健康診査・保健指導における健診項目等の必要性、妥当性の検証、及び地域における健診実施体制の検討のための研究

文献情報

文献番号
202109007A
報告書区分
総括
研究課題名
健康診査・保健指導における健診項目等の必要性、妥当性の検証、及び地域における健診実施体制の検討のための研究
課題番号
19FA1008
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 智教(慶應義塾大学 医学部 衛生学公衆衛生学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 磯 博康(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 国際医療協力局)
  • 津下 一代(丹羽 一代)(女子栄養大学 栄養学部)
  • 三浦 克之(国立大学法人滋賀医科大学 社会医学講座公衆衛生学部門)
  • 宮本 恵宏(国立研究開発法人 国立循環器病研究センター オープンイノベーションセンター)
  • 小池 創一(自治医科大学 地域医療学センター地域医療政策部門)
  • 立石 清一郎(産業医科大学  両立支援科学)
  • 荒木田 美香子(川崎市立看護短期大学 看護学部)
  • 由田 克士(大阪市立大学大学院 生活科学研究科 食・健康科学講座)
  • 後藤 励(慶應義塾大学 経営管理研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
20,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、脳・心血管疾患等の発症リスクを軽減させるための予防介入のあり方を最新のエビデンスを踏まえて検討し、今後の健診・保健指導の見直しに必要な科学的根拠を得る。
研究方法
健診でスクリーニングされる病態等は、予防介入が可能であることを前提とし、期待される脳・心血管疾患や糖尿病の相対リスクや絶対リスクの減少も考慮して、健診項目、対象者の範囲、保健指導の内容などを検討してきた。
結果と考察
本年度(三年計画の最終年度)の研究成果を概括すると
以下の通りである。1)高血圧や脂質異常症などへの受診勧奨は肥満度と関連なく実施されるべきだが、実際は肥満者の受療率が高かった。2)保健指導の階層化に用いる追加リスク(血圧とトリグリセライド)の基準を最新の診療ガイドラインの基準に変更しても、少なくとも国民健康保険の集団では保健指導対象者の割合には大きな変化はなかった、3)インピーダンス法を用いた内臓脂肪面積(Visceral Fat Area, VF は健常者の高感度CRP の高値やシスタチンC を用いた腎機能の低下と関連していた。4)住民集団に指先採血キットの利用を呼びかけると約半数が検査を希望し、診療情報提供書の発行にも繋がることが示された5)National Data Base(NDB)を用いて特定健診の受診回数と循環器疾患の傷病名を伴う新規の入院発生との関連を保険種管掌別(国民健康保険:市町村国保 / 国保組合、組合管掌健康保険、共済組合)に検討した。その結果、国保では受診回数が多いほど入院率が低いことが示された。6) 高血圧治療ガイドライン2019 での基準値変更により「正常高値」該当者は7-9 ポイント増加したが、130/80 以上における循環器疾患発症リスクの上昇は血圧値 130-139/85-89 と同程度であった。7) NT-proBNP は高血圧治療群等の循環器疾患の発症を予測するが、追跡期間が短いためさらなるエビデンスの蓄積が必要である。8)上腕足首間脈波伝播速度(baPWV)、頸動脈内膜中膜複合体厚(IMT)は古典的な危険因子を調整しても循環器疾患の発症を予測するが、被験者の治療方針の変更を示唆させるほどのインパクトは示せず、今後、これらの検査が発症リスク予測能を最も高める最適な検査対象集団を明らかにしていく必要がある。9)特定健診は対象年齢よりも若い年代で開始した方が有効である可能性、勤務者集団のリスク管理には交替制勤務にも留意する必要があることが示された、10)身長は腹囲と関連があるため、メタボリックシンドロームに関して、低身長でのハイリスク者の見落とし、高身長での過剰診断の可能性が示唆された、11)費用対効果分析により、モデル集団の40 歳の保健指導実施者と非実施者の死亡または90 歳になるまでの50 年間の保健指導の効果について検証した。増分費用は-72,548 円、増分QALY(Quality-adjusted life year)は 0.403、増分費用効果比(Incremental cost-effectiveness ratio: ICER)はDominant(非実施群よりも実施群の費用が低く、効果が高い)であることを示した。
結論
本研究班の結果、現状の特定健診の有用性とともに改善すべき方向性もいくつか示された。特定健診は全保険者に義務化された制度であり、国民皆保険であるわが国ではすべての国民の生活に影響を与える制度である。激変を伴う変更は望ましくないが、最新の科学的知見に基づいて可能な部分から順次見直しを進めていくべきである。

