文献情報
文献番号
201215005A
報告書区分
総括
研究課題名
非拘束開放型脳機能計測を用いた音響療法評価技術の開発
課題番号
H22-臨研推-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
本田 学(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第七部)
研究分担者(所属機関)
- 河合 徳枝(国際科学振興財団 研究開発部)
- 吉田 寿美子(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 病院 臨床検査部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では、気分障害に対する新しい統合医療の開発に資するため、ストレスをできる限り軽減した状態で計測可能な客観的脳機能指標を開発し、信頼性の高い統合医療の治療効果評価手法の構築を目指した。うつ病による自殺が多発する現代社会では、気分障害の有効な治療法開発が急務である。しかし、気分障害の大きな原因となる情報環境との不適合が生み出すストレスは、薬物療法では解消することができず、脳神経系と情報との関連に注目した新しい統合医療の開発が望まれる。気分障害を含む「こころ」の問題は、治療効果の評価を患者の主観に頼る部分が少なくないが、統合医療の信頼性と有効性を高めるためには脳機能計測による客観的評価を欠くことができない。しかし、現状の非侵襲脳機能計測法は、ストレスフルな検査環境や計測手技そのものが気分障害に悪影響を及ぼすという本末転倒ともいえる状況を導く危険性が大きい。気分障害に対する有効な統合医療を確立するために、計測に伴うストレスを軽減した患者脳機能の客観的評価法の構築が必要である。
研究方法
そこで本研究では、研究代表者らがこれまでに開発したウェアラブル脳波計などの非拘束開放型脳機能計測と磁気共鳴機能画像(fMRI)計測とを組み合わせ、患者にほとんどストレスを与えない計測手技で得られるデータから、気分障害の病態を反映する脳幹の機能を評価する〈簡易深部脳活性指標〉の開発を行った。また、気分障害の症状と関連の深いSTAIの状態不安尺度と開発した〈簡易深部脳活性指標〉との相関を明らかにすることにより、〈簡易深部脳活性指標〉の心理学的意義を検討した。さらに、開発した〈簡易深部脳活性指標〉をもちいて有効な音響療法のプロトコルを検討した。以上の開発要素をもちいて、実際にうつ病患者に対して音響療法を実施し、開発した〈簡易深部脳活性指標〉の有用性を評価すると共に、音響療法によって状態不安がどのように変化するかについて検討をおこなった。
結果と考察
fMRIと脳波との同時計測によって得られたデータを詳細に検討することにより、頭皮上後頭部から記録された自発脳波のα帯域成分パワーの時系列に含まれる周期25秒以上の長周期変動成分が、中脳および視床内側部の報酬系神経回路の活性と特異的に高い正の相関を示すことを見出し〈簡易深部脳活性指標〉と名付けた。
この〈簡易深部脳活性指標〉の心理学的意義を明らかにするために、気分障害の発症と関連の深いSTAIの状態不安尺度との関連を調べたところ、〈簡易深部脳活性指標〉と状態不安尺度との間に、高い負の相関が存在することを明らかにした。このことは、〈簡易深部脳活性指標〉が状態不安を評価するための生物学的指標となり得ることを示唆している。
また、開発した〈簡易深部脳活性指標〉を用いて人間の可聴域上限をこえる超高周波成分を豊富に含む音が、気分障害の発症と推移に関連の深い脳深部の報酬系活性を高める効果(ハイパーソニック・エフェクト)を応用した音響療法のプロトコルを検討した。その結果、人間の可聴域上限の2倍以上となる48kHz以上の超高周波成分を印加したときに〈簡易深部脳活性指標〉が有意に上昇することを明らかにし、有効な音響療法のプロトコルを整備した。
以上の検討をふまえて、実際にうつ病患者を対象として音響療法を実施した。その結果、20分間の48kHz以上の超高周波成分を豊富に含む音響情報の呈示により、〈簡易深部脳活性指標〉が有意に上昇し、STAIの状態不安尺度が有意に低下することを明らかにした。
この〈簡易深部脳活性指標〉の心理学的意義を明らかにするために、気分障害の発症と関連の深いSTAIの状態不安尺度との関連を調べたところ、〈簡易深部脳活性指標〉と状態不安尺度との間に、高い負の相関が存在することを明らかにした。このことは、〈簡易深部脳活性指標〉が状態不安を評価するための生物学的指標となり得ることを示唆している。
また、開発した〈簡易深部脳活性指標〉を用いて人間の可聴域上限をこえる超高周波成分を豊富に含む音が、気分障害の発症と推移に関連の深い脳深部の報酬系活性を高める効果(ハイパーソニック・エフェクト)を応用した音響療法のプロトコルを検討した。その結果、人間の可聴域上限の2倍以上となる48kHz以上の超高周波成分を印加したときに〈簡易深部脳活性指標〉が有意に上昇することを明らかにし、有効な音響療法のプロトコルを整備した。
以上の検討をふまえて、実際にうつ病患者を対象として音響療法を実施した。その結果、20分間の48kHz以上の超高周波成分を豊富に含む音響情報の呈示により、〈簡易深部脳活性指標〉が有意に上昇し、STAIの状態不安尺度が有意に低下することを明らかにした。
結論
本研究の成果は、気分障害などのように脳機能を計測する環境や手技がもたらすストレスが症状に悪影響を及ぼす疾患の診断治療に必要な客観的脳機能評価指標を提供し、科学的知見に基づく新しい統合医療の開発を可能にすることが期待される。また、音響療法の確立は、先端的電子情報技術というわが国の強みを最大限活用した<情報技術を応用した統合医療>という広大な未来性をもつ学術・産業領域をわが国の先導下に世界に提案することに繋がることが期待される。
公開日・更新日
公開日
2013-08-27
更新日
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