細胞接着・運動性経路を標的としたATL細胞の浸潤、増殖抑制医薬品開発のための基礎研究 

文献情報

文献番号
201313040A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞接着・運動性経路を標的としたATL細胞の浸潤、増殖抑制医薬品開発のための基礎研究 
課題番号
H23-3次がん-一般-010
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
村上 善則(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 内丸 薫(東京大学 医科学研究所)
  • 後藤 明輝(秋田大学大学院 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
9,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ATLで高発現する細胞接着分子TSLC1/CADM1を分子標的として、CADM1の機能阻害によるATL細胞の浸潤、増殖抑制医薬品の開発、並びに診断医薬確立を目指す基礎研究を行うことを目的とする。まず、分担研究者の東京大学内丸博士は内科学的に、秋田大学の後藤博士は病理学的に、ATL症例におけるCADM1発現の実態解明を目指す。次に、研究代表者の東京大学村上博士は、CADM1をATLの治療標的として確立することを目指して、1) ATLにおけるCADM1下流分子経路の解明によるCADM1機能阻害新規低分子化合物の同定、2) CADM1機能を阻害する中和抗体の作成、3) CADM1, Tiam1等の発現を抑制する核酸医薬の開発を行う。さらに、CADM1をATLの診断標的として確立する研究においては、分担研究者の内丸博士が、CD7とCADM1を指標とするFACS解析により、患者末梢血を用いたATL細胞の診断、分画法の確立を目指す。
研究方法
ATL症例の病理学的検討は1990年―2013年の秋田県内主要病院での解剖例を用いて行った。CADM1経路の阻害によるATL細胞の浸潤、増殖抑制低分子化合物の解析は、固相化CADM1細胞外ドメイン上にCADM1発現細胞を重層し、細胞接着、伸長を半定量化する系を開発し、これに既知の低分子化合物を加えることにより行った。ATLで発現するCADM1のN, O-糖鎖解明は、培養ATL細胞抽出物から抗CADM1抗体による免疫沈降物を濃縮し、質量分析により行った。抗体作成はCADM1細胞外断片をCadm1遺伝子欠損マウスに免疫することにより試みた。CADM1の発現を抑制するsiRNA, shRNA, miRNAを定法に従って同定し、レンチウイルスベクターを用いて試みた。ATL悪性細胞の検出と実態解明は、CD7, CADM1を指標とする FACS 解析により行った。
結果と考察
1. CADM1の下流解析による低分子阻害剤の探索(研究代表者、村上):固相化CADM1上にCADM1発現細胞を重層し、細胞伸長を半定量する手法を開発し、CADM1下流にPI3キナーゼが機能し、PI3キナーゼ阻害剤がATL細胞の増殖を抑制することを示した。
2. CADM1の糖鎖構造の解析(村上):ATL細胞のCADM1を抽出して質量分析により糖鎖構造を解析し、N-型、O-型糖鎖共に、上皮と異なるATLに特徴的な構造を見出した。
3. 抗CADM1単クローン抗体の作成(村上):Cadm1遺伝子欠損マウスをCADM1断片で免疫する方法により、CADM1の機能を中和する高親和性抗体の作成を進めた。
4. CADM1発現を抑制する核酸医薬の基礎研究(村上):CADM1の発現を強く抑制するshRNAを2種同定し、レンチウイルスに組み込んだ発現系を構築し、ATL細胞に感染させて、CADM1発現が抑制されたATL細胞を予備的に得た。
5. CADM1を標的とした診断法の開発(分担研究者、内丸薫博士):ATL症例の末梢血を用いてCD7、CADM1を表面マーカーとするFACS解析を行い、悪性ATL細胞を高感度に検出する系を確立し、無症候性キャリアとくすぶり型ATLが連続病態であることを示した。
6. ATL症例の臨床病理学的解析(分担研究者、後藤明輝博士):秋田県のATL症例68例を解析し、CADM1発現強陽性60例(88%)、弱陽性8例(12%)、発現無し0例(0%) の結果を得た。

