新しい抗マラリア戦略を目指した糖鎖関連薬の開発

文献情報

文献番号
201403014A
報告書区分
総括
研究課題名
新しい抗マラリア戦略を目指した糖鎖関連薬の開発
課題番号
H24-地球規模-若手-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 健太郎(帯広畜産大学 原虫病研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 【補助金】 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
2,485,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
マラリアはPlasmodium属原虫の感染によって引き起こされる感染症で、ハマダラカ属の蚊の吸血によってヒトに感染する。マラリアの感染者は、亜熱帯や熱帯地域、特にアフリカ、南アメリカ、東南アジア等の途上国を中心として年間約3億人,死亡者は年間150-300万人にのぼると報告され、その対策が急務とされている。昨今、既存の抗マラリア剤耐性株の出現のため、多くの新しい抗マラリア剤が開発され、また、マラリアワクチン開発の研究が世界規模で試みられているが未開発であり、マラリア撲滅には至っていない。この大きな原因の1つに、先進国の製薬企業では市場性が見込めないことを理由に抗マラリア薬、ワクチンの開発を進めないことが挙げられる。
研究代表者らは抗マラリア薬開発を目的として、まずウイルスベクターを用いてマラリア原虫の赤血球感染レセプターの同定系の開発に独自に成功した。さらにこの感染レセプター同定系を用いてヘパラン硫酸等の糖鎖レセプターの同定に成功し、糖鎖がマラリア原虫の赤血球侵入(感染)を著しく阻害することを見出した。本研究の目的は、これまでの研究代表者らの研究において抗マラリア作用があることを見出した糖鎖について、新しい抗マラリア戦略を目指した糖鎖製剤とマラリアワクチンの実用化に向けた開発研究を行うことにある。以上の途上国の現状とマラリア薬開発の遅滞を鑑みると当該研究の必要性が極めて大きい。
研究方法
平成26年度はマウスマラリア原虫を用いた動物感染実験により、これまでのin vitroでの熱帯熱マラリアの感染阻止の解析結果から感染阻止に効果のあった糖鎖構造体の感染阻止能について生体内で解析を行った。以下に平成26年度に実施した研究について記す。
(i) これまでの解析によって、硫酸化多糖類であるカラギーナンや硫酸化ジェランがin vitroで熱帯熱マラリアの赤血球感染阻止に効果があることがわかった。このため、原料であるジェランガムに硫酸化の修飾を行って独自に作製した硫酸化ジェランについて、その構成元素について元素分析を行った。
(ii) 硫酸化ジェランの薬剤としての使用について検討するため、細胞毒性試験を行った。抗凝固剤として使用される硫酸化多糖類の1つであるヘパリン等では、薬剤としての使用を考える場合当然ながら抗凝固活性の問題が生じる。そこで、硫酸化ジェランについて抗凝固活性の測定を行った。
(iii) マウスマラリア原虫を用いたマウスへの感染実験により、λ-カラギーナンの感染阻止効果について解析を行った。
結果と考察
[結果]
(i) 硫酸化ジェランについては、原料であるジェランガムに硫酸化の修飾を行って作製し、元素分析によって、硫酸基に付加を確認した。
(ii) 硫酸化ジェランについて細胞毒性試験を行った結果、細胞毒性は見られなかった。次に抗凝固活性の測定を行った結果、抗凝固活性については低い値を示した。
(iii) マウスマラリア原虫を用いたマウスへの感染実験により、λ-カラギーナン投与は逆に炎症を助長し、硫酸化ジェランについては特段の感染阻止効果はマウスでは見られなかった。

[考察]
硫酸化多糖類は高分子多糖であるため、実際的に薬剤として製造するためには、合成が難しく、かつ均質性の保証が懸念される。研究代表者らはこれらの問題を解消するため、様々な硫酸化多糖類の派生体を用いて、マラリア原虫の増殖阻止効果を解析することで、増殖を抑制するコアとなる構造体の同定を試みていた。これにより、抗マラリア薬として効果のある構造体の低分子化を図ることで、均質化の保証も担保しようと考えている。
結論
本研究は硫酸化ジェランの抗マラリア活性についての初めての報告である。硫酸化ジェランは新規の材料から合成された熱帯熱マラリア原虫の増殖阻害薬の候補物質と言える。また、ジェランガムにはドラッグデリバリーシステムの担体としての使用の報告もあることから、この薬剤機序の解明を行うことで、新たなマラリア治療薬の開発につながることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

