医療・保健分野におけるインターネット利用の信頼性確保に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301074A
報告書区分
総括
研究課題名
医療・保健分野におけるインターネット利用の信頼性確保に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
辰巳 治之(札幌医科大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 三谷博明(日本インターネット医療協議会)
  • 花井荘太郎(国立循環器病センター)
  • 西藤成雄(西藤こどもクリニック)
  • 水島洋(国立がんセンター研究所)
  • 上出良一(東京慈恵会医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療機関(病院)のWebサイト(ホームページ)の運用状況に関して実態調査を行い、医療機関がインターネット上で医療・保健関連の情報やサービスを提供するに際して、信頼性や安全を確保していく上での課題や対策について分析・考察を加えることを目的とした。サイトの運用状況については、提供される情報やサービスの内容、提供する目的、これに対する実現度などを調査するとともに、個人情報保護に対する取組状況、情報の質やサービスの質そして信頼性の確保のために留意していることや課題などについても調査した。さらに、Webメール形式によるメッセージングシステムの実証運用を行い使用性等の評価を試みた。
研究方法
国内における病院のWebサイトを可能な限り補足するため、「全国病院名鑑2002年度版」(財団法人厚生問題研究会発行)に掲載されている病院名をキーワードに、検索エンジンGoogleを使って該当可能性の高い病院のWebサイトを抽出し、目視による確認作業で病院サイトと認めることが妥当なサイトを3,725件特定した。この3,725件の病院あてに、Web 上でのアンケート調査への協力を依頼する説明案内状を郵送にて送付した。Webメール形式によるメッセージングシステムの実証運用を行うために、医療機関に勤務する医師6名に協力を求め、当該医師と医師が指定する患者または患者の家族、または他施設の医療関係者等との間で約2ケ月間、本システムを利用してもらい、使用感等についてアンケート調査を行った。
結果と考察
今回の調査で検索抽出された病院のサイト数3,725件というのは、インターネット上の国内の病院Webサイトの数をとらえた初めての調査データであると考えられる。病床数20床以上の、いわゆる「病院」の施設数が、平成15年9月段階で9,122であることから、病院施設におけるWebサイトの開設率は、40.8%であると見なされる。この40.8%というサイトの開設率は、昨今の情報公開の要求の高まりやインターネットの普及等を勘案するに、決して充分な率とはいいがたいが、インターネット等の新規媒体を通じた医療機関の情報公開の進展を反映したものであろうと推測できる。Webサイトの開設・運営目的について尋ねたところ、「病院の業務、機能等を広報することにより、患者が受診しやすいようにする」と「病院の広報の一環として」がともに88.0 %で1位であったことから、病院の広報手段のひとつとしてWebサイトが位置付けられている様子がうかがえるが、広報からさらに進んで「新規患者を獲得する積極的な広告手段として」の役割(39.3%)も期待されていることがわかる。地域の住民や一般向けに病院の機能を広報・広告する手軽な媒体として、Webサイトの活用に目が向けられるいっぽうで、「病気、薬、健康等に関して役立つ情報を患者や住民に対して提供する」36.1%、「医療機関相互の連携を推進するため」28.2%、「患者と医療提供者側の意志疎通、コミュニケーションが深められる」21.1%、「情報やサービスの提供で、患者のQOL を高めたり、精神面でのサポートを行う」16.5%とあるように、既存の患者のフォローやサポート、あるいは双方向のコミュニケーションの場としての位置付けがまだできあがっていないように思われる。これらはWebサイトの開設・運営目的にあげられながら、「あまり実現できていない」とされている度合いが高く、目的と実現度の乖離があることにも目をとめておく必要があろう。このコンテンツに関連し、診療業務、病気や治
