小規模水供給システムの持続可能な維持管理に関する統合的研究

文献情報

文献番号
202227002A
報告書区分
総括
研究課題名
小規模水供給システムの持続可能な維持管理に関する統合的研究
課題番号
20LA1005
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
浅見 真理(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 禎彦(京都大学大学院 工学研究科 都市環境工学専攻)
  • 増田 貴則(国立保健医療科学院)
  • 牛島 健(地独)北海道立総合研究機構 建築研究本部北方建築総合研究所)
  • 小熊 久美子(東京大学大学院工学系研究科)
  • 中西 智宏(京都大学 工学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
7,341,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
給水人口が減少しつつある簡易水道や給水人口が100人以下の飲料水供給施設等の小規模水供給システムにあっては、飲料水を含む生活用水を供給する水道の施設・財政・維持管理・衛生確保の様々な面で多くの問題を抱え、水道の維持が困難となりつつある。このような地域においても、衛生的な水を持続的に供給可能とするための具体的方策を提案すべく、施設計画、処理、維持管理等について検討を行った。
研究方法
1)小規模水道・水供給システムの維持管理に関する経営シミュレーション、2)アンケート結果の解析による持続可能な小規模水供給の課題と対策、3)小規模水供給施設の実態と現実的な水質管理に関する調査、4)小規模水供給施設における衛生問題と微生物的安全確保に関する検討、5)管路の維持管理方法に関する検討、6)小規模水供給システム向け浄水処理装置の試行と維持管理モデル、7)小型紫外線消毒装置の基礎的知見の収集と実際への適用、8)小規模集落が管理する水供給システムに関する住民の金銭的負担と給水規模別維持管理状況の実態及び外部団体からの支援の可能性に関する解析、9)地域のプレイヤーが自律的に管理する小規模水供給システムのケーススタディおよび実践的取り組みを通じた支援体制について検討を行った。
結果と考察
1)人口の少ない簡易水道や小規模な水供給の今後のあり方を検討するため、人口5千人未満の過疎町村にある簡易水道におけるデータを基に、モデル地区での将来シミュレーションモデルの構築を行った。将来通常給水を行う場合は管路延長減の効果が大きく、運搬給水を行う場合では使用水量減の効果が大きい。今回のモデル地区での検討では、3地区を施設統合し運搬給水を導入することが費用負担的には有利となった。また、家庭に近い地点で浄水水質を確保する分散型の水道システムが、負担軽減、浄水施設管理の簡略化等に有効であるとも考えられた。
2)高知県が推進した「高知県版生活用水モデル開発事業」では、社会ニーズにマッチした2槽式緩速ろ過装置の新技術を創出することに成功しており、全国でも参考となると考えられた。水質検査の負担が大きい場合が有り、公的補助や助言の必要性が示唆された。
3)限定的な情報の下であるが、微生物的安全性確保アプローチ方法、分析手法の改良を行った。原水に適用した結果、13属24種の病原細菌の検出に成功し、土壌・水環境中の常在菌が主な病原細菌である可能性を示した。得られた知見をリスク評価に活用することで、必要な浄水処理レベルを精緻に評価できることを示した。
4)管内の堆積物の分析から、地域特有の管路維持管理作業が配水管内環境の制御に寄与した。
5)小型上向式ろ過装置では、実験室内ではろ層安定後は、濁度、微粒子残存率は安定し、濁度でほぼ90%、3µm以上の粒子で95%以上の安定した除去率が得られた。実地の実証実験では原水濁度の上昇(~50度)により、処理水の濁度上昇が確認された。紫外線照射によりろ過水の大腸菌を不活化できていることが確認されたが、ろ材支持部材に堆積物が確認された。
6)静岡市では関係者らの尽力により、水源取水装置、処理装置の改善が行われ、濁度が低く、安全性が高い水が安定的に供給されるようになった。研究が生かされ、UV-LED装置が実際に導入された事例などで維持管理体制の検討を行うことができた。
7)水供給システムに関する住民の金銭的負担として施設を敷設する際の財源や水道料金体系について整理・分析するとともに、集落規模別の維持管理状況の実態を分析した。
8)住民管理小規模水供給では、同規模の簡易水道事業と比較すると料金負担は安価であることが多い。また、少数ではあるが地方自治体やNPO団体の支援を活用しているケースがあった。国が最近創設した特定地域づくり事業協同組合制度も、小規模水道の維持管理作業を支援する枠組みとなる可能性がある。
9)広義の地域自律管理型小規模水供給システム維持管理手法について事例の蓄積を行うとともに、地域と需要者に根ざした自律的で持続性の高い水道の一つのモデルを提示した。地元高校生による運営支援体制として「富良野モデル」を構築し、必要なコスト、人工(にんく)、普及の方策について整理することができた。
結論
これらの知見から、小規模水供給の地域では、地域の状況に合わせ、広域化、施設統合、維持管理の容易な装置の導入、分散型装置設置、運搬給水等を検討するとともに、住民や各種団体等と連携した維持管理、貸借や維持管理を組み合わせた民間との協力等を検討し、取り組むことが必要と考えられた。県や近隣の自治体等との情報共有、連携の必要性も多く指摘されており、今後とも多様な事例の共有、連携が重要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2024-04-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-07-14
更新日
2024-03-28

