文献情報
文献番号
201227004A
報告書区分
総括
研究課題名
ウイルス性肝炎からの発がん及び肝がん再発の抑制に関する研究
課題番号
H22-肝炎-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
林 紀夫(独立行政法人労働者健康福祉機構関西労災病院 消化器内科)
研究分担者(所属機関)
- 坪内 博仁(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科消化器疾患・生活習慣病学)
- 野村 秀幸(国家公務員共済組合連合会新小倉病院肝臓センター)
- 上田 啓次(大阪大学大学院医学系研究科ウイルス学)
- 片野 義明(名古屋大学医学部附属病院消化器内科)
- 江口 潤一(昭和大学医学部内科学講座消化器内科学部門)
- 中本 安成(福井大学医学部医学科病態制御医学講座内科学(2)領域)
- 竹原 徹郎(大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学)
- 平松 直樹(大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学)
- 考藤 達哉(大阪大学大学院医学系研究科樹状細胞制御治療学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
28,458,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
2004年から2011年にかけて、C型肝炎に対する抗ウイルス治療はPeg-IFN/RBVの併用投与が標準として行われてきた。現在は難治例に対してTelaprevirを加えた3剤治療が行われているが、なおウイルス排除に至らない症例が存在する。C型肝がんは早期に発見され、根治的な治療が行われたとしても高率に再発し、患者の予後を不良なものとしている。本研究課題ではPeg-IFN/RBV治療が臨床に登場し8年が経過した現時点における我が国の発がんの実態を8,000例以上のPeg-IFN/RBV治療開始登録データベースをもとに解析を行う。このような検討を行うことにより、C型肝炎からの発がんの実態が解明されるとともに、Peg-IFN/RBV治療が発がんをどの程度抑止し得るのかが明らかになる。さらに、肝生検試料を用いた分子生物学的解析、末梢血単核球を用いた免疫学的解析を行うことにより、C型肝炎からの発がんに関連する分子・免疫病態を検討する。Peg-IFN/RBV治療によるウイルス排除やIFN少量長期投与、肝庇護療法による肝炎の鎮静化がこのような分子・免疫病態を改善するかどうかについて解明を目指す。
研究方法
1)Peg-IFN/RBV併用時代におけるC型肝炎からの発がん実態の解明:大阪地区(Osaka Liver Forum)、名古屋地区(名古屋Hepatitisセミナー)、九州地区(KULDS)のPeg-IFN/RBV併用治療開始登録データベースより、発がんについての解析を行う。
2)動物モデルを用いて肝障害におけるオステオアクチビンの意義について検討する。肝がんにおけるTIE2陽性単球(TEM)の意義を検討するため、末梢血での同細胞の頻度と病態の関係を解析する。肝がん患者におけるCTLレスポンスをELISPOT法で解析し、治療介入との関連を解析する。動物モデルを用いてPD-1阻害の抗腫瘍効果について検討する。持続的肝障害を発現する遺伝子改変マウスを用いて、肝障害持続による発がん機構を解析する。
2)動物モデルを用いて肝障害におけるオステオアクチビンの意義について検討する。肝がんにおけるTIE2陽性単球(TEM)の意義を検討するため、末梢血での同細胞の頻度と病態の関係を解析する。肝がん患者におけるCTLレスポンスをELISPOT法で解析し、治療介入との関連を解析する。動物モデルを用いてPD-1阻害の抗腫瘍効果について検討する。持続的肝障害を発現する遺伝子改変マウスを用いて、肝障害持続による発がん機構を解析する。
結果と考察
1)Peg-IFN/RBV併用時代におけるC型肝炎からの発がん実態の解明