療法、診療実績に関する情報等のコンテンツの制作、提供に関して、どのような課題があるかを聞いたところ、「コンテンツを院内スタッフで自主制作しているが、時間に余裕がない」が63.0%と1番にあげられ、続いて「コンテンツの正確性や質の確保が難しい」33.8%、「医学情報等のコンテンツが少なく、利用者のニーズに応えられない」27.1%など、コンテンツの制作体制やその内容、質に関して課題があることがわかった。Webサイトの運営にあたって、メールを含む利用者とのコミュニケーション(メールや掲示板によるメッセージのやりとり)に関して、どのような課題があるかを聞いたところ、「営業目的、ダイレクトメール等の希望しないメールが多すぎる」29.2%、「通常のメールではプライバシーやセキュリティの確保が心配である」21.5 %、「利用者との間で安心してコミュニケーションができるシステムが必要」19.6%、「緊急時や対応の無理なケースがある」19.4%などがあげられていた。全般的にインターネット上でのコミュニケーションが上手く行える環境になっていない状況がうかがわれた。死亡率などの公開については、積極的な情報提供の姿勢は評価しうるものの、データの客観性や提供方法について妥当性を検証していく必要があると思われる。個々の患者に応じたサービスはまだあまり提供されていなかった。「患者ごとの専用ページの提供」や「患者自身で健康データを登録できるデータ保管サービス」の提供は皆無であった。単なる診療業務に関する情報の提供だけでなく、病院施設内での医療サービスの延長として、あるいは有料の新規サービスとして、インターネットを活用した多様なサービスの提供に関心を示し始めていることが示された。個人情報を「取得している」と回答したサイトに、「Webサイト上で個人情報の保護方針を記載するなどして、利用者がわかるようなかたちで表現されていますか」と尋ねたところ、「表現している」は13.9%で、「表現していない」は74.4%にものぼっていた。Web サイトの運営において、利用者からのさまざまなアクセスを想定した上で用意されるべきプライバシーポリシーの策定、利用者への告知等の対応の遅れが目立っている。「国民がアクセス可能な医療情報ネットワークの構築」について、否定的な反応を示した人にその理由を尋ねてみると、多くはプライバシーやセキュリティの問題をあげていた。また、医療情報ネットワークを仮に構築していくとして、どこが中心となって推進すべきかを尋ねたところ、「国」をあげたものが53.0%と1番多く、次の「都道府県の地方自治体」12.6%と合わせて約3分の2が公的な機関が中心になるべきだと回答していた。セキュアーなWebメールシステムについて、安全性などに対する安心感はあるものの、メールをわざわざ特定のURLへアクセスして読まなければならないなど、全体の73.3%がこの点に不便を感じていた。
結論
我々の調査では、病院9,122施設中、40.8%にあたる3,725が主要検索エンジンで検索可能なWeb サイトを保有していると判断した。この値は、ブロードバンド普及世界一となった現在では、決して高い数字とは言えず、医療機関からの積極的な情報発信がまだまだ必要である。さらに、コンテンツに関しても病院の業務案内などに関するものが主であり、医師の得意分野や診療実績に関するきめ細かな情報の提供もまだ一部であることがわかった。但し、サービスの内容によっては、有料という条件となれば、より積極的に提供していきたいとするものもあった。患者とのコミュニケーションの窓口として、メールアドレスを設けても、最近、スパムが異常に増え、ホームページに記載したとたん大量のスパムが受信され実際のサービスを展開する際の大きな問題となっている。このスパムの問題は、医療情報流通促進における問題だけでなく、高度情報化社会一般の重大な問題となりつつあり、国家レベルで早急に策を練る必要があると考える。利用者の個人情報の取り扱いに関し、個人情報の保護方針(プライバシーポリシー) が策定されているところが3割しかなく、Webサイト上で個人情報の保護方針を記載
していないところが4分の3もあり、信頼性確保の面から、医療機関からの情報やサービスの提供において、プライバシーの扱いを中心として、注意されなければならないものがあることが示された。将来的に、個々の医療機関を結び、なおかつ国民がアクセス可能な医療情報ネットワークの構築を提案したところ、希望する人が6割以上もおり、これから何らかの対応が必要であろう。また、この種の医療情報ネットワークの構想を検討するに際しては「プライバシーやセキュリティの問題について議論を深める必要がある」だけでなく、「患者や国民にとって、どのようなメリットがあるか明確にすべきである」「相互に情報をやりとりする際のデータの標準化やシステムの統合化の方法について議論する必要がある」「医療機関にとって、どのようなメリットがあるか明確にすべきである」「個々の医療機関における情報システムの構築状況、ネットワークへの対応状況の違いを前提にすべきである」「医療機関、患者、国民がそれぞれ負担すべきコストについて議論する必要がある」など、さまざまな課題があることも示された。

公開日・更新日

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