小規模水供給システムの安定性及び安全性確保に関する統合的研究

文献情報

文献番号
201927002A
報告書区分
総括
研究課題名
小規模水供給システムの安定性及び安全性確保に関する統合的研究
課題番号
H29-健危-一般-004
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
浅見 真理(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 禎彦(京都大学大学院工学研究科)
  • 島崎 大(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 小熊 久美子(東京大学 大学院 工学系研究科 )
  • 増田 貴則(鳥取大学 大学院 工学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
7,760,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
全国数千の地域において、水道管路等で構成される水道(上水道、簡易水道)及び飲料水供給施設等(以下、水供給システム)を維持することが困難となりつつある。水供給維持困難地域を含む地域において衛生的な水を持続的に供給可能とするための具体的方策の検討を実施すべく検討を行った。
研究方法
小規模水供給施設の取組み、簡易水道が大規模水道事業体に繰り入れられた場合その他について聞き取り調査を実施し、制度上の課題等について整理を行った。また、地域管理型水道の事例について、文献調査や事例調査を行った。経済的で維持管理が容易な小規模で簡易な上向流式緩速ろ過の濁度及び大腸菌の除去特性の検証を行った。小規模水供給システムに適した小型紫外線消毒装置の候補として、紫外発光ダイオード(UV-LED)を光源とする流水殺菌装置2機種を選定し、山間の沢水を未処理で供給する給水栓にUV-LED装置を設置して約1年間の実証試験を行った。更に安価な小型UV-LED消毒装置についても実験を行った。錠剤型消毒剤を充填した浮遊式塩素供給器や小規模水供給システムを想定した簡易消毒手法の適用性に関する実験的検討を行った。飲料水供給施設相当規模の水供給システムを利用・管理している集落を対象に、集落外の団体との維持管理作業における連携・協力状況、および、水供給システムの維持管理や断水等のトラブル発生の現状を把握するとともに、集落役員が点検や清掃などの管理作業に対して感じている負担感や作業負担の重い項目、設備の点検管理記録や財政の将来見通しの有無、行政や他の集落との連携状況、研修会等の有無、水供給システムに対して感じている不安を整理することを目的とした質問紙調査を行った。
結果と考察
飲料水供給施設や飲用井戸等の小規模水供給システムを指導する職員に向けた情報の提供が必要であることが確認されたため、小規模水供給システムに対して、相談・指導時に活用可能な相談記録や現地調査票等の資料の作成を行った。静岡県静岡市等において、地元管理されている水道施設の調査を行い、諸点を指摘した。地域自律管理型水道の成功事例では、住民による持続的管理を可能とするための主要な要件が整理されており、地元住民とコミュニケーションする際の重要ポイントを提示しており、住民らが重要視している点に対して重点的に支援を行うことが有効と考えられた。
小型緩速ろ過実験装置を用いて、ろ過方向やろ過速度、原水濁度を変更して、ろ過水濁度及び微粒子の除去率を測定したところ、クリプトスポリジウム等対策指針のろ過水濁度0.1度以下を満たすには、原水濁度やろ過速度、ろ過層の成熟度の制約を受けるが、上向流式の緩速ろ過においてろ過層の洗浄後安定した処理条件では原虫の大きさの粒子では3~5logの除去、大腸菌についても洗浄後安定したろ過では2.7~2.9logの除去を行うことができた。
UV-LED実証実験では、未処理の原水では散発的ながら大腸菌陽性の場合や従属栄養細菌が水道水質管理目標値を超過する場合があり、常時飲用には消毒が望まれた。一方、UV-LED処理水では細菌濃度、検出率とも低下し、試験期間を通じて大腸菌不検出を達成した機種もあった。装置による従属栄養細菌の不活化率に運転時間経過に伴う低下傾向は認められず、供用後の装置内部に顕著なスケール生成等も見られなかった。更に安価な小型UV-LED装置では、定格最大流量の条件下で98.73%ないし99.82%の大腸菌不活化性能を有することが確認できた。錠剤型消毒剤は、大腸菌の消毒効果は確保できたものの、残留塩素濃度を長時間にわたり均一的に保持することは困難であること、接触槽内の水を循環する等の濃度制御の手段が課題となることが明らかとなった。
地域において管理を行っている集落を対象とした回答結果より、集落外の団体と連携・協力をして維持管理作業を行っている集落は2割弱にすぎず、水の安定供給や施設の維持管理に様々な困難を抱えていることが把握できた。また、断水の頻度や維持管理において負担の重い作業項目と作業に要する時間、維持管理等記録の有無状況、研修会のメリット等が確認できた。

