男性同性間のHIV感染予防対策とその推進に関する研究(総括・分担研究報告書)

文献情報

文献番号
200200632A
報告書区分
総括
研究課題名
男性同性間のHIV感染予防対策とその推進に関する研究(総括・分担研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
市川 誠一(神奈川県立衛生短期大学)
研究分担者(所属機関)
  • 内海 眞(国立名古屋病院)
  • 木村博和(横浜市立大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
東京、名古屋等の地域で、ゲイコミュニティにおける啓発普及プログラムを開発し、啓発資材の認知と予防意識への影響、コンドームの入手、常備、常用の効果を評価しつつ、HIV感染予防対策上の課題を整理し、予防施策に有効な対策を提言する。本年度は情報収集、ネットワーク構築及び啓発試行期とし、当事者参加の研究体制を構築し、次年度以降の研究体制基盤を整え、訴求効果のある啓発資材の開発や啓発普及方法を検討し、試行することとした。
研究方法
1.対象地域:感染者・患者の報告数が多い東京圏と、近年増加傾向にある名古屋地域を対象とした。ゲイコミュニティの規模、脆弱性の程度、ボランティア活動の規模等を考慮し、地域別に研究を実施した。2.研究体制:啓発資材開発・推進は地域ボランティア(NGO)と協働し、ゲイメディア、ゲイビジネス等の関係者の協力を得つつネットワークを構築し普及促進の方法を探る。本研究で試行する啓発資材、方法の評価は研究者が担当する。また、地域でのMSM対象のエイズ施策の継続性を図るため行政連携を構築する。3.初年度計画:情報収集、ネットワーク構築及び啓発試行期とし、当事者参加の研究体制を構築し、次年度以降の研究体制基盤を整える。訴求効果のある啓発資材の開発や啓発普及方法を検討し、試行する。なお、研究初年度は以下の課題を実施した。1)東京地域における男性同性間のHIV感染予防対策とその推進に関する研究(市川)2)名古屋地域における男性同性間のHIV感染予防対策とその推進に関する研究(内海)3)新宿2丁目地区のMSMにおける施設利用別の行動疫学に関する研究(木村)4)国民向けエイズ広報の普及に関する調査(市川)
結果と考察
1.東京地域における男性同性間のHIV感染予防対策とその推進(市川):東京ではNGO、イベント、メディア、商業施設等に所属する当事者との協力研究体制で、各自のコミュニティ・ネットワークを活用した情報収集が可能となった。ゲイパレード参加者への予防啓発周知、エイズデーをはさむ1ヶ月(11月15日~12月15日)をセーファーセックス月間とし、既存のクラブイベント(34イベント)参加者への啓発(延べ8832人)、ハッテン場を介した啓発では東京近県を含む87軒に啓発協力を依頼し、68軒(78%)との協力体制を構築した。クラブイベントでのコンドーム普及では4種のパッケージを集める楽しさを提供する工夫、ハッテン場での啓発では施設の状況、無料配布の限界等を考慮するなどを検討しつつ訴求性を図った。2.名古屋地域における男性同性間のHIV感染予防対策とその推進(内海):名古屋のゲイNGO(エンゼルライフ名古屋)はゲイバーを中心とするコミュニティでのコンドームアウトリーチを維持し、ハッテン場との協力関係により啓発コンドーム消費数を6倍にするなど普及効果が示された。また、啓発イベントを地域公園で行うことで、ゲイ以外の地域住民にもエイズやセクシュアリティについての理解を促進する効果が見られている。HIV検査会には300人を超える受検者が参加し、そのニーズの高さが伺える。また、受検者のほとんどが20歳代、30歳代で、名古屋近隣の居住者に加えて他の地方からの受検者もあった。受検者からは現行の保健所等での検査体制に対して、平日の勤務時間帯で受検しにくいことが指摘されている。HIV感染者の報告が増加している今日、受検を希望する者に対応した検査体制への改善が望まれる。3.新宿2丁目地区のMSMにおける施設利用別の行動疫学に関する研究(木村):首都圏のMSMに対する有効なHIV予防対策の資料とするため、新宿のゲイイベントに参加した若いMSMを対象に、性行動やHIVに関する知識や意識、態度など基本
的情報についての質問紙調査を行った。イベント参加者は1330人、回答者は574人、分析対象者は539人であった。コンドームの使用頻度は年齢が高い人ほど多かった。商業系ハッテン場利用経験の有無別に知識、行動、意識を比較すると、経験あり群の方が予防知識の正答率や予防事業の認知率、アナルセックス時のコンドーム使用頻度、HIV検査の受検者割合が多かったが、コンドーム使用がその場のムードや相手の見た目により左右されたり、STDの既往歴やHIV感染の不安経験の頻度も多かった。またHIV検査の未受検の理由として「結果を知るのがこわい」人が多かった。感染リスクの高い行動をとる人に対して、HIV感染症や予防行動に関する正確な情報の提供が必要であると考えられる。4.国民向けエイズ広報の普及に関する調査(市川)政府は、昨年、各種媒体を通してエイズ予防の啓発を行った。媒体による広報の普及効果を知ることは、MSMを対象とした普及方法の開発に資するものと考え、政府広報への接触経験を調査し、各種媒体による普及効果を分析した。満16歳以上の男女(層化2段無作為抽出法による2118人、回収数1449人)を対象に普及度を調査分析した。映画館でのエイズ広報の接触率は4.3%と低い。携帯電話はほぼ半数が使用しており、iモード等の利用率も1/4ほどあった。しかし、7月のWEBでのエイズ広報には0.8%、12月では0.9%の接触率であった。電光板ニュース、街頭ビジョンも外出中にみたことがある者は1/4から1/3あるが、エイズ広報との接触率は低い。エイズへの関心は、感染者が増えているからを理由に挙げたものが最も多く、関心がある層でエイズ広報との接触は高い傾向が示された。感染者・患者が増加している今日、エイズ予防の広報は重要である。しかし、その効果性を評価して、より有効な広報を展開することが予防に貢献するものと思われる。また、啓発対象層を明確にすることも必要であり、広報の手段や内容は、対象層への訴求性高める工夫が必要と思われる。
結論
東京では、ゲイ対象のイベントとリンクした啓発普及が試行され、そのネットワーク構築が普及拡大に有用である事が示された。また、ゲイコミュニティとの連携を推進した。特にハッテン場との協力構築は、今後のMSMにおける予防対策推進に大きく貢献するものと考える。名古屋では、MSM参加の研究体制を確立し、ゲイコミュニティや他の関連諸団体との連携のもとに、予防啓発のプログラムを開発し、試行した。ハッテン場におけるコンドーム消費の増大、HIV抗体検査会への多数の参加、行政サイドにおける夜間抗体検査実施という形で実を結びつつある。ゲイコミュニティあるいはNGOの協力関係・信頼関係の構築は本研究のみならず、HIV感染拡大防止の成否の上で重要である。研究初年度に東京、名古屋でゲイコミュニティにアプローチする研究体制が構築され、訴求性のある啓発資材の開発、効果的な普及方法等を試行し、各地域で一定の成果を得、初年度の目標を達成した。政府広報の普及に関する調査では、携帯電話のWEBや映画館の利用は若年層で高いことがわかった。しかし、それらを利用した広報への接触率は必ずしも高いとは言えず、映画館でのエイズ広報の接触率は4.3%、携帯電話WEBでのエイズ広報では、7月広報が0.8%、12月広報が0.9%の接触率であった。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-