公開日・更新日

公開日
2022-11-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
その他
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2022-11-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202109007B
報告書区分
総合
研究課題名
健康診査・保健指導における健診項目等の必要性、妥当性の検証、及び地域における健診実施体制の検討のための研究
課題番号
19FA1008
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 智教(慶應義塾大学 医学部 衛生学公衆衛生学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 磯 博康(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 国際医療協力局)
  • 津下 一代(丹羽 一代)(女子栄養大学 栄養学部)
  • 三浦 克之(国立大学法人滋賀医科大学 社会医学講座公衆衛生学部門)
  • 宮本 恵宏(国立研究開発法人 国立循環器病研究センター オープンイノベーションセンター)
  • 小池 創一(自治医科大学 地域医療学センター地域医療政策部門)
  • 立石 清一郎(産業医科大学  両立支援科学)
  • 荒木田 美香子(川崎市立看護短期大学 看護学部)
  • 由田 克士(大阪市立大学大学院 生活科学研究科 食・健康科学講座)
  • 後藤 励(慶應義塾大学 経営管理研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、脳・心血管疾患等の発症リスクを軽減させるための予防介入のあり方を最新のエビデンスを踏まえて検証し、今後の健診・保健指導の見直しに必要な科学的根拠を得る。
研究方法
健診でスクリーニングされる危険因子等は、将来の脳・心血管疾患や腎不全の発症等を予測し、かつ保健指導や早期受診による予防介入が可能であることを前提とした。そして期待されるリスクの低下も考慮して、健診項目、検査手技、対象者の抽出方法から保健指導への接続、関連法規、他制度との連携など幅広い内容を検討した。本研究は、文献レビュー、コホート研究の実地調査、コホート研究集団とそれ以外の集団の既存情報の解析を主な研究手法とした。
結果と考察
三年間に以下の点を明らかにした。1)わが国および主要国の診療ガイドライン、疾患発症予測ツール等を検証して、健診の基幹項目が、高血圧、糖尿病、脂質異常症(特に高LDL コレステロール血症)、喫煙の把握とその介入であることを示した。2)基幹項目以外の基本項目はγ-GTP や基本項目のみから計算できるfatty liver indexなど有用であった。3)既存の詳細な項目のうち安静時心電図検査と眼底検査の目的と選定基準は明確であった。4)詳細項目のクレアチニンの目的と選定基準は明確であったが、採血検査は選択検査として行うのは運用上の問題がある。貧血検査の意義は明確ではなかった。5) 新規の検体検査の候補は、血液検査では、BNP(NT-proBNP)、高感度CRP、脂質詳細検査(変性・酸化LDL、sdLDL)、シスタチンCによる腎機能検査、尿検査としては微量アルブミン、尿中ナトリウム・カリウム比である。いずれも既存の項目に加えて脳・心血管疾患などの発症予測能を上昇させるなどの有用性は認めたが、現時点で日本人の非患者集団でのエビデンスは乏しい。6) 新規の生理検査の候補としては、上腕足首間脈波伝播速度計測 (baPWV)、頸動脈超音波検査、Augmentation Index(AI)の検証を行った。いずれも脳・心血管疾患の発症を予測能は向上させるが、被験者のリスク管理区分を変更させるほどの影響力はなく、これらの検査を実施すべき最適な対象集団を明らかにしていく必要がある。7) インピーダンス法を用いた内臓脂肪面積は腹囲だけで発見できない内臓脂肪蓄積を発見できる可能性があり、今後前向き研究での検証等が必要である。8) National Data Base(NDB)を用いて特定健診の受診回数と循環器疾患の傷病名を伴う新規の入院発生との関連を保険種別に検討した結果、健診の受診に労働安全衛生法の強制力が働かない国保の集団では、受診回数が多いほど入院率が低い傾向を示した。9) 指先採血キットの測定精度は比較的高く、地域住民集団にキットの利用を呼びかけると約半数が検査を希望し、診療情報提供書の発行に繋がることが示された。10)特定健診は対象年齢よりも若い年代で開始した方が有効である可能性が示唆された。11) 産業医の業務の性質上、特定健診・特定保健指導の業務は増やしにくい。また勤務者集団のリスク管理には交替制勤務にも留意する必要がある。12)身長は腹囲と関連するため、低身長でのハイリスク者の見落とし、高身長での過剰診断の可能性が示唆された。13) 保健指導の階層化に用いる追加リスク(血圧とトリグリセライド)の基準を最新の診療ガイドラインの基準に変更しても、保健指導対象者の割合には大きな変化はなかった(特に国保)。14) 様々な健診制度を設置した目的には法的な違いがあるが、生涯を通じた健康づくりを進めていくためには、設置の趣旨を関係者が共有できるような情報発信を行うことが重要である。15)国民健康保険被保険者集団においてレセプト情報に基づく高次元傾向スコアマッチングを行い、健診受診者は未受診者に比べて脳・心血管疾患発症リスクが26%低いことが示された。16)費用対効果分析により、モデル集団の40 歳の保健指導実施者と非実施者の死亡または90歳になるまでの50年間の保健指導の効果について検証した。増分費用は-72,548 円、増分QALYは0.403、増分費用効果比はDominantであることが示された。
結論
本研究班の結果、現状の特定健診項目や検査手技の有用性が改めて明らかになると同時に、今後、改善すべき方向性もいくつか示すことができた。特定健診は全保険者に義務化された制度であり、国民皆保険であるわが国ではすべての国民の生活に影響を与える制度である。保険者等への負担を考えると激変を伴う大きな変更は望ましくないが、最新の科学的知見に基づいて可能な部分から順次見直しを進めていくべきであろう。

