特定保健用食品素材等の安全性及び有用性に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200985A
報告書区分
総括
研究課題名
特定保健用食品素材等の安全性及び有用性に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
斎藤 衛郎(独立行政法人 国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 中村治雄(三越厚生事業団)
  • 白井厚治(東邦大学医学部附属佐倉病院)
  • 江崎 治(独立行政法人 国立健康・栄養研究所)
  • 廣田晃一(独立行政法人 国立健康・栄養研究所)
  • 渡邊敏明(姫路工業大学環境人間学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品・化学物質安全総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化社会の到来とともに生活習慣病の発症率が高まってきており、食生活、飲酒、喫煙、運動など生活習慣の改善によるその一次予防が国民の緊急の課題となっている。一方で、国民所得の増加、健康に対する関心、知識の向上、食経験に基づく知見の積み重ねなどから、健康の保持・増進、疾病予防を目的として特定保健用食品やいわゆる健康食品、栄養補助食品等に対する関心と摂取の機会が高まってきている。こうした食品は適切に摂取することにより食生活を通じて国民の健康の保持・増進に寄与する。
特定保健用食品は、その有効性と安全性が検証され許可される。従って、その摂取により軽度の異常や正常高値例の改善に寄与するようになった。しかし、許可の際のヒト試験は、被験者の数が必ずしも充分ではないこと、性差、年齢差及び健常人、いわゆる半健康人等身体状況を異にする全ての被験者層を対象として有効性が評価されている訳ではない。また、非常に多品目の製品の登場により、同様の効果を示す複数の特定保健用食品が長期に併用される機会も増えている。しかし、それぞれの食品の開発時点での成績は個々の食品についてまとめられ、複数摂取した場合の有効性、安全性の確認はなされていない。従って、その有効性のみならず安全性の評価も重要となってきている。
一方、特定保健用食品に使用される素材には、大豆たんぱく質、アルギン酸ナトリウム、サイリウム種皮等抗原性を有するものが多数存在する。従って、特定保健用食品においても過敏反応を惹起する可能性がある。また、いわゆる健康食品として数多く出回っている機能性食品素材の中には、将来、特定保健用食品として申請される可能性のある素材も数多くあると思われるが、効果と安全性は充分には検証されていない。有効性の機序についても、充分には明らかにされていない。
そこで、今回、同意を得られたヒト症例及び実験動物を用いて、特定保健用食品素材として汎用されているグアバ茶ポリフェノール(食後血糖上昇抑制)、グロビン蛋白分解物(食後中性脂肪上昇抑制)、ジグリセリド(食後中性脂肪上昇抑制及び体脂肪蓄積抑制)、植物ステロール含有ジグリセリド(食後中性脂肪上昇抑制、体脂肪蓄積抑制及び血清コレステロール低下)、大豆蛋白質(血清コレステロール低下)、難消化性デキストリン(整腸、食後血糖上昇抑制、血清コレステロール低下等)及びオリゴ糖(カルシウム吸収促進)を用いて、1)有効性の再評価とともに組み合わせ摂取の安全性と有用性について検討し、問題点については是正策を講ずることを目的とした。また、アレルゲンの免疫複合体転移酵素免疫測定法による高感度測定法及びウェスタンブロット法を開発し、特定保健用食品素材の2)アレルギー発現について検討した。さらに3)抗肥満作用を示す食品素材の安全性と有効性についても検討した。
研究方法
植物ステロール含有ジグリセリド油(エコナ油)と大豆蛋白質:コレステロールの吸収を主として抑制することで血清コレステロールを低下させる植物ステロール含有ジグリセリド油(以下エコナ油)と、コレステロールの排泄を促進させる大豆蛋白を用いた。エコナ油単独摂取と、エコナ油に大豆蛋白を併用摂取した場合の血清脂質などへの有効性と安全性を確認すべく軽度の高コレステロール血症者17例(40才以上の男性8例及び閉経後の女性9例、平均年令57.3才で血清コレステロール値が220mg/dl以上)について臨床的に検討した。被験者は、エコナ油(約10g/日)を4?5週間摂取し、次いで4週間豆乳(大豆蛋白10g/日)を併用摂取し、その後大豆蛋白を中止してエコナ油のみで4週間経過をみた。血清脂質、血糖、肝機能、腎機能、高感度CRPなどを測定した。(中村)
