花粉症のQOLからみた各種治療法評価と新しい治療法開発の基礎的研究

文献情報

文献番号
200300659A
報告書区分
総括
研究課題名
花粉症のQOLからみた各種治療法評価と新しい治療法開発の基礎的研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
大久保 公裕(日本医科大学耳鼻咽喉科)
研究分担者(所属機関)
  • 岡野光博(岡山大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科講師)
  • 岡本美孝(千葉大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科・頭頚部腫瘍学教授)
  • 後藤穣(日本医科大学耳鼻咽喉科助手)
  • 寺田修久(千葉大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科・頭頚部腫瘍学講師)
  • 藤枝重治(福井大学医学部耳鼻咽喉科教授)
  • 吉田博一(獨協医科大学耳鼻咽喉科気管食道科講師)
  • 増山敬祐(山梨大学大学院医学工学総合研究部耳鼻咽喉科教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 免疫アレルギー疾患予防・治療研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
55,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究要旨
本研究の第一の目的は花粉症によってQOL(Quality of Life)がどの程度損なわれているかまたそのQOLの低下が現在の治療法でいかに向上するか調査することである。平成15年度のQOL研究は主任研究者と分担研究者の施設で行なわれた。第2世代抗ヒスタミン薬による治療研究をランダム化プラセボ対照試験で行い、QOL向上のエビデンスを確立した。また一般的薬物療法の初期治療では季節後からの治療と比較し、4週まではQOLの低下が少なかった。減感作療法でのQOL改善も確認された。
研究のもうひとつの大きな目的は花粉症に対する新しい治療法の開発である。新しい治療法として口腔減感作療法(錠剤、舌下液剤)を実際の花粉症患者に行い、その効果を症状とQOLの両面から確認した。またスギ花粉抗原に対する特異的T細胞のsubpopulationを直接計測する方法を確立し、今後の治療判定の他覚的所見となるよう検討を加えた。昨年より続く好酸球遊走抑制の検討ではDdouble strand (ds)RNA のpoly(I:C)にて刺激し、炎症性サイトカインとケモカイン産生について検討した。花粉症治療の新しい治療ターゲットであるPGD2と受容体のCRTH2の関係について検討し、リンパ球や好酸球炎症にかかわりを持つことを明らかにした。花粉症の自然史の研究では50歳以上の約10%にRASTの値に関わらず自然寛解があることを明らかにした。
A研究目的
スギ花粉症は日本特有の季節性アレルギー性鼻炎で、非常に多くの患者がいる。くしゃみ、鼻漏、鼻閉、流涙などの症状によって患者のQOL (Quality of life) は著しく低下し、さらに就業、勉学といった日常生活に支障をきたすことから社会問題にもなっている。そのため患者の生活全体を含めた状況をより的確に反映するためにQOLを考慮した医療の確立が期待されている。
今回我々が使用した日本アレルギー性鼻炎標準調査票2002は日常生活、戸外活動、社会生活、睡眠、身体機能、精神生活の6つの領域を作成し、最終的に全部で17個のQOL質問項目よりなっている。また総括的状態としてフェイススケールをつけてある。
平成15年度の報告は2002年の研究班の施設を訪れる花粉症患者のスギ花粉飛散季節におけるQOLならびに治療(薬物療法、減感作療法、手術療法)によるQOLの向上を明らかにすることを目的とする。
もうひとつの研究の柱は新しい治療法に関する基礎的な研究であり、その研究は免疫療法と新しい薬物療法が中心となる。花粉症を治癒の状態に持ち込める治療法は現在、免疫療法(減感作療法)のみである。しかしその効果に関しては欧米では確立している一方、日本ではなかなか花粉症の一般的治療法にならない。日本ではアレルギー疾患が専門家での治療よりプライマリーフィジシャンでの治療のほうが多い現状もあり、アナフィラキシーを中心とする副作用の問題は深刻である。これらの問題を解決するために花粉症に対する治癒を望める新しい免疫治療法(舌下・口腔内減感作療法を中心)に対する研究を行なう。また新しい薬物療法では今年度は特にプロスタグランディンの受容体であるCRTH2に対する治療法の検討を基礎的・臨床的に行った。スギ特異的T細胞株におけるCRTH2受容体刺激でのサイトカイン産生や実際に鼻粘膜における陽性細胞の発現やそのアレルギー重症度との相関などを検討し、花粉症をはじめとするアレルギー性鼻炎においての役割、重要性を検討した。これにより治療ターゲットとしてCRTH2が適切であるかどうかをみた。