結論
CADM1をATLの浸潤抑制に対する治療の標的分子と捉え、CADM1下流で機能するPI3Kを同定し、Pi3K阻害剤が ATL細胞の増殖を抑制することを示した。またCADM1に特徴的な糖鎖構造を見出し、CADM1の中和抗体の作成を試みた。さらにCADM1の発現を抑制するshRNA を組み込んだレンチウイルスを作成し、ATL細胞に導入可能であることを示した。一方、膜上で発現するCADM1をATLの診断の標的分子として捉えた研究では、CD7 とTSLC1/CADM1を指標としたFACSを用いて、ATL症例や HTLV-1 ウイルスの無症候性キャリアーの末梢血中のATL細胞を同定できることを明らかにし、臨床応用可能な系を確立した。また秋田県におけるATLにおけるCADM1の発現異常の実態が、これまでに報告されてきた西南日本のそれと変わらないことを実証した。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

文献情報

文献番号
201313040B
報告書区分
総合
研究課題名
細胞接着・運動性経路を標的としたATL細胞の浸潤、増殖抑制医薬品開発のための基礎研究 
課題番号
H23-3次がん-一般-010
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
村上 善則(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 内丸 薫(東京大学 医科学研究所)
  • 後藤 明輝(秋田大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ATLで高発現する細胞接着分子TSLC1/CADM1を分子標的として、CADM1の機能阻害によるATL細胞の浸潤、増殖抑制医薬品の開発、並びに診断医薬確立を目指す基礎研究を行うことを目的とする。まず、分担研究者の東京大学内丸博士は内科学的に、秋田大学の後藤博士は病理学的に、ATL症例におけるCADM1発現の実態解明を目指す。次に、研究代表者の東京大学村上博士は、CADM1をATLの治療標的として確立することを目指して、1) ATLにおけるCADM1下流分子経路の解明によるCADM1機能阻害新規低分子化合物の同定、2) CADM1機能を阻害する中和抗体の作成、3) CADM1, Tiam1等の発現を抑制する核酸医薬の開発を行う。さらに、CADM1をATLの診断標的として確立する研究においては、分担研究者の内丸博士が、CD7とCADM1を指標とするFACS解析により、患者末梢血を用いたATL細胞の診断、分画法の確立を目指す。
研究方法
ATL症例の病理学的検討は1990年―2013年の秋田県内主要病院での解剖例を用いて行った。CADM1経路の阻害によるATL細胞の浸潤、増殖抑制低分子化合物の解析は、固相化CADM1細胞外ドメイン上にCADM1発現細胞を重層し、細胞接着、伸長を半定量化する系を開発し、これに既知の低分子化合物を加えることにより行った。ATLで発現するCADM1のN, O-糖鎖解明は、培養ATL細胞抽出物から抗CADM1抗体による免疫沈降物を濃縮し、質量分析により行った。抗体作成はCADM1細胞外断片をCadm1遺伝子欠損マウスに免疫することにより試みた。CADM1の発現を抑制するsiRNA, shRNA, miRNAを定法に従って同定し、レンチウイルスベクターを用いて試みた。ATL悪性細胞の検出と実態解明は、CD7, CADM1を指標とする FACS 解析により行った。ヒト資料を用いる研究は、各機関の ELSIに関する委員会の審査を経て行った。

結果と考察
1. CADM1の下流解析による低分子阻害剤の探索(研究代表者、村上):固相化CADM1上にCADM1発現細胞を重層し、細胞伸長を半定量する手法を開発し、CADM1下流にPI3キナーゼが機能し、PI3キナーゼ阻害剤がATL細胞の増殖を抑制することを示した。
2. CADM1の糖鎖構造の解析(村上):ATL細胞のCADM1を抽出して質量分析により糖鎖構造を解析し、N-型、O-型糖鎖共に、上皮と異なるATLに特徴的な構造を見出した。
3. 抗CADM1単クローン抗体の作成(村上):Cadm1遺伝子欠損マウスをCADM1断片で免疫する方法により、CADM1の機能を中和する高親和性抗体の作成を進めた。
4. CADM1発現を抑制する核酸医薬の基礎研究(村上):CADM1の発現を強く抑制するshRNAを2種同定し、レンチウイルスに組み込んだ発現系を構築し、ATL細胞に感染させて、CADM1発現が抑制されたATL細胞を予備的に得た。
5. CADM1を標的とした診断法の開発(分担研究者、内丸薫博士):ATL症例の末梢血を用いてCD7、CADM1を表面マーカーとするFACS解析を行い、悪性ATL細胞を高感度に検出する系を確立し、無症候性キャリアとくすぶり型ATLが連続病態であることを示した。
6. ATL症例の臨床病理学的解析(分担研究者、後藤明輝博士):秋田県のATL症例68例を解析し、CADM1発現強陽性60例(88%)、弱陽性8例(12%)、発現無し0例(0%) の結果を得た。

