかる費用をどのように扱うべきか、地域差をどう考えるのか、育児休業中の所得補償の効果をモデルに盛り込むにはどのような方法が考えられるかなどが浮かび上がった。今後は、他国のデータ入手可能性も計りながら、モデルを修正していく。
(3)親委員会で、今後の比較研究に用いる主要なマクロデータ(合計特殊出生率、普通出生率、普通死亡率、自然増加率、婚外子割合など)を収集し、データベースを構築した。
(4)各言語圏・地域の主要国について、関係資料の収集およびデータ収集の困難度に応じて、それぞれ出生・家庭の動向および家族政策の動向などの分析を行った。以下、その成果の一部を記述する。
①ドイツ語圏
・ドイツ、オーストリア、スイス、オランダの4カ国について、出生・家族の動向、家族政策の動向などの概要をまとめて比較し、その共通点と相違点を踏まえ、今後の分析の視点や研究の方向を明らかにした。
・ドイツ連邦共和国を取り上げ、戦前戦後の出生動向の分析を行い、その特徴を抽出した。また従来から知られている高い無子比率、比較的低い同棲率・婚外子比率についての分析を行い、結果を踏まえ、ドイツにおける家族政策とその問題点について考察した。
② フランス語圏
・フランスを中心に、ベルギー、カナダのケベック州、そしてルクセンブルグについても可能な範囲で、出生・家族の動向と家族政策の動向を把握するとともに、フランス語圏における同質性・異質性を浮かび上がらせた。特に、フランスとベルギーについては全国的動向だけでなく、地域差に関する分析も試みた。
・ケベック州政府および連邦政府の官庁等を訪問し、基本的な情報収集も行った。
③北欧諸国
・スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランドの北欧4カ国における出生率の動向と家族政策の変遷について比較・検討し、出生力と家族政策の関係を探るうえで重要である女性の就業と家庭内役割の男女分担についても検討した。家族政策の変遷については、スウェーデンとデンマークを中心に研究を進めた。
・北欧4カ国における保育サービスについては、育児休業制度同様、その内容には国によってかなりな差異があり、またサービスの実施主体が市町村(コミューン)であるため一国内においても相当な差異が存在するが、公的保育サービスは、(1)親(とくに母親)の仕事と家庭の両立を援け、(2)子どもの健全な育成をはかるという目的をもつことは共通していることがわかった。
・男性の家事分担割合が1割以下と先進国中最低である日本や我が国同様低出生率に悩むイタリアやスペインに比べても北欧諸国の男性の家庭内労働分担割合は高いこと、さらに、女性の労働市場進出の急増にともなって、家庭内役割の男女分担パターンが大きく変化してきたことがわかった。
④南欧諸国
・地中海沿岸の南欧諸国に関しては、分析に必要な基礎的な情報やデータが不足しているため、初年度は、出生率などの人口動態、世帯・家族に関する推移・動向、女性の地位指標や家族政策、労働政策の基本的な動向に関する基礎資料の収集と整理に重点を置いた。特にスペインに重点を置いて、1970年代半ば以降の出生動向の分析を行い、南欧圏諸国の出生行動の特徴を明らかにするとともに、その他の欧米先進諸国とは異なる傾向を示している離婚率、非嫡出子比率、同棲率、未婚者の居住状態(離家遅れ)などについても分析を行った。
⑤英語圏(親委員会)
・ アメリカを中心に、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドについても可能な範囲で出生・家庭・就労の動向のデータを収集した。
・インディアナ州・ラフィエット地域において、統計からは把握できない情報を得るために、現地で保育所の実態の調査を行い、25人をインタビューした。ほとんどの女性が育児支援を多かれ少なかれ母親や隣人などからインフォーマルな育児支援を受けている、保育所の送り迎えは夫と半々というケースが多い、子どもの世話に関しては夫もかなり分担している、大半の女性が経済的に可能ならパートタイム労働やボランティア活動への専念を望んでいる、ほとんどの母親が子どものために働き方を調整している、子どもを保育所に預ける時間はなるべく短くしたいと考える人が多いことなどが浮かび上がった。
(5)現地の研究者の協力を得て、以下のような資料収集および家族政策に関する基礎的分析を行った。
・カナダのケベック州における出生・家族動向と家族政策の動向、家族政策の効果、関連統計集などの報告書の作成、日仏の未婚化要因に関する論文の作成、スウェーデン家族政策の今後の指針と展望についてのレポート作成、スペイン、イタリアについて、1.センサス、人口動態など人口指標、出生に関する基礎的データ有無確認と収集、2.超低出生率に対する行政府の考え方、人口専門家の考え方、国民の受け止め方・考え方、3.家族・労働政策等に関する研究、4.その出生率への効果に関する研究、ポルトガルの人口動向と少子化に関するレポート作成。
(6)各地域の中核となる国の人口研究機関および関連分野の研究者等を訪問し、研究協力の体制を確立あるいはその可能性を探った。
結論
本研究の成果として、(1)出生率の上昇がみられた国における重要な社会経済変化と、それをもたらした社会政策の種類、強度、(2)出生率が低下している国に共通する社会特性、各種の社会政策の欠如等が明らかとなり、日本の少子化対策への有益な提言をひき出すことが可能となる。本年度はそのための基礎資料収集、分析フレームの設定、関連国の専門家との協力体制の確立に務めた。

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