研究方法
方法と結果
1花粉症のQOLについて(大久保、分担研究者全員)
日本アレルギー性鼻炎標準QOL質問表(JRQLQ)は計量心理学的に妥当性、応答性をはじめとして種々の検討から日本の花粉症患者を対象に標準化された。そこで花粉症の基本的治療である第2世代抗ヒスタミン薬の国際的代表として塩酸フェキソフェナジンの評価としてQOLを用いたプラセボ対照2重盲検比較試験を実施した。2003年の2月20日から3月13日まで207名の花粉症患者を対象に行った。はじめの1週間のランダム化期間である無治療期間と比較しその後2週間の投与期間ではプラセボ群はJRQLQ領域の戸外活動以外はすべて悪化していた。一方、塩酸フェキソフェナジン群では無治療期間と比較し日常生活、社会生活、身体機能、精神生活の4つの領域ですべて有意に改善していた。
またスギ花粉症の初期療法がQOLにも寄与しているかどうか、JRQLOを用いて検討を行った。2003年にスギ花粉症の患者を対象に、第2世代抗ヒスタミン薬塩酸エピナスチンを用いて、初期投与群、飛散後投与群、未治療群に分けて、鼻症状ならびにQOLスコアの変化についてJRQLQを用いて評価した。初期療法群では、すべての領域において飛散後投与群、未治療群に比べて平均QOLスコア、鼻症状が低く抑えられていた。飛散後投与群でも未治療群と比較していずれの領域においても平均QOLスコアが低値を示した。一方、総括的状態を表現する「顔の表情スコア」は、3群間で明らかな差は認められなかった。
減感作療法では花粉飛散季節中に薬物療法と比較し、JRQLQの領域のうち戸外活動と睡眠で有意にQOLスコアが低かった。
2新しい免疫療法について
①スギ花粉舌下減感作療法について(後藤、大久保)
スギ花粉症ボランティア10症例を対象とし舌下免疫療法(SIT; n=5)と薬物療法(n=5)の臨床的比較の検討を行った。鼻症状の評価は、症状点数Symptom Score(SS)を算出し、花粉飛散季節中の推移を検討した。また、JRQLQを用い、スギ花粉飛散中のQOLの変化を評価した。SITの2~4月の平均SSは、くしゃみが1.07、鼻汁1.30、鼻閉0.56、眼症状が0.39だった。薬物療法の2~4月の平均SSは、くしゃみが1.07、鼻汁1.76、鼻閉1.01、眼症状が0.80だった。QOL質問項目の合計スコアは、SITのQOLスコアは平均3.82、薬物療法のQOLスコアは平均10.0であり、舌下免疫療法はよりQOLを改善していた。
②スギ花粉口内錠減感作療法について(吉田)
昨年使用したスギ花粉口中錠(1倍錠)とその10倍量のもの(10倍錠)さらにスギ花粉抗原を含有しないプラセボ錠の花粉症患者に対する検討を行った。くしゃみスコア、鼻汁スコアについては観察期間後期に1倍口中錠内服群でプラセボ群と比較して有意に抑制されていた。日常生活の支障度スコアで比較すると1倍口中錠でプラセボ錠と比較して有意に抑制されていた。有害事象は11件報告され、プラセボ群2件、1倍錠内服群2件、10倍錠内服群7件であった。またIgE/IgG4は各群とも口内錠減感作療法前後で有意な変化を認めなかった。
③Th1とTh2バランスからみた花粉症治療の検討(岡本、増山)
スギ花粉抗原に対する特異的T細胞のsubpopulationを直接計測することで、Th1/Th2サイトカインのアンバランスが花粉症の病態の根底にあるかどうかを明らかにする目的で研究を行った。その結果、スギ花粉やダニ抗原に特異的なTh1、Th2細胞の検出する方法としてIL-4、GM-CSF、TNF-αにより誘導した末梢血由来DCを用いるELISPOT法による方法を確立した。スギ花粉症患者の抗原特異的Th1/Th2サイトカイン産生細胞の比はいずれもTh2優位であった。一方、非特異的Th1/Th2サイトカイン産生細胞ではTh1優位であり、抗原特異的なTh1/Th2細胞の検出に成功した。
④dsRNA(polyI:C)刺激による鼻線維芽細胞からのRANTES産生についての検討(藤枝)
