文献情報
文献番号
201313002A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトがんにおけるエピジェネティックな異常の解明と応用に関する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
牛島 俊和(独立行政法人国立がん研究センター 研究所 エピゲノム解析分野)
研究分担者(所属機関)
- 金井 弥栄(独立行政法人国立がん研究センター 研究所 分子病理分野)
- 鈴木 拓(札幌医科大学 医学部 分子生物学講座)
- 伊東 文生(聖マリアンナ医科大学 医学部 消化器・肝臓内科)
- 山田 泰広(京都大学 iPS細胞研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
46,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
DNAメチル化異常は、ヒト発がんに深く関与する。本研究では、DNAメチル化異常誘発の要因や分子機構を明らかにすること、ゲノム網羅的な解析によりDNAメチル化異常を解明、がんの本態を明らかにすること、臨床的に有用な診断方法の開発を行うこと、エピジェネティック治療の基盤を確立することを目的としている。
研究方法
ゲノム領域特異的なDNAメチル化解析は、重亜硫酸処理の後、methylation-specific PCR (MSP)法、定量的MSP法、シークエンス法、pyrosequencing法などにより行った。DNAメチル化の網羅的解析では、BeadArrayやMCAM法などの異なる網羅的解析手法を適切に使い分けた。ゲノム網羅的なヒストン修飾解析はChIP-seq法またはChIP-chip法により行った。
結果と考察
(1) DNAメチル化異常の誘発要因や分子機構
DNAメチル化異常の発がんへの深い関与を考えると、その誘発機構の解明は急務である。本年度は、TMK1細胞株を炎症関連因子であるIL1βで処理することにより、DNAメチル基転移酵素の活性に変化が無いものの、DNA脱メチル化に関与するTET遺伝子群の発現が低下することを見出した。同様の結果は、ピロリ菌に感染したスナネズミ胃粘膜においても認められた。DNAメチル化異常誘発に関与する成分が明らかになれば、その抑制による新たな疾患予防戦略を立てることができると考えられる。また、大腸腫瘍由来の初期化細胞は、Apcのレスキューにより個体への発生が可能であることを明らかにすると共に、マウス生体内で山中4因子を発現させ、その初期化の程度が不十分だとヒトWilms腫瘍と極めて類似した腫瘍が形成されることを見出した。不完全な初期化による発がん過程は遺伝子変異により引き起こされるのではなく、エピジェネティック修飾状態の変化による発がんであることが示唆された。小児がんなど一部のがんでは同様の発がんメカニズムが働いている可能性が考えられた。
(2) がんでのエピジェネティック異常の全体像の解明とがん抑制遺伝子の同定
がん細胞および前がん病変におけるエピゲノム異常の解明は、がんそのものや発がん過程を理解するため、また、これらの異常を臨床応用するための基盤的情報である。本年度は、エピゲノム、ゲノム異常の統合的な解析の結果、胃がんにおいては、ジェネティック、エピジェネティック双方の異常により、がん関連遺伝子経路の異常が形成されていることを示した。また、PKC活性化及び、様々なシグナル経路に関与するDGKG遺伝子が、ヒト大腸がんでDNAメチル化により不活化されているがん抑制遺伝子であることを見出した。
(3) 診断的に有用なDNAメチル化異常の同定
DNAメチル化異常の診断的応用は、実用化段階を迎えている。既に前向き臨床試験(他の研究事業)へと移行した胃がんのリスク診断に加え、CIMP陽性腎細胞がんを判別することによる、腎細胞がん予後診断マーカーパネルを開発した。今年度は検証コホート100例の解析を行い、その有用性を確認した。CIMPマーカー遺伝子を用いた予後診断法の実施に際しては、手術検体から余分な侵襲なく組織検体が採取でき、臨床検査として導入し易いと期待される。神経芽細胞腫の予後診断については、臨床応用に十分な精度があることがわかっており、前向き臨床試験に伴う診断を継続して実施している(累積227例)。胃洗浄廃液でのDNAメチル化解析による胃がんの存在診断について、前向き多施設臨床試験を進めた(3年目)。本試験は順調に進展しており、臨床応用へ向けた大きな一歩となる可能性が考えられた。通常は廃棄される胃洗浄液を用いた胃がんの存在診断が実用化されれば、侵襲度の非常に低い新たな検査法として価値は大きい。