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202227002B
報告書区分
総合
研究課題名
小規模水供給システムの持続可能な維持管理に関する統合的研究
課題番号
20LA1005
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
浅見 真理(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 禎彦(京都大学大学院 工学研究科 都市環境工学専攻)
  • 増田 貴則(国立保健医療科学院)
  • 牛島 健(地独)北海道立総合研究機構 建築研究本部北方建築総合研究所)
  • 小熊 久美子(東京大学工学系研究科)
  • 中西 智宏(京都大学 工学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
給水人口が減少しつつある簡易水道や給水人口が100人以下の飲料水供給施設等の小規模水供給システムにあっては、飲料水を含む生活用水を供給する水道の施設・財政・維持管理・衛生確保の様々な面で多くの問題を抱え、水道の維持が困難となりつつある。このような地域においても、衛生的な水を持続的に供給可能とするための具体的方策を提案すべく、施設計画、処理、維持管理等について検討を行った。
研究方法
 1)小規模水道・水供給システムの維持管理に関する経営シミュレーション、2)アンケート結果の解析による持続可能な小規模水供給の課題と対策、3)小規模水供給施設の実態と現実的な水質管理に関する調査、4)小規模水供給施設における衛生問題と微生物的安全確保に関する検討、5)管路の維持管理方法に関する検討、6)小規模水供給システム向け浄水処理装置の試行と維持管理モデル、7)小型紫外線消毒装置の基礎的知見の収集と実際への適用、8)小規模集落が管理する水供給システムに関する住民の金銭的負担と給水規模別維持管理状況の実態及び外部団体からの支援の可能性に関する解析、9)地域のプレイヤーが自律的に管理する小規模水供給システムのケーススタディおよび実践的取り組みを通じた支援体制について検討を行った。
結果と考察
1)小規模な水道に係る業務を行う地方自治体(都道府県、市、特別区)に対してアンケート調査を実施し、小規模な水道における把握状況等の実態把握を行った。また、小規模水供給システムの維持管理に関する経営シミュレーションを実施し、今後の最適な給水形態等を評価する一般的な手法を検討した。将来通常給水を行う場合は管路延長減の効果が大きく、運搬給水を行う場合では使用水量減の効果が大きく、条件により最適化の解が異なることが示された。
2)小規模な水道に係る業務を行う地方自治体(都道府県、市、特別区)に対してアンケート調査を実施し、小規模な水道における把握状況等の実態把握を行った。高知県、静岡県などでは、社会ニーズにマッチしたろ過装置などを創出することに成功しており、全国でも参考となると考えられた。水質検査の負担が大きい場合が有り、公的補助や助言の必要性が示唆された。
3)限定的な情報の下であるが、微生物的安全性確保アプローチ方法、分析手法の改良を行った。原水に適用した結果、13属24種の病原細菌の検出に成功し、土壌・水環境中の常在菌が主な病原細菌である可能性を示した。得られた知見をリスク評価に活用することで、必要な浄水処理レベルを精緻に評価できることを示した。
4)原水中の病原細菌のスクリーニング結果を踏まえたリスク評価によって、微生物的安全性を確保するために必要な浄水処理レベルについて検討を可能とした。
