わが国のアルコール対策の評価と成人の飲酒行動に関する研究

文献情報

文献番号
201222042A
報告書区分
総括
研究課題名
わが国のアルコール対策の評価と成人の飲酒行動に関する研究
課題番号
H23-循環器等(生習)-一般-014
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
神田 秀幸(横浜市立大学 医学部社会予防医学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 尾崎 米厚(鳥取大学 医学部環境予防医学分野)
  • 大井田 隆(日本大学 医学部公衆衛生学部門)
  • 樋口 進(国立病院機構久里浜医療センター)
  • 岡村 智教(慶應義塾大学 医学部衛生学公衆衛生学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の成人の飲酒行動の特徴を明らかにし、到達点と課題を明確にし、アルコール対策を評価し、今後の対策を提言するには代表性のある全国調査は必須の調査である。また、アルコールハラスメントなどアルコールによる間接被害の実態調査を全国規模で実施する研究は極めて珍しく、アルコールの有害な使用に対する対策を立案する基礎データとなりえる。
 代表性のある全国調査を実施し、わが国の成人の飲酒行動の実態を明らかにし、アルコール対策の成果を評価し、残された課題を明確にし、今後のアルコール対策推進のための提言を行うことを目的とした。
研究方法
これまで初年度は、既存資料の分析と予備調査を実施した。そこで、2年目は、本調査として全国調査を実施した。調査の実施、情報の収集、データの処理、集計を行った。
 本研究は、全国を代表する標本抽出による無作為調査による訪問面接調査を主な調査としている。標本抽出は、層化2段無作為抽出方法により、全国の国勢調査地点から356地点を無作為に選び、対象とした20歳以上の男女2000名を無作為に抽出した。訪問面接調査内容には、飲酒行動の実態、飲酒頻度、飲酒量、アルコール依存度、アルコールハラスメントの被害状況などを含むものである。アルコールハラスメントに関する設問は、センシティブな内容を含むため、一部プライバシーに配慮した自記式選択設問とした。
 
結果と考察
わが国の成人の飲酒行動に関する全国調査の有効回答は1331名(有効回答率66.6%)であった。習慣飲酒者は男性で36.5%、女性で12.1%みられた。アルコールハラスメント被害経験は、男性で37.6%、女性で25.8%みられた。被害内容としては「からまれた」「暴言・暴力」が多く挙げられた。男女とも、約1割に未成年の時期に大人からアルコールハラスメントの被害を受けていることが分かった。それらの被害経験が少なくとも人生に影響を及ぼしたと回答した人は男女とも約6割に及んだ。一方、本人の飲酒が原因による未成年者に対するアルコールハラスメントの加害経験は、男性で2.0%、女性で0.3%にすぎなかった。また、過去1年間に飲酒した者のうち、アルコール価格が1.5倍になった時の予想される行動およびアルコール度数に応じた値上げの際に予想される行動では、「同じ商品を同じ量飲み続ける」、「同じ商品で量を減らす」、「安いものに変え量は変えない」という回答が多く挙げられた。飲酒量を半減させる場合の理由として、男女ともに、「病気にかかる」、「医師や医療関係者から飲酒をやめるように言われる」、「アルコール価格の値上げ」の順であった。Risky drinkingの可能性のある人の割合は、AUDIT-Cの結果で男性の約半数、女性の1/4強みられると推計された。一般成人においてrisky drinkingの可能性のある人の数は極めて多く、成人国民の中に広く潜在的にみられる状態にあることがわかった。
結論
現状は飲酒が個人の嗜好のみに任せている状態であるが、今後は公衆衛生上の対策を打ち出していく課題であることを示していると思われた。現実性をもつ有効なアルコール対策の一つとして、医師などからの禁酒指導が挙げられた。アルコールの有害な使用を抑制するために、医師ら医療関係者は生活改善の具体的なゴールを示した指導をするなど踏み込んだアルコール対策が有効であると考えられた。諸外国で用いられている飲酒に関するbrief interventionをわが国で早期に導入し、広く普及することがアルコール対策の一助となると思われた。