鼻由来線維芽細胞をpoly(I:C)にて刺激し、炎症性サイトカインとケモカイン産生について検討した。さらに、ケモカイン産生の細胞内シグナル伝達について、各種特異的阻害薬がケモカイン産生にどのような影響を及ぼすか検討した。炎症性サイトカイン(IL-1β、TNF-α)の産生は認めなかったが、IL-8、RANTESの著明な産生亢進を認めた。炎症性サイトカイン(IL-1β、TNF-α)の産生が認められなかったことから、炎症性サイトカインを介した、autocrineではなく、dsRNA刺激により直接IL-8、RANTESの著明な産生亢進が導かれた。昨年度の検討とも合わせpoly(I:C)刺激では、JNKとPI3キナーゼがRANTES産生に、p38MAPKがIL-8産生に重要で、さらにJNKとPI3キナーゼも関与していることがわかった。これらのことから好酸球遊走因子産生の代表的シグナルであるPI3 kinase経路の阻害を主とした方向で、治療法開発の可能性を今後検討してゆく。
⑤CRTH2をターゲットとした治療法開発の研究(寺田、岡野)
寺田はプロスタグランディンD2の受容体であるCRTH2の末梢血単核球における陽性率が臨床的重症度と相関することを明らかにした。PGD2の好酸球遊走活性は比較的弱くeotaxin3とPAFの中間程度であった。CRTH2 transfectantを用いて、鼻粘膜ホモジネートによる細胞内カルシウム反応をアレルギー症例と非アレルギーとで比較するとアトピー症例鼻粘膜ではPGD2濃度、CRTH2 transfectantカルシウム反応いずれも高値を示した。鼻粘膜好酸球炎症において、 PGD2-CRTH2はeotaxin-CCR3に準じる関与が示唆された。
岡野はスギ花粉症患者よりCry j1およびPPDに特異的なT細胞株を樹立した。Cry j 1特異的T細胞応答に対して、PGD2の添加はIL-4産生を亢進し、抗CRTH2抗体の添加で抑制された。CRTH2アンタゴニストにも同様のIL-4産生の抑制作用を認めた。PGE2の特異的T細胞に対する作用はEP2およびEP4が選択的に関与していた。またPGD2受容体発現では、Cry j 1特異的T細胞はPPD特異的T細胞と比較してCRTH2発現が有意に亢進していた。以上の結果より寺田と同じくPGは特異的T細胞応答に対して、それぞれのメディエーターが特徴をもった制御機構を有することを利用し、花粉症の治療を行うことが期待できると結論している。
3花粉症の自然緩解について(岡本)
昨年の健康診断に引き続き、地域一般住民のアレルギー性鼻炎の横断的のみならず縦断的調査が行われた。この住民検診から、中高年者の横断的調査では加齢と共に、スギ花粉に対する感作率、有症率、スギ花粉特異的RAST値は低下した。60歳代では、花粉飛散量による変動は少なくほぼ横ばいであった。逆に、スギ花粉RASTスコアが2以上の陽性と判断される者で、スギ花粉症の有症率は、加齢と共に増加した。自然寛解は約10%の中高年に認められたが、スギ花粉RAST値が高値のものにも認めた。
結果と考察
結論
考察と結論
花粉症の種々の治療法によりスギ花粉飛散季節中の患者のQOLは向上した。今回、抗ヒスタミン薬の塩酸フェキソフェナジンのプラセボ対照2重盲検比較試験でQOL向上エビデンスを作成することが出来た。他の治療法についてもエビデンスを作成するような試験を考慮中であり、花粉症のQOLを指標としたエビデンスの作成を来年度も行ってゆく。また多施設によるQOLのデータの蓄積も多くなり、このデータベースが今後の花粉症治療のQOL基本データとなるよう整備してゆきたい。
免疫療法では舌下減感作療法、口腔内減感作療法とも昨年の報告同様、効果を示した。方法論が異なるため、優位性は示すことができないが、舌下減感作療法では薬物療法より高い効果を示したことは今までの報告に勝る結果と考えられる。今後の液体か、あるいは口内錠なのか、増量法はどうするか、いつから始めるのかなど方法論の統一などを考え、臨床的な検討を続けて行く。藤枝の昨年より続けているアレルギー疾患に対する全く新しい概念としてdsRNAによる治療がin vitroにおいて効果のあることが確認された。花粉症におけるアレルギー反応において前者はT細胞を、後者は好酸球を抑制する可能性を示した。また新しい薬物療法の研究では寺田、岡野らのCRTH2をターゲットとしての基礎・治療研究からこの治療法では好酸球・T細胞ともターゲットとして成立することが明らかとなった。今後これらの治療が臨床的に使用可能かどうか、in vivoにおける今後の研究を課題としたい。
発症と自然治癒の検討では高年齢での発症がキーポイントになり、さらに自然寛解はこれら中高年の1割であることが強調され、今後広く実際の臨床の場で確認しなければならない。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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