公開日・更新日

公開日
2022-11-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
その他

公開日・更新日

公開日
2022-11-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202109007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(1)研究成果: J Atheroscler Thromb. 2022; 29(2): 188-199など計60本の論文を公表。
(2)研究成果の学術的・国際的・社会的意義
予防目標を脳・心血管疾患や腎不全に置いた場合、どのような危険因子のスクリーニングを、どのように実施するのが最適化であるのかを明らかにしてきた。検討の対象は、現状の基本的な健診項目、詳細な健診項目、新規導入が望ましい新規項目候補の検証まで幅広く実施し、文献レビュー、既存の疫学データの解析、新規の疫学調査という三つの手法を用いた。
臨床的観点からの成果
(1)研究成果: J Atheroscler Thromb. 2020; 27(11):1160-1175(新吹田スコア)など計60本の論文を公表(論文数は専門的・学術的観点からの成果と共通)。
(2)研究成果の臨床的・国際的・社会的意義
健診項目の脳・心血管疾患等の疾患発症予測能、健診受診と疾患発症の関連、特定健診の費用対効果など様々な課題を明らかにした。
ガイドライン等の開発
厚生労働省保険局第4期特定健診・特定保健指導の見直しに関する検討会の背景となるエビデンスを提供した(第1回検討会、2021年12月9日)。
その他行政的観点からの成果
本研究班の検討事項をベースにして厚生労働省健康局に特定健診の改訂のための「健康増進に係る科学的な知見を踏まえた技術的事項に関するワーキング・グループ」が設置されることになった(ワーキング・グループの設置は翌年度:
2022年度から)。
その他のインパクト
特記事項なし。

発表件数

原著論文(和文)
10件
原著論文(英文等)
50件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
第4期特定健診・特定保健指導
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2022-11-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
202109007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
26,500,000円
(2)補助金確定額
26,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,635,868円
人件費・謝金 7,857,510円
旅費 783,945円
その他 8,116,774円
間接経費 6,115,000円
合計 26,509,097円

備考

備考
自己資金:9,097円

公開日・更新日

公開日
2022-11-01
更新日
-