公開日・更新日

公開日
2013-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201222042B
報告書区分
総合
研究課題名
わが国のアルコール対策の評価と成人の飲酒行動に関する研究
課題番号
H23-循環器等(生習)-一般-014
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
神田 秀幸(横浜市立大学 医学部社会予防医学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 尾崎 米厚(鳥取大学 医学部環境予防医学)
  • 岡村 智教(慶應義塾大学 医学部衛生学・公衆衛生学講座)
  • 大井田 隆(日本大学 医学部公衆衛生学部門)
  • 樋口 進(国立病院機構 久里浜医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 アルコールによる健康影響や死亡を減少させるため、2010年5月の世界保健機関(WHO)総会にて、「アルコールの有害な使用を軽減するための世界戦略」が採択された。この採択で、アルコール規制の流れは全世界的なものになりつつある。特に欧州では盛んにアルコール規制の動きが広がりつつある。欧州の認識として、アルコールの有害な使用は健康への害だけではなく、酒が原因の事故などによる経済損失も無視できなくなった背景が挙げられる。
 これまで、わが国の成人の飲酒実態の把握は、国民健康栄養調査を用いて行われてきた。しかし、公的な調査等に含まれていない内容を含む成人の飲酒実態および関連要因に関する検討は行われてきていない。そこでわが国のアルコールと健康に関する状況を把握するためには全国調査が必要である。
 本研究は、成人の飲酒実態および関連要因を明らかにし、対策の成果、課題を検討することを目的としている。本研究により、アルコールに関する間接的な被害の実態等の飲酒実態を総括でき、わが国における飲酒対策の課題を明らかにし、今後取組むべき対策を提言することができる。また、次期国民健康づくり運動の普及度の基礎資料となる重要な研究であり、国民の公衆衛生の向上に役立つと考えている。
研究方法
 本研究は、全国を代表する標本抽出による無作為調査による訪問面接調査としている。調査内容には、飲酒行動の実態、飲酒頻度、飲酒量、アルコール依存度、アルコールハラスメントの被害状況などを含むものである。アルコールハラスメントに関する設問は、センシティブな内容を含むため、一部プライバシーに配慮した自記式選択設問とした。標本抽出は、層化2段無作為抽出方法により、全国の国勢調査地点から356地点を無作為に選び、対象とした20歳以上の男女2000名を無作為に抽出し、調査員により、訪問面接調査を実施した。アルコール関連問題のスクリーニングテストとしてAUDIT-Cよよびアルコールハラスメントの被害の経験を尋ねた。
結果と考察
わが国の成人の飲酒行動に関する全国調査の有効回答は1331名(有効回答率66.6%)であった。習慣飲酒者は男性で36.5%、女性で12.1%みられた。アルコールハラスメント被害経験は、男性で37.6%、女性で25.8%みられた。被害内容としては「からまれた」「暴言・暴力」が多く挙げられた。男女とも、約1割に未成年の時期に大人からアルコールハラスメントの被害を受けていることが分かった。それらの被害経験が少なくとも人生に影響を及ぼしたと回答した人は男女とも約6割に及んだ。一方、本人の飲酒が原因による未成年者に対するアルコールハラスメントの加害経験は、男性で2.0%、女性で0.3%にすぎなかった。また、過去1年間に飲酒した者のうち、アルコール価格が1.5倍になった時の予想される行動およびアルコール度数に応じた値上げの際に予想される行動では、「同じ商品を同じ量飲み続ける」、「同じ商品で量を減らす」、「安いものに変え量は変えない」という回答が多く挙げられた。飲酒量を半減させる場合の理由として、男女ともに、「病気にかかる」、「医師や医療関係者から飲酒をやめるように言われる」、「アルコール価格の値上げ」の順であった。Risky drinkingの可能性のある人の割合は、AUDIT-Cの結果で男性の約半数、女性の1/4強みられると推計された。一般成人においてrisky drinkingの可能性のある人の数は極めて多く、成人国民の中に広く潜在的にみられる状態にあることがわかった。したがって、現状は飲酒が個人の嗜好のみに任せている状態であるが、今後は公衆衛生上の対策を打ち出していく課題であることを示していると思われた。
結論
本研究により、わが国の成人の飲酒行動を把握したところ、AUDIT-Cの結果から男性で約半数、女性で1/4強みられると考えられた。アルコールハラスメント被害経験は、男女3割程度みられ、「からまれ」「暴言・暴力」が挙げられた。男女とも、約1割に未成年の時期に大人からアルコールハラスメントの被害を受けていることが分かり、その被害経験が少なくとも人生に影響を及ぼしたと回答した人は男女とも約6割に及んだ。今後、医師ら医療関係者は飲酒に関し、生活を把握した生活改善の具体的なゴールを示した指導をするなど踏み込んだアルコール対策が有効であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201222042C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 2012年度は、成人を対象とした飲酒行動に関する全国調査を実施し、成人の飲酒実態および
関連要因を明らかにすることができた。
臨床的観点からの成果
 アルコールハラスメントの被害あるいは加害の実態を検討することができた。それらの経験は、人生に影響を及ぼすことがあることを明らかにした。
 アルコール価格の値上げ政策は禁酒には結びつきにくく、欧米で報告されているような価格政策の効果は期待されないと考えられた。これはわが国のアルコール対策推進の一助となる結果と考えられた。
ガイドライン等の開発
 健康日本21第二次計画におけるアルコールに関するベースライン結果に相当する。
その他行政的観点からの成果
本研究成果を広く国民に公表し、国民のアルコールの有害な使用の軽減の啓発活動に資する基礎資料となる。本結果を広く国民へ提供することで、アルコールの有害な使用を軽減に寄与する健康教育を生み、さらにアルコールの間接被害防止対策を提言・推進することができる。WHOで採択された世界戦略に沿った対策の推進するための客観的評価に関す
るエビデンスを提供することができる。
その他のインパクト
NHKニュースにてアルコールの有害な使用の予防に関する取材あり。

