文献情報
文献番号
201449007A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性肝炎・肝硬変・肝がんの遺伝子やバイオマーカーを含めた病態解明と、各病態で求められる診療指針の開発と普及のための研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
泉 並木(武蔵野赤十字病院 消化器科)
研究分担者(所属機関)
- 長谷部 千登美(旭川赤十字病院 消化器内科)
- 和田 秀一(長野赤十字病院 消化器科)
- 大崎 往夫(大阪赤十字病院 消化器内科)
- 上甲 康二(松山赤十字病院肝臓・胆のう・膵臓内科)
- 黒崎 雅之(武蔵野赤十字病院消化器科)
- 坂本 穣(国立大学法人山梨大学大学院総合研究部)
- 平松 直樹(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科 医学専攻)
- 荘 拓也(北海道大学大学院医学研究科・消化器内科分野)
- 朝比奈 靖浩(国立大学法人東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 肝臓病態制御学講座)
- 佐々木 成(明治薬科大学病態生理学教室)
- 折戸 悦朗(名古屋第二赤十字病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 肝炎等克服実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
37,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
慢性肝炎・肝硬変・肝がんは一連の疾患である。DAAが登場したが、最大の問題点は薬剤耐性変異である。B型肝炎においてはsequential療法についての指針が必要である。また、従来とは全く異なる作用機序の利尿薬が使用可能となったが、治療指針が必要である。肝がん治療では新たな肝動脈塞栓術の評価や他治療への移行などの指針が必要である。
研究方法
・B型肝炎においては肝発癌がおこり、これを防止するためHBs抗原量の低下を指標としたペグインターフェロンIFNのsequential療法を検討する。・C型肝炎に対してシメプレビルとペグインターフェロン・リバビリン治療を行った632例を集計し効果関連因子が解析を行う。・IFNフリーでのC型肝炎の治療では、治療前に存在するRAVを全国で測定しその頻度に地域差があるか検討した。・C型肝炎に対して SVR症例を集積し、肝癌を発症した症例の特徴を把握してSVR例に対する診療指針を作成し普及する。・腹水を有する肝硬変にトルバプタンを投与後の尿浸透圧と尿中アクアポリン2の排泄を調べて、トルバプタンに対する反応性との関連を検討し診療指針を作成する。・Intermediate Stage肝癌に対してTACEで治療した症例の予後について、全国赤十字病院の成績を集計して診療指針作成のための基礎データを作る。倫理面への配慮として臨床試験の目的・方法、治療の副作用、患者に関する個人情報の守秘義務、患者の権利保護等について十分な説明を行い、患者が熟考するに十分な時間と理解の後に書面で同意を得たうえで臨床試験を遂行した。
結果と考察
・ペグインターフェロンによるsequential療法を全国赤十字病院から52例が集計されHBs抗原が1/10に減少したのが29%、1/100は13%、HBs抗原(-)になったのが7%であった。・C型慢性肝炎に対して、シメプレビルとペグインターフェロン・リバビリン3剤併用療法を施行した632例の成績を集計した。治療終了4週後のHCVRNA陰性化SVR4は初回治療で84%、前治療再燃例で88%、前治療無効例でも55%であった。薬剤耐性変異RAVの全国分布)C型慢性肝炎症例の治療前の薬剤耐性変異の頻度を直接塩基解列法で解析した。NS5A阻害薬耐性であるY93H変異は19%の症例で検出、L31M変異は2.4%に検出された。・C型肝炎に対してSVRが得られている1050例をから集積しうち92例で肝発がんがみられた。5年発がん率が4%、10年発がん率が11%であった。多変量解析で分析した発癌リスク・ハザード比は男性で5倍、年齢58歳以上で7倍、肝線維化F3以上で3倍であった。・腹水を有する肝硬変患者にトルバプタンによる治療を行ない、投与後の尿浸透圧の低下と尿中アクアポリン2 AQP2排泄の低下が治療効果と関連していた。これをもとに利尿薬に抵抗性の腹水の診療指針を作成した。・BCLA分類のステージBの細分化とTACEの効果の関連をしらべた。Up-to-7基準内の症例ではTACEによる生命予後が良く、TACEの恩恵を受けやすいと考えられた。B型肝炎に対するペグインターフェロンによるsequential療法を行った症例を解析した結果、HBs抗原量の低下が期待できる症例はHBe抗原陰性、核酸アナログ治療5年以上、HBs抗原1000IU/L未満であった。全国赤十字病院でシメプレビル3剤併用療法を行った症例632例を集積したところ、肝線維化進展例やIl28Bがminor alleleの例で再燃が多かった。SVRを獲得した後に肝発癌をきたす症例が多い。全国赤十字病院でSVR例とSVR後の肝発癌例を集計してリスク因子を分析した。発癌リスク別に画像診断の頻度を高めて肝癌の早期発見の対策を講じていくことが急務であり、連携パスを作成して普及していくことが今後の課題である。有腹水肝硬変症例にトルバプタンを投与し、投与4~6時間後の尿浸透圧と低下と尿中アクアポリン2排泄の低下が効果の指標になっていた。トルバプタンを投与する際の診療指針を作成した。BCLCステージBのIntermediateステージ肝細胞癌に対するTACEによる治療後の生命予後について解析した。Up to7基準内の症例はTACE後の予後がよいことが判明した。
結論
B型肝炎に対するsequential療法ではHBs抗原が低下する例がみられた。C型肝炎に対してシメプレビル併用療法の効果は高かった。治療前のNS5A阻害薬に対する耐性変異は高頻度で認められた。SVR後に肝発癌をきたす症例の特徴を解析し、リスクスコアを作成した。難治性腹水に対するトルバプタンの効果の指標として、尿浸透圧の低下と尿アクアポリン2排泄が有用であった。
公開日・更新日
公開日
2017-01-20
更新日
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