特発性拡張型心筋症の原因解明に関する臨床研究

文献情報

文献番号
200500844A
報告書区分
総括
研究課題名
特発性拡張型心筋症の原因解明に関する臨床研究
課題番号
H15-難治-007
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
小室 一成(千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学)
研究分担者(所属機関)
  • 磯村 正(葉山ハートセンター)
  • 油谷 浩幸(東京大学国際・産学共同研究センターゲノム科学、機能ゲノミクス)
  • 寺崎 文生(大阪医科大学第三内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
43,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国では心臓移植の申請者としては拡張型心筋症が最も多く、その原因解明は極めて重要である。一部の拡張型心筋症の症例では原因遺伝子が判明したものの、大部分は原因不明であり、また遺伝子の判明している場合でもその変異により収縮不全をきたす機序は不明である。そこで本研究では、拡張型心筋症の原因遺伝子を解析しその病態生理を解明することを目的とする。
研究方法
バチスタ手術の際に得られたヒト拡張型心筋症の心筋を用いてDNA chipにより遺伝子発現を網羅的に解析し、さらにその発現の変化している遺伝子の改変マウスを作成し、心機能不全発症における意義を明らかにする。
結果と考察
申請者らは、DNA chipによって得られた結果に基づき、マウスモデルを作成して検討し、これまでに心不全防御因子として、心筋特異的転写因子Csx、熱ショック因子HSF-1、神経増殖因子、血管新生関連因子(VEGF、VEGFレセプター)などを、また心不全増悪因子として酸化酵素12-lipoxygenase、オートファジー関連遺伝子を同定した。平成17年度には特に新たに油谷らが同定した不全心で発現亢進のみられる小胞体ストレス関連遺伝子についてのマウスモデルの作成・解析を行い、それらの心不全保護因子としての意義を示唆するデータを得ている。以前寺崎らは、心筋細胞変性・細胞死に対する自己貪食やユビキチン-プロテアソーム系などのタンパク質分解系の関与について解析を進め、それらの亢進に心筋内の酸化タンパクの集積が重要であることを明らかにした。平成17年度には、不全心筋細胞におけるアグリゾームについて免疫組織学的検索を行った。その結果、変性した心筋細胞内にHDACs陽性顆粒や封入体が認められ、それらはユビキチンにも陽性であったことから、不全心筋細胞においてアグリゾームが増加し心筋細胞の変性や細胞死に関与する可能性が示唆された。また須磨らは平成15年度には、炎症性サイトカインの発現亢進と抗炎症性サイトカインの発現低下が特発性拡張型心筋症の予後不良因子であることを確認していたが、平成17年度には炎症の結果生じる心筋線維化の重症度が心室縮小術後の予後決定因子であることを明らかにした。
結論
以上のようなマウスモデルの確立・解析をさらに進めることにより拡張型心筋症ばかりでなく、心不全発症の分子機序が明らかになる可能性がある。また作成した遺伝子改変マウスは、拡張型心筋症モデルとして創薬にも大変有用である。