文献情報

文献番号
201403014B
報告書区分
総合
研究課題名
新しい抗マラリア戦略を目指した糖鎖関連薬の開発
課題番号
H24-地球規模-若手-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 健太郎(帯広畜産大学 原虫病研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 【補助金】 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
マラリアはPlasmodium属原虫の感染によって引き起こされる感染症で、ハマダラカ属の蚊の吸血によってヒトに感染する。マラリアの感染者は、亜熱帯や熱帯地域、特にアフリカ、南アメリカ、東南アジア等の途上国を中心として年間約3億人,死亡者は年間150-300万人にのぼると報告され、その対策が急務とされている。昨今、既存の抗マラリア剤耐性株の出現のため、多くの新しい抗マラリア剤が開発され、また、マラリアワクチン開発の研究が世界規模で試みられているが未開発であり、マラリア撲滅には至っていない。この大きな原因の1つに、先進国の製薬企業では市場性が見込めないことを理由に抗マラリア薬、ワクチンの開発を進めないことが挙げられる。
研究代表者らは抗マラリア薬開発を目的として、まずウイルスベクターを用いてマラリア原虫の赤血球感染レセプターの同定系の開発に独自に成功した。さらにこの感染レセプター同定系を用いてヘパラン硫酸等の糖鎖レセプターの同定に成功し、糖鎖がマラリア原虫の赤血球侵入(感染)を著しく阻害することを見出した。本研究の目的は、これまでの研究代表者らの研究において抗マラリア作用があることを見出した糖鎖について、新しい抗マラリア戦略を目指した糖鎖製剤とマラリアワクチンの実用化に向けた開発研究を行うことにある。以上の途上国の現状とマラリア薬開発の遅滞を鑑みると当該研究の必要性が極めて大きい。
研究方法
研究代表者らは原虫の感染レセプターの同定系を確立し、これまでにヘパラン硫酸、シアル酸、コンドロイチン硫酸といった糖鎖レセプターを同定してきた。以下に、実施した研究の方法について記す。
様々な糖鎖とその派生体を用いてどの糖鎖構造体がマラリア原虫の感染に重要か解析を行った。
糖鎖結合性の原虫膜蛋白質を抗原とした抗体を作製し、これらの抗体が感染防御能を持つか解析を行った。
マウスマラリア原虫を用いた動物感染実験により、これまでのin vitroでの熱帯熱マラリアの感染阻止の解析結果から感染阻止に効果のあった糖鎖構造体の感染阻止能について生体内で解析を行った。
結果と考察
熱帯熱マラリア原虫の赤血球侵入(感染)阻止能について、ヘパリン、λカラギーナン、硫酸化ジェランが高い阻害効果を示した。また、硫酸化度の高い硫酸化多糖類では、その阻害効果が高い傾向があることが明らかとなった。硫酸化多糖類は高分子多糖であるため、実際的に薬剤として製造するためには、合成が難しく、かつ均質性の保証が懸念される。研究代表者らはこれらの問題を解消するため、様々な硫酸化多糖類の派生体を用いて、マラリア原虫の増殖阻止効果を解析することで、増殖を抑制するコアとなる構造体の同定を試みていた。これにより、抗マラリア薬として効果のある構造体の低分子化を図ることで、均質化の保証も担保しようと考えている。
ヘパリン親和性クロマトグラフィーを用いて成熟ジゾンド期のマラリア原虫抽出液から特定の原虫膜蛋白質の捕捉を行った。ヘパリンへの結合強度によって溶出して得られた各分画において、銀染色において複数のバンドが見られたため、原虫の蛋白質を捕捉することに成功した。
結論
