ニュートリゲノミクス解析に基づく機能性食用油の安全性に関する研究

文献情報

文献番号
201426004A
報告書区分
総括
研究課題名
ニュートリゲノミクス解析に基づく機能性食用油の安全性に関する研究
課題番号
H24-食品-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
内藤 由紀子(独立行政法人国立循環器病研究センター 病態ゲノム医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 岩井 直温(独立行政法人国立循環器病研究センター 病態ゲノム医学部)
  • 大原 直樹(金城学院大学薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
2,380,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、特定保健用食品(トクホ)の植物油3品目の有効性、安全性について解析評価するものである。生活習慣病モデル動物およびその起源動物(正常動物)に各植物油を摂取させ、生活習慣病患者あるいは予備軍のヒトの食生活指導、健常者への予防指導のための情報を得ることを目的とした。本研究の3年目(最終年度)の今年度(平成26年度)は、アポリポタンパクE欠損(ApoE KO)マウスおよび由来系統のC57BL/6Jマウスに、各トクホ植物油を投与し、解析を行った。またこれまでの研究において、トクホ植物油の原料であるカノーラ油の摂取により、自然発症高血圧ラット(SHR)の肝のグルコース-6リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)活性が上昇したことから、この酵素に対するトクホ植物油摂取の影響についても調べた。
研究方法
トクホの植物油であるHR、HCおよびKSを用いた。HRは中鎖脂肪酸強化、HCおよびKSは植物ステロール強化植物油である。これらを、AIN93G精製粉末飼料の脂肪源である大豆油(7w/w%含有)と置き換えた配合の飼料を調製した。AIN93G無脂肪精製粉末飼料に、含量7w/w%となるようHR、HCまたはKSを添加し、それぞれHR、HCまたはKS飼料とした。また対照(Cont)飼料としてAIN93G精製飼料を用いた。雄性ApoE KOマウスおよびC57BL/6Jマウスを用い、各系統とも体重をもとに4群に分けた。それぞれCont群、HR群、HC群およびKS群とし、各飼料を20週間自由摂取させた。摂取期間中は体重および摂餌量を測定した。摂取期間終了後は、剖検、血液検査および血液生化学検査を行った。また、C57BL/6Jマウスに関しては、肝臓からRNAを抽出・精製してマイクロアレイ解析により遺伝子発現を調べ、この結果をもとにパスウェイ解析を行った。各動物から抽出・精製したRNAは、群毎にプールして各群のサンプルとし、遺伝子発現を網羅的に調べ、パスウェイ解析を行った。G6PD活性に及ぼす影響を調べる実験では、C57BL/6Jマウスの肝ホモジネートを用いて活性測定した。併せて、以前の研究において保存したカノーラ油摂取脳卒中易発症高血圧自然発症ラット(SHRSP、8週間摂取)およびミニブタ(18か月摂取)の肝臓サンプルでも活性測定した。
結果と考察
ApoE KOマウスおよびC57BL/6Jマウスにトクホの植物油3種(HR、HCおよびKS)を7 w/w%含有する飼料を20週間摂取させた結果、顕著な有害作用は無かった。C57BL/6Jマウス肝サンプルを用いたパスウェイ解析において、HR 群では発現増加するパスウェイは無かった一方、アラキドン酸代謝および2型糖尿病、Jak-STATシグナル等の低下が認められたことから、HR 摂取は、生活習慣病と関連する可能性が示唆された。また、植物ステロール強化食用油であるHCおよびKS群では、不飽和脂肪酸合成、PPARシグナル、ステロイド合成等のパスウェイの遺伝子高発現のほか、細胞周期に関与する遺伝子発現が増加していた。これらの植物油の有効作用と関連すると予測されたパスウェイ以外にも、遺伝子発現に影響が認められることが明らかとなった。また、C57BL/6Jマウスの肝G6PD活性には、群間差が認められなかった。原料のカノーラ油摂取動物の肝G6PD活性は、ミニブタでは変化がなかった一方、SHRSPでは活性の上昇が認められた。
結論