発表件数

原著論文(和文)
3件
公衆衛生 2012;76(3):200-204. 動脈硬化予防 2014;12(4):5-10. 公衆衛生 2015;79(9):578-579.
原著論文(英文等)
2件
Kanda H, Okamura T:West Indian Med J 2013;62(9):785-786.
その他論文(和文)
2件
Hepatology Practiceシリーズ第2巻.文光堂,2013. 循環器病予防ハンドブック.保健同人社,2014.
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
第47回日本アルコール・薬物医学会、第71回日本公衆衛生学会総会、アルコール健康医学協会講演会、第73回日本公衆衛生学会
学会発表(国際学会等)
1件
Kanda H, Okamura T:16 th International Society of Addiction Medicine Annual Meeting, 2014
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
アルコール健康障害対策基本法制定の際の国民のアルコールハラスメントの現状として研究班結果を活用された。
その他成果(普及・啓発活動)
3件
久里浜医療センター:平成26-27年度生活習慣病のリスクを上げる飲酒者に対する効果的な介入に関する研修会講師(3回)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
尾崎米厚
【アルコール関連問題】 わが国の飲酒運転の現状と今後の対策
公衆衛生 , 76 (3) , 200-204  (2012)
原著論文2
神田秀幸
わが国の喫煙、飲酒習慣の推移とその特徴
動脈硬化予防 , 12 (4) , 5-10  (2014)
原著論文3
神田秀幸
アルコール対策におけるリーダーシップ-世界、日本、そして地方における動向
公衆衛生 , 79 (9) , 578-579  (2015)
原著論文4
Kanda H, Okamura T.
The Economic and medical costs of alcohol consumption in Japan. 
West Indian Med J  , 62 (9) , 785-786  (2013)
原著論文5
Osaki Y, Kinjo A, Higuchi S, Matsumoto H, Yuzuriha T, Horie Y, Kimura M, Kanda H, Yoshimoto H.
Prevalence and Trends in Alcohol Dependence and Alcohol Use Disorders in Japanese Adults; Results from Periodical Nationwide Surveys.
Alcohol Alcohol , 51 (4) , 465-473  (2016)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2017-06-23

収支報告書

文献番号
201222042Z