ゲノミクス解析に基づく白血病の新規分類法開発

文献情報

文献番号
201220023A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノミクス解析に基づく白血病の新規分類法開発
課題番号
H22-3次がん-一般-024
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
間野 博行(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 宮崎 泰司(長崎大学 医学部歯学部附属病院 )
  • 永井 正(自治医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
26,924,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は広く我が国の白血病症例からCD133陽性白血病芽球分画のみを純化保存するバンク事業を行い既に1000例に及ぶ芽球ストックを整備したと共に、エラー率の極めて低い次世代シークエンサー解析技術を新たに開発した。本研究計画では、次世代シークエンサーを用いて上記検体バンクを大規模にリシークエンスし、配列異常の面から造血器腫瘍の新たな分子診断マーカーおよび発症原因異常の探索を目指すとともに、白血病に存在する遺伝子異常がどのようなメカニズムで造腫瘍性を獲得するかを検討する。
研究方法
がん関連遺伝子セットのcDNAをexon captureする手法「cDNAキャプチャー法」を用いて、白血病芽球分画および白血病細胞株から変異遺伝子をスクリーニングする。また同じ細胞から調製したcDNAを用いてレトロウィルスcDNA発現ライブラリーを構築し、発がん能を有する遺伝子を同定した。この領すクリーニングを組み合わせて解析する事で、配列変異があり、かつ発がん能を有する異常遺伝子を同定する。
結果と考察
cDNA capture法を用いてCML細胞株KCL-22における細胞増殖関連遺伝子の解析を行った結果、同細胞株に低分子量GタンパクをコードするRAC2 cDNAのc203_204CC>AA変異が存在し、本変異の結果RAC2タンパクの29番目のアミノ酸であるプロリンがグルタミンに置換されることが明らかになった。驚くべき事にRAC2(P29Q)は極めて強いがん化能を有しており、3T3細胞の形質転換フォーカスを生じるだけでなく、代表的ながん遺伝子であるNRAS(Q61K)よりも強く、3T3細胞の足場非依存性増殖を誘導した。さらに様々なヒトがん細胞株においてRAC1/RAC2/RAC3およびNRAS/KRAS/HRASの変異の有無をスクリーニングしたところ、RAC1(P29S)、RAC1(N92I)、RAC1(C157Y)、RAC2(P29L)などの発がん原医が存在することを明らかにした。興味深いことに線維肉腫細胞株HT1080はRAC1(N92I)と別の低分子量GタンパクであるNRAS(Q61K)の両者を同時に保有していた。どちらの変異が発がんに本質的な役割を有しているかを検証する目的で、同細胞株にRAC1およびNRASのsiRNAを導入したところ、NRAS siRNAでは細胞死は誘導されず、RAC1 siRNA導入によってのみ著明な細胞死が誘導された。一方、ELF4による転写活性化は野生型NPM1によって抑制され、変異型NPM1によって増強された。その活性は細胞に導入した野生型/変異型NPM1遺伝子の量比によって変化した。またCalcineurinの阻害分子として知られるRCAN1が、AML患者の骨髄単核細胞およびAML、急性リンパ性白血病でも高頻度に発現する事を確認した。ヒトAML細胞株HL60のRCAN1発現を抑制したところ、1%FBS存在下でアポトーシスが誘導され、生存細胞数およびメチルセルロース培地上でのコロニー形成能が著明に低下した。
結論
CML細胞株から全く新しいがん遺伝子RAC2(P29L)を発見した。さらに解析対象を広げることで、RACファミリータンパクは様々なヒト腫瘍の直接的な発症原因となることが明らかになり、変異RASより強力ながん遺伝子であることを確認した。この事はさらに、(1)RASファミリーの変異それ自体では発がん能が不十分であるため、実際の発がんには他のがん遺伝子を必要とすること、(2)おそらくそのためにRAS機能をブロックするだけでは治療効果が乏しいこと、(3)RACファミリーのがん化変異はRASファミリーのそれに比べて相対的に強力な発がん能を持つ事、(4)RACとRASのがん化変異が共存することは、おそらく両者は異なった細胞内系路を利用して細胞増殖をもたらすこと、などを示唆している。またELF4およびRCAN1の発現が共に白血病発症に促進的に働く事も明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201220023B
報告書区分
総合
研究課題名
ゲノミクス解析に基づく白血病の新規分類法開発
課題番号
H22-3次がん-一般-024
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
間野 博行(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 宮崎 泰司(長崎大学 医学部歯学部附属病院))
  • 永井 正(自治医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々はこれまで、広く我が国の白血病症例からCD133陽性白血病芽球分画のみを純化保存するバンク事業を行い既に1000例に及ぶ芽球ストックを整備したと共に、微量の臨床検体からでもマイクロRNA(miRNA)を大量にクローニングする手法を開発し、さらにエラー率の極めて低い次世代シークエンサー解析技術を新たに開発した。本研究計画では、次世代シークエンサーを用いて上記検体バンクを大規模にリシークエンスし、配列異常の面から造血器腫瘍の新たな分子診断マーカーおよび発症原因異常の探索を目指すとともに、白血病に存在する遺伝子異常がどのようなメカニズムで造腫瘍性を獲得するかを検討した。
研究方法
造血幹細胞特異的マーカーであるCD133陽性分画を各種特発性血液疾患患者骨髄より純化保存しBlast Bankと名付けた。さらに、次世代シークエンサーを用いて遺伝子融合、点突然変異、配列挿入・欠失の全てを検出可能な方法として、がん関連遺伝子のcDNAを純化する手法「cDNA-capture法」を開発した。一方、がん株化細胞に抗がん剤の組み合わせを同時投与し、その細胞増殖抑制効果を分析した。また正常核型急性骨髄性白血病(AML)患者60例の、初診時骨髄芽球ミエロペルオキシダーゼ(MPO)陽性率を解析した。
結果と考察
cDNA-capture法実験として、BCR-ABL陽性慢性骨髄性白血病細胞株KCL22のcDNAから、がん関連913遺伝子由来のものを純化し次世代シークエンサー解析を行った。その結果、得られたデータの約8割が標的遺伝子cDNA由来であることが確認され、BCR-ABL融合点をまたぐcDNA断片を77リード検出する事に成功した。また本解析の結果、KCL22細胞株に低分子量GタンパクをコードするRAC2 cDNAのc203_204CC>AA変異が存在し、本変異の結果RAC2タンパクの29番目のアミノ酸であるプロリンがグルタミンに置換されることが明らかになった。驚くべき事にRAC2(P29Q)は極めて強いがん化能を有しており、3T3細胞の形質転換フォーカスを生じるだけでなく、足場非依存性増殖を誘導した。興味深いことに線維肉腫細胞株HT1080はRAC1(N92I)と別の低分子量GタンパクであるNRAS(Q61K)の両者を同時に保有していた。どちらの変異が発がんに本質的な役割を有しているかを検証する目的で、同細胞株にRAC1およびNRASのsiRNAを導入したところ、NRAS siRNAでは細胞死は誘導されず、RAC1 siRNA導入によってのみ著明な細胞死が誘導された。一方、薬剤投与の相乗・相加効果について検討した結果、bendamustineはcytarabine、 gemcitabine及び4-hydroperoxy cyclophosphamideと相乗作用、 doxorubicin、 etoposide、 F-ara-A、 mitoxantrone、vincristineと相加効果、methotrexateと拮抗作用を示した。また急性骨髄性白血病で高頻度に点突然変異が生じているNPM1についてその結合タンパクを探索したところ、転写因子ELF4が同定された。ELF4による転写活性化は野生型NPM1によって抑制され、変異型NPM1によって増強された。Calcineurinの阻害分子として知られるRCAN1が、AML患者の骨髄単核細胞およびAML、急性リンパ性白血病でも高頻度に発現しする事を明らかにした。ヒト白血病細胞株HL60のRCAN1発現を抑制したところ、1%FBS存在下でアポトーシスが誘導され、生存細胞数およびメチルセルロース培地上でのコロニー形成能が著明に低下した。
結論
本研究事業において各種白血病類縁疾患の大規模な純化細胞検体収集を行い、体細胞遺伝子変異スクリーニングを行った。またその際には、新たな高効率変異スクリニーニング技術自体の開発も併せ行い、それによって多くの配列異常遺伝子を同定することに成功した。CML細胞株から全く新しいがん遺伝子RAC2(P29L)を発見した。薬剤併用療法の解析により、methotrexateやtaxaneseはこれら薬剤を先行させるスケジュールを考えるべきである事が示された。また本研究によって、正常核型AMLで最も変異の多いNPM1と転写因子であるELF4との直接の結合が確認され、NPM1の変異によってELF4の転写活性化能が増強されることが明らかとなった。さらにRCAN1の高発現が白血病発症に促進的に働く事も明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-12-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201220023C

