公衆衛生領域を中心とした自治体栄養士育成プログラム開発のための研究

文献情報

文献番号
202209007A
報告書区分
総括
研究課題名
公衆衛生領域を中心とした自治体栄養士育成プログラム開発のための研究
課題番号
20FA1008
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
由田 克士(大阪公立大学大学院 生活科学研究科 食栄養学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 澁谷 いづみ(愛知県瀬戸保健所)
  • 岡本 理恵(長沼 理恵)(金沢大学 医薬保健研究域保健学系)
  • 田中 和美(神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部)
  • 荒井 裕介(千葉県立保健医療大学 健康科学部)
  • 串田 修(静岡県立大学 食品栄養科学部)
  • 小山 達也(青森県立保健大学 健康科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
4,616,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 現任の自治体栄養士が考える10年後に目指す姿を実現するための、新しい育成プログラムの開発と研究終了時点での完成を目的とした。
研究方法
 初年度に実施した調査データを追加解析し、次の2点を検討した。1)市町村に勤務する行政栄養士の考える仕事の成果の継続性や後輩育成について、自由記述の内容分析を行った。また、市町村の行政栄養士がスキルアップするために必要な研修及び環境・体制整備に関する検討も実施した。2)自治体栄養士におけるプラトーと基本属性、自己研鑽、将来展望との関連についても検討した。
 また、自治体栄養士のキャリアラダーモデルの整理とスキルアップしたい能力に対応した既存研修の整理を行い、その上で、新しい自治体栄養士養成プログラム試行研修会(対面対応・遠隔対応の両者)の実施とそれに伴う受講者からの意見や評価を求めた。
結果と考察
 保健所設置市を除く市町村に勤務する行政栄養士を対象に、地域の健康づくりの勤務年数や仕事の成果の継続性や後輩育成に関する設問を含むアンケート調査をウェブ上で実施した。1,031名(新任期731名、中堅期183名、リーダー期117名)から回答があった。地域の健康づくりの勤務年数と仕事の成果の継続性や後輩育成の記述との関連はあまり認められなかった。また、仕事の成果の継続性や後輩育成として「職場学習」、「連携体制づくり」、「地域の実態把握」が上位に記述された。一方で仕事の成果の継続性や後輩育成の課題も記述された。都道府県や職能団体、関連団体と連携しながら、市町村に勤務する行政栄養士の課題解決のための支援を実施していくことが必要と考察された。
 階層的プラトーは「従前からの慣例で昇任できる職位は決まっている」と「自身に昇任するだけの学力や能力は備わっていないと思う」、職務内容プラトーは「幅広く自治体の行政に関わり、大局的な視点から業務を行いたい(逆転項目)」と「昇任することで、過大な責任を負いたくない」のそれぞれ2項目を設定した。1,806名の回答者のうち、健康づくりの経験がない者や解析項目の欠損者を除外した1,419名を解析対象とした。職務内容プラトーは、年齢の若さや大学院の未進学のような基本属性のほか、関連学術団体の非入会や研修参加の非参加といった自己研鑽の少なさとも関連していた。また、階層的プラトーと職務内容プラトーは、ともに将来展望の未設定と関係する可能性が示唆された。 
 一方、自治体栄養士のキャリアラダーモデルを整理するとともに、そこに示すスキルアップしたい能力に対応した既存研修の整理を行った。国、自治体、職能団体、栄養及び公衆衛生分野の関係学会が主催するものであり、何れもキャリアラダーモデルに基づく能力のスキルアップが見込める研修として抽出を行った。この結果、自治体栄養士として期待される能力(コンピテンシー)を10のカテゴリーに分けた「スキルアップしたい能力」として、新任期、中堅期、管理期に応じて整理した。既存研修は39の研修が抽出され、実施主体の特徴に応じて整理し、受講時期、スキルアップしたい10の能力に応じた研修が複数開催されていることを確認した。
 試行研修会に参加した自治体栄養士からは概ね良好な意見・評価が得られた。中でも、自己効力感や自己肯定感を持って業務を展開するための対応や戦略、さまざまな組織に打ち込みながらの連携、業務の内容や範囲を拡大するための考え方や戦略などについては、高い関心が認められた。対面対応と遠隔対応には、それぞれに長所と短所が認められるが、遠隔対応については、離島や都道府県庁所在地から離れた遠隔地で勤務する者、いわゆる1人職種1人配置の自治体栄養士にとっては、研修の機会を増加させることが可能であることから、今後、更なるニーズへの対応とプログラムの工夫や充実が必要と考察された。
結論
 一連の調査結果の取り纏めにより、現任の自治体栄養士が考える10年後に目指す姿を実現するために必要な研修プログラムの概要や課題は概ね確認・把握できた。
 そのうえで、従来の研修プログラムでは殆ど対応できていない新しい内容・分野のプログラムを研究班として整理・提案し、自治体栄養士を対象に試行研修会(対面・遠隔)を開催した。参加者からは概ね良好な意見・感想が得られた。特に自己効力感や自己肯定感を持って業務を展開するための対応や戦略、さまざまな組織に打ち込みながらの連携、業務の内容や範囲を拡大するための考え方や戦略などには、高い関心が認められる。対面対応と遠隔対応にはメリットとデメリットがあるが、後者は離島や都道府県庁所在地から離れた遠隔地で勤務する者、いわゆる1人職種1人配置の自治体栄養士には、研修の機会を増加させることに繋がるため、今後、更なるニーズへの対応とプログラムの工夫や充実が必要である。