結論
これらの知見から、今後更に衛生行政、水道部局、住民、関連団体の連携を図り、技術面、制度面、財政面の改善が図られるよう情報共有の方法を改善する必要がある。本研究により、分散型水処理技術として、上向流式緩速ろ過やUV-LED装置を活用する可能性が示された。このような管理が容易な技術や地域で管理できる仕組みの導入が、小規模水供給システムにおいて効果的であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2021-06-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-06-14
更新日
2022-06-17

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201927002B
報告書区分
総合
研究課題名
小規模水供給システムの安定性及び安全性確保に関する統合的研究
課題番号
H29-健危-一般-004
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
浅見 真理(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 禎彦(京都大学大学院 工学研究科)
  • 島崎 大(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 小熊 久美子(東京大学大学院 工学系研究科 )
  • 増田 貴則(鳥取大学大学院 工学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
全国数千の地域において、水道管路等で構成される水道(上水道、簡易水道)及び飲料水供給施設等(以下、水供給システム)を維持することが困難となりつつある。衛生的な水を持続的に供給可能とするため、簡易水道が大規模水道事業体に繰り入れられた場合の事例調査やその他小規模水供給の取組みについて聞き取り調査を実施し、制度や技術上の課題等について整理を行った。配水管の管理、紫外線消毒、上向式ろ過、錠剤型消毒剤、住民管理の方法等について実験及び文献調査、質問紙調査を実施した。
研究方法
配水管内における懸濁物質等の管理・制御のため、中部地方H市内、中部地方Y市内、東北地方S市内の飲料水供給施設などの小規模な水道施設を対象とし、それぞれの配水区域において、まずは配水管内に蓄積する重量(g/m2)とその分布の推定を行った。
上向流式緩速ろ過の検証を行った。小型緩速ろ過実験装置を用いて、ろ過方向やろ過速度、原水濁度を変更して、濁度及び大腸菌の除去及び微粒子の除去率を測定した。小規模水供給システムに適した小型紫外線消毒装置の候補として、紫外発光ダイオード(UV-LED)を光源とする流水殺菌装置2機種を選定し、山間の沢水を未処理で供給する給水栓にUV-LED装置を設置して約1年間の実証試験を行った。また、錠剤型消毒剤に関する資料収集や更に安価な小型UV-LED消毒装置を用い、小規模水供給システムを想定した簡易消毒手法の適用性に関する実験的検討を行った。
県と村役場による施策について調査を行い、北海道富良野市、青森県新郷村および五戸町、静岡県静岡市、京都府福知山市、奈良県十津川村などの地元管理されている簡易水道や飲料水供給施設について、地元管理の状況の調査を行った。また、飲料水供給施設相当規模の水供給システムを利用・管理している97の集落を対象に、水供給システムの維持管理や断水等のトラブル発生の現状等の質問紙調査を行った。
結果と考察
配水管内における懸濁物質等の管理・制御では、浄水シナリオ、縮径シナリオ、洗管シナリオによって、配水管内環境がいかに改善できるかを定量的に示した。地元住民が管理している施設では、住民が重要視している点に対して重点的に支援を行うことが有効と考えられた。
ろ過に関する検討では、クリプトスポリジウム等対策指針のろ過水濁度0.1度以下を満たすには、原水濁度やろ過速度、ろ過層の成熟度の制約を受けるが、ろ過層の洗浄後安定した処理条件では原虫の大きさの粒子では3~5logの除去、大腸菌についても洗浄後安定したろ過では2.7~2.9logの除去を行うことができた。
UV-LED処理の実証試験では、原水の大腸菌の細菌濃度、検出率とも低下した。装置による従属栄養細菌の不活化率に運転時間経過に伴う低下傾向は認められず、供用後の装置内部に顕著なスケール生成等も見られなかった。一層安価で小型のUV-LED装置では、定格最大流量の条件下で98.73%ないし99.82%の大腸菌不活化性能を有することが確認できた。錠剤型塩素剤は、浄水中の適切かつ継続的な残塩濃度の保持が実際に可能であった。
浄水処理装置に関する技術的課題について考察し、浄水規模と装置寿命の観点から、今後の開発ニーズを指摘した。飲料水供給施設相当規模の水供給システムを利用・管理している集落を対象にした質問紙による調査では、47の集落より回答があり、水の安定供給や施設の維持管理に様々な困難を抱えていること、負担の重い作業項目、記録の有無状況、研修会のメリット等が確認できた。結果より、集落外の団体と連携・協力をして維持管理作業を行っている集落は2割弱にすぎず、水の安定供給や施設の維持管理に様々な困難を抱えていることが把握できた。また、断水の頻度や維持管理において負担の重い作業項目と作業に要する時間、維持管理等記録の有無状況、研修会のメリット等が確認できた。
結論
配管の濁度管理、ろ過、適切な消毒を行うことで、水の安全性を向上できる。分散型水処理技術としてUV-LED装置を活用する可能性が示された。今後、それぞれ管理・制御すべき事項・段階を抽出するとともに、検討対象地域に適した浄水処理方法及び配水システムの管理・制御方法を提示することが必要である。小規模水供給システムの維持管理には、体制の整備や関係者の連携、行政から指導、助言する職員に向けた情報の提供が必要であることが確認されたため、相談・指導時に活用可能な相談記録や現地調査票等の資料の作成を行った。今後一層の情報共有を図る必要がある。

