新しい薬物療法の導入とその最適化に関する研究

文献情報

文献番号
200621018A
報告書区分
総括
研究課題名
新しい薬物療法の導入とその最適化に関する研究
課題番号
H16-3次がん-一般-027
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
西條 長宏(国立がんセンター東病院)
研究分担者(所属機関)
  • 西尾 和人(近畿大学医学部)
  • 戸井 雅和(東京都立駒込病院)
  • 掛谷 秀昭(独立行政法人理化学研究所)
  • 田村 友秀(国立がんセンター中央病院)
  • 中川 和彦(近畿大学医学部)
  • 桑野 信彦(久留米大学・先端癌治療研究センター)
  • 杉本 芳一(共立薬科大学)
  • 前原 喜彦(九州大学大学院)
  • 南 博信(国立がんセンター東病院)
  • 小泉 史明(国立がんセンター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
66,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん治療の分子標的の同定を行いその標的を選択的に修飾する化合物を探索する。新しい化合物の作用機序を明らかにするとともに非臨床・臨床試験の過程でproof of principle studyを行い、効果・副作用をモニターしうる生物学的サロゲートマーカーを同定する。
研究方法
EGFR変異をもつ非小細胞がん株を用いendogenousに発現している変異型EGFRの活性化状態及びEGFRシグナルを検討する。抗がん剤投与前後のCEC・CEP値を測定しこれらが治療効果予測因子となるか否かを検討する。Raf kinase阻害剤、Sorafenibの第I相試験にエントリーした患者を対象としFDG-PETで測定した代謝能と治療効果の相関を検討する。トラスツズマブよりフコース除去することがADCC活性の増強をもたらすか否かを検討する。エイズのViral protein Rを抑制するリード化合物を探索する。BCRPのSNPについて遺伝子導入細胞を作成しその機能を評価する。
結果と考察
EGFRのExon19の欠失とExon21のpoint mutationではEGFRの活性化状態が異なり、これがEGFR-TKIの効果を左右する可能性を示唆した。また抗EGFR抗体はEGFRの二量体形成とTKのリン酸化を誘導したが下流シグナルの活性化は認めなかった。CBDCA+PTL投与群のうちPR・SD例のCEC・CEP値は健常人に比べ抗がん剤投与前高値を示した。CEC・CEP値は治療効果を予測しうる可能性があると示唆された。Raf kinase阻害剤の第I相試験の過程で奏効例ではFDG・PETによる代謝能が低下した。EGFR-TKIの効果をモニターする手段として末梢血、胸水などでもEGFRの変異を検出しうると示された。フコース除去トラスツズマブは、健常人および患者リンパ球のADCC活性を増強した。すなわちフコース除去抗体による治療効果およびコストベネフィットの向上が期待された。抗エイズ薬の検索の結果、血管新生阻害剤フマギリンがviral protein R機能を抑制することが示された。BCRPのSNPの機能解析を行ったが4種類の機能性SNPを同定した。悪性脳腫瘍の治療標的としてEphA4レセプターを同定し、これを標的とする小分子物質を数種うることができた。
結論
がん治療の新しい分子標的を同定するとともにそれを選択的に抑制しうる化合物を同定した。また、分子標的治療薬の作用機序を明らかにし、臨床でPOP studyを行い治療効果を予測しうるサロゲートマーカーを明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2007-04-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2007-12-14
更新日
-

