ナノメディシンの実用化基盤データベース開発及び評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300614A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノメディシンの実用化基盤データベース開発及び評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 慧重(財団法人医療機器センター)
研究分担者(所属機関)
  • 櫻井靖久(東京女子医科大学)
  • 古幡博(東京慈恵会医科大学)
  • 菅弘之(国立循環器病センター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究(ナノメディシン分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
37,463,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、我が国におけるナノメディシン研究の効果的かつ効率的推進を図ることを目的として、ニーズ・シーズのマッチングを目指したナノメディシン実用化基盤データベースの構築を狙ったものである。
研究方法
本研究は、昨年に引き続き開発委員会を組織し、その下で遂行した。開発委員会において、データベースの試験運用、海外シーズ情報の充実、ニーズ収集方法の検討、ナノアナトミー構築、ニーズとシーズのマッチングのためのナノメディシンフォーラムの運営を本年度の研究課題として決定した。なお、人材情報については、昨年度から収集・調査を重ねてきたが、国内においても類似のデータベースが整備されつつあるので、海外人材に限定することとした。シーズ情報においては、世界的動向把握のための海外動向調査、マクロ情報としての特許分析、ミクロ情報としての企業の技術情報収集を行った。企業の技術情報収集においては、ワーキング・グループを組織し、ナノメディシンに関する海外企業の詳細な技術情報シートを作成した。ニーズ情報については、昨年実施したアンケート調査によりニーズのマクロ情報を得たので、アンケート回答者情報を整理し、その中から具体的回答を記載した臨床医を抽出しヒアリングを行った(ニーズのミクロ調査)。ナノアナトミーについてもワーキング・グループを組織し、一部臓器を対象にデータ整備を行った。ナノメディシンフォーラムとしては、インターネットを用いたオープンディスカッション「ナノメディシンフォーラムNMF2003」を世界に先駆けて開催した。開催方法は、インターネット形式と従来の会議開催形式を併用し、適切なコーディネータの下、特定テーマにより、医療、ナノテクノロジー各分野から有識者を招き、医療側のニーズ、最新の研究動向とナノテクノロジーの適用可能性、実用化ビジョンなどについて議論した。
結果と考察
1)シーズ情報:①海外動向調査:昨年は米国の動向を中心に調査したのに加え、欧州で開催された2つのナノテクノロジー関連の会議を中心に出席し、欧州の研究開発、商業化などの動向調査を実施した。②特許情報:ナノメディシンの基盤技術として、DDS、イメージング、微小医療機器、生体材料の4分野に関する特許について、日米の特許出願件数(1992年~2001年)を分析した。1992年以降のナノメディシン分野の特許出願件数は日米出願ともに増加傾向にあるが、日本人による出願は、生体適合材料分野や微小医療機器分野の割合が高く、米国人による出願は、DDS分野への割合が高いことが判明した。マイクロイメージング分野はCarl-Zeiss社対日本勢数社という構図であることも判明したが、DDS以外の3分野については、特許出願件数そのものが少なく、未開拓状況であることがうかがえた。収集した特許情報はシーズデータベースに搭載した。③企業情報:ナノメディシンに関する200社を超える海外企業の情報を収集した。その情報から、それぞれの企業毎の保有技術を概観できる技術情報シートを作成し、データベースに搭載した。その内容・項目は、技術内容、開発フェーズ、提携会社・大学、特許などとした。搭載した企業の傾向は、国別では、米国が大部分を占め、次いで、イギリス、ドイツ、カナダ、オーストラリア、スイスであった。技術内容では、DDSなどの製剤系、イメージングなどの診断ツールの順で多かった。2)ニーズ情報:ヒアリングにより得られたニーズ情報は、①技術分類(DDS、生体材料、ナノシステム、ナノイメージング)、②医療ニーズ・到達目標、
