認知行動療法等の精神療法の科学的エビデンスに基づいた標準治療の開発と普及に関する研究

文献情報

文献番号
201516018A
報告書区分
総括
研究課題名
認知行動療法等の精神療法の科学的エビデンスに基づいた標準治療の開発と普及に関する研究
課題番号
H25-精神-一般-002
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
大野 裕(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
研究分担者(所属機関)
  • 古川壽亮(京都大学大学院医学研究科社会健康医学系認知行動医学健康増進行動学分野)
  • 堀越勝(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター )
  • 岡本泰昌(広島大学大学院医歯薬保健学研究院精神神経医科学)
  • 清水栄司(千葉大学大学院医学研究院神経情報統合生理学千葉大学医学部附属病院精神神経学)
  • 藤澤大介(慶應義塾大学医学部精神・神経学教室)
  • 中川敦夫(慶應義塾大学医学部クリニカルリサーチセンター)
  • 菊地俊暁(杏林大学医学部精神神経科学教室)
  • 佐渡充洋(慶應義塾大学医学部精神・神経学教室)
  • 中野有美(椙山女学園大学人間関係学部心理学科)
  • 中川彰子(千葉大学大学院医学研究科こどもの心の発達研究センター)
  • 工藤喬(大阪大学保健センター)
  • 井上雄一(公益財団法人神経研究所)
  • 田島美幸(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター )
  • 岡田佳詠(筑波大学医学医療系精神看護学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
17,770,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1.認知療法・認知行動療法(以下、CBT)の均てん化の課題と解決策、2.うつ病以外の精神疾患へのCBTの効果と研修の可能性、3.CBT実施者を医師以外の職種に広げる可能性、4.CBTの実施及び研修が精神科医療に及ぼす影響を検討した。
研究方法
1)うつ病のCBTの均てん化の課題と解決策:難治性うつ病患者80例の無作為化比較対象試験を行った。厚生労働省認知行動療法研修事業(以下、厚労省研修事業)の参加者の技能とCBTの副作用を評価した。CBTとピルプラセボを比較した臨床試験の系統的レビューと個人データ・メタアナリシス、及び脳画像を用いた研究も行った。
2)不安障害等へのCBTの効果と研修の可能性:社交不安症とパニック症、強迫性障害、トラウマ被害、不眠、統合失調症に対する個人CBTの効果研究を進めた。
3)うつ病のCBT実施者を医師以外の職種に広げる可能性:看護師に対するフォーカスグループインタビューや心理技術職員及び精神保健福祉士のCBTの施行状況、今後のニーズを調査した。
4)精神科医療に及ぼす影響: CBTを8回以上受けたうつ病患者20例を対象に処方内容、及び治療関係と多剤併用の関連について調査した。
