文献情報
文献番号
200300161A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の口腔保健の維持増進に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
石井 拓男(東京歯科大学)
研究分担者(所属機関)
- 宮武光吉(鶴見大学歯学部)
- 新庄文明(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
- 山根源之(東京歯科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
8,450,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
口腔機能の状態が全身的な健康に影響することは近年の研究で多くのことが明らかとなってきており生涯にわたる歯科保健の重要性が各方面で認識されてきている。高齢者の健全な口腔機能の維持・増進を実現するには、成人期からの歯科保健対策と要介護高齢者の歯科疾患発生の抑制がのぞまれているところである。本研究では成人歯科保健活動の中で、住民に対する継続的な歯科健康管理プログラムを実施し高齢者の口腔に良好な成果を及ぼした事例を選定し、高齢者の口腔保健の維持・増進に有効な成人期から高齢期の世代別に見た歯科保健の課題を明らかにすることと、急性期から慢性期病床そして介護施設・在宅といった各段階において、いかに適切な医科歯科連携を行うかを検討し、その連携が要介護者の口腔機能の回復と維持に有効であることを明確にし、要介護者のQOLに係る歯科保健指導管理のあり方を検討することを目的として実施した。
研究方法
①介護施設への調査を無作為抽出した4000施設に対し、質問紙を用い口腔ケアに関するアンケートにて行った。調査項目は施設の状況、入所者の状況、口腔ケアに対する意識、口腔ケアに関する知識、口腔ケアの現状、歯科医療との関係、施設の状況、入所者の状況、口腔ケアに対する意識、口腔ケアに関する知識、口腔ケアの現状、歯科医療との関係であった。調査対象は福祉情報ネットワーク「遊楽」の検索により「介護老人福祉施設」、「介護老人保健施設」、「介護療養型医療施設」、「グループホーム」の4つのキーワードにて抽出された15722施設とし、キーワードごとに母集団から1000施設を無作為系統抽出し、合計4000施設に対し、各施設の事業主および施設長あてに調査票を郵送し、郵送にて回収した。②本研究班因と病院勤務で脳血管障害患者の口腔ケアを実践している看護師、看護教育に携わっている教員、脳神経外科医師、歯科衛生士の教育と病棟での口腔ケアを行っている歯科衛生士らによる研究集会等により口腔ケアの標準化を試みた。平成15年12月から平成16年2月までの期間に、東京歯科大学市川総合病院脳神経外科を受診し、ラクナ梗塞と診断されて入院となった患者とした。脳神経外科医師より依頼を受け、入院初日もしくは二日目に歯科医師および歯科衛生士による口腔内診査および評価、ならびに嚥下機能評価を行った。口腔内診査および評価は迫田式アセスメントシートを用いた。③全国の国保直診歯科診療所213施設に対して、全国国保診療施設協議会より成人歯科検診の実施状況ならびに調査への協力の条件に関する問合せを行い、協力可能との回答の得られた機関については、長崎大学より成人歯科検診受診者に関する記録調査票を送付した。
返信のあった記録表をもとに、初回受診時に有歯顎であった者のうち、2つの年度にわたる同一人であるとの照合が可能な受診者を分析の対象とし、2回の健診の間を観察期間として、一年あたり平均の喪失歯数を求めた。年間平均喪失歯数は、初回受診時の年齢、現存歯数ならびに観察期間別に比較し、成人歯科検診受診を含む歯科保健事業の実施の効果について考察した。
返信のあった記録表をもとに、初回受診時に有歯顎であった者のうち、2つの年度にわたる同一人であるとの照合が可能な受診者を分析の対象とし、2回の健診の間を観察期間として、一年あたり平均の喪失歯数を求めた。年間平均喪失歯数は、初回受診時の年齢、現存歯数ならびに観察期間別に比較し、成人歯科検診受診を含む歯科保健事業の実施の効果について考察した。
結果と考察
①介護施設への調査結果.回答率は42.8%と高値であった。回答率はグループホームが最も高値であった。歯科を有する施設は少なかった。口腔ケアの効果として「呼吸器感染症予防(誤嚥性肺炎等)」、「摂食・嚥下障害の改善」といった効果を期待する回答が90%を超えた。口腔ケアを実施する上での問題については要介護者に関するものが多く、要介護者のADLが高いことから非協力が問題となり、緊急時の対応が困難なことから身体的問題が危惧されるようになったと思われた。ほとんどの施設において基本的な介護計画に口腔ケアは入っており、施設入所者のほとんどに口腔ケアが必要であることが示唆されたが、基本的な介護計画に口腔ケアが含まれている施設の約4分の1の施設で十分な口腔ケアが提供できていなかった。口腔ケアのマニュアルに関して、回答施設の約4分の1の施設でマニュアルがあると回答した。指定介護療養型医療施設の療養型病床群を有する病院で口腔ケアのマニュアルがあると回答した施設の割合が多く、グループホームではその割合は低かった。またマニュアル化により、口腔ケアが基本介護の中で広く提供される可能性が示唆された。口腔ケアは口腔ケア自立の入所者にも提供されていることが多く、自立を促すといった配慮はなされていなかった。