③背景、④解説、⑤臓器・部位、⑥疾病、⑦病態、⑧診療科、⑨診療科・専門、⑩主な研究領域、⑪研究協力の可否ごとにデータを整理した。ヒアリング対象者の了承が得られたものから順次、ニーズデータベースに搭載することとした。3)ナノアナトミー:ニーズ保持者とシーズ保持者の間の共通基盤として、ニーズを喚起する画像情報を構築するため、マクロ解剖からマイクロ、ナノレベルへの微細化画像(SEM画像)情報を整備した。収集したSEM画像の一部(腎臓88件、肝臓51件、脾臓381件、血液9件、腸38件、肺93件、舌10件)は、解説と共にデータベースに搭載した。4)ナノメディシンフォーラムNMF2003:データベースに対する認知向上と活発な活用推進を目的として、テーマを3つ設定し実施した。また、インターネット経由の参加者のため、フォーラム会場映像及び音声、プレゼン資料をフォーラムシステム上で公開し、質問・意見等の自由書込を可能にした。①第1回(2003/10/19)ナノ微粒子によるDDS、②第2回(2003/12/20)ナノ・マイクロシステムの医療応用、③第3回(2004/3/18)ナノ・マイクロイメージングの医療応用:なお、第3回フォーラムは、nano tech 2004(国際ナノテクノロジー総合展・技術会議)開催中(2004/3/17~19)に、同施設(東京ビッグサイト)内で開催し、医療関係者以外の分野横断的参加者により実施された。併せて、nano tech 2004へのブース出展を行うことにより、国内外のナノテク関係者に対するデータベースの認知度向上を図ると共に、海外政府機関との情報交換・交流などを行った。ナノテクノロジーを医療技術に応用し、臨床現場で使用できるレベルまで到達するためには、ナノ医療産業が形成・発展することを描いた明確なビジョンとそれを実現する戦略が必要である。データベースを通じて我が国のナノメディシン研究を牽引する場合に、単に、データベースを構築すればよいというものではなく、シーズ情報とニーズ情報を併せて、両者のマッチング機能が重要となる。そこで本年度は、臨床現場が真に望む技術開発(ニーズ指向型研究)を行うべく、ニーズとシーズのマッチングのためのインターネットフォーラムを開始した。ニーズにはある種の段階が存在し、患者ニーズ、臨床ニーズ、医療研究ニーズに大別出来るが、本年度のフォーラムでは、既にナノ領域に踏み込んだ研究者を中心として、医療研究ニーズとシーズのマッチングにフォーカスして行った。今後はその先にある、より現場に近い臨床ニーズとシーズのマッチングにより、ナノメディシンに関する新技術の概念創出に繋がっていくことを目指すべきかと考える。そのためには臨床ニーズの収集が必須で、本年度ミクロ調査として実施したヒアリングは今後極めて有用である。次年度以降は本格的にニーズヒアリングを実施する必要がある。また先端研究であることや、ターゲットが分子・細胞レベルであることから、ある種の倫理問題や社会問題もテーマに取り上げたフォーラムを開催する必要も考えられる。データベースのもう一つの使命として、研究関係者の自己評価を促進し、国際的競争力のある技術開発に発展させるという面がある。シーズ情報データベースから国内外の技術動向を知り、研究内容、研究遂行スピードなどについて適切に研究運営することができよう。また、ニーズ情報データベースをガイドとして独創的な研究を効果的・効率的に推進することが可能となろう。これらはわが国におけるナノメディシン研究の活性化に大きく貢献するものである。なお、データベースはあくまで使われて意味を持つものであり、その意味からも積極的な広報活動も必要である。本データベースの最終形態としては、シーズ、ニーズともに研究者側或いは臨床家側からの自己書き込みを狙っており、現在の情報収集は呼び水的初期調査と位置付けている。しかしながら書き込み数の増加を促進すべく、次年度以降も積極的に情報収集することが必要である。
結論
本年度は、海外動向調査、海外企業の技術情報シートの作成、関連技術の特許分析、ニーズ収集及び3回のナノメディシンフォーラムを行った。次年度は、特許情報の追加、国内
企業情報の収集と海外企業情報の更新、ニーズのヒアリング、多角的テーマによるインターネットフォーラムの開催、データベースの利便性向上等が重点課題として考えている。ナノメディシンの実用化基盤データベースは、http://nano.jaame.or.jp/medicine/で公開している。

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