結果と考察
1)うつ病のCBTの均てん化:中等度以上の重症度のうつ病患者では、CBTを併用した治療群の方が介入終了の16週時点でも(効果量Hedges g=0.84)、介入終了後の12か月経過時点でも(効果量Hedges g=0.64)有効であった。ベースラインでの回避性パーソナリティ障害の併存や活力の低下が治療抵抗性に関連していた。治療の質を評価する認知療法尺度Cognitive Therapy Rating Scale(CTRS)の評価から、第1例で目指す点数としてCTRS=30点が提案された。職種間の差は認めなかった。有害事象の発現は92評価中5評価(5.8%)でCBTと関係があったのは1評価(1.1%)であり、技法の熟達度との関係が示唆された。
CBTがピルプラセボに比較して弱い効果を示した。閾値下うつに対する行動活性化による内発的動機づけ課題施行時の鳥距溝の脳活動上昇、左線条体前部と楔前部の機能的結合の上昇がみられた。視覚的注意に関連した脳活動が改善し、内発的動機と目標志向行動に関連した脳領域の協働が認められた。自己モニタリング機能が向上し、背内側前頭前野の脳活動が上昇した。拡散テンソル画像の神経線維走行の乱れが改善した。
2)うつ病以外の精神疾患に対するCBTの効果と研修の可能性:
社交不安症21例では、16週間のCBTの効果が1年後まで維持されていた。パニック症の患者15症例ではCBTが症状改善効果と費用対効果で優れていた。強迫性障害に対する効果的なスーパービジョンの方法を開発した。PTSDに関しては持続エクスポージャー療法と認知処理療法の活用可能性が示された。
不眠症対するCBT(CBT-I)のメタ解析から,不眠重症度,入眠潜時,中途覚醒時間,睡眠効率,睡眠の質に中程度以上の効果が確認された。客観的睡眠指標では入眠潜時,中途覚醒時間,睡眠効率に中途程度の効果が確認された。主疾患に伴う付随症状に対しては中程度の効果、QOLへの効果は小さかった。
精神病障害ではPSYRATS-Jが有用なアウトカム尺度の一つになることが示された。
3)うつ病のCBT実施者を医師以外の職種に広げる可能性:
看護師のCBT実践のために組織レベルでのCBT実践体制の整備が必要なこと、心理技術職や精神保健福祉士への良質のCBT研修体制の確立の必要性が示された。
4)CBTの実施及び研修が精神科医療に及ぼす影響:
CBTの併用によって抗不安薬・睡眠薬・抗うつ薬の処方量が減少し、職種間に差はなかった。剤種数が多い群で治療関係の悪さが多剤併用に影響を与えていた。医師以外の職種によるCBTの提供は、医師によるCBTの実施に比べて経済的である可能性が確認された。
結論
CBTがうつ病及び他の精神疾患に対しても効果的であった。CBTの普及のためには、医師以外の職種を導入したチーム医療の導入が有用である。CBTの質を担保のためには、①マニュアルの整備、②ワークショップ及び録音・録画を用いた個人スーパービジョン等の研修の充実、③信頼できる評価者による認知療法尺度を用いた第三者評価による認定制度の導入が必要である。質の良いCBTの均てん化は精神科診療の質の向上と医療経済的貢献につながる。