グアバ茶とグロビン蛋白分解物(ナップルドリンク):グアバ茶ポリフェノールの二糖類水解酵素阻害による血糖上昇抑制効果とグロビン蛋白分解物のリパーゼ阻害による食後中性脂肪の上昇抑制効果の組み合せについて検討した。グアバ茶(蕃爽麗茶)とグロビン蛋白分解物(ナップルGD)をそれぞれ単独で飲用した後、併用し、その有効性と安全性を糖尿病患者30名(男性8名、女性22名、平均年齢62.4歳)の被験者で検証した。初期4週間は、グアバ茶(200ml)を一日2本、昼食と夕食時に飲用し、次の、4週間はグロビン蛋白分解物(ナップルGD5粒)を同様に一日2回、昼食と夕食時に摂取した。さらに、次の4週間は、両者を同時に摂取した。それぞれ、前、4、8、12週後に血糖、血清脂質、体重、肝機能、腎機能、酸化指標などを測定した。(白井)
難消化性デキストリンおよびジアシルグリセロール:食後中性脂肪の上昇抑制および体脂肪蓄積に対する有効性を保健機能とする特定保健用食品素材のジアシルグリセロール(エコナ油、DG)とお腹の調子を整える保健機能の難消化性デキストリン(PF)を組合せて摂取したときの脂質濃度、体脂肪蓄積、肝機能および血糖指標に及ぼす影響をラットで検討した。5週令の雄Wistar系ラットに、5%(wt %)のセルロースあるいは難消化性デキストリン(PF)と15%(eng %)のコーン油あるいはDGを組み合わせたコレステロールを含まないあるいは0.5%のコレステロールを含む食餌を4週間自由摂取させた。(斎藤)
フラクトオリゴ糖とビタミンおよびカルシウムの吸収:フラクトオリゴ糖によるカルシウム吸収試験の被験者は、22歳から55歳までの健常男性ボランティア20人(平均年齢37.1±9.7歳)を対象者とした。本試験では、1週間以上の間隔を設けて、被験者に試験日にカルシウムと一緒に試験食品(フラクトオリゴ糖)あるいは対照食品(プラセボ)を摂取させた。被験者は朝食後にフラクトオリゴ糖(4gおよび8g)あるいはショ糖(対照食品)をカルシウム300mgと一緒に摂取させた。なお、今回の試験では葉酸は摂取しなかった。(渡邊)
アレルギー発現:アレルゲンとして大豆トリプシンインヒビター蛋白(TI)を使用し、アレルゲンの免疫複合体転移酵素免疫測定法による高感度測定法(ICTEIA)及びウェスタンブロット法を開発し、種々の特定保健用食品素材について検討を行なった。(廣田)
抗肥満作用を示す食品:実験1:脂肪エネルギー比を一定にし(摂取エネルギーの60%)、魚油をサフラワー油と置き換えることにより魚油の量を10 - 60 en%と10 en%ごとに変えC57BL/6Jマウスに摂取させた(1及び13週間)。
実験2:高炭水化物食を対照とし、高脂肪食にウーロン茶 5% (w/w)、ピルビン酸 6% (w/w)、クエン酸 1% (w/w)、カルニチン 0.5% (w/w)を添加したエサを12週間マウスに摂取させ、各々の抗肥満効果を調べた。(江崎)
結果と考察
植物ステロール含有ジグリセリド油(エコナ油)と大豆蛋白質:総コレステロールは平均241mg/dlよりエコナ油摂取後238.6mg/dlと約1%の減少、さらに大豆蛋白併用で230.4mg/dlへ2.6%の減少を示し、この変化は有意であった(P=0.0071)。大豆蛋白併用を中止すると234.2mg/dlとやや上昇傾向を示した。LDLコレステロールについては、前値151.5mg/dlに対してエコナ油摂取後144.8mg/dl、約5%の減少を認め、さらにエコナ油と大豆蛋白併用では141.3mg/dl、6.6%の減少を示し有意であった(P=0.001)。更に大豆蛋白併用を中止し、エコナ油のみにもどすと143.3mg/dlへとやや上昇傾向を示した。HDLコレステロール、トリグリセライドについては、摂取期間中有意の変動は認めていない。安全性についての検討では、肝機能、腎機能、血糖、赤血球、白血球、血小板などの変化に特に問題はみられなかった。
