軽度認知障害の前方視的・後方視的研究

文献情報

文献番号
200300194A
報告書区分
総括
研究課題名
軽度認知障害の前方視的・後方視的研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
村山 繁雄(東京都老人総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 有馬邦正(国立精神・神経センター)
  • 金丸和富(東京都老人医療センター)
  • 石井賢二(東京都老人総合研究所)
  • 栗崎博司(国立療養所東京病院)
  • 本吉慶史(国立療養所下志津病院)
  • 小尾智一(国立療養所静岡神経医療センター)
  • 加藤貴行(東京都老人医療センター)
  • 坂田増弘(東京大学医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
16,807,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)とは、記憶障害の訴えが介護者に確認され、確立したメモリースケールで1.5SD以下の低下を示し、日常生活に障害がなく、痴呆はなく、簡易認知機能評価指標clinical dementia rating(CDR)0.5である群と定義され、高齢者の5%に存在、年率10~15%でアルツハイマー病に移行するとされ、痴呆予防の対象として脚光をあびた。しかし、高齢で標準化された記憶テストがほとんどないこと、背景病理への配慮がほとんどないことより、概念的混乱が存在する。
東京都老人医療センター・老人総合研究所は、在宅高齢者の神経病理学的診断を、神経疾患の有無にかかわらず行う努力をしてきている。最近5年間、1,120例の病歴を詳細に検討し、死亡時MCIに該当する症例を後方視的に抽出、その神経病理学的所見を明らかにすることで、MCIの背景疾患を明らかにする。
この後方視的研究結果をもとに、MCI診療のクリティカルパスを作製、もの忘れ外来と、神経内科・リハビリテーション科入院患者に適応、MCIを抽出、前方視的に追跡、痴呆予防のための介入を試みる。
さらにこれらMCI症例が不慮の転帰をとった時、出来る限り神経病理学的に検索することで、後方視的研究との結合をはかる。
軽度認知障害の背景疾患を明らかにし、疾患毎の的確な介入により、痴呆予防診療のひな形を提供することで、高齢者の生活の質を改善し、医療費全体を抑制することが本研究の目的である。
研究方法
後方視的研究:1995年より、ご遺族の同意と倫理委員会の承認のもと、アポE遺伝子多型決定済みの、当施設1120連続開頭剖検例を対象。神経内科専門医二名が独立して病歴を検索し、MCI該当症例を抽出。不一致の場合は討論し、主治医、介護者に問い合わせ確認。他院での既往病歴の参照には、遺族の文書同意を得た。CDR0.5で、年齢相応の物忘れあるいはぼけの記載があり、記憶障害に基づく病気療養上の問題の既往があるが、痴呆の診断を受けていないか、家族・医師・看護婦間で痴呆の有無の判断に相違がある例を、MCI該当例として抽出。せん妄、うつ病等の精神障害、死に連続する身体状況での認知障害は、評価より除外。画像所見を参考に、代表的部位を標本にし、通常染色、鍍銀染色、抗タウ、アルファシヌクレイン、アミロイドベータ蛋白抗体免疫染色を行い、老年性変化を半定量的に評価。血管障害の評価には、臨床・画像情報に病理所見を加え、全て記載。選び出されたMCI症例を、正常及び痴呆例と比較した。前方視的研究:参加施設に物忘れ外来を設立、MCI診療クリティカルパスを適用。神経内科・リハビリテーション科入院患者にも適用し、MCIを抽出。クリティカルパスは、以下のように設定。一次スクリーニング:初診時、本人及び介護者より物忘れの存在を確認、CT scanを緊急で撮像し硬膜下血腫を除外、MMSEで24点以上の症例を抽出。二次スクリーニング:リバーミィード行動記憶検査(RBMT)カットオフを1.5SD以下として、標準プロファイル値15点以下の症例を抽出。MRI(volumetric、あるいは斜台に平行)で海馬を含む脳萎縮の評価、脳血流シンチ(SPECT、統計処理画像が必須)での局所性血流低下の有無、脳波上の徐波の検出で、MCIの診断基準を満たす症例に、文書同意の上、前方視的研究に参入いただく。髄液バイオマーカー測定(タウ、リン酸化タウ、アミロイドベータ蛋白)、アポE蛋白遺伝子多型決定、PET(オプション、糖代謝並びにドーパミン結合能及び合成脳)、WMS-R(オプション)、WAIS-R(オプション)で評価。治療的介入として、アルツハイマー病、レヴィー小体型痴呆、高齢者タウオパチー(嗜銀顆粒性痴呆並びに神経原線維変化優位型痴呆)は、いずれも中枢性コリン作働系の病変を伴うこと、最終診断は病理によることより、塩酸ドネペジルに記憶のリハビリテーションを加え介入を試みた。
