文献情報
文献番号
201329005A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルのヒト健康影響の評価手法に関する研究 - 全身暴露吸入による肺を主標的とした毒性評価研究 -
課題番号
H23-化学-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
今井田 克己(国立大学法人 香川大学 医学部 医学科 病理病態・生体防御医学講座 腫瘍病理学)
研究分担者(所属機関)
- 小川 幸男(国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・毒性部)
- 高木 篤也(国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・毒性部)
- 高橋 祐次(国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・毒性部)
- 相磯 成敏(中央労働災害防止協会・日本バイオアッセイ研究センター・病理検査部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
目的:
ナノマテリアル(NM)の有害性は暴露経路により大きく変わることが示されている。人においては、全身暴露による吸入毒性が最も重要であるが、動物実験においては粒子状物質を定量的に吸入暴露させることが設備的にも技術的にも難しい上に、NMが凝集体を作り易く分散性の確保の面で更なる工夫を要するため検討が進んでいない。本研究の目的は、肺に焦点を絞り、工業的NMの全身暴露吸入暴露による人への外挿性の高い有害性情報を獲得する方法を迅速に確立し、その毒性評価を行うことである。
ナノマテリアル(NM)の有害性は暴露経路により大きく変わることが示されている。人においては、全身暴露による吸入毒性が最も重要であるが、動物実験においては粒子状物質を定量的に吸入暴露させることが設備的にも技術的にも難しい上に、NMが凝集体を作り易く分散性の確保の面で更なる工夫を要するため検討が進んでいない。本研究の目的は、肺に焦点を絞り、工業的NMの全身暴露吸入暴露による人への外挿性の高い有害性情報を獲得する方法を迅速に確立し、その毒性評価を行うことである。
研究方法
研究方法:
腹腔内投与によって中皮腫発がん性が示された多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を全身吸入暴露したマウスの肺を主体とした生体影響を調べる。本研究は、MWCNTの全身吸入暴露に関する研究、DNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現変動解析、強制経気道投与方法を用いた粒子状物質の呼吸器への生体影響に関する研究、そしてMWCNT吸入暴露による肺の病理組織学的評価、の5つに分担して研究を行なっている。
腹腔内投与によって中皮腫発がん性が示された多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を全身吸入暴露したマウスの肺を主体とした生体影響を調べる。本研究は、MWCNTの全身吸入暴露に関する研究、DNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現変動解析、強制経気道投与方法を用いた粒子状物質の呼吸器への生体影響に関する研究、そしてMWCNT吸入暴露による肺の病理組織学的評価、の5つに分担して研究を行なっている。
結果と考察
成果と考察:
まず、MWCNTを投与する試験で問題となる凝集性に関して検討し、MWCNTを高度に分散させる方法として、Taquann法を開発した。そして、MWCNTの全身曝露方法として音響式ダスト発生装置を検討したが、Taquann法により高度に分散したMWCNTの精度の高い暴露方法としてカートリッジ直噴式ダスト発生装置を開発した。そして、p53+/-マウスを用い、1日2時間、週1回、5週間の反復全身暴露吸入実験を、対照群、低用量群、高用量群の3群で行った。各群における投与濃度として、凝縮粒子計数装置(CPC)による2時間の相対濃度の平均値は低用量群: 8.2±2.7 x10^5個/L/min、高用量群: 19.2±4.0 x10^5個/L/minであった。また、質量濃度は低用量群: 1.19±0.16 mg/m^3、高用量群: 2.25±0.35 mg/m^3であった。この条件での全身吸入暴露の結果、投与群のマウスの肺並びに胸膜中皮にMWCNTの存在を確認し、その部位の中皮に増殖性病変を認めた。この新たに開発したダスト発生装置は、Taquann法処理検体に適したダスト発生装置であるあるため、これらを組み合わせることで、MWCNTのみならずナノマテリアル全体の全身吸入暴露による生体影響を調べる有効な手段となるものと期待される。