ApoE KOマウスおよびC57BL/6Jマウスにトクホの植物油3種(HR、HCおよびKS)を7 w/w%含有する飼料を20週間摂取させた場合、顕著な有害作用が認められないことが明らかとなった。トクホ植物油摂取はG6PD活性に影響を与えなかったが、カノーラ油摂取による活性上昇には種差があることが分かった。また、正常マウスの肝臓組織での網羅的遺伝子発現解析において、中鎖脂肪酸が強化されているHR 摂取によって糖尿病、Jak-STAT パスウエイの遺伝子発現低下し、植物ステロール強化植物油であるHC およびKS 摂取は、不飽和脂肪酸合成、PPAR シグナル、ステロイド合成等のパスウェイの遺伝子高発現のほか、細胞周期に影響を及ぼす可能性が示唆された。さらに正確に調べるためには、個別に遺伝子発現を確認するとともに、背景メカニズムの解明も必要となる。安全性確保のための研究にニュートリゲノミクス解析を取り入れることの有効性に関しては、本研究で、被験物質の性質や期待されている効果から予測された遺伝子発現以外にも、発現変動が多数認められたことから、網羅的に遺伝子発現を解析することは、有益な手法となりうると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201426004B
報告書区分
総合
研究課題名
ニュートリゲノミクス解析に基づく機能性食用油の安全性に関する研究
課題番号
H24-食品-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
内藤 由紀子(独立行政法人国立循環器病研究センター 病態ゲノム医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 岩井 直温(独立行政法人国立循環器病研究センター 病態ゲノム医学部)
  • 大原 直樹(金城学院大学薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、特定保健用食品(トクホ)の植物油3品目(HR、HCおよびKS)の有効性、安全性について解析評価するものである。生活習慣病モデル動物およびその起源動物(正常動物)にこれらを摂取させ、生活習慣病患者あるいは予備軍のヒトの食生活指導、健常者への予防指導のための情報を得ることを目的とした。平成24、25および26年度の対象疾患は、それぞれ高血圧、肥満・糖尿病および高脂血症・動脈硬化とし、平成24年度は脳卒中易発症高血圧自然発症モデルラット(SHRSP)および正常血圧(WKY)ラット、平成25年度は肥満・糖尿病(ob/ob)マウスおよびC57BL/6Jマウス、平成26年度はApoE欠損(KO)マウスおよびC57BL/6Jマウスを用いた。
研究方法
HRは中鎖脂肪酸強化、HCおよびKSは植物ステロール強化植物油である。AIN93G無脂肪精製粉末飼料に、7 w/w%HR、HCまたはKSを添加した特殊飼料を調製した。また対照(Cont)飼料としてAIN93G精製飼料を用いた。
上記系統の雄性動物を用いた。それぞれCont群、HR群、HK群およびKS群を設定し、混餌飼料を自由摂取させた(平成24および25年度は4週間、平成26年度は20週間)。一般状態の観察、体重、摂餌量、剖検、器官重量測定、血液生化学検査を共通して行ったほか、追加評価項目として、適宜、血圧測定、尿検査、糖負荷試験、ヘモグロビン(Hb)A1c測定、血液検査を実施した。また、SHRSP、WKYラット、ob/obマウスおよびC57BL/6Jマウス(20週間摂取)の肝臓RNAを抽出・精製し、網羅的遺伝子発現解析を行い、これをもとにパスウェイ解析を行った。
トクホ植物油摂取SHRSP精巣組織からステロイド類を抽出し、プレグネノロン、アンドロステンジオンおよびテストステロン濃度を測定した。この動物とは別に、10 w/w%ダイズ油またはカノーラ油を8週間摂取させたSHRSPの精巣組織から、ミトコンドリア分画およびRNAを抽出・精製し、StAR、CYP11AおよびCYP17たんぱくおよび遺伝子発現を調べた。また、ApoE KOおよびC57BL/6Jマウスの肝グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)活性を測定した。G6PD活性については、SHRSPおよびミニブタにおけるカノーラ油摂取の影響も調べた。
結果と考察
本研究条件で評価した結果、いずれの植物油にも顕著な有害作用は認められないことが明らかとなった。一方、拡張期血圧の上昇(HC、KS摂取SHRSP)、心重量増加(KS摂取SHRSP)、HR摂取による肝重量増加(HR摂取ob/obおよびApoE KOマウス)等が認められたことから、さらに背景メカニズムを調べる必要があると考える。またトクホに表示される有効性は、正常動物では認められないことが明らかとなった一方で、疾患モデル動物ではob/obマウスにおいてHR摂取によって白色脂肪重量が減少し、SHRSPにおいては各植物油の摂取によりHDLコレステロールが増加した。その他に、ob/obおよびC57BL/6Jマウスで、各植物油の血糖値に対する有効性が認められた。網羅的に遺伝子発現解析では、トクホ植物油の性質から予測される以外のパスウェイへの影響が認められた。
