初発膠芽腫に対する新規放射線化学療法による有効治療法確立のための臨床研究

文献情報

文献番号
201309008A
報告書区分
総括
研究課題名
初発膠芽腫に対する新規放射線化学療法による有効治療法確立のための臨床研究
課題番号
H23-臨研推-一般-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
宮武 伸一 (大阪医科大学 医学部、外科学講座、脳神経外科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 小野 公二(京都大学原子炉実験所,粒子線腫瘍医学研究センター)
  • 切畑 光統(大阪府立大学、21世紀化学研究機構)
  • 黒岩 敏彦(大阪医科大学 医学部、外科学講座、脳神経外科学教室 )
  • 川端 信司(大阪医科大学 医学部、外科学講座、脳神経外科学教室 )
  • 淺井 昭雄(関西医科大学 医学部、脳神経外科学教室 )
  • 加藤 天美(近畿大学 医学部、脳神経外科学教室  )
  • 伊達 勲(岡山大学 医学部、脳神経外科学教室)
  • 菊田 健一郎(福井大学 医学部、脳背髄神経外科学教室)
  • 大畑 建治(大阪市立大学 医学部、脳神経外科学教室)
  • 森内 秀祐(りんくう総合医療センター 脳神経外科)
  • 道上 宏之(岡山大学 医学部、細胞生理学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究事業(臨床研究・治験推進研究事業)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
6,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
硼素中性子捕捉療法(BNCT)は原子炉からの中性子線による細胞選択的高線量粒子線治療法である。われわれは破綻した血液脳関門のみを通過しうるsodium borocaptate (BSH)と、悪性腫瘍において亢進している蛋白代謝を利用し、アミノ酸トランスポーターを利用して硼素を運搬しうるboronophenylalanine (BPA)を用いて、腫瘍選択的な硼素の集積を可能ならしめ、この腫瘍選択的硼素蓄積を、治療薬であるBPAをトレーサーとしたPETにより確認証明している。正常神経組織に浸潤発育することから治療困難な膠芽腫の治療においては理想的な放射線治療法といえる。
一方、膠芽腫の根治は困難である。X線と新規アルキル化剤テモダール(TMZ)による放射線化学療法がようやく標準治療として認められてきたが、それとてもX線単独治療群の生存期間中央値(MST)12ヶ月にわずか2.5ヶ月の上乗せを追加したに過ぎない(Stupp R, et al, NEJM 2005)。われわれは化学療法の併用抜きでの新規診断膠芽腫に対するBNCT+X線追加照射でMST23.5ヶ月の成績を出し、単一施設での第2相臨床試験として、BNCTの治療効果を報告している(ハザード比0.399, p<0.004,)。
これに続くstepとして、BNCT+X線追加照射+TMZにより、新規診断膠芽腫に対する多施設による比ランダム化第二相臨床試験を行い、その治療効果を客観的に評価することを目的として、本臨床試験を行なっている。
平成24年度より加速器BNCTおよびGMPグレード硼素化合物による再発悪性神経膠腫に対する第1相臨床試験(治験)を別途実施している。これにより世界初の病院内BNCTが可能となる。本臨床研究の成功を加速器による院内BNCTの基礎的evidenceとすることも目的である。
研究方法
京都大学原子炉(KUR)を使用し、新規診断膠芽腫に対してBNCT plus X線分割照射(XRT)plus TMZによる化学療法併用の多施設共同第二相臨床試験のプロトコルを実施した。
プロトコルの骨子は、集積機序の異なる2種類の硼素化合物(BSH,BPA)を用いたBNCTをBPA-PETの結果をもとにした線量計画下に行った。その後X線による分割外照射を追加した。腫瘍の再発は腫瘍底部からが多く、放射線壊死の発生は脳表からが多いことを考慮し、適当な線量のX線 外照射を3層に分けてgradient をかけて照射する。すなわち、BNCTの中性子照射方向に直交する対向2門照射とし、GTV (術前腫瘍造影域)plus 2.5cmをclinical target volume (CTV)として設定し、脳表より、CTV最深部までを3層に分けた上multi-leaf collimator を使用して、上記線量をhalf-field technique を用いて照射した。BNCT直後より、外照射終了時までTMZ 75mg/m2の連日投与を行い、放射線治療終了後より、腫瘍再発が認められるまで、TMZ 150-200mg/m2の投与を5 days/28 days cycle で行った。以上の臨床試験は大阪医科大学、岡山大学、近畿大学、兵庫医科大学、関西医科大学、市立泉佐野病院、大阪市立大学、福井大学を中心とした多施設共同研究として施行している。
結果と考察
当初の症例登録期間を平成26年1月31日まで延長した。しかしながら、平成25年度は京大炉の耐震化工事が規制当局から義務つけられたため、平成25年度は6,7月の2月のみの稼動に終わり、2例のみの登録しか行えなかった。
総症例数は45例を予定していたが、そう登録数32名で登録打ち切りのやむなきに終わった。試験治療を施行した症例には大きな健康被害は発生していない。平成26年度を観察期間とし、その効果をそれぞれの施設で経験しているX線、TMZ併用治療群(historical control, HC群)との間に全生存の差異の検討を予定している。
結論
東日本大震災のため、KUR非稼動時期に使用を予定していた日本原子力機構研究4号炉の使用が不可能となったこと、また上述のKURの耐震工事により、KUR自体の稼動に大きな制限が生じたため、予定症例数の完遂ができなかった。今後は症例登録の終わった32例で成績の解析とHC群間での成績の比較を行っていく。

