文献情報
文献番号
202121002A
報告書区分
総括
研究課題名
肝炎ウイルス感染状況の把握及び肝炎ウイルス排除への方策に資する疫学研究
課題番号
19HC1001
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
田中 純子(広島大学 大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学)
研究分担者(所属機関)
- 佐竹 正博(日本赤十字社中央血液研究所)
- 相崎 英樹(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
- 保坂 哲也(国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 肝臓内科)
- 鳥村 拓司(久留米大学医学部内科学講座消化器内科部門)
- 山崎 一美(独立行政法人国立病院機構長崎医療センター臨床研究センター)
- 日野 啓輔(川崎医科大学 肝胆膵内科学)
- 宮坂 昭生(岩手医科大学 医学部 内科学講座 消化器内科肝臓分野)
- 島上 哲朗(金沢大学 附属病院 地域医療教育センター)
- 菊地 勘(医療法人社団豊済会 下落合クリニック)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
39,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
わが国の肝炎ウイルス感染状況の把握及び感染後・排除後の長期経過に関する疫学研究を実施し、政策の企画立案、基準策定のための科学的根拠にもとづく基礎資料の獲得をめざすとともに、ウイルス肝炎排除への方策提示を目的とする
研究方法
基礎医学、臨床医学、社会医学の専門家の参加を得て組織的に実施する
結果と考察
・長崎離島全住民スクリーニング1980-2017年により見いだされたHBVコホート910名のHBV部分解析及び全ゲノム解析。96.8%がGenotypeC2、系統樹上に複数の集積集団が認められ中国由来のものが存在した。また、肝発がんに関連する変異を見いだした
・高齢者福祉施設4施設の入所者255人および職員551人を対象とした血清疫学調査研究の結果、入所者のHBsAg陽性率は0.4%、HCV RNA陽性率は1.2%、職員はいずれも0%。標準予防策の職員の手袋装着率は95.6%であり、感染予防対策の適切な実施が推察された
・薬物乱用歴のある精神科患者集団35名を対象とした血清疫学調査研究の結果、HCV RNA陽性率28.6%(10/35中)であった。陽性者10人は過去に肝炎ウイルス検査を受検していたが、そのうち70%は精査へ80%は治療へとつながっておらず課題と考えられた
・肝がん死亡の地理的分布に関する研究:2016-2020年における肝癌標準化死亡比SMR、ベイズ型標準化死亡比EBSMRを市区町村別に推定し肝癌死亡の疾病地図を作成、1971-2020年50年間の資料集を提示
・無作為抽出一般住民のうち希望者488人に対し、肝臓エコー検査とFibroScan検査を実施、脂肪肝の有病率は62.1%とこれまでの報告の2倍の水準、肝硬変(Fibroscan判定)は1.0%。肝線維化初期の拾い上げに関してFIB4-indexとⅣ型コラーゲン7Sの評価を試みた結果、Ⅳ型コラーゲン7Sの方が適している可能性が示唆された
・COVID-19パンデミックが肝炎対策に与えた影響について、日本肝臓学会に所属する医師を対象に米国Task Forceの調査票をアレンジしたWEBアンケート調査を実施、196人から回答を得た。日本では諸外国と比べ肝炎対策への影響は小さく、受検・受診への影響が受療・フォローへの影響よりも大きい特徴があり、受検促進と治療へのリンケージの重要性が示唆された
・国民調査による2020年度肝炎ウイルス検査経験率はHBV 71.1%、HCV 59.8%と2017年度調査から変化なし、一方、認識受検率は、HBV17.1%、HCV15.4%と2017年度より低値。国民の61%はかかりつけ医があり高齢集団は89%と高い。検査陽性のうち89%は医療機関を受診。その74%は最終的に肝臓専門医を受診。健康診断で要精密検査となった場合、かかりつけ医を受診 全年齢47.7%60歳以上56-72%が高い、一方39歳以下では家族友人に相談48-59%、インターネットで情報収集47%が高く年代の違いがみられた
・都道府県別・肝炎対策の取組みの可視化。2018~2020年度自治体調査、肝癌死亡数・率、肝炎ウイルス検査受検率等、また、WHO HCV Elimination関連の疫学指標5を集計し、レーダーチャート/ヒートマップを作成。都道府県あるいは市町村ごと、対策の課題抽出として有用と考えられた
・2025年に慢性肝炎に治療適用の抗HBV新薬(HBV排除率60%、治療受療割合50%)が導入仮定により10万人程度減少する(661,701~716,196人)と推定。2015年のHBVキャリアのうち71%が無症候性であることから、2030年までのHBV Eliminationのためには治療対象を無症候性キャリアまで拡大した新薬の開発が必要