HC摂取SHRSPの精巣プレグネノロン濃度が有意に上昇したが、他のホルモンには影響が認められなかった。カノーラ油摂取SHRSPの精巣中のStAR、CYP11AおよびCYP17の発現は、対照としたダイズ油群と比較して有意に抑制され、CYP11Aはタンパク発現も抑制された。ApoE KOおよびC57BLマウスの肝G6PD活性には、トクホ植物油摂取は影響を与えなかった。カノーラ油摂取は、高血圧自然発症ラットおよび正常血圧WKYラットの肝G6PD活性を顕著に増大させるが、これを原料としたトクホ植物油の摂取による影響はマウスで認められなかったことや、カノーラ油を18か月間摂取させたミニブタでも同様の結果であったことから、カノーラ油摂取によるG6PD活性上昇には種差があることが示唆された。
結論
トクホ植物油3種を複数の生活習慣病モデル動物および正常動物に4または20週間摂取させると、疾患の有無に関わらず顕著な有害作用な無いことが明らかとなった。しかし、疾患動物においては、血圧、心臓・肝臓重量、ステロイド代謝への影響や、トクホ植物油の性質から予測される以外のパスウェイでの遺伝子発現変動が認められるものもあった。白色脂肪重量や血糖値に対する有効性も含めて、さらに詳細な解析が必要とされる。また、上記のように網羅的遺伝子発現解析が、安全性研究においても有益な解析手法であることも確認できた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201426004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
特定保健用食品の食用植物油3品目の安全性、有効性について、生活習慣病モデル動物および正常動物を用いて解析評価し、いずれも顕著な有害性がないことを明らかにした。対象商品は、生活習慣病の予備軍といわれるヒトの関心が高いと予測されたことから、生活習慣病モデル動物3系統における摂取の影響の有無を確認したことは意義深い。また、製造メーカーではなく、第三者機関が異なる商品を同じ条件下で解析評価したことは、データの信頼性の面でも意義がある。
臨床的観点からの成果
実験動物を用いた基礎研究であり、臨床的観点からの成果はない。しかし、今後の臨床研究につながる基礎データとなりうる。
ガイドライン等の開発
食品の機能性研究で用いることが多い手法であるニュートリゲノミクス解析が、安全性評価研究にも有効であることを明らかにし、この成果をガイドライン等の開発に貢献しうる基礎資料を提供した。
その他行政的観点からの成果
生活習慣病発症予防のための食生活を考える上で参考となる、特定保健用食品の食用植物油の安全性、有効性の情報を国民に提供し、将来的には医療費の適正化につながる成果となった。また、ニュートリゲノミクス解析の食品の安全性確保のための研究への利用の有用性を提案し、より精度の高い安全性研究方法の開発に貢献しうる基礎資料を提供した。
その他のインパクト
日本薬学会、日本脂質栄養学会、日本薬理学会等において、広く成果を公表した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
20件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ji X, Naito Y, Weng H, et al.
P2X7 deficiency attenuates hypertension and renal injury in deoxycorticosterone acetate-salt hypertension
Am J Physiol Renal Physiol , 303 (8) , F1207-f1215  (2012)
doi: 10.1152/ajprenal.00051
原著論文2
Ji X, Naito Y, weng H, et al
Renoprotective mechanism of pirfenidone in hypertension-induced renal injury: through anti-fibrotic and anti-oxidative stress pathways
Biomed Res , 34 (6) , 309-319  (2013)
原著論文3
Naito Y, Ji X, Tachibana S, et al.
Effects of arachidonic acid intake on inflammatory reaction in dextran sodium sulphate-induced colitis in rats
Br J Nutr , 114 (5) , 734-745  (2015)
doi:10.1017/S000711451500224X

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
2020-06-23

収支報告書

文献番号
201426004Z