公開日・更新日

公開日
2006-05-08
更新日
-

文献情報

文献番号
200500844B
報告書区分
総合
研究課題名
特発性拡張型心筋症の原因解明に関する臨床研究
課題番号
H15-難治-007
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
小室 一成(千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学)
研究分担者(所属機関)
  • 磯村 正(葉山ハートセンター)
  • 油谷 浩幸(東京大学国際・産学共同研究センターゲノム科学、機能ゲノミクス)
  • 寺崎 文生(大阪医科大学第三内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国では心臓移植の申請者としては拡張型心筋症が最も多く、その原因解明は極めて重要である。一部の拡張型心筋症の症例では原因遺伝子が判明したものの、大部分は原因不明であり、また遺伝子の判明している場合でもその変異により収縮不全をきたす機序は不明である。そこで本研究では、拡張型心筋症の原因遺伝子を解析しその病態生理を解明することを目的とする。
研究方法
バチスタ手術の際に得られたヒト拡張型心筋症の心筋を用いてDNA chipにより遺伝子発現を網羅的に解析し、さらにその発現の変化している遺伝子の改変マウスを作成し、心機能不全発症における意義を明らかにする。
結果と考察
申請者らは、DNA chipによって得られた結果に基づき、平成15年度までには、不全心で発現の低下していた遺伝子である心筋特異的転写因子Csx/Nkx2.5、増殖因子受容体EFGR、熱ショック因子HSF-1についてマウスモデルを作成して検討し、それらが心不全病態生理に重要であることを示唆した。平成16年度にはさらにそれらの解析を進めた結果、抑制型EGFRのマウスモデルでは、その病理学的所見が特発性拡張型心筋症にきわめて類似していることが分かった。またHSF-1の過剰発現マウスにおいては、心筋梗塞後リモデリングや圧負荷による心機能低下を抑制しうることを報告したが、さらにそのノックアウトの解析によってHSF-1が生理的な肥大にも重要であることが分かった。平成16年度に同定された不全心で発現亢進のみられる遺伝子群である酸化酵素12-lipoxygenaseやautophagy関連遺伝子についてのマウスモデルの作成・解析も行い、それらの心不全増悪因子としての意義を示唆するデータを得ている。平成17年度には、新たに不全心で発現亢進のみられる遺伝子群として、小胞体ストレス関連遺伝子が同定された。申請者らは、それらの活性の亢進が心保護的に働くことを明らかにした。また、同時に同定された癌抑制遺伝子p53が抗血管新生作用により心不全増悪因子として働くことも明らかとなった。
結論
以上のようなマウスモデルの確立・解析をさらに進めることにより拡張型心筋症ばかりでなく、心不全発症の分子機序が明らかになる可能性がある。また作成した遺伝子改変マウスは、拡張型心筋症モデルとして創薬にも大変有用である。

