アスペルガー症候群の成因とその教育・療育的対応に関する研究

文献情報

文献番号
200632003A
報告書区分
総括
研究課題名
アスペルガー症候群の成因とその教育・療育的対応に関する研究
課題番号
H16-こころ-一般-005
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
森 則夫(浜松医科大学精神神経医学講座)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
15,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高機能自閉症やアスペルガー障害は反社会的行動が大きな社会問題となっている。彼らへの援助が急務なので, 社会的成果が現れるような研究の重要度が高い。我々の研究の目的はアスペルガー症候群に対して, 脳画像やその他の多彩な研究を行い,アスペルガー症候群の社会性の障害や犯罪までを含めた行動障害の成因について検討を加え,予防的な治療方法や療育方法を開発するためのエビデンスを築くことである。
研究方法
脳画像研究(i) PET( 陽電子放出型断層撮影):脳内セロトニン系, ドパミン系に焦点をあてたPET研究を行う。 (ii) MRI (MRS,volumetric MRI,):プロトンMRSにて,脳における代謝異常について明らかにする。 (2) 臨床症状と脳画像所見との関連性を解析し,脳の関連部位を明らかにする。(3) 生化学計測,遺伝子解析:(1)アスペルガー症候群の末梢血リンパ球中に発現する各種パラメータのmRNAを測定し,得られた脳画像所見と各種パラメータとの関連性を解析し,感受性遺伝子を明らかにする。さらに母子手帳の解析、気分変調障害の併存、対人関係能力、機能的構音障害、同胞に対する支援、母親に対する有効な援助手段などについて検討する。
結果と考察
血清中に測定される複数の成長因子に異常のあることを見出した。中枢神経発生に重要な役割を担うリーリン受容体であるVLDLRのmRNA発現量の異常を見出し、臨床遺伝研究によって感受性遺伝子であることを明らかにした。攻撃性を脳画像的に同定しうることが、MRS研究から明らかにした。セロトニンとドパミンの機能異常を見出した。 母子手帳から、生後6~18ヶ月の間に広汎性発達障害児の頭囲がスパートを示すことがわかった。また、子宮内発達遅延の傾向が、発症の危険因子として関与する可能性を示した。怒りのコントロール、リラクゼーションの2つの介入法について運用を開始し、攻撃性の高い広汎性発達障害児に有効であることを明らかにした。母親は抑うつ・不安状態を呈することが多かった。
結論
アスペルガー症候群に対して脳画像やその他の生物学的研究を行い, セロトニン, ドパミン機構の異常や生物学的指標を明らかにした。さらに社会性の障害や行動障害の成因について検討を加え, 社会性の発達を促進し行動障害を形成しないための治療方法や療育方法の開発を行った。

公開日・更新日

公開日
2007-08-21
更新日
-

文献情報

文献番号
200632003B
報告書区分
総合
研究課題名
アスペルガー症候群の成因とその教育・療育的対応に関する研究
課題番号
H16-こころ-一般-005
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
森 則夫(浜松医科大学精神神経医学講座)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アスペルガー症候群は反社会的行動が大きな社会問題となっている。彼らへの援助が急務で, 社会的成果が現れるような研究の重要度が高い。研究の目的はアスペルガー症候群に対して, 脳画像やその他多彩な研究を行い,アスペルガー症候群の社会性の障害や犯罪までを含めた行動障害の成因について検討を加え,予防的な治療方法や療育方法開発のためのエビデンスを築くことである。
研究方法
脳画像研究(i) PET(陽電子放出型断層撮影)研究を行う。 (ii) MRI (MRS,volumetric MRI,):プロトンMRSにて,脳における代謝異常について明らかにする。 (2) 臨床症状と脳画像所見との関連性を解析する。(3) 生化学計測,遺伝子解析:末梢血リンパ球中に発現する各種パラメータのmRNAを測定し,脳画像所見と各種パラメータとの関連性を解析し,感受性遺伝子を明らかにする。母子手帳、気分変調障害、対人関係能力、機能的構音障害、同胞の支援、母親の援助手段などについて検討する。
結果と考察
大脳皮質全般、基底核、中脳、小脳に渡る広範囲な部位でセロトニン・トランスポーターが有意に低下していた。視床と海馬のセロトニン・トランスポーターの低下が強迫症状と有意に相関していた。また、帯状回のセロトニン・トランスポーターの低下とこころの理論の障害との相関が認められた。アスペルガー症候群では神経発達の段階において、セロトニン系に障害が起こっていると推測された。ドパミン・トランスポーターの上昇が攻撃性の亢進に関与していた。中枢神経発生に重要な役割を担うリーリン受容体であるVLDLRのmRNA発現量の異常を見出し、臨床遺伝研究によって感受性遺伝子であることを明らかにした。母子手帳から、生後6~18ヶ月の間に頭囲がスパートを示すことがわかった。怒りのコントロール、リラクゼーションの2つの介入法について運用を開始した。年齢とともに感情障害の併存が多くなり、高率 (35%) に構音障害が認められた。同胞の個別的な支援の必要性が明らかになった。母親は抑うつ・不安状態を呈することが多かった。
結論
アスペルガー症候群に対して脳画像やその他の生物学的研究を行い, セロトニン, ドパミン機構の異常や生物学的指標を明らかにした。さらに社会性の障害や行動障害の成因について検討を加え, 療育方法の開発を行った。