文献情報

文献番号
200621018B
報告書区分
総合
研究課題名
新しい薬物療法の導入とその最適化に関する研究
課題番号
H16-3次がん-一般-027
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
西條 長宏(国立がんセンター東病院)
研究分担者(所属機関)
  • 西尾 和人(近畿大学医学部)
  • 戸井 雅和(東京都立駒込病院)
  • 掛谷 秀昭(独立行政法人理化学研究所)
  • 田村 友秀(国立がんセンター中央病院)
  • 中川 和彦(近畿大学医学部)
  • 桑野 信彦(久留米大学・先端癌治療研究センター)
  • 杉本 芳一(共立薬科大学)
  • 前原 喜彦(九州大学大学院)
  • 南 博信(国立がんセンター東病院)
  • 小泉 史明(国立がんセンター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん細胞に特異性の高い分子を同定し、それに対するより有効な治療法の開発を目指す。臨床段階にある化合物については抗悪性腫瘍薬の抗腫瘍活性の原理の証明(Proof of principle)研究を遂行することにより効果をモニターしうる生物学的サロゲートマーカーを同定する。この過程で新たにえられた情報を基にリバーストランスレーショナルスタディによりがん治療の新しい分子標的を同定し治療薬の開発を目指す。
研究方法
EGFR遺伝子の変異、増幅、発現のいづれがEGFR-TKI(ゲフィチニブ)の抗腫瘍効果を左右する因子として最も重要かを培養細胞および臨床検体を用い明らかにする。網羅的解析を行い効果と相関する遺伝子群を同定する。殺細胞性抗悪性腫瘍薬、分子標的治療薬の臨床試験の過程で末梢単核球におけるVEGFR遺伝子発現変化、FDG・PETにおけるSUV値、血中CEC・CEP値等を測定し効果を予測しうるバイオマーカーを同定する。トラスツズマブの治療効果増強をADCC活性のモニターによって検討する。アポトーシス誘導剤epolactaeneをリード化合物として強力な抗腫瘍活性をもつ化合物を創製する。BCRPの機能を左右するSNPを明らかにする。
結果と考察
EGFR-TKIの抗腫瘍効果を左右する因子としてEGFR遺伝子の変異が最も重要とされた。変異を有する遺伝子が選択的に増幅していた。変異を有する細胞では下流シグナルの活性化状態が異なっていた。変異とは関係なくEGFR-TKIの効果と相関する遺伝子を単離した。EGFR-TKIの効果を最適化する上で、重要な知見と思われる。抗がん剤、分子標的治療薬の臨床効果と相関するバイオマーカーとしてそれぞれ血中CEC又はCEP値及びFDG・PETによるSUV値、末梢単核球でのVEGFR遺伝子発現の変化などの有用性が示唆された。トラスツズマブの効果はADCC活性に依存した。ADCC活性は抗体よりフコース除去することによって増強した。抗体療法による治療効果増強が期待される。Epolactoneをリード化合物として更に高い生物活性をもつ化合物をえ、この化合物の分子標的としてHSP90を同定した。BCRP機能を変化させるSNPを同定した。
結論
新しい分子標的の同定とそれに対する化合物の開発および適切なPOP studyの導入によりがん薬物療法の最適化が可能になると思われる。

公開日・更新日

公開日
2007-04-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2007-12-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200621018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
EGFR増幅はEGFR変異例に限定して認められる事を証明した。また、抗EGFR抗体はEGFRの二量体形成およびEGFR-TKのリン酸化を起こすものの下流シグナルのリン酸化は生じずこれが抗腫瘍効果に結びつくと示された。抗がん剤排出トランスポーターBRCPに機能性SNPを4種類同定した。フコース除去トラスツブマブのADCC活性は健常人および癌患者のリンパ球で増強した。
臨床的観点からの成果
EGFR変異の有無がEGFR-TKIの効果を左右する因子として最も重要な因子であることが示され、個別化治療の具体化に貢献した。がん薬物療法の効果予測因子として血中のCEC・CEP値やFDG・PETのSUV値が感度の高いバイオマーカーとして有用と示唆された。また、トラスツズマブよりフコースを除去することによりADCC活性を増強する事実は、抗体による治療効果増強および抗体使用量減量をもたらすと期待された。
ガイドライン等の開発
本研究の成果は日本肺癌学会ゲフィチニブ使用に関するガイドラインの中に取り入れられている。また、今年度中にEBMの手法による肺癌診療ガイドラインに取り入れられる予定である。
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
本研究内容に関連して外国人演者20名余り含む国際学会として世界化学療法学会癌治療総会を行い、がん薬物療法の至適投与法についてのコンセンサスをえた。