公開日・更新日

公開日
2006-05-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2006-10-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500844C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ヒト拡張型心筋症において、特異的に発現の変化している遺伝子を同定した。心不全防御因子として、心筋特異的転写因子、抗酸化分子制御因子、上皮細胞増殖因子ファミリー、神経増殖因子、血管新生関連因子、カベオリン関連遺伝子などを、また心不全増悪因子として酸化酵素12-lipoxygenase、オートファジー関連遺伝子を同定した。いくつかの遺伝子についてはマウスモデルを用いて解析し、心不全の病態生理に関与していることを明らかとした。
臨床的観点からの成果
本研究にて確立されたマウスモデルのうち、抑制型EGFRのマウスモデルやautophagic cell death誘導マウスモデルは、特発性拡張型心筋症にきわめて類似した病態を示すことから、治療薬の開発にも重要なモデルとなりうる。本研究で行われたようなマウスモデルの確立・解析をさらに進めることにより拡張型心筋症ばかりでなく、心不全発症の分子機序が明らかになる可能性があり、新たな治療法の開発につながることが多いに期待される。
ガイドライン等の開発
本研究にて直接ガイドラインの開発に関与した成果はない。しかし、いくつかの遺伝子についてはマウスモデルを用いて解析され、心不全の病態生理に関与していることが明らかとなったので、今後これらの遺伝子をターゲットにした治療の開発が望まれる。また、確立された心不全マウスモデルは、心不全治療の創薬にも有用である。
その他行政的観点からの成果
本研究成果が行政施策に直接反映されることはなかったが、今後同定された遺伝子をターゲットにした心不全治療の開発が進めば、新たなガイドライン作成にも貢献できるものと考えられる。また、確立された心不全マウスモデルを用いた創薬研究により、新たなガイドラインの作成に関与しうる。
その他のインパクト
本研究により得られた成果は、多くの国際学会や国内の学会にて発表された。また、成果の一部はすでに欧米の科学雑誌において受理され、掲載されている。今後も本研究で行われたようなマウスモデルの確立・解析をさらに進めることにより、新たな心不全治療の開発が期待され、大きなインパクトを与えうると考えられる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
84件
その他論文(和文)
258件
その他論文(英文等)
14件
学会発表(国内学会)
92件
学会発表(国際学会等)
48件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Zou Y, Takano H, Mizukami M, et al.
Leukemia Inhibitory Factor Enhances Survival of Cardiomyocytes and Induces Regeneration of Myocardium After Myocardial Infarction
Circulation , 108 (6) , 748-753  (2003)
原著論文2
Hasegawa H, Yamamoto R, Takano H, et al.
3-Hydroxy-3-methylglutaryl coenzyme A reductase inhibitors prevent the development of cardiac hypertrophy and heart failure in rats.
J Mol Cell Cardiol , 35 (8) , 953-960  (2003)
原著論文3
Zou Y, Zhu W, Sakamoto M, et al.
Heat shock transcription factor 1 protects cardiomyocytes from ischemia/reperfusion injury
Circulation , 108 (24) , 3024-3030  (2003)
原著論文4
Ohtsuka M, Takano H, Suzuki M, et al.
Role of Na+-Ca2+ exchanger in myocardial ischemia/reperfusion injury: evaluation using a heterozygous Na+-Ca2+ exchanger knockout mouse model.
Biochem Biophys Res Commun , 314 (3) , 849-853  (2004)
原著論文5
Miyauchi H, Minamino T, Tateno K, et al.
Akt negatively regulates the in vitro lifespan of human endothelial cells via a p53/p21-dependent pathway
EMBO J , 23 (1) , 212-220  (2004)
原著論文6
Matsuura K, Nagai T, Nishigaki N, et al.
Adult cardiac Sca-1 positive cells differentiate into beating cardiomyocytes
J Biol Chem , 279 (12) , 11384-11391  (2004)
原著論文7
Ohtsuka M, Takano H, Zou Y, et al.
Cytokine therapy prevents left ventricular remodeling and dysfunction after myocardial infarction through neovascularization
FASEB J , 18 (7) , 851-853  (2004)
原著論文8
Toko H, Zou Y, Minamino T, et al.
Angiotensin II Type 1a Receptor Is Involved in Cell Infiltration, Cytokine Production, and Neovascularization in Infarcted Myocardium
Arterioscler Thromb Vasc Biol , 24 (4) , 664-670  (2004)
原著論文9
Akazawa H, Kudoh S, Mochizuki N, et al.
A novel LIM protein Cal promotes cardiac differentiation by association with CSX/NKX2-5.
J Cell Biol , 164 (3) , 395-405  (2004)
原著論文10
Zou Y, Akazawa H, Qin Y, et al.
Mechanical stress activates angiotensin II type 1 receptor without the involvement of angiotensin II.
Nat Cell Biol , 6 (6) , 499-506  (2004)
原著論文11
Akazawa H, Komazaki S, Shimomura H, et al.
Diphtheria toxin-induced autophagic cardiomyocyte death plays a pathogenic role in mouse model of heart failure.
J Biol Chem , 279 (39) , 41095-41103  (2004)
原著論文12
Matsuura K, Wada H, Nagai T, et al.
Cardiomyocytes fuse with surrounding non-cardiomyocyres and re-enter the cell cycle.
J Cell Biol , 167 (2) , 351-363  (2004)
原著論文13
Iwanaga K, Takano H, Ohtsuka M, et al.
Effects of G-CSF on cardiac remodeling after acute myocardial infarction in swine.
Biochem Biophys Res Commun , 325 (4) , 1353-1359  (2004)
原著論文14
Harada M, Qin Y, Takano H, et al.
G-CSF prevents cardiac Remodeling after myocardial infarction by activating Jak/Stat in cardiomyocytes
Nat Med , 11 (3) , 305-311  (2005)
原著論文15
Naito AT, Akazawa H, Takano H, et al.
Phosphatidylinositol 3-Kinase-Akt Pathway Plays a Critical Role in Early Cardiomyogenesis by Regulating Canonical Wnt Signaling
Circ Res , 97 (2) , 144-151  (2005)
原著論文16
Hasegawa R, Daimon M, Toyoda T, et al.
Effect of mental stress on coronary flow velocity reserve in healthy men
Am J Cardiol , 96 (1) , 137-140  (2005)
原著論文17
Kunieda T, Minamino T, Katsuno T, et al.
Cellular Senescence Impairs Circadian Expression of Clock Genes In Vitro and In Vivo
Circ Res , 98 (4) , 532-539  (2006)
原著論文18
Hasegawa H, Takano H, Iwanaga K, et al.
Cardioprotective effects of granulocyte colony-stimulating factor in swine with chronic myocardial ischemia
J Am Coll Cardiol , 47 (4) , 842-849  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-05-25
更新日
-