文献情報
文献番号
201817024A
報告書区分
総括
研究課題名
こころの健康づくりを推進する地域連携のリモデリングとその効果に関する政策研究
課題番号
H28-精神-一般-003
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
金 吉晴(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
研究分担者(所属機関)
- 山之内 芳雄(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神保健計画研究部)
- 三島 和夫(国立大学法人秋田大学大学院医学系研究科)
- 神尾 陽子(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 児童・予防精神医学研究部)
- 井野 敬子(名古屋市立大学大学院医学研究科 精神・認知・行動医学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
18,400,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動
研究分担者 三島和夫
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター( 平成30年4月1日~30年8月31日)→ 国立大学法人秋田大学大学院医学系研究科(平成30年9月1日以降)
研究報告書(概要版)
研究目的
日常の地域保健活動において精神保健にかかる相談は、精神保健相談のみならずそれ以外の相談場面で、直接的のみならず潜在的にも、また自らのことだけでなく家族等の相談など様々な次元で遭遇するものの、系統的な相談者に対する支援ツールがなく、経験に基づいた対応をしていると想定される。そこで本研究では、保健師調査によってその実態とニーズを把握し、行政相談機関において①相談、初期対応、トリアージ②プライマリケア、専門精神医療、教育、警察等との地域連携支援③地域住民の啓発等のパブリックメンタルヘルス活動を促進するために、トラウマ相談対応ツールを開発する。金はトラウマ対応、山之内はうつ・不安、三島は睡眠障害、神尾は発達障害を対象とし、従来の研究成果を踏まえ、地域で実用可能なツールを開発し、その効果を実際の保健師研修会で検討し、HP上で公開する。またトラウマ相談対応の基礎研究として、重度のストレスのある患者と健常者との間で、基本属性、反応の比較を行う。
研究方法
金はトラウマ相談対応ツールとして解説、マニュアル、手元資料からなる資料を完成させ、その検証を行うために保健師研修会を開催し、フィードバックを得た。また精神保健に関する相談対応への支援ニーズについて全国の保健師調査を実施した。山之内は地域の保健活動に資する、相談対応で簡便に利用ができる「うつ・不安」のスクリーニングツールの開発と、その使用法につきガイドを作成した。なお作成に当たって、地域保健に従事する3名の保健師から需要や課題を聴取した。三島はガイドラインやマニュアルを作成し、これに基づいて保健師研修の資料を作成し、相談ツールの調整を行った。特にロールプレイを通じて研修効果を高めることを試みた。神尾は保健所、福祉、教育、医療との連携の実態と課題、そして精神保健が担う発達障害に対する対応について、今後、保健師の支援が最大の効果をあげるために、克服すべき地域の課題を俯瞰的に抽出した。井野は40名のPTSD女性患者と65名の健常対照女性を対象として、認知機能・認知バイアスと血液中の炎症マーカー濃度を検討した。
結果と考察
金はトラウマ相談対応に用いるツールを開発し、また他の分担研究者が開発したツールも合わせて、保健師研修会による検証を行い、結果を精神神経センターの行動医学研究部HPに公開した。全国の保健師を対象とした、相談業務の支援に関するアンケートを実施し、その成果をツールに取り入れた。山之内は スクリーニングツールの使用方策について、研究代表者主催の研修会で説明しフィードバックを得、フローチャートの改定と使用における留意点を追記した。不安・うつの地域保健活動の保健活動における対応需要が大きいことがわかった。三島は睡眠障害の心理社会的支援を中心とした相談対応マニュアル、相談者が在宅で実施可能な対処スキルや睡眠衛生指導を盛り込んだリーフレットを作成した。次に、地域精神医療に関わる保健師等、実際に相談対応にあたる者を対象として上記資材を活用した研修を行った。神尾は保健所、福祉、教育、医療との連携の実態と課題、そして精神保健が担う発達障害に対する対応やその課題について、責任ある立場で活動している経験豊かな保健師、心理士らよりヒヤリングを行い、今後、保健師の支援が最大の効果をあげるために、克服すべき地域の課題を俯瞰的に抽出した。井野は健常対照者に比べ、PTSD患者ではinterleukin-6濃度が有意に高く、広汎な認知機能障害が認められることを見出した。た。患者群において、interleukin-6濃度と認知機能得点は有意な負の相関が認められ、PTSDの認知機能障害の少なくとも一部は炎症に起因する可能性が示唆された。
研究班で作成されたツールは国立研究開発法人国立精神神経医療研究センター・精神保健研究所 行動医学研究部のHPにおいて公開済みである。今後はこのツールを用いた研修会を精神保健研究所において適宜開催し、普及、啓発に務める。相談者が抱える精神健康に対する生活指導や対処方法の指導、ならびに簡便なスクリーニングが行えるマニュアルの存在は、相談対応者自身の対応スキルの向上のみならず、相談者のセルフケア行動や受診行動の促進にもつながることが期待される。少なくとも一部のPTSD患者では顕著な認知の障害が存在し、認知機能障害は炎症系の亢進に起因する可能性が示唆された。
研究班で作成されたツールは国立研究開発法人国立精神神経医療研究センター・精神保健研究所 行動医学研究部のHPにおいて公開済みである。今後はこのツールを用いた研修会を精神保健研究所において適宜開催し、普及、啓発に務める。相談者が抱える精神健康に対する生活指導や対処方法の指導、ならびに簡便なスクリーニングが行えるマニュアルの存在は、相談対応者自身の対応スキルの向上のみならず、相談者のセルフケア行動や受診行動の促進にもつながることが期待される。少なくとも一部のPTSD患者では顕著な認知の障害が存在し、認知機能障害は炎症系の亢進に起因する可能性が示唆された。
結論
適切なツールの提供によって地域の精神保健相談業務の効率化と保健師の負担軽減が期待できる。今後は事例の検討を通じてさらなる改良、研修会をつうじての普及が望まれる。
公開日・更新日
公開日
2019-08-13
更新日
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