疾患関連たんぱく質解析研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300763A
報告書区分
総括
研究課題名
疾患関連たんぱく質解析研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
長尾 拓(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 早川堯夫(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 友池仁暢(国立循環器病センター)
  • 寒川賢治(国立循環器病センター)
  • 南野直人(国立循環器病センター)
  • 高坂新一(国立精神・神経センター神経研究所)
  • 笹月健彦(国際医療センター研究所)
  • 秦 順一(国立成育医療センター)
  • 太田壽城(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
  • 佐古田三郎(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 高尾敏文(大阪大学蛋白質研究所)
  • 小山博記(大阪府立成人病センター)
  • 金子 勲(ヒューマンサイエンス振興財団)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 疾患関連たんぱく質解析研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
462,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医薬品開発に際して、創薬ターゲットや医薬シーズ、疾患マーカーとなる疾患関連たんぱく質の発見とその知的財産権の確保は、今後の医薬品産業の発展に必要不可欠であり、まさにライフラインと位置付けられる。従って、近年ますます激化しつつある新薬開発や新規治療技術の創出において、欧米諸国等との国際競争に打つかつためには、疾患関連たんぱく質の発見とその知的財産権の確保に向けた作業を加速させることが重要となってきている。そのためには、たんぱく質全般の基本構造と機能との連関を解析する「たんぱく質からのアプローチ」に加え、患者と健常者との間のたんぱく質の種類、質、量の違いを比較する「疾患からのアプローチ」により、創薬ターゲットや医薬シーズ、疾患マーカーを同定することが急務となっている。このような疾患プロテオミクス研究に基づいた創薬(プロテオーム創薬)への期待と注目が国際的・学際的に集約されてきた背景として、ゲノムシーケンス研究から判明した約3万種の遺伝子に比して、膨大とも言える10万種以上にものぼるたんぱく質、特に解析困難であった巨大分子量のたんぱく質に対しても、高性能質量分析機器の開発などにより大規模かつ包括的なハイスループット解析が可能となり、「疾患からのアプローチ」が現実的になったことが挙げられる。事実、スイスやドイツ、米国などの欧米諸国は、この「疾患からのアプローチ(疾患プロテオミクス)」に国家プロジェクトとして、大量の予算を投入し、今まさに着手し始めている。以上の我が国にとって重要かつ深刻な状況を鑑み、本研究は、我が国の主要疾患などに関して、患者と健常人との間の発現たんぱく質群(プロテオーム)の種類、質、量の相違を比較解析することにより、疾患関連たんぱく質群の探索・同定と、得られた情報をもとに創薬基盤データベースを構築するものである。また、この疾患関連たんぱく質群の中から医薬シーズ・創薬ターゲット・疾患マーカーなどを同定すると共に、プロテオーム創薬の基盤技術の確立を図り、我が国独自の知的財産を創出するものである。
研究方法
疾患関連たんぱく質解析技術の確立に関する基盤的研究を推進するため、2D-LCを利用したたんぱく質の精細分離やLC-MS/MSを用いた安定同位体ラベル化によるショットガンペプチド解析を行った。疾患関連たんぱく質の機能解析に向けた遺伝子発現制御系を開発するため、発現制御型アデノウイルスベクターの作製を試みた。高血圧、心循環器系疾患に関連する微量たんぱく質解析技術を確立するため、TGL及びTGHの特性解析をプロテオミクス機器により行った。内因性グレリンの翻訳後修飾による多様な分子型の解析に関する研究を推進するため、胃や血漿中のグレリンなどの構造解析をESI-MSなどを用いて解析した。高血圧、心循環器系疾患に関連する微量たんぱく質解析技術を確立するため、短い断片を得たい場合はトリプシン、比較的長い断片を得たい場合はリジルエンドペプチダーゼを用い、ペプチド分離システムにより網羅的解析などを行った。痴呆等の精神・神経疾患に関連する微量タンパク質解析技術を確立するため、神経変性疾患の研究試料の確
