高齢者保健・医療・福祉サービス提供機関におけるマネジメントに関する実態分析並びに理論構築に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300246A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者保健・医療・福祉サービス提供機関におけるマネジメントに関する実態分析並びに理論構築に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
小山 秀夫(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,337,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
欧米諸国並びにわが国の保健・医療・福祉の近年の動向から、わが国において医療政策の転換が与える変化が今後どのような方向に進むのか、米国のマネジドケア、DRGおよび在宅ケア機関への定額払い制度、イギリスの市場メカニズム導入等の諸外国の動向に対して、わが国の医療政策は今後どのような方向に進むべきかの検討は重要な課題であり、そのために保健・医療・福祉関係機関におけるマネジメント理論を構築することが、わが国のみならず諸外国においても求められている。本研究の目的は、今後大きな変革を求められる介護保険制度に関わる高齢者保健・医療・福祉サービス提供機関において必要なマネジメント理論を構築することである。本研究は、高齢社会の様々なニーズに対応し、制度的にも適切な保健・医療・福祉サービス提供機関のマネジメントの方策について実証的に検証する研究を実施し、併せて国際比較による科学的なマネジメント理論の構築を目的として実施する。
研究方法
第三年度は、①イギリスにおけるNHS改革の一連の動向から、高齢者ケアにおける質をどのように向上させるかと行った問題の取り組みについて動向分析を行い、検討した。②わが国の高齢者介護施設におけるマネジメントに関する実態分析調査を、全国老人保健施設協会会員施設に対して実施した。全国老人保健施設協会の会員2,906施設に郵送自記式調査によって実施し、有効回答数は948件で、回答率は32.6%であった。
結果と考察
イギリスにおけるNHS等の質規制に関する動向を分析することは、昨年度のアメリカの動向と同じくわが国の高齢者ケア施設におけるマネジメントには重要な課題である。特に質の保証については、介護保険サービス機関における質の向上のための情報開示の動きがわが国でも進んでおり、今後のわが国の介護保険施策にもその動向分析は重要になるものと考える。また、今後の課題としてわが国の社会保険方式とは異なるイギリスのNHS方式ではあるが、質の保証に関するイギリスの取り組みを、どのようにアレンジしてわが国に取り入れるかだけではなく、質保証のシステムそのもののわが国への適応の可能性を、科学的に検証することが必要であろう。介護老人保健施設へのマネジメント調査から、以下の結論が得られた。MB賞に基づく質問項目の組織のプロフィールについては、組織のプロフィール項目をわが国に適用するには、若干の変更が必要と考えられる。回答者並びに組織の意識については、実際に質問項目を組織又は個人が行っているか、意識しているか等を尋ねたものであるが、リーダーシップ、利用者・顧客・市場の重視、スタッフの重視に関する項目については「あてはまる」とする回答が多かった。しかし、実際に何をもって「あてはまる」としているのかの詳細は、今回の調査では尋ねておらず、その基準を明確にしていくことが今後の課題である。組織・介護の質改善への取り組みについては、その具体的方法を詳細に分析することによって、わが国の介護老人保健施設における組織改善、介護の質改善への具体的な取り組みが明らかとなり、ベンチマーキング指標となりえるであろう。全国老人保健施設協会のマニュアル項目に基づく研修の必要性は、全項目において「必要である」とする回答が多かった。今後、全国老人保健施設協会において、各施設のニーズに応じた研修が提供するようにしていくことが望まれる。また、職種別、職位別等の研修も必要であり、どの研修を全国レベルで実施し、どのレベルや研修を各施設内研修とすることが効率的、効果的なのか等の検討を行う必要があろう。現在の全国老人保健施設協会の
研修への参加状況は、各研修とも50%程度であり、参加状況が高いとはいえないが、研修に参加した施設における満足度はよいといえる。組織環境や提供活動、戦略的な課題に関する質問については、介護老人保健施設の経営層にあたる施設長や副施設長、および全国老人保健施設協会の各種研修の受講者において、「答えられる」との回答が多いことから、今後の積極的な情報提供、啓蒙活動並びに経営者としての自覚等によって、これらの認識を向上することは可能であると考える。リーダーシップや利用者・顧客・市場の重視、スタッフの重視に関する質問については、ISO9000sの認証取得済みの施設において、「あてはまる」との回答が多いという結果は、前述した調査項目がISO9000sの規格要求事項にも共通する項目であることから、ISO9000sの認証取得によって、組織並びに組織に所属する個人のセルフアセスメント能力並びにその基準等は向上することが示唆できる。今回の調査では、米国のMB賞のチェックシートの項目を、施設プロフィール、セルフアセスメント項目として設定し、わが国の介護老人保健施設においてどのような結果が得られるのか、質問が理解できるかどうかなどを分析した。理解できないとする項目は、MB賞項目の翻訳の問題だけではなく、今後のわが国の保健医療福祉分野におけるマネジメント意識向上のポイントとなると考えられる。また、調査結果からも、施設プロフィールの「簡単に答えられる」「なんとか答えられる」というレベルと「答えるのが難しい」とするレベル、セルフアセスメント項目の「とてもあてはまる」「ややあてはまる」レベルと「どちらともいえない」、「ややあてはまらない」「全くあてはまらない」レベルは、質問項目によって大きな差があり、これらの結果から今後のわが国の保健医療福祉分野のマネジメントにおける課題を導きだすことが可能であろう。
結論
3年間にわたって諸外国の高齢者ケアの動向を分析したが、最終年度である今年度の結論としては、まずイギリスの特徴として挙げられるのが、福祉国家の象徴ともいうべきNHS制度の財政的危機状況である。イギリスでは、NHS制度の根幹をなす公立病院をTrustという形にし、独立採算制を取り、医療の質の向上を高めようとしてきた。しかし、自国の医師や看護婦数の減少、供給不足によるGP(General Physician)受診並びに公立病院の手術待機期間の長期化、公立病院や病棟の閉鎖等の様々な問題を抱えているために、改革を行わなければならないという切実な問題がある。ブレア政権では、こうした医療の供給体制を抜本的に改革するために、ナショナルロッテリー(イギリス国営の宝くじ)の収益によって補填し、NHS改革を行っているという。医師、看護師の増員も、他国から専門職を導入する形で解決しようとしている。そのような意味からもわが国よりも切実な状況にあるイギリスにおける一連の動向は、今後のわが国の保健医療福祉改革の参考になると考える。2004年春からは、イギリスではCHAI(医療)およびCSCI(社会的ケア)という2つの質規制機関に生まれ変わり、行政から提供機関までを対象とした、医療と社会的ケアの提供プロセス全体にわたっての評価を統合できることになり、医療へのアクセス、ケアの質や虐待等の、現状での課題を解決するために、実効性のある質の改善のための取り組みをより進めていくことが期待されている。また、わが国の介護老人保健施設におけるマネジメント状況調査からは、管理者等のマネジメントに関する捉え方、研修へのニーズ等も明らかとなり、今後の介護老人保健施設のあり方への提言を行うことが可能となった。また、介護老人保健施設のみならず、介護保険施設、医療施設、福祉施設への適用の可能性についても今後検討していくことが必要であろう。本研究の目的である介護保険制度に関わる高齢者保健・医療・福祉サービス提供機関において必要なマネジメント理論の構築は、経営分野における一般的なマネジメント理論に介護保険制度、医療保険制度等の独自の体制を加味して検証していくことにより可能であるとの結論を得た。

公開日・更新日

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