木材粉じんばく露による労働者の健康影響と欧米の規制状況に関する調査研究

文献情報

文献番号
201504035A
報告書区分
総括
研究課題名
木材粉じんばく露による労働者の健康影響と欧米の規制状況に関する調査研究
課題番号
H27-特別-指定-031
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
堀江 正知(産業医科大学 産業生態科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 寶珠山 務(天草市立牛深市民病院)
  • 川波 祥子( 産業医科大学 産業生態科学研究所 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
2,555,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、木材粉塵による発がんに関する最近の科学的知見を整理し、欧米先進国における規制や曝露低減対策の実態を明らかにすることを目的に、次の6研究を実施した。
①文献調査:IARC Monograph100c以降の木材粉塵の健康影響に関する国内外の学術論文の調査、
②欧米実態聞取り調査:欧米における木材粉塵の労働衛生管理の状況を専門家から聞き取り調査、
③欧米資料和訳:欧米における木材粉塵の健康影響や曝露低減対策に関する公的資料の和訳と検討、
④カナダ現地調査:カナダにおける木材粉塵への曝露と規制の実態について現地で現状を調査、
⑤欧米規制調査:欧米諸国における木材粉塵への曝露低減対策を調査して相違点を整理、
⑥国内実態調査:国内の木材加工職場における木材粉塵の取扱いの現状を調査
研究方法
①2012年のIARCによるレビュー以降に公表された疫学研究論文をPubMedで検索し、英文の原著又はメタ分析を抽出し、その引用文献も追加して、内容を取りまとめた。
②Imperial College LondonのAlex Chih-Yu Chen 氏からEU 及び北米における木材粉塵に関する労働衛生管理の実態を聴取した。
③IARCによるMonographs 100cの木材粉塵に関する章、英国安全衛生庁(HSE)によるCOSHH essentials for woodworkers、米国North Carolina州労働省労働安全衛生部による木材粉塵等の取扱いに関する指針を翻訳した。
④British Columbia州WorkSafeBCとS&R Sawmills社の木材加工工場を視察した。
⑤カナダ、EU、米国の資料から木材粉塵への曝露低減対策の現状と課題を整理した。
⑥わが国の梱包資材加工職場を視察し、木材粉塵の発生、捕集、清掃、保護具等の実態を調査した。
結果と考察
①最近のメタ分析4編と原著25編を抽出した。木材粉塵は、鼻腔癌、副鼻腔癌、鼻咽頭癌の明らかなリスクであった。喉頭癌や肺癌では有意な関連性を示した研究もあるがばらつきが大きく一定の結論は得られていなかった。また、硬材(hard wood)は軟材(soft wood)よりリスクが強く、腺癌のほうが扁平上皮癌よりも強い相関を示した。
②欧米では行政が木材粉塵への曝露の規制値を設定し、技術指針の普及啓発活動を推進していた。吸引性粉塵(inhalable dust)又は総粉塵(total dust)を曝露評価の対象としており、アレルギー性の高い西洋赤杉(Western red cedar)は別の基準を設けていた。
③IARCは1981年に木工家具製造業の鼻腔腺がんをGroup 1に分類し、1995年に業種ではなく物質としての木材粉塵による鼻腔がんと副鼻腔腺がんをGroup 1に分類し直し、2012年に鼻咽頭がんを追加していた。また、ホルムアルデヒドやエンドドキシン等の交絡因子の影響を否定した。英国HSEは使用する工具ごとに曝露低減対策を示した資料を公表していた。
④現地では、西洋赤杉によるアレルギー対策が主体であり、発がんについては労災申請がほとんどないということであった。現場では、局所排気装置が有効に作動しており、通路の清掃も頻繁にされているものと思われ、木材粉塵による発塵は肉眼ではほとんど確認できなかった。
⑤各国又は州により曝露濃度を測定する木材粉塵の種類や基準に相違を認めた。
⑥わが国の産業環境測定は吸入性粉塵濃度が測定対象であって、産業現場では吸引性粉塵を測定していなかった。木材の研磨作業において発塵が多く、一部の職場では自主的に防塵保護具を着用し、掃除機による吸引による清掃作業を行っていた。
結論
木材粉塵への曝露による発がんリスクの上昇は、鼻腔癌、副鼻腔癌、鼻咽頭癌で確実と考えられ、特に、硬材による曝露であること及び腺癌であることが強い関連性を示していた。喉頭がん、肺がんについては有意な関連性を指摘する研究もあるが結果のばらつきが大きく一定の結論は得られないと考えた。
EU 及び北米においては、労働者の木材粉塵への曝露を低減するために、行政による規制値が設定され、技術指針の普及啓発活動が行われていた。
EU各国では曝露濃度に関する統計が整備されていた。
カナダの木材加工工場では、肉眼で確認できる発塵は少なく、発がんについては労災申請の事例がほとんどないということであった。
欧米諸国における木材粉塵への曝露の規制内容を調査した結果、各国又は州によって異なっていた。
わが国においては、吸入性粉塵による曝露の実態が不明であり、事業場では一部独自に曝露低減対策を実施しているものの、その効果は評価されていなかった。

公開日・更新日

公開日
2016-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-06-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201504035C

収支報告書

文献番号
201504035Z