公開日・更新日

公開日
2015-03-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-06-18
更新日
-

文献情報

文献番号
201309008B
報告書区分
総合
研究課題名
初発膠芽腫に対する新規放射線化学療法による有効治療法確立のための臨床研究
課題番号
H23-臨研推-一般-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
宮武 伸一 (大阪医科大学 医学部、外科学講座、脳神経外科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 小野 公二(京都大学原子炉実験所,粒子線腫瘍医学研究センター)
  • 切畑 光統(大阪府立大学、21世紀化学研究機構)
  • 黒岩 敏彦(大阪医科大学 医学部、外科学講座、脳神経外科学教室)
  • 川端 信司(大阪医科大学 医学部、外科学講座、脳神経外科学教室)
  • 淺井 昭雄(関西医科大学 医学部、脳神経外科学教室 )
  • 加藤 天美(近畿大学 医学部、脳脳神経外科学教室 )
  • 伊達 勲(岡山大学 医学部、脳神経外科学教室)
  • 菊田 健一郎(福井大学 医学部、脳脊髄外科学教室)
  • 大畑 建治(大阪市立大学 医学部、脳神経外科学教室)
  • 森内 秀祐(市立泉佐野病院、脳神経外科)
  • 道上 宏之(岡山大学 医学部、分子生理学教室)
  • 有田 憲生(兵庫医科大学 医学部、脳神経外科学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究事業(臨床研究・治験推進研究事業)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
硼素中性子捕捉療法(BNCT)は原子炉からの中性子線による細胞選択的高線量粒子線治療法である。われわれは破綻した血液脳関門のみを通過しうるsodium borocaptate (BSH)と、悪性腫瘍において亢進している蛋白代謝を利用し、アミノ酸トランスポーターを利用して硼素を運搬しうるboronophenylalanine (BPA)を用いて、腫瘍選択的な硼素の集積を可能ならしめ、この腫瘍選択的硼素蓄積を、治療薬であるBPAをトレーサーとしたPETにより確認証明している。正常神経組織に浸潤発育することから治療困難な膠芽腫の治療においては理想的な放射線治療法といえる。
一方、膠芽腫の根治は困難である。X線と新規アルキル化剤テモダール(TMZ)による放射線化学療法がようやく標準治療として認められてきたが、それとてもX線単独治療群の生存期間中央値(MST)12ヶ月にわずか2.5ヶ月の上乗せを追加したに過ぎない(Stupp R, et al, NEJM 2005)。われわれは化学療法の併用抜きでの新規診断膠芽腫に対するBNCT+X線追加照射でMST23.5ヶ月の成績を出し、単一施設での第2相臨床試験として、BNCTの治療効果を報告している(ハザード比0.399, p<0.004,)。
これに続くstepとして、BNCT+X線追加照射+TMZにより、新規診断膠芽腫に対する多施設による比ランダム化第二相臨床試験を行い、その治療効果を客観的に評価することを目的として、本臨床試験を行なっている。
平成24年度より加速器BNCTおよびGMPグレード硼素化合物による再発悪性神経膠腫に対する第1相臨床試験(治験)を別途実施している。これにより世界初の病院内BNCTが可能となる。本臨床研究の成功を加速器による院内BNCTの基礎的evidenceとすることも目的である。
研究方法
京都大学原子炉(KUR)を使用し、新規診断膠芽腫に対してBNCT plus X線分割照射(XRT)plus TMZによる化学療法併用の多施設共同第二相臨床試験のプロトコルを実施した。
プロトコルの骨子は、集積機序の異なる2種類の硼素化合物(BSH,BPA)を用いたBNCTをBPA-PETの結果をもとにした線量計画下に行った。その後X線による分割外照射を追加した。腫瘍の再発は腫瘍底部からが多く、放射線壊死の発生は脳表からが多いことを考慮し、適当な線量のX線 外照射を3層に分けてgradient をかけて照射する。すなわち、BNCTの中性子照射方向に直交する対向2門照射とし、GTV (術前腫瘍造影域)plus 2.5cmをclinical target volume (CTV)として設定し、脳表より、CTV最深部までを3層に分けた上multi-leaf collimator を使用して、上記線量をhalf-field technique を用いて照射した。BNCT直後より、外照射終了時までTMZ 75mg/m2の連日投与を行い、放射線治療終了後より、腫瘍再発が認められるまで、TMZ 150-200mg/m2の投与を5 days/28 days cycle で行った。以上の臨床試験は平成23年当初、大阪医科大学、岡山大学、近畿大学、兵庫医科大学、関西医科大学、の5施設で開始したが、より症例を集めるため、市立泉佐野病院、大阪市立大学、福井大学を中心とした多施設共同研究として施行している。
結果と考察
臨床研究の目標症例数は45例を設定していた。KUR保守点検時に使用を予定していた、日本原子力機構研究4号炉(JRR-4)が東日本大震災の影響で使用できず、かつ京大炉の停止期間が当初の予定より伸びたこと、また耐震工事のための休炉もあり、当初の計画より症例登録が滞った。当初の症例登録期間をさらに平成26年1月31日まで延長して、症例登録予定数の確保に努めた。しかしながら、京大炉の休炉のため、最終的には、上記日時において32例の症例登録にて臨床試験の打ち切りのやむなきにいたった。
試験治療を施行した症例には大きな健康被害は発生していない。平成26年度を観察期間とし、その効果をそれぞれの施設で経験しているX線、TMZ併用治療群(historical control, HC群)との間に全生存の差異の検討を予定している。
結論
上述の事情により、JRR-4のみならず、KUR自体の稼動に大きな制限が生じたため、予定症例数の完遂ができなかった。今後は症例登録の終わった32例で成績の解析とHC群間での成績の比較を行っていく。