熱帯熱マラリア原虫の赤血球培養系において、硫酸化多糖類としてヘパリン、λ、κ、ιカラギーナン、硫酸化κカラギーナン、ジェランガム、硫酸化ジェランガムを用いて、赤血球侵入阻害試験と増殖阻止試験を行った。この結果、ヘパリン、λカラギーナン、硫酸化ジェランが高い阻害効果を示した。また、ジェランガムをはじめ、硫酸化を付加した糖鎖の作製を進めた。λカラギーナンについては、他のカラギーナンと比べて元々硫酸化度が高い。
研究代表者らのこれまでの研究成果から糖鎖はマラリアワクチン候補分子で赤血球侵入時に働く原虫膜蛋白質群に結合性があることが明らかとなった。このことから、ヘパリン親和性クロマトグラフィーを用いて原虫抽出液から特定の原虫膜蛋白質の捕捉を行った。次に、捕捉した原虫膜蛋白質を糖鎖への結合強度によって分画し、各分画に対する抗体がマラリア原虫の感染阻止に効果があるかを解析した。この結果、1つの分画に対する抗体について感染阻止能を持つものを同定した。
本研究は硫酸化ジェランの抗マラリア活性についての初めての報告である。硫酸化ジェランは新規の材料から合成された熱帯熱マラリア原虫の増殖阻害薬の候補物質と言える。また、ジェランガムにはドラッグデリバリーシステムの担体としての使用の報告もあることから、この薬剤機序の解明を行うことで、新たなマラリア治療薬の開発につながることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201403014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は硫酸化ジェランの抗マラリア活性についての初めての報告である。硫酸化ジェランは新規の材料から合成された熱帯熱マラリア原虫の増殖阻害薬の候補物質と言える。また、ジェランガムにはドラッグデリバリーシステムの担体としての使用の報告もあることから、この薬剤機序の解明を行うことで、新たなマラリア治療薬の開発につながることが期待される。また、糖鎖結合性のマラリア原虫膜蛋白質を抗原とした抗体を作製し、感染防御能を持つ抗体を得ることに成功した。
臨床的観点からの成果
硫酸化多糖類は高分子多糖であるため、実際的に薬剤として製造するためには、合成が難しく、かつ均質性の保証が懸念される。研究代表者らはこれらの問題を解消するため、様々な硫酸化多糖類の派生体を用いて、マラリア原虫の増殖阻止効果を解析することで、増殖を抑制するコアとなる構造体の同定を試みた。これにより、抗マラリア薬として効果のある構造体の低分子化を図ることで、均質化の保証も担保する。
ガイドライン等の開発
糖鎖結合性のマラリア原虫膜蛋白質を抗原とした抗体を作製し、感染防御能を持つ抗体を得た。また、硫酸化多糖類を基にした新規の抗マラリア薬の開発を行い、細胞毒性がないこと、抗凝固活性がないことを検証することで、新規薬剤の使用ガイドラインに有効なデータを得た。ここで得られたデータについては、審議会で参考にされたことはない。
その他行政的観点からの成果
糖鎖結合性のマラリア原虫膜蛋白質を抗原とした抗体を作製し、感染防御能を持つ抗体を得た。また、硫酸化多糖類を基にした新規の抗マラリア薬の開発を行うことで、行政施策に反映されるべき、有効なデータを得た。ここで得られたデータについては、審議会で参考にされたことはない。
その他のインパクト
帯広畜産大学、東京大学大学院農学生命科学研究科プレスリリース(2014年4月23日、2013年11月13日)、記事掲載:十勝毎日新聞(2014年5月2日1面、2013年11月25日24面)、UTokyo Research(2014年5月14日)、北海道新聞(2014年5月22日朝刊29面、2013年11月26日朝刊25面)、Todai Research(2013年11月21日)、日経産業新聞(2013年11月21日11面)、Malaria Nexus(2013年6月6日、2012年3月9日)