保などを試みた。糖尿病等代謝性疾患に関連する微量タンパク質解析技術を確立するため、糖尿病患者及び健常者の血清及び尿を臨床情報を添えてプロテオーム・ファクトリー研究施設に発送するためのセットアップを図った。小児の免疫関連疾患に関わる微量タンパク質解析技術を確立するため、患者から発症時(急性期)、寛解期及び正常人の血清及び尿中の蛋白質の種類、質、量の相違について解析しようとした。加齢関連疾患に関連する微量タンパク質解析技術を確立するため、物忘れ外来と骨粗しょう症外来から、インフォームドコンセントの取れた患者の髄液、血液、尿等を採取、保存し、匿名化した後に研究に応用するシステムを構築した。がん関連たんぱく質解析に関する研究を行うため、手術後の残余検体の保存方法などについて検討した。疾患関連蛋白質解析のための質量分析法を確立するため、タンデム質量分析計を用いて、尿、血漿から抽出、単離した蛋白質の測定を行った。質量分析における検出効率を改善する目的で、種々の樹脂担体による試料の前処理法などについて検討した。がんに対するテーラーメイド医療を目指した疾患関連たんぱく質解析研究を行うため、ヒト肺ガン細胞株からたんぱく質を抽出し、二次元HPLCで分離し、nanoESIMS/MSに導入し、Dynamic exclusion scanを用い、測定データセットはMascot及びTurboSequestで解析した。
結果と考察
本研究は五大疾患などについて、患者と健常人との間の発現たんぱく質群(プロテオーム)の種類、質、量の相違を比較(疾患プロテオミクス)することにより、疾患関連たんぱく質群の網羅的探索を通じた「疾患関連たんぱく質群のプロテオーム動態に関するバイオインフォマティクス(創薬基盤データベース)」を構築し、疾患関連たんぱく質群の中から医薬シーズ・創薬ターゲット・疾患マーカーなどを同定すると共に、21世紀型創薬(プロテオーム創薬)の基盤技術の確立や疾病治療に有効な新規医薬、診断薬、治療法の開発につなげるなど、我が国独自の知的財産を創出しようとするものである。以上の観点から本年度は、国立医療機関などにより提供されるヒト組織サンプルに対して、多数の最新鋭高性能質量分析機器などを用い、大規模かつ高速解析するための基礎的検討を推進し、以下の知見・情報を得た。疾患関連たんぱく質解析技術として、2D-LCによるたんぱく質の精細分離及びICAT法を利用した、たんぱく質発現解析システムの構築、蛍光標識2D-DIGEとマイクロアレイを組み合わせた、たんぱく質・遺伝子発現情報比較システムの構築、LC/MS、LC/MS/MS及び2D-GEを利用したグライコプロテオーム解析技術の開発、疾患関連たんぱく質の機能解析に向けた遺伝子発現制御系の開発に成功した。動脈硬化性疾患のリスクファクターとなる高中性脂肪血症の病因と病態生理を解明するため、高度の高中性脂肪血症を病態モデル兎 (TGH)と軽度のTGLを用い、肝臓におけるプロテオーム動態を比較したところ、TGLに特徴的なCarboxylesteraseやTGHに特徴的なAcyl CoA dehydrogenaseを見出した。ヒト胃組織及び血漿中に存在する内因性グレリン分子型の検討を行った結果、オクタノイル化されたグレリンを初めとする多種類のグレリン関連分子が存在することが明らかになった。従来の2DE法よりも優れた分離・検出システムの確立を目的に、ショットガン解析法の構築を図ったところ、高感度に多数の酵素消化ペプチドの検出やその構造解析が可能であることを明らかにした。神経変性疾患(パーキンソン病、若年性痴呆症など)に対するプロテオミクス研究を推進するため、ヒト臨床検体の供給体制を整備すると共に、プロテオームの網羅的解析技術やモデル動物を確立した。糖尿病に関するプロテオミクス研究を推進するため、LC-MS/MS、Protein Chipなどを駆使した研究体制を整え、外来及び入院患者からの臨床サンプル収集の体制を確保した。難治性の小児炎症性・アレルギー性免疫疾患の中で喘息・腎炎・ネフローゼ症候群に関する疾患特異的な体液性因子のプロテオミクスについて、患者の血清・尿を用いた解析方法の確立などを行った。痴呆症や骨粗しょう症等
の加齢関連疾患たんぱく質解析を目指し、ヒトサンプル提供体制を確立した。手術後の残余検体を研究に供する目的で、共通のインフォームドコンセント用紙を作製し、医学倫理委員会で認められると共に、残余検体の定義を明らかにして、その設備を充実させた。質量分析法による生体内蛋白質・ペプチドの構造解析をフェムトモルレベルで再現性よく評価するため、ハードウェアや解析ソフトウェアを試作し、その優れた有用性を認めた。がん患者に対するテーラーメイド医療の実現にむけて、抗がん免疫能の増強に関与する遺伝子産物の解析とがん組織に発現するたんぱく質群の網羅的解析を開始し、基礎的データを蓄積した。疾患毎に、臨床・病理情報と連結した患者100名以上の生体試料(組織+体液)の疾患関連たんぱく質が解析可能な高性能質量分析装置等の機器類及びそれに対応する統合型バイオインフォマティクスシステムを構築した。
結論
疾患関連たんぱく質解析研究事業の初年度は、我が国の主要疾患に対する疾患プロテオミクス研究を推進するために必要不可欠な基礎的知見・情報の集積を図ると共に、ソフト面、ハード面からの研究基盤を整備し、基盤技術を確立した。

公開日・更新日

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