高齢者の健診のあり方に関する科学的エビデンスを構築するための研究

文献情報

文献番号
201412020A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の健診のあり方に関する科学的エビデンスを構築するための研究
課題番号
H24-循環器等(生習)-一般-008
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
下方 浩史(名古屋学芸大学 大学院栄養科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 安藤 富士子(愛知淑徳大学 健康医療科学部)
  • 葛谷 雅文(名古屋大学 大学院医学系研究科総合医学専攻)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
8,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では高齢者の割合が急増する中で、高齢者の健康増進、疾病の予防、早期発見・早期治療を目指すことが求められている。しかし現在行われている健診は中年層をターゲットにして、がんや生活習慣病に対する検査項目が設定され、判定基準が決められてきた。本研究ではふたつの長期にわたって追跡されている既存の大規模コホートを用いて、高齢者の健診のあり方を示すエビデンスを構築することを目的とした。
研究方法
本研究では(1)膨大な一般健診データを有するコホート、(2)高齢者に特有の疾患や病態に関しての詳細な検査データを有する一般住民コホートの、ふたつの長期にわたって追跡されている既存の大規模コホートを用いて解析を行った。
結果と考察
1. 大規模人間ドック健診データ解析-疾患別有病率の時代変化
 データベースの構築に関しては、前年度までのデータに加えて2013年の検査結果23,276人のデータを整理確認した。1989年から2013年までの24年間の延べ596,681件の受診結果を用いて、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、肥満、痩せなどについて男女別年齢別に有病率の時代変化を検討した。高血圧症の有病率は中高年の男女ともに2000年~2004年頃に少し高くなっていたが、1990年代を通して、また2004年以降は有病率が低下していた。糖尿病についてはHbA1cの測定が2000年以降にしか行われていないため13年間の有病率の変動をみた。男性では50代以降の年代で有病率の上昇がみられたが、女性ではほとんど時代の影響はみられなかった。脂質異常症も年齢別の有病率には時代の影響は男女ともにほとんどなかった。しかしこれらの代謝性疾患は年齢が高くなるほど有病率は高くなり、人口の高齢化とともに高齢者の患者数は増加していく。70歳以上の国内患者数は、高血圧症では24年間で1.3倍、脂質異常症では2.7倍、糖尿病はこの13年間で2.1倍となっていると推定された。BMIが25以上の肥満の有病率は男性の30代から60代で高くなってきていたが、女性の40代以上では低下していた。一方BMIが18.5未満の痩せは、男性ではほぼすべての年代で低下していたが、女性は逆にすべての年代で高くなっていた)。男性の肥満と女性の痩せは若年層や中年層だけでなく、高齢者でも時代の経過とともに多くなっており、その対応が望まれる。
2. 地域住民コホート研究-老年症候群・高齢者慢性疾患に特化した健診項目の選定
 無作為抽出された地域住民約2300人の1997年から2012年までの縦断データ、延べ10,987件を用い、高齢者に特有の老年症候群、高齢者に多く認められる慢性疾患を、(1)サルコペニア、転倒、尿失禁などの身体機能障害、(2)認知症軽度認知機能障害(MCI)、抑うつなどの心理機能障害、(3)糖尿病、脂質異常症などの代謝性疾患の3つの分野に分け、これらと関連する検査項目を(1)従来の後期高齢者医療健康診査検査項目、(2)昨年度までの成果として老年症候群・高齢者の慢性疾患との関連が認められた検査項目、(3)文献的に老年症候群との関連が報告されている検査項目から抽出した。
 これらの検査項目について15年間の縦断的データを用いて一般化推定方程式(GEE)により個人内変動を調整し、身体機能障害、心理機能障害、代謝性疾患の各分野の疾患・病態のリスクをオッズ比で求めた。オッズ比のp値が0.05未満であったものを、疾患・病態の予測・診断に有用な検査項目として選定した。65歳以上の男女では身体機能障害の予測・診断に数多くの項目が関与しており、特に栄養・体力の項目が重要であった。心理・精神障害の予測・診断については、栄養・体力に関連する検査項目に加えて視力・聴力の感覚機能が予防要因として重要であった。また、代謝性疾患の予測・診断には従来の検査項目に加えて予防要因としての体力が重要であることがわかった。
 身長、体重、血圧、肝機能検査、血清脂質検査、空腹時血糖、HbA1c、尿検査などは代謝性疾患の評価だけでなく、痩せや転倒などと関連しており、BMI、血圧、脂質は中年の健診基準と異なり、むしろ「低値」を異常値としてピックアップすることが必要である。また、高齢者特有の疾患・病態の診断・予測には体格・栄養・運動・感覚器に関する項目が必要で、体脂肪率、腹囲、アルブミン、ヘモグロビン、クレアチニン、握力、歩行速度、視力、聴力などの項目が有用と考えられた。
結論
疾患重視の今までの健診とは異なり、新たな検査項目を含んだ「高齢者健診」では、抑うつや認知機能障害などの「こころの健康」や骨折、転倒、難聴、痩せ、ADL低下など高齢者の健康維持やQOLに深く関わる問題を潜在的に有するハイリスク者の早期発見が可能となると期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
-