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
12件
その他論文(和文)
1件
Kobayashi K, et al. Jpn J Vet Parasitol. 11:23. (2012)
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
29件
学会発表(国際学会等)
1件
Molecular Parasitology Meeting XXIII, Woods Hole, MA, USA.
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
ディスカヴァーサイエンス 企画プレゼン大会

特許

特許の名称
抗原虫薬のスクリーニング方法及び組換えトキソプラズマ株
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2014-109262
発明者名: 加藤健太郎、杉達紀、正谷達謄
権利者名: 国立大学法人帯広畜産大学、国立大学法人鹿児島大学
出願年月日: 20140527
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kato K (corresponding author), Ishiwa A.
The roles of carbohydrates in the infection strategies of enteric pathogens
Trop Med Health. , 43 , 41-52  (2015)
10.2149/tmh.2014-25
原著論文2
Sugi T, Kawazu S, Horimoto T, et al.
A single mutation in the gatekeeper residue in TgMAPKL-1 restores the inhibitory effect of a bumped kinase inhibitor on cell cycle
Int J Parasitol Drugs Drug Resist. , 5 , 1-8  (2015)
10.1016/j.ijpddr.2014.12.001
原著論文3
Recuenco FC, Takano R, Chiba S, et al.
Lambda-carrageenan treatment exacerbates the severity of cerebral malaria caused by Plasmodium berghei ANKA in BALB/c mice
Malar J. , 13 , 487-  (2014)
10.1186/1475-2875-13-487
原著論文4
Sugi T, Masatani T, Murakoshi F, et al.
Microplate assay for screening Toxoplasma gondii bradyzoite differentiation with DUAL luciferase assay
Anal Biochem. , 464C , 9-11  (2014)
10.1016/j.ab.2014.06.018
原著論文5
Recuenco FC, Kobayashi K, Ishiwa A, et al.
Gellan sulfate inhibits Plasmodium falciparum growth and invasion of red blood cells in vitro
Sci Rep. (Nature Publishing Group) , 4 , 4723-  (2014)
10.1038/srep04723
原著論文6
Kobayashi K, Takano R, Takemae H, et al.
Analyses of interactions between heparin and the apical surface proteins of Plasmodium falciparum
Sci Rep. (Nature Publishing Group) , 3 , 3178-  (2013)
10.1038/srep03178
原著論文7
Ishiwa A, Kobayashi K, Takemae H, et al.
Effects of dextran sulfates on the acute infection and growth stages of Toxoplasma gondii
Parasitol Res. , 112 , 4169-4176  (2013)
10.1007/s00436-013-3608-8
原著論文8
Iwanaga T, Sugi T, Kobayashi K, et al.
Characterization of Plasmodium falciparum cdc2-related kinase and the effects of a CDK inhibitor on the parasites in erythrocytic schizogony
Parasitol Int. , 62 , 423-430  (2013)
10.1016/j.parint.2013.05.003
原著論文9
Gen F, Yamada S, Kato K, et al.
Attenuation of an influenza A virus due to alteration of its hemagglutinin-neuraminidase functional balance in mice
Arch Virol. , 158 , 1003-1011  (2013)
10.1007/s00705-012-1577-3
原著論文10
Kato K (corresponding author), Sugi T, Iwanaga T
Roles of Apicomplexan protein kinases at each life cycle stage
Parasitol Int. , 61 , 224-234  (2012)
10.1016/j.parint.2011.12.002
原著論文11
Gong H, Kobayashi K, Sugi T, et al.
A novel PAN/apple domain-containing protein from Toxoplasma gondii: characterization and receptor identification
PLoS One. , 7 , e30169-  (2012)
10.1371/journal.pone.0030169
原著論文12
Recuenco FC, Takano R, Sugi T, et al.
Assessment of the growth inhibitory effect of gellan sulfate in rodent malaria in vivo.
Jap J Vet Res. , 65 , 207-212  (2017)
10.14943/jjvr.65.4.207

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
2018-07-05

収支報告書

文献番号
201403014Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,226,000円
(2)補助金確定額
3,226,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,151,623円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 333,377円
間接経費 741,000円
合計 3,226,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2016-06-02
更新日
-