公開日・更新日

公開日
2024-10-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-10-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201927002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
上向流式緩速ろ過により、概ね濁度の変動に対応し、緩速ろ過の適用範囲を拡大できる可能性を示した。また、分散型水処理技術としてUV-LED装置を活用する可能性が示された。
臨床的観点からの成果
特になし。
ガイドライン等の開発
現地調査の調査票、参考情報等については、水供給の安全性確保が大きな課題となっている水道行政、衛生行政の技術的支援に資するよう、科学院ホームページ等様々な機会の講演等で提供する。
その他行政的観点からの成果
小規模水供給の持続性の向上について手引き、または関連の情報提供等に反映させる予定であり、厚生労働省水道課において検討会の議題とすべく調整を行っている。
その他のインパクト
小規模水供給システムに関するシンポジウムを開催し、約100名の参加があった。日本水道新聞、水道産業新聞、水道公論等に複数回掲載された。そのほか、期間を通じて40件の外部セミナー、講演を実施した。

発表件数

原著論文(和文)
9件
原著論文(英文等)
14件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
32件
学会発表(国際学会等)
15件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
16件
福島県、愛知県、長野県等への研修等16件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
中西智宏,岸本如水、伊藤禎彦 他
浄水中微粒子による配水管内環境の形成過程のモデル化とその制御性
環境工学研究論文集 , 75 (7) , III_53-III_63  (2019)
原著論文2
小熊久美子、渡邊真也
分散型水処理技術としての活用を想定した紫外発光ダイオード(UV-LED)装置の実証
水環境学会誌  (2020)

公開日・更新日

公開日
2023-05-24
更新日
2024-06-21

収支報告書

文献番号
201927002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,300,000円
(2)補助金確定額
8,299,000円
差引額 [(1)-(2)]
1,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,003,621円
人件費・謝金 2,636,132円
旅費 1,393,160円
その他 726,564円
間接経費 540,000円
合計 8,299,477円

備考

備考
自己資金477円

公開日・更新日

公開日
2021-05-07
更新日
-