5)小型上向式ろ過装置では、実験室内ではろ層安定後は、濁度、微粒子残存率は安定し、濁度で安定した除去率が得られた。一方実地の実証実験では原水濁度の上昇により、処理水の濁度上昇が確認された。紫外線照射によりろ過水の大腸菌を不活化できていることが確認されたが、ろ材支持部材に堆積物が確認されるなど条件により適用が難しいことが示された。
6)静岡市などでは関係者らの尽力により、水源取水装置、処理装置の改善が行われ、濁度が低く、安全性が高い水が安定的に供給されるようになった。研究が生かされ、UV-LED装置が実際に導入された事例などで維持管理体制の検討を行うことができた。
7)水供給システムに関する住民の金銭的負担として施設を敷設する際の財源や水道料金体系について整理・分析するとともに、集落規模別の維持管理状況の実態を分析した。
8)住民が管理している水供給システムについての住民の金銭的負担や水道料金体系、給水戸数別の維持管理実態について把握するとともに、維持管理作業に関する外部団体からの支援の事例と可能性についてとりまとめた。
9)広義の地域自律管理型小規模水供給システム維持管理手法について事例の蓄積を行うとともに、地域と需要者に根ざした自律的で持続性の高い水道の一つのモデルを提示した。地元高校生による運営支援体制として「富良野モデル」を構築し、必要なコスト、人工(にんく)、普及の方策について整理することができた。
結論
これらの知見から、小規模水供給の地域では、地域の状況に合わせ、広域化、施設統合、維持管理の容易な装置の導入、分散型装置設置、運搬給水等を検討するとともに、住民や各種団体等と連携した維持管理、貸借や維持管理を組み合わせた民間との協力等を検討し、取り組むことが必要と考えられた。県や近隣の自治体等との情報共有、連携の必要性も多く指摘されており、今後とも多様な事例の共有、連携が重要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2024-04-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202227002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
小規模水供給の制度や現状を把握し、取り組みの方向性について検討を行った。また、小規模水供給の進展について、現地調査、発表等を行った。試作装置や現地に設置された処理施設等についてデータを取得し有効性を示した。小規模な水道に係る業務を行う地方自治体に対してアンケート調査を実施し、小規模な水道における把握状況等の実態把握を行った。また、小規模水供給システムの維持管理に関する経営シミュレーションを実施し、今後の小規模水供給のあり方に有効な給水形態等を評価する手法を検討した。
臨床的観点からの成果
病原微生物のリスクについて解析を行い、消毒の必要性等を指摘した。大腸菌の検出された原水に対して有効な浄水処理、消毒を行うなど有効な方法を提案した。オンサイトにおける処理技術は国際的にも有効であり、展開が期待される。
ガイドライン等の開発
小規模水供給のあり方について、令和5年6月の水道の諸問題に関する有識者検討会における検討の参考となるなど、今後の活用が期待される。
その他行政的観点からの成果
人口減少の進展に伴い、小規模水道や簡易水道の今後のあり方等の検討においても参考となると考えられる。
その他のインパクト
令和5年2月22日の小規模水供給のシンポジウムにおいては、約200名の参加があり、数社のビジネスモデルに反映された実例や現地の状況なども共有され、今後の展開が期待される。また、令和5年3月31日当研究に関連して、富良野高校、富川高校、北海道立総合研究機構、白石航希が「地域の水は自分たちで守る 地域ぐるみの水道維持管理支援」第25回日本水大賞厚生労働大臣賞を受賞した.