公開日・更新日

公開日
2023-08-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
その他
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-08-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202209007B
報告書区分
総合
研究課題名
公衆衛生領域を中心とした自治体栄養士育成プログラム開発のための研究
課題番号
20FA1008
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
由田 克士(大阪公立大学大学院 生活科学研究科 食栄養学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 澁谷 いづみ(愛知県瀬戸保健所)
  • 岡本 理恵(長沼 理恵)(金沢大学 医薬保健研究域保健学系)
  • 田中 和美(神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部)
  • 荒井 裕介(千葉県立保健医療大学 健康科学部)
  • 串田 修(静岡県立大学 食品栄養科学部)
  • 小山 達也(青森県立保健大学 健康科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 現任の自治体栄養士が考える10年後に目指す姿を実現するための、新しい育成プログラムの開発を目的とする。
研究方法
 1年目には、主な保健関連職種のキャリアラダー等に基づく人材育成プログラムに関する文献や各種資料のレビュー、現在行われている自治体栄養士向けの研修プログラム等に関する情報の整理を行った。また、10年後の自治体栄養士のあるべき姿、自治体栄養士の育成に関する現状の問題点やそれらを改善するために求められる対応、関連組織のあり方等についても意見を集約した。
 2年目には、前年の調査結果をべースに実態や課題に応じ、公衆衛生領域を中心とした自治体栄養士のキャリアラダーモデルとそれに基づく新たな人材育成プログラムの素案を作成した。また、自治体病院や社会福祉施設等との異動についても考慮した。
 3年目には、調査済みデータを追加解析し、市町村に勤務する行政栄養士の考える仕事の成果の継続性や後輩育成について、自由記述の内容分析を行った。また、市町村の行政栄養士がスキルアップするために必要な研修及び環境・体制整備に関する検討も実施した。さらに、自治体栄養士におけるプラトーと基本属性、自己研鑽、将来展望との関連についても検討した。次に、自治体栄養士のキャリアラダーモデルの整理とスキルアップしたい能力に対応した既存研修の整理を行った。その上で、新しい自治体栄養士養成プログラム試行研修会(対面対応・遠隔対応の両者)の実施とそれに伴う受講者からの意見や評価を求めた。
結果と考察
 主な保健関連職種人材育成プログラムについて、日本薬剤師研修センターは研修認定薬剤師制度を実施し、日本歯科衛生士会は生涯研修制度と認定歯科衛生士制度を設けていた。また、自治体栄養士に求められるキャリアが保健師に近い場合、プログラムの作成計画にあたり「自治体保健師の標準的なキャリアラダー」を参考にする他、基準関連妥当性として活用することも可能であると考えられた。
 都道府県、保健所設置市、特別区に勤務する行政栄養士を対象とした調査では、自身の将来について、昇任して施策の展開や組織定員の増加を目指したいという積極的な意見が上位にあがる一方で、「自身に昇任するだけの学力や能力は備わっていない」、「育児や介護を優先したいので、無理に昇任したくない」という意見も多数認められた。自身の将来は、「栄養のスペシャリストとして、昇任して業務を行いたい」が最も回答が多く、地域住民の健康づくりを担うという行政栄養士本来の業務を継続して担うことを目指している行政栄養士が多く存在すると推察できる。市町村に勤務する行政栄養士の調査では、自身の将来性の方向は、「栄養のスペシャリストとして、今後も業務を続けたい」と回答する者が最も多く、将来にとってスキルアップしなければならない内容として「専門能力」と回答した者が多かった。
 自治体栄養士のキャリアラダーモデルを整理し、示されているスキルアップしたい能力に対応した既存研修の整理を行った。国、自治体、職能団体、関連学会が主催するものがあり、何れもキャリアラダーモデルに基づく能力のスキルアップが見込める研修として抽出を行った。自治体栄養士として期待される能力を10のカテゴリーに分けた「スキルアップしたい能力」として、新任期、中堅期、管理期に応じて整理した。既存研修は39の研修が抽出され、実施主体の特徴に応じて整理し、受講時期、スキルアップしたい10の能力に応じた研修が複数開催されていることを確認した。
 試行研修会の参加者からは概ね良好な意見・評価が得られた。特に自己効力感や自己肯定感を持って業務を展開するための対応や戦略、他組織に打ち込みながらの連携、業務の内容や範囲を拡大するための考え方や戦略等に高い関心が認められた。対面対応と遠隔対応には、それぞれ長所と短所があるが、遠隔対応は、遠隔地で勤務する者や1人職種1人配置の自治体栄養士に対して、研修の機会を増加させることにも繋がることことから、更なるニーズへの対応と内容の工夫や充実が必要と考察された。
結論
 新しい自治体栄養士養成プログラムの具体的な枠組みとしては、新任期、中堅期、管理期に応じ、従来の研修プログラムでは殆ど取り上げられてこなかった内容(自己効力感や自己肯定感を持って業務を展開するための対応や戦略、さまざまな組織に打ち込みながらの連携、業務の内容や範囲を拡大するための考え方や戦略)と、自治体栄養士自分自身が目指す姿に到達するために必要な研修(既存の研修内容)を自ら選択し受講するサンドイッチ方式とすることが望まれる。
 また、自治体内の他分野(臨床、福祉、教育など)との移動が生じた場合には、見かけ上の勤務歴には関わらず、本研究班が取りまとめた方式に沿って必要な研修を選択することが必要である。