今回の研究の実施により、軽度高コレステロール血症例でエコナ油摂取後総コレステロールとLDLコレステロールに軽度の減少を認め、大豆蛋白併用により減少効果が増強されることを認めた。これは、植物ステロールによってコレステロールの吸収を抑制したことにより、大豆蛋白によるコレステロールの異化作用が強く作用したためと考えられる。(中村)
グアバ茶とグロビン蛋白分解物(ナップルドリンク):空腹時血糖値、インスリン値、平均血糖を表すグリコアルブミンは、服用前に比し、4、8、12週目いずれも変化しなかった。従って、グアバ茶の長期間服用は空腹時血糖値には影響を認めず、食後の血糖上昇を緩やかにする可能性はあったとしても、血糖改善効果や、糖尿病改善、予防効果は期待できないと思われた。血清脂質では、総コレステロール値は、服用前に比し、4、8、12週目、いずれも変化を見なかった。一方、中性脂肪値は4週目は変動を見なかったが、8週目及び12週目には有意な低下が見られ、グロビン蛋白分解物には血清中性脂肪低下作用を認めた。HDL-コレステロールは、12週目に有意な上昇を見た。従って、グロビン蛋白分解物(ナップルGD)には、中性脂肪低下効果があるものと推測され、リポ蛋白リパーゼ活性には変動がないので、その効果は、吸収抑制による低下が考えられた。副作用については、今回肝機能、腎機能、横紋筋に対して影響を認めなかった。(白井)
難消化性デキストリンおよびジアシルグリセロール: DGとPFを組み合わせて摂取しても血清および肝臓脂質濃度の低下作用は認められなかった。また、体脂肪蓄積にも顕著な改善効果は認められなかった。PF摂取に伴い軽度の消化不良性下痢を観察したが、成長障害などを認めず、病理組織学的にも顕著な変化は観察されなかった。これらの結果より、PFとDGの組合せ摂取はセルロースおよびコーン油組み合わせ摂取と比較して、脂質代謝、体脂肪蓄積および他の血液生化学値に対し顕著な改善効果を認めなかった。しかし、併用摂取による病理組織学的に有害な影響は観察されず、安全性は問題ないと判断された。(斎藤)
フラクトオリゴ糖とビタミンおよびカルシウムの吸収:フラクトオリゴ糖によるカルシウム吸収を尿中カルシウム排泄量から観察した。フラクトオリゴ糖低濃度摂取群における尿中カルシウム排泄量は、プラセボ群と比較して有意に高い値を示した。また、フラクトオリゴ糖高濃度摂取群での排泄量は、フラクトオリゴ糖低濃度摂取群と較べて有意に高い値であった。しかし、葉酸の尿中排泄量については、高い傾向が見られたが、フラクトオリゴ糖およびプラセボ群との間に差異は認められなかった。フラクトオリゴ糖は、ショ糖に1~3個の果糖が結びついたもので、本報告では、フラクトオリゴ糖の新たな生理機能として、カルシウムの吸収促進効果が確認された。フラクトオリゴ糖によるカルシウム吸収促進メカニズムは十分には明らかにされていないが、大腸における糖質発酵によって生じた短鎖脂肪酸の刺激作用によることが示唆されている。(渡邊)
アレルギー発現:大豆には15種以上のアレルゲンが報告されている。ICTEIAによるTI抗原の検出限界は20 fg(1 amol)/assayであった。特定保健用食品及び食品素材として、大豆(調整豆乳、豆乳ヨーグルト)、グアーガム(ファイバープラス、あおさ粥)、アルギン酸ナトリウム(海のせんいのコーンスープ、コレカットポタージュ)、サイリウム(ヘルシーガム、サイリウムプレーン、イサゴール、コロバランス)についてICTEIAによるTI様物質の検出を試みた。大豆製品については、いずれの製品においてもTIが検出されたが、多糖類を主成分とするグアーガムを素材とする製品においても明らかにTI(様物質)が検出された。ウェスタンブロットを用いた特定保健用食品素材中のTI様物質の検出では、ICTEIAの結果から予想されるように、豆乳、そしてグアーガム製品のいずれも銀染色で染色される多数のバンドが観察され、ウェスタンブロットにおいて、いずれも各々異なる免疫染色像が得られた。これらの現象は抗TI抗体に特異的であった。グアーガムの中に、今回用いた抗TI抗体と反応する物質が存在し、それがグアーガムを素材とした特定保健用食品にも残存しているらしいことは、ICTEIA及びウェスタンブロットでともに検出されたことから明らかである。(廣田)