公開日・更新日

公開日
2016-08-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

文献情報

文献番号
201516018B
報告書区分
総合
研究課題名
認知行動療法等の精神療法の科学的エビデンスに基づいた標準治療の開発と普及に関する研究
課題番号
H25-精神-一般-002
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
大野 裕(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
研究分担者(所属機関)
  • 古川壽亮(京都大学大学院医学研究科社会健康医学系認知行動医学健康増進行動学分野)
  • 堀越勝(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター )
  • 岡本泰昌(広島大学大学院医歯薬保健学研究院精神神経医科学)
  • 清水栄司(千葉大学大学院医学研究院神経情報統合生理学千葉大学医学部附属病院精神神経科)
  • 藤澤大介(慶應義塾大学医学部精神・神経科)
  • 中川敦夫(慶應義塾大学医学部クリニカルリサーチセンター)
  • 菊地俊暁(杏林大学医学部精神神経科学教室)
  • 佐渡充洋(慶應義塾大学医学部精神・神経科)
  • 中野有美(椙山女学園大学人間関係学部心理学科)
  • 中川彰子(千葉大学大学院医学研究科子どもの心の発達研究センター)
  • 工藤喬(大阪大学保健管理センター)
  • 井上雄一(公益財団法人神経研究所)
  • 田島美幸( 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
  • 岡田佳詠(筑波大学医学医療系精神看護学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現時点の認知療法・認知行動療法(以下CBT)の実施状況を調査し問題点を明らかにし、うつ病、社交不安障害、強迫性障害、PTSD、不眠症への良質のCBTの均てん化に向けた研究を行う
研究方法
1.実施状況について全国調査を実施し、現状と問題点について明らかにする、2.医師以外の職種のCBTの実施状況等の実態調査を行う、3.医師以外の職種がうつ病のCBTを実施した場合の治療効果、有害事象の可能性を検討する、4.うつ病以外の疾患に対するCBTのマニュアルを整備し、効果と有害事象等を検討する、5.CBTの均てん化の研修体制を構築し、効果と課題を検討する
結果と考察
1.認知療法・認知行動療法の実施状況
保健所・精神保健福祉センター:回答率66.5%(410/617施設)、CBT問い合わせ状況(増えている21.5%、代わらない73.9%、減っている2.4%)、紹介できる施設(充足している1.7%、どちらでもない24.4%、不足している72.4%)、充足していない理由(上位3項目:医療機関のリストの整備が不十分、スタッフがいない、医師に限定)
医療機関:回答率41.0%(1344/3275施設)、CBTの要望に(充分に応えている6.0%、どちらでもない16.8、充分でない75.9%)、充分でない理由(時間がとれない、スタッフがいない、医師に限定)
NPO法人コンボ(地域精神保健福祉機構)予備調査:回答者数224人、精神療法への希望(CBTを受けたいと思う37.1%、精神分析あるいは精神分析的精神療法を受けたいと思う17.9%、その他の精神療法を受けたいと思う22.8%、精神療法を受けたいと思わない22.3%)
【考察】CBTを希望する当事者は多いが、希望に応えられていない。
2.医師以外の職種への実態調査
日本精神科看護協会と日本作業療法士協会、日本精神科病院協会の協力を得て、CBTの実施状況と実施の障害を調べるアンケート調査を行った。
【考察】学習の機会が必要である。
3.医師以外の職種によるうつ病のCBTの治療効果、有害事象の可能性
医師群と医師以外の職種群の両群で改善効果が認められ、群間差は見られなかった(t=-0.56, d=37 p=0.58)。両群とも重篤な有害事象の発生はなかった。
【考察】医師と医師以外の職種で治療効果に差がなく、有害事象は認められなかった。
4.うつ病以外の疾患に対するマニュアルの整備と、治療効果及び有害事象に関する検討
強迫性障害では治療前後におけるY-BOCSの得点が24.75(5.23)点から16.62(6.28)点へと有意に減少した(p < .01,  g = 1.37, 95%CI: 0.59 &#8211; 2.16)。社交不安障害へのRCTでは、薬物療法と通院精神療法(通常治療)で十分な治療反応が得られなかった社交不安症の患者は、通常治療継続群の寛解率が0%(治療反応率で10%)に対し、個人認知行動療法追加群の寛解率は48%(治療反応率で86%)に向上した。重篤な有害事象は認められなかった。不眠症に対する認知行動療法はオープン試験で効果を確認し、インターネットを活用した介入の効果検証や睡眠薬減量に向けての取り組みが行われた。PTSDに対するRCT研究でもCBTの効果が認められた。統合失調症に関しては、マニュアルを整備し予備的な効果研究を開始した。
【考察】強迫性障害、社交不安障害、PTSD、及び不眠症へのCBTが有効であり、重篤な有害事象は認められなかった。
5.CBTの均てん化のための研修体制
うつ病に対するCBTの研修体制を全国レベルで整備し、効果および有害事象を検証した。研修システムはIT技術を活用し、別施設に所属するスーパーバイザーとスーパーバイジーがそれぞれ職場を離れることなく、面接の音声記録を用いたオンサイトスーパービジョン・システムを構築した。これは世界初で、他の研修でも活用可能な画期的なシステムである。実施上の問題は起きていない。
【考察】研修と評価に関する世界的にも画期的なシステムを構築できた。今後は対象数を増やし、認知行動療法の安全性評価と、注意すべき治療技法の同定、さらに関連する因子の検討を行うことが望ましい
結論
認知行動療法を希望する当事者は多いが、その希望に応えられていない。うつ病に加えて、他の疾患でも多職種による認知療法・認知行動療法の治療効果が期待でき、重篤な有害事象は起こっていない

公開日・更新日

公開日
2016-08-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201516018C

収支報告書

文献番号
201516018Z