発表件数

原著論文(和文)
9件
原著論文(英文等)
170件
その他論文(和文)
26件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
250件
学会発表(国際学会等)
121件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計10件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takeda M, Arao T, Yokote H, et al.
AZD2171 shows potent antitumor activity against gastric cancer over-expressing FGFR2/KGFR.
Clin. Cacner Res.  (2007)
原著論文2
Kimura H, Kasahara K, Kawaishi M, et al.
Detection of epidermal growth factor receptor mutations in serum as a predictor of the response to gefitinib in patients with non-small lung cancer.
Clin. Cancer Res. , 12 , 3915-3921  (2006)
原著論文3
Sakai K, Arao T, Shimoyama T, et al.
Dimerization and the signal transduction pathway of a small in-flame deletion in the epidermal growth factor receptor.
FASEB J. , 20 , 311-313  (2006)
原著論文4
Arao T, Yanagihara K, Takigahira M, et al.
ZD6474 inhibits tumor growth and intraperitoneal dissemination in a highly metastatic orthotopic gastric cancer model.
Int. J. Cancer , 118 , 483-489  (2006)
原著論文5
Ikeda M, Okamoto I, Tamura K, et al.
Down-regulation of survivin by ultraviolet C radiation is dependent on p53 and results in G(2)-M arrest in A549 cells.
Cancer Lett  (2007)
原著論文6
Okabe T, Okamoto I, Tamura K, et al.
Differential Constitutive Activation of the Epidermal Growth Factor Receptor in Non-Small Cell Lung Cancer Cells Bearing EGFR Gene Mutation and Amplification.
Cancer Res , 67 , 2046-2053  (2007)
原著論文7
Nakagawa K, Kudoh S, Matsui K, et al.
A phase I study of pemetrexed (LY231514) supplemented with folate and vitamin B12 in Japanese patients with solid tumours.
Br J Cancer , 95 , 677-682  (2006)
原著論文8
Okamoto I, Araki J, Suto R, et al.
EGFR mutation in gefitinib-responsive small-cell lung cancer.
Ann Oncol; , 17 , 1028-1029  (2006)
原著論文9
Yonesaka K, Tamura K, Kurata T, et al.
Small interfering RNA targeting survivin sensitizes lung cancer cell with mutant p53 to adriamycin.
Int J Cancer , 118 , 812-820  (2006)
原著論文10
Kurata T, Tamura K, Kaneda H, et al.
Effect of re-treatment with gefitinib ('Iressa', ZD1839) after acquisition of resistance.
Ann Oncol , 15 , 173-174  (2004)
原著論文11
Aishima S, Basaki Y, Oda Y, et al.
High expression of insulin-like growth factor binding protein-3 is correlated with lower portal invasion and better prognosis in human hepatocellular carcinoma.
Cancer Sci , 97 (11) , 1182-1190  (2006)
原著論文12
Maruyama Y, Ono M, Kawahara A, at al.
Tumor growth suppression in pancreatic cancer by a putative metastasis suppressor gene Cap43/NDRG1/Drg-1 through modulation of angiogenesis.
Cancer Res , 66 (12) , 6233-6242  (2006)
原著論文13
Ueda S, Basaki Y, Yoshie M, et al.
PTEN/Akt signaling through epidermal growth factor receptor is prerequisite for angiogenesis by hepatocellular carcinoma cells that is susceptible to inhibition by gefitinib.
Cancer Res. , 66 (10) , 5346-5353  (2006)
原著論文14
Nakao S, Kuwano T, Tsutsumi-Miyahara, C, et al.
Infiltration of COX2-expressing macrophage is prerequisite for IL-1beta- induced neovascularization and tumor growth.
J. Clinic. Invest. , 115 (11) , 2979-2991  (2005)
原著論文15
Shibahara K, Uchiumi T, Fukuda T, et al.
Targeted disruption of one allele of the Y-box binding-1 (YB-1) gene in mouse embryonic stem cells and increased sensitivity to cisplatin and mitomycin C.
Cancer Sci , 95 (4) , 348-353  (2004)
原著論文16
Kuwano T, Nakao S, Yamamoto H, et al.
Cyclooxygenase 2 is a key enzyme for inflammatory cytokinase-induced angiogenesis.
FASEB J. , 18 (2) , 300-310  (2004)
原著論文17
Mutoh K, Mitsuhashi J, Kimura Y, et al.
A T3587G germ-line mutation of the MDR1 gene encodes a nonfunctional P-glycoprotein.
Mol. Cancer Ther. , 5 (4) , 877-884  (2006)
原著論文18
Kage K, Fujita T, and Sugimoto Y.
Role of Cys-603 in dimer/oligomer formation of the breast cancer resistance protein BCRP/ABCG2.
Cancer Sci. , 96 (12) , 866-872  (2005)
原著論文19
Imai Y, Ishikawa E, Asada S, et al.
Estrogen-mediated post transcriptional down-regulation of breast cancer resistance protein/ABCG2.
Cancer Res. , 65 (2) , 596-604  (2005)
原著論文20
Imai Y, Tsukahara S, Asada S, et al.
Phytoestrogens/flavonoids reverse breast cancer resistance protein/ABCG2-mediated multidrug resistance.
Cancer Res. , 64 (12) , 4346-4352  (2004)

公開日・更新日

公開日
2015-09-24
更新日
-