口腔保健と全身的な健康状態の関係について

文献情報

文献番号
200201294A
報告書区分
総括
研究課題名
口腔保健と全身的な健康状態の関係について
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
小林 修平(和洋女子大学)
研究分担者(所属機関)
  • 宮崎秀夫(新潟大学大学院教授)
  • 河野正司(新潟大学大学院教授)
  • 才藤栄一(藤田保健衛生大学医学部教授)
  • 花田信弘(国立保健医療科学院部長)
  • 石川達也(東京歯科大学学長)
  • 安藤雄一(国立保健医療科学院室長)
  • 井上修二(共立女子大学教授)
  • 斉藤 毅(日本大学総合歯学研究所教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
96,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
口腔保健医療が全身健康状態におよぼす影響を明らかにすることを目的に高齢者における各種の調査を行った。
研究方法
口腔の状態に起因する各種の疾患や病態を検証し、口腔保健が全身の健康状態に影響を及ぼしている状況を科学的に評価するために、8つの研究班を組織して研究を行った。倫理面への配慮:参加各研究施設において倫理委員会の審査を経て調査研究を開始した。
「高齢者の追跡調査の研究方法」
1.調査対象:新潟市在住の70歳600名を対象とした。
2.調査項目:1)口腔診査、2)栄養調査、3)体力、4)血液検査、5)尿検査、6)その他
「高齢者の咬合に関する追跡調査-高齢者の顎機能および身体機能との関連-研究方法」
新潟市在住の74歳430名を対象として,顎機能および顎機能障害の実態,咬合力と口腔健康状態や身体機能との関連,および咬合力と関連する要因について分析を行った。
「歯科治療による高齢者の身体機能の改善の研究方法」
全国13地区における病院入院中あるいは老人保健施設・特別養護老人ホームに入所中で歯科治療の必要な高齢障害者を対象とした。対象者を歯科検診後、年齢をマッチさせてランダムに治療群と対照群に振り分け、歯科的介入の効果を「前調査」とその約8週間後の「後調査」とで比較して検討した。治療群とは、「前調査」の後すぐに歯科治療を開始した群であり、対照群は、「前調査」後8週間は歯科的介入を行わなかった群である。
「口腔微生物と全身の健康に関する研究の方法」
各研究機関が連携してそれぞれの課題を担当した。
「口腔の状態と睡眠についての研究の方法」
被験者は60歳以上の無歯顎の男性4名、女性1名。睡眠の判定のため、脳波(EEG)、眼電図(EOG)、頤筋電図(chin EMG)の測定を同時に行い、睡眠段階の判定を行うと共に、動脈血酸素飽和度(SaO2)、いびき、無呼吸などの測定を行い、呼吸情報を記録した。計測条件は、義歯を装着した就寝を1晩、義歯を装着しない就寝を1晩として、睡眠状態を計測した。
「歯科医師における歯と全身の健康、栄養との関連に関する縦断研究の研究方法」
調査対象者は4府県の歯科医師会会員4,854人である。ベースライン調査は自記式の問診票を歯科医師会を通じて配付・回収することにより実施し、未回答者への再依頼も必要に応じて行った。
「糖尿病患者・肥満症患者の口腔状況に関する研究-口腔と全身健康の相互関係-の研究方法」
本年度はプロトコールを作成し、1)歯周病治療で歯周病を改善する歯科介入群、2)初回調査時における歯科指導のみで経過を観察する非介入群の2群にわけた。介入群に対しては、7~8週間で集中的に歯科治療を施行し、治療後4週毎に21週、両群の血糖、HbA1c、血中脂質、血清CRP(高感度)の変動を測定して、歯周病改善により糖尿病患者の血糖コントロールを改善できるかどうかを検討した。
「咀嚼と肥満の関係に関する研究」の方法:被験者は30歳代の健康な男性7名とした。被験者には、1週間の間隔で、同じ調理内容の食事を昼食時に食べさせた。食事30分前に身長、体重、体温を測定し、実験開始前空腹時の血液採取をおこなった。その後食べ方の指示をおこなった。この時被験者を「良く噛む」と「早食い」にランダムに分類した。食事開始後、15分、30分、60分、120分の時点で体重、体温の測定と血液採取を行った。
結果と考察
研究各研究課題ごとに述べる。
「高齢者の追跡調査の研究結果と考察」:
1)歯周病と全身の健康との関連について
本調査から,高齢者において,歯周病の有病状況や進行率と免疫系の関連性が明らかになった。さらに,骨密度と歯周病の進行には弱いながらも有意な関係が認められ,全身の骨代謝が歯周病の進行にも影響していることが示された。加えて,喫煙者で血中ビタミンC濃度が低いと,歯周疾患が進行しやすいことが明らかになった。
2)歯の喪失および咀嚼能力と日常生活動作遂行能力について