・日赤献血者集団および輸血後感染率。医療と関連したHCV感染の有無を明らかにするための3.5年間の前向きコホート全数調査(入院時2069人分、退院後1254人分)。感染例はゼロ、院内HCV感染に関する大規模調査の必要はないと考えられた。
・透析患者における全国調査より(2006-2007年)HCV抗体陽転化率は0.99/100人年と依然として高率。透析施設における感染予防のガイドライン改訂(令2)、DAA治療の推奨を行った。抗体陽性透析患者中のHCV RNA陽性率は37.5%(平30)から23.7%(令3)にまで低下。
・急性C型肝炎のサーベイランス情報報告数は2000年以後減少傾向、2009年以後23-41人と一定。モデル自治体で2012年以後肝炎ウイルス検査陽性者に繰り返し受診勧奨を行い、肝疾患専門医療機関受診率は35%から2019年HBV・HCV、80%・90%に上昇
・高齢者福祉施設4施設の入所者255人および職員551人を対象とした血清疫学調査研究の結果、入所者のHBsAg陽性率は0.4%、HCV RNA陽性率は1.2%、職員はいずれも0%。標準予防策の職員の手袋装着率は95.6%であり、感染予防対策の適切な実施が推察された
・薬物乱用歴のある精神科患者集団35名を対象とした血清疫学調査研究の結果、HCV RNA陽性率28.6%(10/35中)であった。陽性者10人は過去に肝炎ウイルス検査を受検していたが、そのうち70%は精査へ80%は治療へとつながっておらず課題と考えられた
・肝がん死亡の地理的分布に関する研究:2016-2020年における肝癌標準化死亡比SMR、ベイズ型標準化死亡比EBSMRを市区町村別に推定し肝癌死亡の疾病地図を作成、1971-2020年50年間の資料集を提示
・無作為抽出一般住民のうち希望者488人に対し、肝臓エコー検査とFibroScan検査を実施、脂肪肝の有病率は62.1%とこれまでの報告の2倍の水準、肝硬変(Fibroscan判定)は1.0%。肝線維化初期の拾い上げに関してFIB4-indexとⅣ型コラーゲン7Sの評価を試みた結果、Ⅳ型コラーゲン7Sの方が適している可能性が示唆された
・COVID-19パンデミックが肝炎対策に与えた影響について、日本肝臓学会に所属する医師を対象に米国Task Forceの調査票をアレンジしたWEBアンケート調査を実施、196人から回答を得た。日本では諸外国と比べ肝炎対策への影響は小さく、受検・受診への影響が受療・フォローへの影響よりも大きい特徴があり、受検促進と治療へのリンケージの重要性が示唆された
・国民調査による2020年度肝炎ウイルス検査経験率はHBV 71.1%、HCV 59.8%と2017年度調査から変化なし、一方、認識受検率は、HBV17.1%、HCV15.4%と2017年度より低値。国民の61%はかかりつけ医があり高齢集団は89%と高い。検査陽性のうち89%は医療機関を受診。その74%は最終的に肝臓専門医を受診。健康診断で要精密検査となった場合、かかりつけ医を受診 全年齢47.7%60歳以上56-72%が高い、一方39歳以下では家族友人に相談48-59%、インターネットで情報収集47%が高く年代の違いがみられた
・都道府県別・肝炎対策の取組みの可視化。2018~2020年度自治体調査、肝癌死亡数・率、肝炎ウイルス検査受検率等、また、WHO HCV Elimination関連の疫学指標5を集計し、レーダーチャート/ヒートマップを作成。都道府県あるいは市町村ごと、対策の課題抽出として有用と考えられた
・2025年に慢性肝炎に治療適用の抗HBV新薬(HBV排除率60%、治療受療割合50%)が導入仮定により10万人程度減少する(661,701~716,196人)と推定。2015年のHBVキャリアのうち71%が無症候性であることから、2030年までのHBV Eliminationのためには治療対象を無症候性キャリアまで拡大した新薬の開発が必要
・日赤献血者集団および輸血後感染率。医療と関連したHCV感染の有無を明らかにするための3.5年間の前向きコホート全数調査(入院時2069人分、退院後1254人分)。感染例はゼロ、院内HCV感染に関する大規模調査の必要はないと考えられた。
・透析患者における全国調査より(2006-2007年)HCV抗体陽転化率は0.99/100人年と依然として高率。透析施設における感染予防のガイドライン改訂(令2)、DAA治療の推奨を行った。抗体陽性透析患者中のHCV RNA陽性率は37.5%(平30)から23.7%(令3)にまで低下。
・急性C型肝炎のサーベイランス情報報告数は2000年以後減少傾向、2009年以後23-41人と一定。モデル自治体で2012年以後肝炎ウイルス検査陽性者に繰り返し受診勧奨を行い、肝疾患専門医療機関受診率は35%から2019年HBV・HCV、80%・90%に上昇
結論
上記、得られた知見は研究目的に適う
公開日・更新日
公開日
2023-03-07
更新日
-