発表件数

原著論文(和文)
10件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
7件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
50件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
検討会での議論1件
その他成果(普及・啓発活動)
74件
著書、総説、講演、新聞記事等

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
中西智宏, 岸本如水, 小坂浩司他
浄水中微粒子による配水管内環境の形成過程のモデル化とその制御性
土木学会論文集 G (環境) , 75 (7) , III-53-III-63  (2019)
原著論文2
中西智宏,亀子雄大,周心怡他
配水管網における水道水の着色ポテンシャルからみた浄水中微粒子濃度の制御目標
土木学会論文集G(環境) , 77 (7) , III-311-III-319  (2021)
原著論文3
Zhou, X., Nakanishi, T., Echigo, S., et al.
Effect of hydraulic conditions on manganese accumulation by physical and chemical pathways in chlorinated water distribution system: A preliminary laboratory study
Water Supply , 22 (10) , 7576-7589  (2022)
原著論文4
増田貴則,堤晴彩,岩田千加良他
小規模集落が管理する水供給システムの維持管理・記録保存に関する実態調査
土木学会論文集G(環境) , 76 (7) , Ⅲ_33-Ⅲ_42  (2020)
原著論文5
小熊久美子, 渡邊真也
分散型水処理技術としての活用を想定した紫外発光ダイオード(UV-LED)装置の実証
水環境学会誌 , 43 (4) , 119-126  (2020)
https://doi.org/10.2965/jswe.43.119
原著論文6
Majid Keshavarzfathy, Yamato Hosoi, Kumiko Oguma, et al.
Experimental and computational evaluation of a flow-through UV-LED reactor for MS2 and adenovirus inactivation
Chemical Engineering Journal , 127058  (2020)
https://doi.org/10.1016/j.cej.2020.127058
原著論文7
渡邊真也,小熊久美子
紫外線照射が緑膿菌のバイオフィルム形成に及ぼす影響
土木学会論文集G(環境) , 77 (7) , III_93-III_102  (2021)
原著論文8
Oguma K, Rattanakul S
UV inactivation of viruses in water: its potential to mitigate current and future threats of viral infectious diseases
Japanese Journal of Applied Physics , 60 (11) , 110502-  (2021)
https://doi.org/10.35848/1347-4065/ac2b4f
原著論文9
伊藤禎彦,堀さやか
水道料金値上げに対する市民の容認度増大に係る要因分析
土木学会論文集G , 77 (4) , 132-143  (2021)
原著論文10
伊藤禎彦, 中山信希
情報提供による水道料金評価の改善効果に関する分析
水道協会雑誌 , 91 (10) , 2-15  (2022)
原著論文11
増田貴則,堤晴彩,浅見真理
小規模集落が管理する水供給システムの維持管理負担の実態および外部団体との連携・支援に関する調査
土木学会論文集G(環境) , 77 (7) , III-51-III-59  (2021)
原著論文12
Jack Jia Xin Song, Kumiko Oguma, Satoshi Takizawa
Inactivation kinetics of 280 nm UV‑LEDs against Mycobacterium abscessus in water
Scientific Reports , 13 , 2186-  (2023)
https://www.nature.com/articles/s41598-023-29338-w
原著論文13
渡邊真也, 小熊久美子
省電力長距離通信を利用した簡易無線モジュールによる小規模水供給施設の遠隔監視
水環境学会誌 , 46 (1) , 11-19  (2023)
原著論文14
小熊久美子
海外における小規模水供給施設の実態と課題
保健医療科学 , 71 (3) , 234-240  (2022)
原著論文15
Shinya Watanabe, Kumiko Oguma
A Simple and Practical Method for Fluence Determination in Bench-Scale UV-LED setups
Photochemistry and Photobiology , 99 (1) , 19-28  (2022)
https://doi.org/10.1111/php.13668

公開日・更新日

公開日
2023-06-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
202227002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,341,000円
(2)補助金確定額
7,341,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,025,193円
人件費・謝金 2,179,460円
旅費 1,408,102円
その他 728,588円
間接経費 0円
合計 7,341,343円

備考

備考
必要な物品の購入代金が交付決定額を上回ったため343円自己負担

公開日・更新日

公開日
2024-01-22
更新日
-