国際的に問題となる食品中のかび毒の安全性確保に関する研究

文献情報

文献番号
201823004A
報告書区分
総括
研究課題名
国際的に問題となる食品中のかび毒の安全性確保に関する研究
課題番号
H28-食品-一般-004
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
小西 良子(麻布大学 生命・環境科学部 食品生命科学科)
研究分担者(所属機関)
  • 渋谷 淳(国立大学法人東京農工大学大学院・農学研究院)
  • 吉成 知也(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
8,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)は、かび毒のリスク評価を行う国際的機関であることから、JECFAでリスク評価の対象となったかび毒は、コーデックス食品規格として設定される可能性が非常に高い。我が国はコーデックス委員会の加盟国であることから、コーデックス規格を食品の規格基準に採用することが厚生労働省の方針として決められている。本研究事業においてSTC及び4,15-4,15-DASを対象に日本に流通する食品における汚染実態を調査し、得られたデータからばく露評価を実施し、日本人の健康に対するそれらかび毒の影響を評価すること、F1世代への発達期神経障害に焦点を当てた毒性評価をすること、およびカビから直接かび毒産生遺伝子を検出する遺伝子的測定法の開発を行うこととした。最終年度は、実態調査においてはステリグマトシスチン(STC)及び4,15-ジアセトキシスシルペノール(4,15-4,15-DAS)で行った。毒性試験ではSTCの発達神経毒性を検討した。モニタリング手法では4,15-DASに着目し、Fusarium属菌のうち4,15-DAS産生菌種のみを検出する方法の開発を試みた。
研究方法
実態調査では2年間の調査の結果で両かび毒が検出された食品を対象に汚染実態調査を行い、STCについては、11食品目計257検体,4,15-4,15-DASについては、8食品目計164検体の調査を妥当性評価された分析法で測定した。発達神経毒性影響の検討では、各群12匹の妊娠SDラットを用いて行った。雄児動物を対象とした海馬歯状回(SGZ)における神経新生への影響を解析した。モニタリング手法の開発では昨年度までに行ったSTC産生菌種の迅速検出法の開発で確立した、改変型DNA合成酵素を用いて標的菌種のみを増幅するPCR法を4,15-DAS産生菌種へ応用した。
結果と考察
実態調査結果から STCについては、11食品目計257検体を調査し、ハト麦加工品で76%、国産小麦粉で38%、輸入小麦粉で32%の検出率であった。4,15-4,15-DASについては、8食品目計164検体の調査を行い、コーンフラワーで67%、ハト麦加工品で64%の検出率であった。発達神経毒性影響の結果では、STC15.0 ppmで顆粒細胞層下帯において、顆粒細胞系譜分化後期にある神経前駆細胞の増殖抑制によるtype-2b前駆細胞〜未熟顆粒細胞の減少を特徴とする神経新生障害と、それに対する修復性の反応として歯状回門における神経新生制御系であるCALB1陽性およびPVALB陽性GABA性介在ニューロン数の増加を認めた。培養によらない分析法として、Lys2遺伝子の塩基配列をもとに設計した系ではマルチプレックスPCRにすることよって、一度のPCRで供試した全ての4,15-DAS産生菌種を検出することに成功した。
結論
STCと4,15-DASの日本に流通する食品を対象とした汚染実態調査では、STCは小麦粉、ライ麦粉、ハト麦加工品などの麦類加工品において主に検出された。4,15-DASはハト麦加工品で主に検出され、小麦などのその他の穀類からは検出されなかった。発達神経毒性影響ではSTCは15.0 ppmにおいてSGZにおける顆粒細胞系譜分化後期の神経新生障害と、それに対する修復性の反応を認めた。しかしこの毒性は可逆的であることが示唆された。培養によらないかび毒産生菌種検出法としてはマルチプレックスPCRの系で、一回のPCR操作で4,15-DAS産生菌種を特異的に、且つ迅速に検出することが可能な方法を確立することができた。

