文献情報
文献番号
202027025A
報告書区分
総括
研究課題名
宮城県における東日本大震災被災者の健康状態等に関する調査
研究課題名(英字)
-
課題番号
H25-健危-指定(復興)-002
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
辻 一郎(東北大学 大学院医学系研究科 公衆衛生学専攻)
研究分担者(所属機関)
- 押谷 仁(東北大学 大学院医学系研究科)
- 八重樫 伸生(東北大学 大学院医学系研究科)
- 永富 良一(東北大学 大学院医工学研究科)
- 井樋 栄二(東北大学 大学院医学系研究科)
- 富田 博秋(東北大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
28,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
東日本大震災から10年が経過した現在、被災者では、復興公営住宅や防災集団移転など恒久住宅への転居が完了したものの、移転後の健康問題が懸念されている。本研究の第1の目的は、長期にわたり被災者の健康状態や生活環境を調査してその推移を把握し、被災者と被災自治体の保健衛生活動を支援することである。第2の目的は、コホート研究として、被災者における生活環境(居住の場・仕事や収入・地域の絆などの情報)や健康状態(健康診査の結果、メンタルヘルス、要介護リスクなど)と予後(生存死亡、医療受診、介護保険認定など)を長期追跡し、震災後の生活環境が被災者の健康状態や予後に及ぼす影響を検討することである。
これらにより、今後このような大規模災害が発生した際にどのような被災者支援を行うべきであるかを明らかにし、マニュアルや指針として示すものである。
これらにより、今後このような大規模災害が発生した際にどのような被災者支援を行うべきであるかを明らかにし、マニュアルや指針として示すものである。
研究方法
石巻市沿岸部、仙台市若林区および七ヶ浜町で被災した者を対象に、被災者健康調査(アンケート調査)を実施した。18歳以上の者を対象に、健康状態、食事、睡眠、心理的苦痛、震災の記憶、職業・収入、周囲への信頼感などを調査し、18歳未満の者には、医療の状況、睡眠、保育・学校や友人に関する状況、こころと行動の変化、保護者のストレスなどを調査した。65歳以上には基本チェックリストと生活不活発病チェックリストを追加した。
被災者健康調査の結果をもとに、メンタルヘルスに影響がみられる者、こころや行動の変化に注意が必要な児童およびストレスを抱えた保護者、要介護認定のハイリスクな高齢者について、自治体に情報を提供し支援につなげた。また、運動教室では、WEBによる健康講話を行うとともに運動指導を実施し、地域住民の健康づくりを支援した。さらに、本研究事業では、対象者の同意に基づいて、予後(生存死亡、医療受療状況と介護保険認定など)と健康診査に関する情報を入手し、これらのデータをもとに、心身の健康状態や医療費、健診成績、介護保険認定率の推移を検討するとともに、被災後の生活環境の変化(転居後の居住形態、地域のつながりなど)と健康状態との関連について解析を行った。
本調査研究は「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守しており、東北大学大学院医学系研究科倫理審査委員会の承認を受けている。
被災者健康調査の結果をもとに、メンタルヘルスに影響がみられる者、こころや行動の変化に注意が必要な児童およびストレスを抱えた保護者、要介護認定のハイリスクな高齢者について、自治体に情報を提供し支援につなげた。また、運動教室では、WEBによる健康講話を行うとともに運動指導を実施し、地域住民の健康づくりを支援した。さらに、本研究事業では、対象者の同意に基づいて、予後(生存死亡、医療受療状況と介護保険認定など)と健康診査に関する情報を入手し、これらのデータをもとに、心身の健康状態や医療費、健診成績、介護保険認定率の推移を検討するとともに、被災後の生活環境の変化(転居後の居住形態、地域のつながりなど)と健康状態との関連について解析を行った。
本調査研究は「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守しており、東北大学大学院医学系研究科倫理審査委員会の承認を受けている。
結果と考察
震災10年目の被災地域住民の健康状態や生活環境の推移などを把握した。今年度は、石巻市(雄勝・牡鹿・網地島)で2,315人、仙台市若林区(プレハブ仮設住宅に入居した者)で511人、七ヶ浜町で1,362人、合計4,188人から回答が得られた。調査結果の概要を述べる。第1に、1人当たりの年間医療費は、震災直後と比較して、国民健康保険、後期高齢者医療制度の加入者ともに増加していた。第2に、暮らし向きでは、「大変苦しい」「苦しい」と答えた割合が減少し、経済復興がみられた。第3に、未成年では依然として、落ち着きに欠ける行動が高い割合が続いていた。小、中学生の児童を持つ保護者では、緊張状態の持続、過労、ストレスなどにより不眠や体調不良を有する者が多かった。第4に、被災地域の65歳以上高齢者の介護保険認定割合は時間とともに増加していたが、直近の2年間は横ばいで推移していた。第5に、被災地域住民の筋骨格系自覚症状の有訴者率は、依然として一般集団と比べて高い傾向がみられた。特に、腰痛、膝痛は近年、増加傾向を示していた。第6に、被災地域のメンタルヘルスでは、現在も睡眠障害、心理的苦痛、震災の記憶による影響を受けている者が見られた。第7に、震災後3、4年目に運動機能障害を有した高齢者では、新規に筋骨格系疼痛の割合が有意に増加した。第8に、被災高齢者では、心理的苦痛が高度群は有意に要介護発生リスクが高かった。また、媒介変数分析では、歩行時間、外出頻度、疼痛の有意な媒介効果が示された。第9に、恒久住宅へ転居後のメンタルヘルスは、「新居」と比べて「復興公営住宅」「防災集団移転団地」の居住者では改善が弱くなる傾向が見られた。第10に、これまでの10年間の調査結果をもとに、今後起こりうる大規模災害における被災者支援策について提言をまとめた。
結論
本年度も被災者健康調査(アンケート調査)により、生活環境などの変化による健康影響を調査した。震災後10年目となり、本調査対象者の多くは恒久住宅への転居が完了していたものの、震災後の生活環境の変容にともなう様々な影響がみられた。調査結果は、自治体へ提供し、被災地域住民の健康管理を支援する基礎情報として有効に活用された。また、運動教室では、健康講話を実施するなど、地域住民の健康維持・増進にも寄与することができた。さらに、10年間の調査で得られた成果を基に、今後起こりうる大規模災害における被災者支援策について提言をまとめた。
公開日・更新日
公開日
2022-05-13
更新日
-