口腔ケアの主担当者はヘルパーなどの介護職員であることがわかった。口腔ケアはほとんどの施設で食後実施され、その回数も病院より多かった。経口摂取を行っていない方への口腔ケアは経口摂取を行っている方の口腔ケアよりもレベルが低いとの結果であった。口腔ケア実施確認の担当者はほとんどの施設で「介護職員」であった。入れ歯の清掃、保管の方法についての情報は浸透していることが分かった。ほとんどの施設(87.6%)は協力歯科医療機関を持ち、歯科医療職を有す施設を含めると97.0%の施設が何らかのかたちで歯科医療と関係があることが分かった。一方、42.3%の機関は口腔ケアに関しての協力歯科医療機関からの情報提供がないと回答しており、口腔ケアの情報の流れがかならずしも円滑でないことが分かった。歯科医師、歯科衛生士による専門的な口腔ケアの実施に関しては68.0%の施設が「実施していない」と回答した。定期的な歯科健診は20.1%の施設で行われていた。歯科治療の必要性が生じた場合の対応ついては、ほとんどの施設が家族と協力歯科医療機関に連絡と回答し、地域的な対応がみられなかった。治療形態に関しては約半数以上の施設が訪問歯科診療を経験していた。職員に対する歯科保健に関する教育に関してはほとんどの施設が行っておらず、協力歯科医療機関からの情報提供も少ないことから、今後、歯科医療側から介護施設に対し、積極的に歯科保健の情報提供を行っていくべきと考えられた。口腔ケアに関する情報提供や専門的な口腔ケア実施、定期的な歯科健の実施、施設内での歯科治療、職員に対する定期的に歯科保健に関する教育の実施については、すべて常勤・非常勤を問わず歯科医師、歯科衛生士が勤務する施設(歯科群)のほうが多くなされていた。 ②クリニカルパスの作成と試みについては、平成14年度我々が行った研究集会において歯科領域と看護領域で情報の交換が無く、実態を認識していなかったことが明らかとなり、入院患者の急性期から介護施設に至るまでの一連の流れの中で、口腔ケアと摂食指導を確実に根付かせるために、歯科の係わりをクリニカルパスに入れ、評価を行う時期と評価の判断基準を作る必要があることを確認したことから今回の検討となった。脳血管障害患者用クリニカルパスに口腔ケアを取り入れたものを作成し、検討した。嚥下機能評価については歯科医師もしくは医師が行うべきであるという意見
が出された。アセスメントシートは簡便なタイプのものを使用し、普及させる必要があると考えられた。クリニカルパスを使用するためには、病態によるバリアンスを設けるか、対象疾患の細かい選定が必要であると意見の一致をみた。口腔ケアを標準化し、口腔の状態を客観的に評価する目的で脳血管障害患者用クリニカルパスに口腔ケアを取り入れ作成した。その結果病棟内での口腔ケアの定着につながった。しかし、義歯の適合と深い関連のある早期の義歯使用については体位保持が困難な場合には行えないことが指摘された。③成人歯科保健事業の実績からみた歯の喪失防止効果について。年間喪失歯数は40歳、50歳代より60歳代、70歳代が多く、これらの年代を含めた健診の重要性を示唆する結果が得られた。年間平均喪失歯数は現存歯数10~23本の区分に多く、観察期間が長くなるほど少なくなる傾向が認められた。本調査の結果、成人歯科健診を含む事業を継続的に活用することにより35%が80歳において28本以上の現存歯数を保有し、50%が24本以上、60%が「80歳における現存歯数20本」を達成できる可能性が示唆された。
が出された。アセスメントシートは簡便なタイプのものを使用し、普及させる必要があると考えられた。クリニカルパスを使用するためには、病態によるバリアンスを設けるか、対象疾患の細かい選定が必要であると意見の一致をみた。口腔ケアを標準化し、口腔の状態を客観的に評価する目的で脳血管障害患者用クリニカルパスに口腔ケアを取り入れ作成した。その結果病棟内での口腔ケアの定着につながった。しかし、義歯の適合と深い関連のある早期の義歯使用については体位保持が困難な場合には行えないことが指摘された。③成人歯科保健事業の実績からみた歯の喪失防止効果について。年間喪失歯数は40歳、50歳代より60歳代、70歳代が多く、これらの年代を含めた健診の重要性を示唆する結果が得られた。年間平均喪失歯数は現存歯数10~23本の区分に多く、観察期間が長くなるほど少なくなる傾向が認められた。本調査の結果、成人歯科健診を含む事業を継続的に活用することにより35%が80歳において28本以上の現存歯数を保有し、50%が24本以上、60%が「80歳における現存歯数20本」を達成できる可能性が示唆された。
結論
①介護施設への調査から、基本的な介護計画に口腔ケアが含まれている施設でも十分な口腔ケアが提供できていなかったこと、経口摂取を行っていない入所者には高度な口腔ケアが必要であるとの認識が浸透していないこと、口腔ケアに関しての協力歯科医療機関からの情報提供がない機関の存在と職員に対する歯科保健の教育がなされてないこと等、問題点が多々発見された。②口腔ケアと摂食指導を確実に根付かせるために、脳血管障害患者用クリニカルパスに口腔ケアを取り入れたものを作成し、検討した結果、病棟内での口腔ケアの定着につながることが確認された。③成人歯科健診を含む事業を継続的に活用することによりかなりの割合で、80歳における現存歯数20本を達成できる可能性が示唆された。
公開日・更新日
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