公開日・更新日

公開日
2007-08-21
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200632003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アスペルガー症候群を含む自閉症スペクトラムでのセロトニン・トランスポーターのPET研究は,我々が世界で始めて画像でのセロトニン機能異常を明らかにした。さらに我々は,画像研究と遺伝子研究を組み合わせ, PETなどの画像データと臨床症状, 認知障害, 遺伝子の発現量などの各種パラメータとの関連を解析し, 責任遺伝子探索に迫ろうとする新しい手法を確立した。血清中の複数因子に異常のあることを見出し, 生物学的指標として早期診断に道を開いた。
臨床的観点からの成果
アスペルガー症候群の社会性障害、行動障害の成因について検討し、社会性の発達を促進し、行動障害を形成しないための予防的な治療教育方法に関する研究を行なった。我々はアスペルガー症候群の感受性遺伝子、早期診断の根拠となる血清因子を見出した。さらに画像研究によって行動障害にいたる攻撃性について予測できる方法を見出した。行動障害を形成しない方法については、怒りのコントロール、リラクゼーションの2つの介入法による新しい治療方法を確立し、アスペルガー症候群の子どもたちに運用を開始できるようにした。
ガイドライン等の開発
主任研究者の森則夫は平成17年度、18年度の文部科学省の「情動の科学的解明と教育等への応用に関する検討」(【座長】有馬 朗人)の審議会委員となり、会議に参加し、報告書を作成した。平成17年4月26日第4回会議では我々の厚生労働科研による研究「アスペルガー障害の画像研究、発達障害の国際的診断面接法(ADI-R)ついて」の報告を行った。報告書の中で、高機能広汎性発達障害が示す情動変化の解明、学習や療育的指導によりどのような変化を示すか、彼らの適切な指導についての報告に活かされた。
その他行政的観点からの成果
我々の研究成果は、国民にアスペルガー症候群は生物学的要因が関与し、精神医学的な治療方法の確立が必要で、乳幼児健診での生物学的指標による早期発見の可能性を示した。さらに怒りのコントロール、リラクゼーションの2つの新しい療育方法を確立し、治療、療育、予防方法を確立のための行政施策に貢献すると考えた。分担研究者の辻井正次(中京大教授、アスペ・エルデの会理事長)は我々の研究成果について発達障害の支援を考える議員連盟の方々に報告し、発達障害者支援法の中の、調査研究:第二十四条 の文言に活かされた。
その他のインパクト
教育医事新聞、平成18年2月25日号で、厚生労働科学研究に関して、主任研究者、森則夫のインタビューが行なわれ、アスペルガー症候群の最新脳画像、教育療育的対応に新たな方向性を示した。読売新聞、平成17年2月18日号で、発達障害の我々の研究、早期療育、治療方法開発の紹介をした。その他、産経新聞、平成18年1月13日号などに取り上げられた。こころの健康科学研究成果発表会「アスペルガー症候群の成因とその教育・療育的対応に関する研究」を平成17年3月5日、平成19年3月25日に行い一般公開した。

発表件数

原著論文(和文)
64件
原著論文(英文等)
61件
その他論文(和文)
44件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
61件
学会発表(国際学会等)
12件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
特願2006-204155号(平成18年7月27日)「自閉症の診断薬」、特願2005-125770号(平成17年4月22日)「自閉症の診断薬」
その他成果(施策への反映)
2件
発達障害者支援法の中の、調査研究:第二十四条 の文言に活かされた。文部科学省の「情動の科学的解明と教育等への応用に関する検討」の報告書の中で、活かされた。
その他成果(普及・啓発活動)
2件
こころの健康科学研究成果発表会「アスペルガー症候群の成因とその教育・療育的対応に関する研究」を平成17年3月5日、平成19年3月25日に行い一般公開した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Suzuki K, Hashimoto K, Iwata Y,et al.
Decreased Serum Levels of Epidermal Growth Factor in Adult Subjects with High-Functioning Autism
Biological Psychiatry  (2007)
原著論文2
Nishimura K, Nakamura K, Anitha A, et al.
Genetic analyses of the brain-derived neurotrophic factor (BDNF) gene in autism
Biochem Biophys Res Commun , 356 (1) , 200-206  (2006)
原著論文3
Sugihara G, Hashimoto K, Iwata Y,et al.
Decreased serum levels of hepatocyte growth factor in male adults with high-functioning autism.
Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry , 31 (2) , 412-415  (2007)
原著論文4
Kawai Y, Moriyama A, Asai K, et al.
Molecular characterization of histidinemia: identification of four missense mutations in the histidase gene
Human Genet , 116 , 345-346  (2005)
原著論文5
鷲見聡、宮地泰士、谷合弘子、他
名古屋市西部における広汎性発達障害の有病率ー療育センター受診児数からの推定値ー
小児の精神と神経 , 46 (1) , 57-60  (2006)
原著論文6
別府哲、野村香代
高機能自閉症は健常児と異なる「心の理論」をもつのか:「誤った信念」課題とその言語的理由付けにおける健常児との比較
発達心理学研究 , 16 (3) , 257-264  (2005)
原著論文7
並木典子、杉山登志朗、明翫光宣
高機能広汎性発達障害に見られる気分障害に関する臨床的研究
小児の精神と神経 , 46 (4) , 257-263  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-