抗肥満作用を示す食品:10 - 20 en%魚油摂取ではSREBP-1のmRNA量や未成熟型SREBP-1蛋白量には影響を与えなかったが、成熟型SREBP-1の量を約50%減少させた。30 - 60 en%では、SREBP-1のmRNA量や未成熟型SREBP-1蛋白量は魚油摂取量依存的に抑制された。成熟型SREBP-1量の減少に伴い、脂質代謝に関与するSREBP-1標的遺伝子(FAS, SCD-1など)発現量も魚油10 en%投与において抑制された。また、PPARαの標的遺伝子である脂肪酸β酸化関連酵素(ACO, MCADなど)の肝臓での発現量は魚油摂取量依存的に増加したが、筋肉や脂肪組織での発現量の変化は顕著ではなかった。これらのことから、魚油の抗肥満効果は、主として肝臓でのPPARαの活性化による脂肪酸β酸化の亢進が寄与していることが推定された。
ピルビン酸、クエン酸、ウーロン茶添加食において、体重、脂肪蓄積とも有意な増加抑制効果が認められた。(江崎)
結論
エコナ油単独で総コレステロール、LDLコレステロールは僅かに低下し、大豆蛋白併用でその低下効果は増強され、有用性はより一層高まることが確認された。血圧、血糖、CRP、肝機能、腎機能、末梢血液には全く異常所見はみられず、安全性は問題ないと判断された。(中村)
グアバ茶は、食後血糖を下げるとされているが、長期には血糖の改善につながるものではなかった。グロビン蛋白分解物(ナップルGD)には、明らかに中性脂肪低下効果があり、副作用も認められず、特定保健用食品として適正と思われた。また、グロビン蛋白分解物の作用とグアバ茶の作用とは互いに干渉されなかった。(白井)
通常食あるいは高コレステロール食を与えた動物においてDGと難消化性デキストリンの組合せ摂取による脂質代謝の改善効果は認められず、脂肪組織重量に対しても顕著な効果を認めなかった。PF摂取による軽度の下痢が観察されたが組織病理学的な異常所見は見られなかった。今回の実験から併用による顕著な生理作用は認められなかった。PF服用に際して下痢に注意を要するが、病理組織学的には安全性上問題がないことが明らかとなった。(斎藤)
食物繊維としてフラクトオリゴ糖を用いて、葉酸およびカルシウム吸収への影響を検討した。フラクトオリゴ糖を含む試験食品をカルシウムと一緒に摂取すると、尿中へのカルシウム排泄量が対照食品に比べ有意に上昇した。この結果から、フラクトオリゴ糖を含む食品は、カルシウムの吸収を高める作用のあることが示唆された。一方、水溶性ビタミンである葉酸の吸収については、尿中の葉酸の排泄量に十分な変化は認められなかった。(渡邊)
特定保健用食品素材であるグアーガム中にトリプシンインヒビター様物質の存在する可能性が示唆された。大豆以外のその他の特定保健食品素材からは検出されなかった。しかし、この抗原に対する特異抗体はアレルギーを有する小児および健常人血清双方から検出され、疾患特異性は明らかではなかった。(廣田)
魚油摂取による抗肥満作用は、肝に於けるPPARαの活性化作用と相関が強く、人での摂取可能量、DHAが2 en%の投与では、PPARαの活性化は1.5倍程度の弱い作用しか認められなかったが、肝での脂肪合成に関する酵素は50%程度の低下を示した。ウーロン茶、L-カルニチン、ピルビン酸、クエン酸を高脂肪食に混ぜて投与したところ、高脂肪食による肥満はウーロン茶、ピルビン酸、クエン酸投与により抑制された。(江崎)
以上、有効性の再評価において有効性が得られるもの、得られないものがあった。幅広い被験者層で更に検討する必要がある。また、組み合わせ摂取の場合も、有効性が得られるもの、得られないものがあり、さらに種々の効果的な組み合わせについて検討する必要がある。しかし、食品素材でもあり、併用によっても過剰摂取を避ければ安全性は高いものと思われる。アレルギー惹起性に関しては、グアーガムにTIに類似した物質が検出されたが、これが直ちにアレルギーを惹起し得るかどうかは不明である。今後さらに検討し実体を明らかにすることが必要であるとともに、特定保健用食品素材についてのスクリーニングをさらに進める必要がある。

公開日・更新日

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