結果と考察
後方視的研究:170例が軽度認知障害該当例として抽出。男女比100:70=1.44、平均年齢82.0歳、平均脳重1220gで、知的正常395例の男女比241:154=1.56、平均年齢77.2歳(p<0.0001)、脳重1,260g(p=0.001)と、痴呆例430例の男女比197:233=0.84(p=0.00031)、平均年齢83.8歳(p=0.0174)、平均脳重1170g(p=0.0004)との中間。アポE 遺伝子多型は、正常群で2/3:38例、3/3:307例、3/4 50例、4/4:0例。MCI群では2/3:18例、3/3:121例、3/4:29例、4/4:2例。痴呆群では2/3:0例、3/3:346例、3/4:70例、4/4:14例。MCI群は正常群と痴呆群の中間。遺伝子頻度では、正常、MCI、痴呆において、e2が、9.6%、10.5%、0%、e4が12.6%、19.3%、22.1%で、MCI群は、正常群と痴呆群の中間であった。病理形態上、変性疾患及びその初期と考えられる例は62例(36.8%)で、AD関連24例、嗜銀顆粒性痴呆関連11例、神経原線維変化優位型痴呆(NFTD)関連11例、Lewy小体型痴呆関連10例、Parkinson病(PD)3例。脳血管障害主体のものは71例(41.5%)で、臨床症状を伴う脳梗塞26例(Binswanger型白質脳症様病変2例)、無症候性脳梗塞35例、脳出血7例、クモ膜下出血1例。生前の脳脊髄液タウ、リン酸化タウ、アミロイドベータ蛋白(Aβ)42値と病理所見(神経原線維変化、老人斑、アミロイド・アンギオパチー)を対比。髄液リン酸化タウは、神経原線維変化、及び老人斑と、また髄液 Aβ42は、神経原線維変化、老人斑、アミロイドアンギオパチーのと有意に相関。
前方視的研究:本研究班クリティカルパスにのっとって、物忘れ外来の患者をスクリーニングし、MCIを抽出、経過をみたところ、2年以内に半数以上が痴呆に移行、その大部分が変性型。神経内科入院患者にスクリーニングを広げると、脳血管障害性MCIが最多で、片側内頚閉塞で内膜剥離術で機能が回復した症例が存在。パーキンソン病でMMSE正常とされた大部分が、RBMT 1.5SD以下であり、経過により非進行例と進行例の二群に分かれることが判明。RBMTをMCIのスクリーニングに用いる点について、記憶検査の中で唯一展望記憶を評価できる検査であること、高齢者標準値を持つこと、所用時間が30分以内と短くてすむこと、WMS-Rともよく相関することより、問題はないと判断。髄液バイオマーカーとして、Aβ42はMMSEと逆相関するため、アルツハイマー病の進行期のマーカーとしては有効。一方髄液リン酸化タウの値はMMSEと正相関し、経時的に検索した症例で低下することから、アルツハイマー病の早期診断、すなわちMCI診療において最も有用なマーカーと結論。FDG-PET画像について、健常者50例(21-81歳)にFDG-PETとMRI volumetric studyを施行し、脳ブドウ糖代謝と灰白質分布の加齢変化を検討。加齢による低下は直線的ではなく、初老期にまず側頭葉先端部が低下し、老年期に入り前頭葉の糖代謝低下が進行。萎縮の影響を補正しても、前頭葉の糖代謝は加齢とともに低下。物忘れ外来を受診したMCI28例のFDG-PETについて、この正常加齢変化を加味した統計画像法(SPM)による診断を行ったところ、9割は変性型MCIで、約半数はアルツハイマー型、2割が後部帯状回代謝低下型(初期アルツハイマー病疑い)、2割は前頭側頭型痴呆のパターンを呈した。
結論
MCIはアルツハイマー病を一定数含むが、背景疾患は多彩である。他疾患に続発し、その疾患の治療が認知機能の改善につながりうる場合を、二次性MCIと定義すると、高血圧、糖尿病、慢性呼吸不全、慢性心不全等の、内科疾患への配慮も必要である。脳血管障害の危険因子を有する症例には、脳画像検査による評価をスクリーニングとして行い、無症候性脳梗塞が存在する場合はMMSEに加えRBMTを行うことで、MCIを診断、危険因子の管理をより厳密に行い、痴呆発症予防を試みることは有用である。高齢者タウオパチー(嗜銀顆粒性痴呆と神経原線維変化優位型痴呆)は予後の比較的よいMCIであり、経過観察が重要である。一方レヴィー小体型MCIは生命予後が悪いため、早期診断に脳血流シンチに加え、MIBG心筋シンチを考慮する必要がある。髄液バイオマーカー、特にリン酸化タウはMCI診断上極めて有用である。また単一の検査で最も鋭敏なのはFDG-PETであることが確認された。

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