(大阪地区)肝線維化進展症例に対するPeg-IFN/RBV併用療法では、中止率が高率で著効率が低率であったが、Late responderでは延長投与にて著効率が向上した。肝線維化進展例においても、著効例やAFPが改善する症例では肝発がんが抑制されることが明らかとなった。(名古屋地区)Peg-IFN/RBV併用療法後の発がん率は、1年0.6%、3年3.7%、5年5.9%であった。発がん例は非発がん例に比し、有意に年齢が高く、肝線維化進展例が多く、Alb値が低値であり、非SVR例であった。(九州地区)5年肝がん発症率は4.8%で、多変量解析による肝がん発症予測因子は、男性、60歳以上、血小板数 < 15万、AFP > 10ng/dL、NVRであった。5年累積発がん率は、SVR 3.4%、TR 5.4%、NVR 21.2%であり、SVR・TR群はNVR群に比べて有意に低率であったが、SVR群とTR群に差は認められなかった。
2)OAは 障害肝の修復期に浸潤するCD68陽性マクロファージに発現した。障害肝の修復期に浸潤するマクロファージを欠損させると肝障害が遷延化した。HCC患者の末梢血TEMの頻度はHCC組織でのmicro-vessel densityと相関しており、TEMの血管新生への関与が示唆された。In vitroにおいてM-CSF、IL-1、TNF刺激によりCD16陰性TIE陰性単球からTEMが誘導された。治療モデルでは樹状細胞と抗PD-1抗体併用療法で野生株腫瘤の増大が優位に抑制された。肝がん患者において、CTL陽性反応を高率に誘導する複数のペプチドエピトープがスクリーニングされた。GMPグレードのペプチドワクチンを作製して肝がん患者に対する安全性臨床研究を施行し、NCI-CTCグレード3以上の有害事象が出現しないことを確認した。また、病勢コントロール率45%の治療効果や、標準治療による制御困難な症例における著効を認めた。Bcl-xLもしくはMcl-1を欠損させ肝細胞アポトーシスを持続惹起させたマウスでは、酸化ストレスの蓄積を伴って、1年で高率に肝腫瘍の形成を認めた。このMcl-1/Bak、Mcl-1/Bidダブル欠損マウスでは、酸化ストレスの蓄積だけでなく、腫瘍形成率も有意に低下した。
(大阪地区)肝線維化進展症例に対するPeg-IFN/RBV併用療法では、中止率が高率で著効率が低率であったが、Late responderでは延長投与にて著効率が向上した。肝線維化進展例においても、著効例やAFPが改善する症例では肝発がんが抑制されることが明らかとなった。(名古屋地区)Peg-IFN/RBV併用療法後の発がん率は、1年0.6%、3年3.7%、5年5.9%であった。発がん例は非発がん例に比し、有意に年齢が高く、肝線維化進展例が多く、Alb値が低値であり、非SVR例であった。(九州地区)5年肝がん発症率は4.8%で、多変量解析による肝がん発症予測因子は、男性、60歳以上、血小板数 < 15万、AFP > 10ng/dL、NVRであった。5年累積発がん率は、SVR 3.4%、TR 5.4%、NVR 21.2%であり、SVR・TR群はNVR群に比べて有意に低率であったが、SVR群とTR群に差は認められなかった。
2)OAは 障害肝の修復期に浸潤するCD68陽性マクロファージに発現した。障害肝の修復期に浸潤するマクロファージを欠損させると肝障害が遷延化した。HCC患者の末梢血TEMの頻度はHCC組織でのmicro-vessel densityと相関しており、TEMの血管新生への関与が示唆された。In vitroにおいてM-CSF、IL-1、TNF刺激によりCD16陰性TIE陰性単球からTEMが誘導された。治療モデルでは樹状細胞と抗PD-1抗体併用療法で野生株腫瘤の増大が優位に抑制された。肝がん患者において、CTL陽性反応を高率に誘導する複数のペプチドエピトープがスクリーニングされた。GMPグレードのペプチドワクチンを作製して肝がん患者に対する安全性臨床研究を施行し、NCI-CTCグレード3以上の有害事象が出現しないことを確認した。また、病勢コントロール率45%の治療効果や、標準治療による制御困難な症例における著効を認めた。Bcl-xLもしくはMcl-1を欠損させ肝細胞アポトーシスを持続惹起させたマウスでは、酸化ストレスの蓄積を伴って、1年で高率に肝腫瘍の形成を認めた。このMcl-1/Bak、Mcl-1/Bidダブル欠損マウスでは、酸化ストレスの蓄積だけでなく、腫瘍形成率も有意に低下した。
結論
Peg-IFN/RBV併用療法後のC型肝炎からの肝発がんに関与する因子について、3つの大規模コホートを用いて解析を継続し、最終的な結論をまとめた。肝発がんと炎症・免疫応答、肝がんに対する抗がん剤治療の分野で研究の進展がみられた。
公開日・更新日
公開日
2015-06-03
更新日
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