(4) エピジェネティック治療の基盤確立
これまでに開発したDNA脱メチル化剤のハイスループットスクリーニング系を用いて、19,840個の化合物ライブラリー(NPDepo)をスクリーニングし、再現性が確認された4個のヒット化合物を得た。新規のDNAメチル化異常の誘発因子のスクリーニングは、ひいては新規エピジェネティック薬の開発に繋がると考えられる。
DNAメチル化異常の発がんへの深い関与を考えると、その誘発機構の解明は急務である。本年度は、TMK1細胞株を炎症関連因子であるIL1βで処理することにより、DNAメチル基転移酵素の活性に変化が無いものの、DNA脱メチル化に関与するTET遺伝子群の発現が低下することを見出した。同様の結果は、ピロリ菌に感染したスナネズミ胃粘膜においても認められた。DNAメチル化異常誘発に関与する成分が明らかになれば、その抑制による新たな疾患予防戦略を立てることができると考えられる。また、大腸腫瘍由来の初期化細胞は、Apcのレスキューにより個体への発生が可能であることを明らかにすると共に、マウス生体内で山中4因子を発現させ、その初期化の程度が不十分だとヒトWilms腫瘍と極めて類似した腫瘍が形成されることを見出した。不完全な初期化による発がん過程は遺伝子変異により引き起こされるのではなく、エピジェネティック修飾状態の変化による発がんであることが示唆された。小児がんなど一部のがんでは同様の発がんメカニズムが働いている可能性が考えられた。
(2) がんでのエピジェネティック異常の全体像の解明とがん抑制遺伝子の同定
がん細胞および前がん病変におけるエピゲノム異常の解明は、がんそのものや発がん過程を理解するため、また、これらの異常を臨床応用するための基盤的情報である。本年度は、エピゲノム、ゲノム異常の統合的な解析の結果、胃がんにおいては、ジェネティック、エピジェネティック双方の異常により、がん関連遺伝子経路の異常が形成されていることを示した。また、PKC活性化及び、様々なシグナル経路に関与するDGKG遺伝子が、ヒト大腸がんでDNAメチル化により不活化されているがん抑制遺伝子であることを見出した。
(3) 診断的に有用なDNAメチル化異常の同定
DNAメチル化異常の診断的応用は、実用化段階を迎えている。既に前向き臨床試験(他の研究事業)へと移行した胃がんのリスク診断に加え、CIMP陽性腎細胞がんを判別することによる、腎細胞がん予後診断マーカーパネルを開発した。今年度は検証コホート100例の解析を行い、その有用性を確認した。CIMPマーカー遺伝子を用いた予後診断法の実施に際しては、手術検体から余分な侵襲なく組織検体が採取でき、臨床検査として導入し易いと期待される。神経芽細胞腫の予後診断については、臨床応用に十分な精度があることがわかっており、前向き臨床試験に伴う診断を継続して実施している(累積227例)。胃洗浄廃液でのDNAメチル化解析による胃がんの存在診断について、前向き多施設臨床試験を進めた(3年目)。本試験は順調に進展しており、臨床応用へ向けた大きな一歩となる可能性が考えられた。通常は廃棄される胃洗浄液を用いた胃がんの存在診断が実用化されれば、侵襲度の非常に低い新たな検査法として価値は大きい。
(4) エピジェネティック治療の基盤確立
これまでに開発したDNA脱メチル化剤のハイスループットスクリーニング系を用いて、19,840個の化合物ライブラリー(NPDepo)をスクリーニングし、再現性が確認された4個のヒット化合物を得た。新規のDNAメチル化異常の誘発因子のスクリーニングは、ひいては新規エピジェネティック薬の開発に繋がると考えられる。
結論
公衆衛生上重要なDNAメチル化異常の誘発機構の解明を進めた。がんでの各種遺伝子のDNAメチル化異常の解明は、本態解明に加えて、がんの検出、病態、及び、予後の診断に有用である。
公開日・更新日
公開日
2015-06-02
更新日
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