法学的視点からみた社会経済情勢の変化に対応する労働安全衛生法体系に係る調査研究

文献情報

文献番号
202301011A
報告書区分
総括
研究課題名
法学的視点からみた社会経済情勢の変化に対応する労働安全衛生法体系に係る調査研究
課題番号
22AA2002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
一般社団法人 日本産業保健法学会(一般社団法人 日本産業保健法学会 )
研究分担者(所属機関)
  • 三柴 丈典(一般社団法人日本産業保健法学会)
  • 井村 真己(追手門学院大学 法学部)
  • 石崎 由希子(横浜国立大学大学院国際社会科学研究院)
  • 森 晃爾(産業医科大学 産業生態科学研究所産業保健経営学研究室)
  • 大幢 勝利(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所)
  • 吉川 直孝(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 研究推進・国際センター)
  • 平岡 伸隆(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 建設安全研究グループ)
  • 南 健悟(日本大学法学部)
  • 佐々木 達也(名古屋学院大学 法学部)
  • 阿部 理香(九州国際大学 法学部)
  • 長谷川 聡(専修大学 法学部)
  • 高木 元也(独立行政法人労働安全衛生総合研究所 新技術安全研究グループ)
  • 北岡 大介(東洋大学法学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
10,379,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
安全衛生法を学問分野にして分野の地位を向上させることを大目的として、以下の個別の目的及び手段を設定した。
①法の運用状況も含めた「来し方」の整理:安衛法に関する大部の体系書の発刊と執筆者の育成(政策提言が可能な法人材の継続的供給)
②有効な安全衛生法教育手法の開発:体系書から法の運用に関わる情報のみを抜き出したテキストの作成とそれ用いた研修の実施と効果の測定
産業保健法学については、②のうち研修と効果測定を先行して実施していたが、テキストも脱稿した近刊予定である。
また、この作業の過程で「生きた安衛法」というキーワードを編み出し、諸活動の基本理念とした。これは、法の形式に囚われず、法の作り手の思いと使い手の悩みを汲みとり、法の趣旨の現場浸透を図ろうとするものである。
研究方法
①については、法学等を専門とする分担研究者が各自、文献レビューで執筆した文案を研究班会議で報告し、現行安衛法の起案や運用に関わった班員らからの指摘を得て洗練させた。研究班会議は計30回ほど開催し、安全衛生の専門家からの諸報告も受けることで関係知識の共有も図った。
法令の運用実態については、先の研究プロジェクトで(元)行政官向けのアンケート調査を実施した他、本研究事業でも個別インタビューで詳しい情報を得て、条規の解説に盛り込んだ。判例情報データベースでヒットする主要な関係判例情報もほぼ全て盛り込み、そこから汲み取り得る示唆も付した。
研究統括者が全ての条文解説を再編要約し、2000頁程度の体系書のゲラが完成した。国際的にみても最も充実した安衛法の体系書になったと思われる。
②については、体系書から法の運用実態に関する部分のみを抜き出し、2000ページ程度の研修用テキストを作成した。この際、安全工学会、安全衛生コンサルタント会、日本化学工業協会から紹介された専門家へのインタビューによりテキスト内に技術解説、未然防止策や裁判例の評価を追記し、かつてないリアリズムにあふれたテキストとなった。
他方、教育工学者、統計学者、法学者、安全衛生関係者、医師、弁護士、人事担当者など多職種から成る企画運営委員会を組織し、1)カリキュラム、2)研修効果測定指標、を開発し、現在、数十名のグループに当該テキストを用いたe-learning、座学やワーク等を実施している。産業保健法学について昨年度に先行して実施し、受講前後と3ヶ月後の調査結果の比較により効果を測定した。基本的に主観調査ながら、実際の問題解決実績等も問うたほか、自由記述欄のテキストマイニング等も行ったところ、受講者の問題解決能力の向上が確認された。e-learningでの小テストの結果の上昇も確認された。
①②とは別途、(元)行政官向けのアンケート調査の回答のうち、法令改正提案につき研究班会議で検討し、妥当と思われるものを選別したうえで、安全衛生部等の所掌の担当課ごとに整理した。
結果と考察
体系書の完成により、安衛法政策の来し方が1冊の本に整理された。機械の検査、作業方法、作業主任者、安全管理者、その他安衛則所定の安全関係の危害防止基準に関する規定が重点的に監督指導されてきた一方、衛生(管理)に関する規定はあまり監督指導されず、規制趣旨を汲んだ対応を欠く企業も少なくなかった。特に中小企業における化学物質管理等でのリスクアセスメントが進まなかった。それでも、法に盛り込まれた要素(規制〔enforcement〕、技術〔engineering〕、教育〔education〕)、安全衛生管理体制の整備、危害防止基準の充実等は、労使ほか関係者の予防的行動に大いに影響した。関係事件では、具体的な法令の不遵守のケースが多いが、遵守していたのに被災したケースで、事業者らの民事過失責任が肯定された例も多い。もっとも、機械・船舶・建設安全、化学物質管理、過労等では事業者らの結果責任的な判断が多いが、受動喫煙、健診等では殆ど請求が認められていない。
これらの監督指導状況や司法判断に関する情報を踏まえた失敗学研修は、受講者による事前・事後の問題解決力の向上、組織での予防活動のリードに役立つ可能性が高いことが、産業保健法学研修の効果測定により明らかにされた。この際、人事関係者や人事を理解する法律家の関与の重要性が示唆された。現在進行中の安全衛生法学研修も、熱気をもって進められており、同様の結果を得られると予測される。
結論
体系書等の脱稿により、日本の安全衛生法政策について、その運用面を含めた「来し方」が整理され、今後の安全衛生法の検討の基礎が整った。「生きた法」の教育は、組織の安全衛生水準の引き上げに貢献する可能性が高いことも判明した。安衛法を学際的、国際的に研究する学会の設立と活動展開により、政策提言可能な人材の育成が図られつつある(これまでに関係の審議会委員2名、検討会委員2名を排出)。

公開日・更新日

公開日
2024-07-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2024-07-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202301011Z