公開日・更新日

公開日
2015-03-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201309008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
京都大学原子炉(KUR)を使用し、新規診断膠芽腫に対してBNCT plus X線分割照射(XRT)plus TMZによる化学療法併用の多施設共同第二相臨床試験のプロトコルを実施した。
プロトコルの骨子は、診断確定後の新規診断膠芽腫に対して、BNCT plus XRT plus chemotherapy の治療効果を検討解析することにある。
臨床的観点からの成果
新規診断膠芽腫に対して、ホウ素中性子捕捉療法、X線分割照射(XRT)、TMZによる化学療法併用の多施設共同第二相臨床試験のプロトコルを実施した。東日本大震災の影響を受け、当初予定した症例登録「45例」にはいたらなかったが、32例の登録を持って臨床試験を終了した。平成30年4月にデータが固定され、試験治療群の2年生存率は45.5(29.9-59.9)%であり、historical control であるStuppの報告27.3%に対して有意な治療効果を認めた。現在論文準備中である。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
新規アルキル化剤であるTMZは膠芽腫に対して優れた抗腫瘍効果を示すが、それでもEORTCによる解析ではMSTを2ヵ月半伸ばすに過ぎない。われわれのBNCTによる治療成績はこのTMZ抜きでも、EORTCの成績を凌駕しており、このTMZ併用により、更なる治療効果の増強が期待しうる。これを利用した放射線化学療法はおよそ2ヶ月の治療期間を必要とするが、われわれのプロトコルはおよそ3週間で治療を終了でき、入院期間の短縮も図れる。
その他のインパクト
加速器中性子源を利用した再発悪性神経膠腫を対象とした第一相臨床試験を2012年10月より開始したが、日経新聞2012年9月4日号、同10月12日号、読売新聞2013年1月6日号に掲載された。また、安倍首相のロシア訪問時にモスクワでBNCT用医療施設の建設計画があること等が日経新聞2013年4月28日号で紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
19件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
2018-05-24

収支報告書

文献番号
201309008Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,580,000円
(2)補助金確定額
8,580,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 832,884円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 5,767,116円
間接経費 1,980,000円
合計 8,580,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
-