成果

専門的・学術的観点からの成果
次世代シークエンサー解析により遺伝子配列の点突然変異・挿入欠失・融合を一度に検出可能にするcDNA capture法を開発し、その有効性を慢性骨髄性白血病細胞株をモデル系として証明した。またCD133陽性造血幹細胞分画を白血病検体約1000より純化し、白血病の大規模ゲノム解析を遂行可能にする基盤を整備した。
臨床的観点からの成果
本研究で白血病に同定した変異型RAC遺伝子は、極めて強力ながん遺伝子であり、白血病を含む様々なヒトがん種の直接的な発症原因である事が明らかになった。同じ低分子量GタンパクであるRASファミリー遺伝子は点突然変異により高頻度でがん検体において活性化されているが、RACのがん化変異はしばしばRAS変異と共存しており、そのような細胞株の解析からRASより変異RACが優れた治療標的になる事が示された。今後RACを標的とした有効ながん分子標的治療薬が開発されると期待される。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
がん化RAC遺伝子の発見は2013年2月に読売新聞等計4紙に掲載された。さらに本成果発表の記者会見の様子は2013年2月5日のNHK総合テレビ「おはよう日本」で放映された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
31件
その他論文(和文)
20件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kawazu M, Ueno T, Kontani K, et al.
Transforming mutations of RAC guanosine triphosphatases in human cancers
Proc Natl Acad Sci U S A , 110 (8) , 3029-3034  (2013)
10.1073/pnas.1216141110
原著論文2
Takeuchi K, Soda M, Togashi Y, et al.
RET, ROS1 and ALK fusions in lung cancer
Nat Med , 18 (3) , 378-381  (2012)
10.1038/nm.2658
原著論文3
Ueno T, Yamashita Y, Soda M, et al.
High-throughput resequencing of target-captured cDNA in cancer cells
Cancer Sci , 103 (1) , 131-135  (2012)
10.1111/j.1349-7006.2011.02105.x

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2017-05-22

収支報告書

文献番号
201220023Z