また、気管内投与実験では、多層カーボンナノチューブ原末(MWCNT-Bulk)およびTMWCNT-Taqの気管内投与による影響の違いを検討し、MWCNT-Bulkの気管内投与では、肺胞内にMWCNTを貪食した肺胞マクロファージが主体となり肉芽腫性変化及び軽度な線維化病変を形成していたのに対し、MWCNT-Taqの気管内投与では、肺胞内で好中球、マクロファージ、形質細胞が混在する局所な炎症性変化が認められた。また、MWCNT-Taqを貪食した肺胞マクロファージの集蔟はある程度認められたものの、これまでに先行研究などで経験しているようなMWCNT貪食肺胞マクロファージによる微小肉芽腫や線維化病変の形成を特徴とする生体反応ではなかった。このことは、MWCNT-BulkとMWCNT-Taqとではその毒性発現が異なることを示唆するものと考える。気管内投与による1年間での長期毒性を評価する実験を行い、MWCNT-Taq投与群で肺内にMWCNT-Taqを認めたものの、その周囲には反応性病変は確認できず、MWCNT-Taqに関連した腫瘍性病変も確認できなかった。また、MWCNT-Bulkを単回吸入暴露(4時間全身暴露)後、3日目の肺を対象とした定量的なマイクロアレイ解析(Percellome法)を行なった結果、caveolar-mediated endocytosis signaling, eif2 signaling, integrin signalingなどが有意に変動することを認めた。この結果はMWCNTのマクロファージによる異物取り組みが促進されていることを示唆するものと思われた。
まず、MWCNTを投与する試験で問題となる凝集性に関して検討し、MWCNTを高度に分散させる方法として、Taquann法を開発した。そして、MWCNTの全身曝露方法として音響式ダスト発生装置を検討したが、Taquann法により高度に分散したMWCNTの精度の高い暴露方法としてカートリッジ直噴式ダスト発生装置を開発した。そして、p53+/-マウスを用い、1日2時間、週1回、5週間の反復全身暴露吸入実験を、対照群、低用量群、高用量群の3群で行った。各群における投与濃度として、凝縮粒子計数装置(CPC)による2時間の相対濃度の平均値は低用量群: 8.2±2.7 x10^5個/L/min、高用量群: 19.2±4.0 x10^5個/L/minであった。また、質量濃度は低用量群: 1.19±0.16 mg/m^3、高用量群: 2.25±0.35 mg/m^3であった。この条件での全身吸入暴露の結果、投与群のマウスの肺並びに胸膜中皮にMWCNTの存在を確認し、その部位の中皮に増殖性病変を認めた。この新たに開発したダスト発生装置は、Taquann法処理検体に適したダスト発生装置であるあるため、これらを組み合わせることで、MWCNTのみならずナノマテリアル全体の全身吸入暴露による生体影響を調べる有効な手段となるものと期待される。
また、気管内投与実験では、多層カーボンナノチューブ原末(MWCNT-Bulk)およびTMWCNT-Taqの気管内投与による影響の違いを検討し、MWCNT-Bulkの気管内投与では、肺胞内にMWCNTを貪食した肺胞マクロファージが主体となり肉芽腫性変化及び軽度な線維化病変を形成していたのに対し、MWCNT-Taqの気管内投与では、肺胞内で好中球、マクロファージ、形質細胞が混在する局所な炎症性変化が認められた。また、MWCNT-Taqを貪食した肺胞マクロファージの集蔟はある程度認められたものの、これまでに先行研究などで経験しているようなMWCNT貪食肺胞マクロファージによる微小肉芽腫や線維化病変の形成を特徴とする生体反応ではなかった。このことは、MWCNT-BulkとMWCNT-Taqとではその毒性発現が異なることを示唆するものと考える。気管内投与による1年間での長期毒性を評価する実験を行い、MWCNT-Taq投与群で肺内にMWCNT-Taqを認めたものの、その周囲には反応性病変は確認できず、MWCNT-Taqに関連した腫瘍性病変も確認できなかった。また、MWCNT-Bulkを単回吸入暴露(4時間全身暴露)後、3日目の肺を対象とした定量的なマイクロアレイ解析(Percellome法)を行なった結果、caveolar-mediated endocytosis signaling, eif2 signaling, integrin signalingなどが有意に変動することを認めた。この結果はMWCNTのマクロファージによる異物取り組みが促進されていることを示唆するものと思われた。
結論
結論;
ナノマテリアルのヒト健康影響の評価手法に関する研究として、MWCNTの全身暴露吸入による肺を主標的とした毒性評価を行うことができた。特に、凝集性が問題となるMWCNTに対してTaquann法により、高度に分散した検体の投与が可能となり、さらにカートリッジ直噴式ダスト発生装置と組み合わせる方法により、マウスに対する全身吸入暴露の効率的な試験を行うことができた。この方法をp53ヘテロマウスへ投与することにより、胸膜中皮の増殖性病変の発生を確認し、MWCNTのヒトへの有害性を示唆した結果と考える。今後はさらに長期の試験を行うことにより最終的な結論を出したい。
ナノマテリアルのヒト健康影響の評価手法に関する研究として、MWCNTの全身暴露吸入による肺を主標的とした毒性評価を行うことができた。特に、凝集性が問題となるMWCNTに対してTaquann法により、高度に分散した検体の投与が可能となり、さらにカートリッジ直噴式ダスト発生装置と組み合わせる方法により、マウスに対する全身吸入暴露の効率的な試験を行うことができた。この方法をp53ヘテロマウスへ投与することにより、胸膜中皮の増殖性病変の発生を確認し、MWCNTのヒトへの有害性を示唆した結果と考える。今後はさらに長期の試験を行うことにより最終的な結論を出したい。
公開日・更新日
公開日
2016-06-10
更新日
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