公開日・更新日

公開日
2020-01-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-01-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201823004B
報告書区分
総合
研究課題名
国際的に問題となる食品中のかび毒の安全性確保に関する研究
課題番号
H28-食品-一般-004
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
小西 良子(麻布大学 生命・環境科学部 食品生命科学科)
研究分担者(所属機関)
  • 渋谷 淳(国立大学法人東京農工大学大学院農学研究院)
  • 吉成 知也(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
かび毒は、世界的に汚染が報告されておりヒトや動物に対して健康被害を引き起こすため、国際的に対応が急がれている食品の危害物質である。そのためかび毒の世界的汚染および規制値の動向の情報を集めるとともに我が国独自の調査研究を行い、今後の施策策定の根拠とすることは、食の安全性確保において不可欠な課題である。厚労科研補助金による主要な食品汚染かび毒を対象とした調査研究は平成13年から行われており、我が国でのリスク評価に必要なデータを得ている。本研究課題では前述の研究事業で構築した研究組織および手法を用いて、JECFAでのリスク評価が終わりCODEX委員会で討論されているステリグマトシスティン(STC)と、JECFAでT-2トキシンと同等の毒性があるとされた4,15-デアセトキシスシルペノール(4,15-DAS)を対象に調査研究を行った。
研究方法
研究方法は、1.分析法の開発と妥当性評価、実態調査とばく露評価 2.今まで十分な毒性評価がなされていないかび毒を対象とした毒性評価 3.輸入食品中の汚染かび毒産生性真菌から汚染かび毒の有無を予測する遺伝子的測定法の確立の3つの課題を立て、1では実態調査に用いる分析法をLC-MS/MSおよびHPLCで確立し、かつ複数機関での妥当性試験を行った。この方法を用いて我が国で流通している食品の実態調査を通年で行い、ばく露評価のデーターを集積し、最終年はモンテカルロ確率手法でSTCのばく露評価を行った。2では妊娠ICRマウスを用いて、シトリオビリジン(初年度)、4,15-DAS(次年度)そしてSTC(最終年度)を対象に発達期ばく露実験を行い、発達神経毒性の無毒性量を推定した。3ではSTC産生菌種およびその近縁種またはDAS産生菌種およびその近縁種の情報からSTC産生菌種またはDAS産生菌種のみを検出できるプライマーの設計を行った。
結果と考察
STCについては、11食品群計583検体の調査を行い、116検体(20%)から定量限界値以上のSTCが検出された。4,15-DASについては、12食品群計461検体の調査を行った。ハト麦加工品、ソルガム及びコーンフラワーから検出され、陽性率はそれぞれ57%、33%及び8%であった。これらの調査結果からモンテカルロシミュレーション法により、日本人における小麦加工品からのSTCばく露量を推定した。90%タイル値は0.05~0.08、95%タイル値は0.08~0.12 ng/kg 体重/日であり、日本人のSTC平均摂取量からMOEを算出した結果、4,000,000~5,300,000であった。ばく露終了時における雄児動物の海馬歯状回顆粒細胞層下帯(SGZ)での神経新生への影響を解析した結果、CITはtype-1神経幹細胞の緩やかな減少とtype-2およびtype-3神経前駆細胞の緩やかな増加を認め、4,15-DASはtype-1神経幹細胞から未熟顆粒細胞、STCはtype-2b前駆細胞〜未熟顆粒細胞の減少を特徴とする神経新生障害が認められた。いずれにおいても、発達期ばく露による神経新生障害は可逆的であることが示唆された。児動物の神経新生障害に基づいた無毒性量は、CITで1.0 ppm(0.13–0.51 mg/kg体重/日)、4,15-DASで0.6 ppm(0.09–0.29 mg/kg体重/日)、STCで5.0 ppm(0.34–0.85 mg/kg体重/日)と判断された。1年目は、STC産生菌の有無を、培養を経ずに検出する手法を確立した。2年目は、1年目に確立した技術的基盤をもとに、1年目の手法を使って玄米から実証試験にも成功し、スクリーニング法としての有効性を示した。3年目は、Fusarium属菌のうちDAS産生菌種のみを検出することに成功した。
結論
3年間の実態調査により、STCおよび4,15-DASの我が国での汚染実態が明らかになり、STCに関してはばく露評価の結果も得られた。発達期におけるばく露による神経新生障害は見られたが、それらは可逆的であることが示唆された。また、これらの毒性試験から、試験に供したかび毒の無毒性量を明らかにした。検疫所などで今後日本で規制が決まる可能性のあるかび毒の産生菌に輸入食品が汚染しているかどうかを培養しないで検出する方法を開発した。これらの成果は、今後の施策策定の根拠となるだけでなく、国際的リスク機関への情報提供や今後のモニタリングに活用される。

公開日・更新日

公開日
2020-01-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-01-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201823004C

収支報告書

文献番号
201823004Z