文献情報
文献番号
202425008A
報告書区分
総括
研究課題名
AI支援型MPSを用いたヒトiPS由来神経細胞による神経毒性試験法の開発
研究課題名(英字)
-
課題番号
22KD1002
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
安彦 行人(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター薬理部)
研究分担者(所属機関)
- 諫田 泰成(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
- 小島 肇(山口東京理科大学 工学部 医薬工学科)
- 松永 民秀(名古屋市立大学 大学院薬学研究科 臨床薬学分野)
- 加藤 竜司(名古屋大学 大学院創薬科学研究科)
- 鈴木 郁郎(東北工業大学 工学部)
- 渋谷 淳(国立大学法人東京農工大学大学院 農学研究院動物生命科学部門)
- 吉成 浩一(東北大学大学院薬学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
20,433,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
現在、化学物質の発達神経毒性はげっ歯類を用いた行動試験により評価されているが、ヒトへの外挿性や予測性に課題がある。動物試験における3Rsの観点からも、ヒト生体に近い細胞や標本を用いたin vitro評価系や、コンピューターを活用したin silico予測手法の開発が望まれる。本研究はヒトiPS細胞由来の神経細胞及び血液脳関門(BBB)を用いたin vitro評価法の開発、in vitroとin silico手法の統合による新たな発達神経毒性予評価法の開発を目的とする。
研究方法
2層灌流デバイスとMEAをマイクロ流路にて連結したMEA連結型MPSを開発した。この装置の評価のため、既存データが豊富なラット初代培養大脳皮質神経細胞を利用するための培養プロトコルを検討した。前年度まで使用したNeuCyte社のヒトiPS細胞由来神経細胞の安定供給に問題が生じ購入が不可能となったため、本年度は別メーカー(富士フィルムCDI社)の製品を用いて培養およびMEA計測手順の検討を行った。
細胞画像AI解析モデルにおけるノイズデータ影響の検証と最適化を行った。MEA標準の11パラメータに独自に算出した最大発火周波数関連4パラメータを加えて毒性予測AIモデルを作成し、未学習化合物に対して精度検証を実施した。
ヒトiPS細胞由来脳オルガノイドの安定したMEA計測を目的に、基材や培養期間の検討を行った。
In silico毒性予測手法として、食品安全委員会の農薬評価書から作成した独自データベースに記載の350剤について、分子記述子により計算した相互の類似度を用い、コリンエステラーゼ関連所見、神経関連の外観・行動所見の二つのエンドポイントについて、各剤の毒性予測を行った。
ネオニコチノイド系農薬イミダクロプリドについて、OECD発達神経毒性試験ガイドライン(TG426)に従いラット発達期ばく露を行い、脳をサンプリングして免疫組織学的検索、遺伝子発現解析を実施した。またTG426に従い行動試験を行った。
細胞画像AI解析モデルにおけるノイズデータ影響の検証と最適化を行った。MEA標準の11パラメータに独自に算出した最大発火周波数関連4パラメータを加えて毒性予測AIモデルを作成し、未学習化合物に対して精度検証を実施した。
ヒトiPS細胞由来脳オルガノイドの安定したMEA計測を目的に、基材や培養期間の検討を行った。
In silico毒性予測手法として、食品安全委員会の農薬評価書から作成した独自データベースに記載の350剤について、分子記述子により計算した相互の類似度を用い、コリンエステラーゼ関連所見、神経関連の外観・行動所見の二つのエンドポイントについて、各剤の毒性予測を行った。
ネオニコチノイド系農薬イミダクロプリドについて、OECD発達神経毒性試験ガイドライン(TG426)に従いラット発達期ばく露を行い、脳をサンプリングして免疫組織学的検索、遺伝子発現解析を実施した。またTG426に従い行動試験を行った。
結果と考察
灌流装置とラット神経細胞を播種したMEA装置をマイクロ流路により連結し、培養液の灌流下でMEA計測が可能であることを明らかにした。これによりキネティクスを考慮したMEA計測の実現に前進できた。ヒトiPS細胞由来神経細胞の培養において強い細胞凝集が観察されたが、細胞解凍の際の分散を徹底した結果、凝集はほぼ見られなくなった。この知見はMEAにおける標準的な培養手順の確立に役立つ。MEAデータと細胞画像特徴量の相関をAIにより解析する手法の検討を進め、深層学習技術を用いて画像特徴量をモデル化する等により、安定した解析を行えることが見出された。AIを用いたMEAデータの解析において、最大発火周波数関連の新規4パラメータを予測に用いた結果、良好な神経毒性予測を行うことができた。これらにより、AIを活用したin vitroデータからの神経毒性予測に向けて前進した。
脳オルガノイド作製プロトコルを改良し、3週間にわたり安定したネットワークバーストを得ることに成功した。この知見は脳オルガノイドを用いたin vitro神経毒性予測手法の開発に役立つ。
化学構造式からコンピューターを用いて発達神経毒性を予測する手法として、分子記述子により化学構造の類似した物質の毒性予測を行うリードアクロス手法開発を進めた。in silico生物活性予測値を利用することで予測精度が向上すること、その際には対象とするエンドポイントとの関連性が高い変数を利用することが精度向上に寄与することが示唆された。
発達神経毒性のメカニズムが明らかでない物質として、イミダクロプリドについて発達神経毒性評価を実施した。イミダクロプリドは海馬において神経炎症と酸化ストレスを上昇させ、成体期における神経新生抑制を引き起こすことが示唆された。このような毒性メカニズムを検出するin vitro評価系の重要性が示唆された。
脳オルガノイド作製プロトコルを改良し、3週間にわたり安定したネットワークバーストを得ることに成功した。この知見は脳オルガノイドを用いたin vitro神経毒性予測手法の開発に役立つ。
化学構造式からコンピューターを用いて発達神経毒性を予測する手法として、分子記述子により化学構造の類似した物質の毒性予測を行うリードアクロス手法開発を進めた。in silico生物活性予測値を利用することで予測精度が向上すること、その際には対象とするエンドポイントとの関連性が高い変数を利用することが精度向上に寄与することが示唆された。
発達神経毒性のメカニズムが明らかでない物質として、イミダクロプリドについて発達神経毒性評価を実施した。イミダクロプリドは海馬において神経炎症と酸化ストレスを上昇させ、成体期における神経新生抑制を引き起こすことが示唆された。このような毒性メカニズムを検出するin vitro評価系の重要性が示唆された。
結論
キネティクスを反映した新たなin vitro試験法を目指し、BBBとMEAを連結した生体模倣システムを開発した。ヒトiPS神経を用いて神経ネットワーク活動をMEAにより記録してAI予測モデルを構築したところ、神経毒性の高い予測性を有することを明らかにした。また、化学構造に基づくin silico予測とin vitroデータを統合的に活用することにより、in vivo発達神経毒性の予測性向上を示唆する結果が得られた。In vivo実験により、神経炎症や酸化ストレスによる発達神経毒性メカニズムが示唆された。本研究により、in vitro、in silico手法の統合により発達神経毒性予測性の向上が可能であることが示唆された。
公開日・更新日
公開日
2025-05-28
更新日
-