結論
CADM1をATLの浸潤抑制に対する治療の標的分子と捉え、CADM1下流で機能するPI3Kを同定し、Pi3K阻害剤が ATL細胞の増殖を抑制することを示した。またCADM1に特徴的な糖鎖構造を見出し、CADM1の中和抗体の作成を試みた。さらにCADM1の発現を抑制するshRNA を組み込んだレンチウイルスを作成し、ATL細胞に導入可能であることを示した。一方、膜上で発現するCADM1をATLの診断の標的分子として捉えた研究では、CD7 とTSLC1/CADM1を指標としたFACSを用いて、ATL症例や HTLV-1 ウイルスの無症候性キャリアーの末梢血中のATL細胞を同定できることを明らかにし、臨床応用可能な系を確立した。また秋田県におけるATLにおけるCADM1の発現異常の実態が、これまでに報告されてきた西南日本のそれと変わらないことを実証した。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-01-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201313040C

成果

専門的・学術的観点からの成果
上皮細胞では癌抑制遺伝子として機能する細胞接着分子 CADM1が、ATLやHTLV-1 感染T細胞で過剰発現し、浸潤、悪性形質を促進する知見は学術的に大きな成果であり、ATL特異的なシグナル経路の解析は、ATLの分子標的として有望である。一方、CADM1、CD7を表面マーカーとするFACS 解析により悪性ATL細胞を同定し、無症候性HTLV-1ウイルスキャリアーとくすぶり型ATLが連続する病態であることを示したことも、ATLの多段階腫瘍化を理解する上で重要な知見である。
臨床的観点からの成果
CADM1とCD7 のFACS解析により悪性ATL細胞を鋭敏、簡便に検出する技術の確立により、ATLの早期診断や治療効果の判定、無症候性ウイルスキャリアーの評価が可能となり、企業と共同での臨床応用も直前で、実用化が強く期待される。一方、ATLのCADM1経路の解析からPI3キナーゼの関与を見出したことも有望な成果で、最近注目されるサブユニット特異的PI3キナーゼ阻害剤を用いたATL治療の医師主導治験にも展開できる可能性を示す成果と高く評価される。