本研究において,日常身体活動を高く保つ事は,歯の健康にも有益である事が示唆された。高齢者において,日常身体活動水準,特に中強度における身体活動時間を延長させる事は,歯の喪失を防ぐうえで有益であると考えられた.また,高齢者における日常身体活動水準と歯科健診結果の関連性には性差が存在し,特に,女性においてその関連性が強いと考えられた。
「高齢者の咬合に関する追跡調査-高齢者の顎機能および身体機能との関連-の研究結果と考察」
1.咬合力と日常生活動作遂行能力との関連
咬合力10kgf未満,10-20,20-30,30kgf以上の4群別に,日常生活動作能力の一人あたり平均スコアを男女別に比較した。その結果,咬合力が大きいほど平均スコアが高くなる傾向にあり,有意差が認められた。
2.咬合力と関連する要因
咬合力がどのような要因と関連しているかを調べるた。その結果,無歯顎と比較して咬合支持2ゾーン以上が有意であった。また,握力,口腔内の自覚症状の有無において有意な関連が認められた。  
「歯科治療による高齢者の身体機能の改善の結果・考察」:
対照群では有意に改善せず、治療群では有意な改善の得られた項目として、FIMの食事、更衣、入れ歯の使い心地、咬合力、構音の一部、口腔の客観的情報などであった。
さらにFIMの食事と更衣(上半身)、口腔の客観的情報で治療群が対照群に比し有意に改善していた。
「口腔微生物と全身の健康に関する研究の結果・考察」
1)血糖コントロールが良好な非肥満2型糖尿病患者を被験者として,Porphyromonas gingivalis(P. gingivalis)に対する血清IgG抗体価とCRP値との関連性を調べた。その結果,高感度CRP値とP. gingivalisに対する血清IgG抗体価は,P. gingivalis FDC381(serotype a)とSU63(serotype b)のいずれに対しても有意に相関した。
2)歯周病細菌に対する血清抗体価と動脈硬化発症予測因子hs-CRPとの関連性の検討
無作為に抽出した2型糖尿病患者において,歯周病原因菌のなかでもこれまでに動脈硬化疾患との関わりについて報告のある,Porphyromonas gingivalisに対する血清抗体価とhs-CRP値との関連を検討した。患者群をBMIに応じて分類し、それぞれの群でCRPとの相関を調べると25<BMI<30においてCRP値と血清抗体価は有意な相関を示した。
3)癌患者における手術前後における歯垢および唾液中の細菌の同定
前立腺癌患者の手術前後における歯垢中の細菌を調査した。合併症を有する患者の術前のカンジダ陽性率は、有さない患者と比べて高かった。しかし、術後のカンジダ陽性率は合併症を有さない患者においても上昇していた。
4)口腔バイオフィルムとしてのNanobacteriaの病原的意義に関する研究:  
歯石や腎結石の形成に関与するNanobacteriumを体内、特に口腔から分離同定することが急務である。岡山大学で分離した株は、Nanobacteriaのモノクローナル抗体で特異的に染色された。
5)要介護高齢者の口腔微生物叢に対する口腔ケアの効果
豊島区歯科医師会により月2回歯科医師および歯科衛生士による歯科口腔ケアを受けている特別養護老人施設において、その口腔内の病原菌を検討した。
特別養護老人施設において計128人の要介護高齢者を対象とし、対象者の歯垢を綿棒で擦過する方法で採取した。各施設における被験者の特徴の違いや口腔ケアの方法の違いなどにより検出される菌種が異なっていた。
「口腔の状態と睡眠についての研究の結果・考察」
義歯未装着の睡眠より義歯を装着した睡眠のほうが良好な睡眠が得られていることが認められ、就寝時は全部床義歯を装着しているほうが望ましいことが示唆された。
「歯科医師における歯と全身の健康、栄養との関連に関する縦断研究の結果・考察」
歯周病と関連した要因は、喫煙、低いブラッシング頻度、低い精神的健康度、激しい運動をしないであり、歯牙喪失(5歯以上)と関連する要因は喫煙、高血圧であった。
「糖尿病患者・肥満症患者の口腔状況に関する研究-口腔と全身健康の相互関係-の研究結果・考察」
歯周病の病態に介入して、糖尿病の病態に及ぼす影響を検討した研究は国際的にも我々の知る限りでは存在しない。症例、目標例は介入群25例、非介入群25例計50例である。一部の患者で歯周病態改善が血糖コントロール(血糖、HbA1c)を改善している所見が見られている。
「咀嚼と肥満の関係に関する研究の結果・考察」
今回の研究は、食事の噛み方が、血糖等の値に影響することを確かめるために行った。「良く噛む」と「早食い」との間に血液検査でインスリンの分泌に差が認められた。インスリンの分泌量が、「良く噛む」の時に「早食い」を上回る値となった。
結論
以上8つの研究班の結果から口腔保健の推進によって高齢者の全身的な健康状態の向上が図れるものと推察された。

公開日・更新日

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