公開日・更新日

公開日
2023-08-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
その他

公開日・更新日

公開日
2023-08-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202209007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 自治体栄養士の資質向上に関する検討については、従来、専門の研究者や実務者の代表者等による、いわゆる「あるべき論」やコンピテンシーの収集や取り纏めが行われてきた。これらによる知見や指摘は、一定の効果があったものと考えられるが、広く自治体栄養士の実態や意見を反映仕切れていないと考えられる。
 本研究では全国の衛生主管部局に対する調査や自治体栄養士に対する悉皆調査を通じて、より詳細な現状や課題、意見や要望を把握したうえで新しい自治体栄養士養成プログラムを開発している。より高い効果が期待できる。
臨床的観点からの成果
 本研究は、臨床的観点の内容を取り扱っていない。
ガイドライン等の開発
 研究終了時において、何らかのガイドライン等に直接結びついていないが、次年度以降、各自治体、職能団体、関連学術団体等における自治体栄養士養成プログラムの中に、本研究で得られた知見が反映される見込みである。
その他行政的観点からの成果
 公衆衛生領域を中心とした自治体栄養士の資質向上は、国民の生活習慣病の予防、介護予防、医療費の適正化だけではなく、持続可能な開発目標(SDGs)の推進にも望ましい影響を与える。今回開発した養成プログラムがさまざまな組織や機関によって広く活用されることが望まれる。
その他のインパクト
 本研究開発されたプログラムの内容や教材の一部については、ホームページを立ち上げて、適宜、活用することが可能な環境を構築する。また、研究班として、報告書とは別に「自治体栄養士養成プログラム立案のための参考資料・事例集」も作成した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tatsuya Koyama, Yusuke Arai, Ayaka Iida; et al.
Impressions and Turning points of Japanese public health dietitians: a web-based crosssectional study
Asian Journal of Dietetics , Vol.4 (No.4) , 83-89  (2022)

公開日・更新日

公開日
2023-06-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
202209007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,000,000円
(2)補助金確定額
6,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,131,740円
人件費・謝金 154,102円
旅費 1,385,738円
その他 944,420円
間接経費 1,384,000円
合計 6,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2023-09-20
更新日
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