ガイドライン等の開発
現時点でガイドラインの開発までは進んでいないが、CADM1とCD7とのFACS解析によるATLの病態に関する臨床研究が進み、知見が蓄積すれば、診断マーカーとしての確立と、これを指標とした新たなATLの病態把握のためのガイドラインを検討することも可能であると期待される。
その他行政的観点からの成果
HTLV-1ウイルスキャリアーの検査は、個人情報保護や倫理の確立される以前に国家的に行われたことから、国内で120万人と言われるHTLV-1ウイルスキャリアーに対して、ATLをはじめとするHTLV-1関連疾患の予防や早期診断、早期治療を目指す対策を整備することは行政的にも重要な課題であり、CADM1による新規診断法の確立や、治療薬の可能性の知見は大きな成果である。
その他のインパクト
これらの成果は、原著論文として報告するとともに、HTLV-1研究の合同シンポジウムで毎年発表し、また、研究のホームページなどで公開してきた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
44件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
79件
学会発表(国際学会等)
26件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
2件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
がんの診断, 処置および/または予防, および/または浸潤・転移の抑制のための方向, システムおよび組成物ならびに関連するスクリーニング方法
詳細情報
分類:
特許番号: 5131946
発明者名: 村上善則、増田万里
権利者名: 国立大学法人東京大学
出願年月日: 20060913
取得年月日: 20121116
国内外の別: 国内
特許の名称
小細胞肺がんの診断のための方法、システムおよび組成物ならびに関連する
詳細情報
分類:
特許番号: 5131751
発明者名: 村上善則
権利者名: 国立大学法人東京大学
出願年月日: 20061226
取得年月日: 20121116
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Murakami S, Sakurai-Yageta M, Murakami Y et al.
Intercellular adhesion of CADM1 activates PI3K by forming a complex with MAGuK-family proteins MPP3 and Dlg.
PLoS One , 9 , e82894-  (2014)
doi: 10.1371/journal.pone.0082894
原著論文2
Ishimura M, Goto A, Murakami Y et al.
Involvement of miR-214 and miR-375 in malign.ant features of non-small-cell lung cancer by down-regulating CADM1.
J Cancer Therapy , 3 , 379-387  (2012)
DOI: 10.4236/jct.2012.324050
原著論文3
Kikuchi S, Iwai M, Murakami Y et al.
Expression of a splicing variant of the CADM1 specific to small cell lung cancer.
Cancer Science , 103 , 1051-1057  (2012)
DOI: 10.1111/j.1349-7006.2012.02277.x
原著論文4
Takahashi Y, Goto A, Murakami Y et al.
Aberrant expression of tumor suppressors, CADM1 and 4.1B, in invasive lesions of primary breast cancer.
Breast Cancer , 19 , 242-252  (2012)
DOI: 10.1007/s12282-011-0272-7.
原著論文5
Nagata M, Goto A, Murakami Y et al.
Aberrations of a cell adhesion molecule CADM4 in renal clear cell carcinoma.
Int J Cancer , 130 , 1329-1337  (2012)
DOI: 10.1002/ijc.26160.
原著論文6
Ito T, Sakurai-Yageta M, Murakami Y et al.
Transcriptional regulation of the CADM1 gene by retinoic acid during the neural differentiation of murine embryonal carcinoma P19 cells.
Genes to Cells , 16 , 791-802  (2011)
原著論文7
Ebihara Y, Iwai M, Murakami Y et al.
High incidence of null-type mutations of the TP53 gene in Japanese patients with head and neck squamous cell carcinoma.
Journal of Cancer Therapy , in press  (2014)
原著論文8
Kobayashi S, Watanabe T, Uchimaru K et al.
CADM1 expression and stepwise downregulation of CD7 are closely associated with clonal expansion of HTLV-1-infected cells in adult T-cell leukemia/lymphoma.
Clin Cancer Res. , in press  (2014)
原著論文9
Ohno N, Kobayashi S, Uchimaru K et al.
Loss of CCR4 antigen expression after mogamulizumab therapy in a case of adult T-cell leukaemia-lymphoma.
Br J Haematol. , 163 (5) , 683-685-  (2013)
原著論文10
Asanuma S, Uchimaru K, Watanabe T et al
Adult T-cell leukemia cells are characterized by abnormalities of Helios expression that promote T cell growth.
Cancer Sci. , 104 , 1097-1106  (2013)
doi: 10.1111/cas.12181.
原著論文11
Ishigaki T, Isobe M, Uchimaru K et al
Development of peripheral T-cell lymphoma not otherwise specified in a HTLV-1 carrier.
Int J Haematol. , in press  (2014)
DOI 10.1007/s12185-013-1314-z
原著論文12
Kobayashi S, Tian Y, Uchimaru K et al.
The CD3 versus CD7 plot in multicolor flow cytometry reflects progression of disease stage in patients infected with HTLV-I.
PLoS One , 8 ,  e53728-  (2013)
doi:10.1371/journal.pone.0053728
原著論文13
Yamagishi M, Uchimaru K, Watanabe T et al.
Polycomb-Mediated Loss of miR-31 Activates NIK-dependent NF-κB Pathway in Adult T-cell Leukemia and Other Cancers.
Cancer Cell , 21 (1) , 121-135  (2012)
原著論文14
Tsuda M, Uchimaru K, Tsuji K et al.
Reduced dose chemotherapy for acute promyelocytic leukemia with adult Down syndrome
Br J Haematol. , 155 , 122-132  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
201313040Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
12,200,000円
(2)補助金確定額
12,200,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,681,576円
人件費・謝金 4,365,012円
旅費 57,720円
その他 280,692円
間接経費 2,815,000円
合計 12,200,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-10-14
更新日
-