文献情報

文献番号
201412020B
報告書区分
総合
研究課題名
高齢者の健診のあり方に関する科学的エビデンスを構築するための研究
課題番号
H24-循環器等(生習)-一般-008
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
下方 浩史(名古屋学芸大学 大学院栄養科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 安藤 富士子(愛知淑徳大学 健康医療科学部)
  • 葛谷 雅文(名古屋大学 大学院医学系研究科総合医学専攻)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では高齢者の割合が急増する中で、高齢者の健康増進、疾病の予防、早期発見・早期治療を目指すことが求められている。しかし現在行われている健診は中年層をターゲットにして生活習慣病に対する検査項目が設定され、判定基準が決められてきた。本研究では2つの長期にわたって追跡されている既存の大規模コホートを用いて、高齢者の健診のあり方を示すエビデンスを構築することを目的とした。
研究方法
本研究では膨大な一般健診データを有するコホート、高齢者に特有の疾患や病態に関しての詳細な検査データを有する一般住民コホートの、2つの長期にわたって追跡されている既存の大規模コホートを用いて解析を行った。
結果と考察
1. 大規模人間ドック健診データ解析
1) 高齢者に有病率が高い疾患の抽出
 生活習慣病を中心とした既存の健診対象疾患の中から高齢者健診でターゲットにすべき疾患を選定するため、65歳以上で有病率が高い疾患について洗い出しを行った。その結果、高血圧症が65歳以上の38.8%、脂質異常症26.6%、糖尿病11.7%、痛風8.9%、不整脈8.5%、緑内障7.9%、白内障16.3%、前立腺疾患13.1%(男性のみ)であった。高血圧症、脂質異常症、糖尿病、痛風などの生活習慣病は65歳未満でも罹患者は多かったが、高齢者の方が有病率は高かった。
2) 疾患の有病率時代変化の検討
 この24年間で高血圧症の有病率は低下していた。糖尿病、脂質異常症の年齢別の有病率には時代の影響はほとんどなかった。しかしこれらの代謝性疾患は年齢が高くなるほど有病率は高くなり、人口の高齢化とともに高齢者の患者数は増加していた。BMIが25以上の肥満の有病率は男性の30代から60代で高くなってきていたが、女性の40代以上では低下していた。一方BMIが18.5未満の痩せは、男性ではほぼすべての年代で低下していたが、女性では逆にすべての年代で高くなっていた
2. 地域住民コホート研究
1) 65歳以上の患者数推計、将来予測
 高齢者に特徴的でありながら健診でのエビデンスの乏しい病態について、代表性のあるデータである特色を生かし、全国での65歳以上患者数推計や将来予測を行った。その結果、軽度認知機能障害は1,280万人、鬱518万人、骨粗鬆症962万人、低栄養212万人、ADL低下896万人であった。これら高齢者に高頻度にみられる病態、疾患は将来推計でも今後急速に患者数が増加していくことが確認された。
2) 高齢者健診の項目の抽出
 高齢者の身体機能障害の予測・診断に数多くの項目が関与しており、特に栄養・体力の項目が重要であった。心理・精神障害の予測・診断については、栄養・体力に関連する検査項目に加えて視力・聴力の感覚機能が予防要因として重要であった。また、代謝性疾患の予測・診断には従来の検査項目に加えて予防要因としての体力が重要であることがわかった。 栄養・体力の項目は代謝性疾患の評価だけでなく痩せや転倒などと関連しており、BMI、血圧、脂質は中年の健診基準と異なり、むしろ「低値」を異常値としてピックアップすることが必要であった。また、高齢者特有の疾患・病態の診断・予測には体格・栄養・運動・感覚器に関する項目が必要であると考えられた。
3. 「高齢者健診のあり方」への提言
 本研究からの成果から、(1)健診の目標を「要介護とならないための疾患・病態の早期発見」とすること、(2)高齢者に多い生活習慣病と高齢者特有の疾患の両方を健診の目的疾患とすること、(3)介護予防健診と合体して基本チェックリストなどを利用し効率的に検査を実施すること、(4)身長、体重、血圧、肝機能検査、脂質検査、糖尿病検査、尿検査など従来の後期高齢者医療健康診査の項目は高齢者に多い疾患の予測・診断に重要であること、(5)これらに加えて体脂肪率、腹囲、アルブミン、ヘモグロビン、握力、歩行テスト(歩行速度)、視力、聴力など体格・栄養・運動・感覚器に関する項目が高齢者の心身の評価に必要であること、(6)認知症スクリーニング検査(MMSE)、抑うつスクリーニング検査(CES-DまたはGDS)を必要に応じて実施することを「高齢者健診のあり方」への提言とした。
結論
高齢者に多い疾患に加えて高齢者に特有の老年症候群のスクリーニングや予測を可能とする具体的な健診項目について明らかにした。疾患重視の今までの健診とは異なり、新たな検査項目を含んだ「高齢者健診」では、抑うつや認知機能障害などの「こころの健康」や骨折、転倒、難聴、痩せ、ADL低下など高齢者の健康維持やQOLに深く関わる問題を潜在的に有するハイリスク者の早期発見が可能となると期待される。本研究の成果から「高齢者健診のあり方」への提言を作成した。

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201412020C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究により高齢者にとって重要な疾患や病態が選定され、認知機能障害、抑うつ、低栄養、脆弱などは少なくとも2030年から2040年頃までは患者数が急増していくことが明らかとなった。高齢者特有の疾患・病態の診断・予測には体格・栄養・運動・感覚器に関する項目が重要であった。栄養・体力の項目は代謝性疾患の評価だけでなく痩せや転倒などと関連しており、BMI、血圧、脂質は中年の健診基準と異なり、むしろ「低値」を異常値としてピックアップすることが必要であった。
臨床的観点からの成果
高齢者に多い疾患に加えて高齢者に特有の老年症候群のスクリーニングや予測を可能とする具体的な健診項目について明らかにした。疾患重視の今までの健診とは異なり、新たな検査項目を含んだ「高齢者健診」では、抑うつや認知機能障害などの「こころの健康」や骨折、転倒、難聴、痩せ、ADL低下など高齢者の健康維持やQOLに深く関わる問題を潜在的に有するハイリスク者の早期発見が可能となると期待される。
ガイドライン等の開発
本研究の成果から「高齢者健診のあり方」の提言を作成した。
その他行政的観点からの成果
高齢者健診に必要な具体的な健診項目を明らかにした。
その他のインパクト
高齢者の健康維持に関して、NHKの「クローズアップ現代」に3回にわたって放送されたほか、新聞・テレビなどマスコミには41件取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
19件
原著論文(英文等)
32件
その他論文(和文)
27件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
114件
学会発表(国際学会等)
24件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
53件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
2018-06-15

収支報告書

文献番号
201412020Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,600,000円
(2)補助金確定額
8,600,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,497,037円
人件費・謝金 1,673,785円
旅費 183,740円
その他 3,245,438円
間接経費 0円
合計 8,600,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-10-16
更新日
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