褥創ケアにおける看護技術の基準化とその経済評価

文献情報

文献番号
200200230A
報告書区分
総括
研究課題名
褥創ケアにおける看護技術の基準化とその経済評価
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
真田 弘美(金沢大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 足立香代子(せんぽ東京高輪病院)
  • 阿曽洋子(大阪大学医学部)
  • 須釜淳子(金沢大学医学部)田中マキ子(山口県立大学看護学部)
  • 徳永恵子(宮城大学看護学部)
  • 廣瀬秀行(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
  • 宮地良樹(京都大学大学院医学研究科)
  • 森口隆彦(川崎医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国における高齢者の褥瘡発生率は5~16%と報告されている。褥瘡は高齢者のQOLを脅かし、さらに発生後のケアに多額な医療費が支払われている現状がある。私達は、過去に褥瘡発生を予測する方法と予防する看護技術について研究を行ってきた。その結果褥瘡は適切な看護ケアを施せば確かに予防可能であることを褥瘡発生率の減少を通して明らかにしてきた。しかし、高齢化、基礎疾患の複雑さが加味して、全身状態の悪化した患者では、褥瘡の予防は難しく発生は未だ後を絶たない現状がある。特に高齢者の場合は、加齢とともに諸機能が低下していくために、一旦褥瘡が発生してしまうと、治癒過程に時間を費やし、あるいは治癒せず死亡するケースも多く、褥瘡は高齢者のQOLに大きく左右している。
本研究は、高齢者における褥瘡の早期治癒を目指して、褥瘡ケアの看護技術をシステム化し、看護師の意思決定を的確に行うことによる評価を、褥瘡治癒期間と経済性の側面から行うことを目的にする。
研究方法
以下の段階で進行するため研究期間を3年と予定した。1.褥瘡部ケア用創部アセスメントツールを作成する(2001年度)。2.褥瘡部ケア用創部アセスメントツールで判断された項目に適用するケア方法のアルゴリズムを作成する(2002年度)。3.褥瘡部ケア用創部アセスメントツールと褥瘡ケアアルゴリズムの妥当性を検証する。妥当性の評価は褥瘡治癒過程と費用対効果から行う(2003年度)。
2002年度は、褥瘡部ケア用創部アセスメントツール項目に適用する介入方法のアルゴリズム作成のために 下記の順で行った。
1.褥瘡部ケアアルゴリズムの概念枠組みを作成し、その内容妥当性を専門家パネル9名にて検討した。専門家パネルの構成は、褥瘡を含めた創傷治療の専門医2名(形成外科医1名、皮膚科医1名)、創傷・オストミー・失禁看護認定看護師2名、看護技術に関する専門知識と技術をもつ看護師3名、褥瘡患者のリハビリテーションに関する専門知識と技術をもつ理学療法士1名、褥瘡患者の栄養管理に関する専門知識と技術をもつ栄養士1名である。
2. 治癒遅滞褥瘡保有高齢者のケア方法作成を系統的に行った。Medline、CINAHL、医学中央雑誌のデータベースごとに検索語および検索式とその結果を記録し、次に文献ごとに構造化抄録を作成した。出版されていない論文や検索困難な論文(学位論文、報告書等)は入手可能な範囲で情報収集を行った。未公表の研究は含まないこととした。系統的に得られた情報を批判的に吟味した。批判的吟味の視点は、①論文結果の臨床での活用の可能性、②外的・内的妥当性、③本邦の褥瘡保有高齢者ならびに現代日本医療における適合度、④文化的背景の差異の4項目とした。
3.批判的吟味の結果をもとに、褥瘡治癒に影響を及ぼす全身状態(栄養状態、水分出納、免疫機能、末梢循環、運動能力)に関するアセスメント指標を作成した。また、創変化(If)、要因(Because)、場面(Situation)の思考プロセスを採用した高齢者用褥瘡部ケアアルゴリズムを作成した。具体的には、褥瘡保有高齢者に対するケアルゴリズム(圧迫の排除、ずれ力の排除、スキンケア、栄養状態改善、局所ケア)、高齢者特有の身体要因に伴うケアルゴリズムである。
4.褥瘡部ケアアルゴリズムの内容妥当性を検討した。最初に、高齢者の褥瘡ケアを実際に行う看護師3名にフィードバック後、修正版を作成した。次に上述した専門家パネル9名による議論を行い再評価し、完成版を作成した。議論は、エビデンスの強さ、内容の重要性、高齢者の治癒遅滞褥瘡としての妥当性について行った。エビデンスが間接的であっても、複数の専門家の合意によって、治癒遅滞褥瘡にとって重要であると考えられたものは採用された。
5. 褥瘡部ケアアルゴリズムが高齢者の治癒遅滞褥瘡に適合するかを検討した。ケアアルゴリズムを使用し、2週間後の褥瘡部状態を評価した。また、褥瘡部ケアアルゴリズムの改善のためにバリアンスの有無とその内容を症例ごとに検討した。バリアンスとは、クリティカルパスにおいてパス改善のために収集する事実で、具体的には必要なケア内容を実施できなかった理由、アウトカムに到達できなかった理由に分類されている。
研究における倫理的配慮は、症例検討において、褥瘡保有高齢者または家族に褥瘡部写真撮影を含めて同意を得た。
結果と考察
1. 褥瘡部ケアアルゴリズムの概念枠組み:組立ては、患者の全身状態に関する情報と褥瘡局所に関する情報をもとに褥瘡保有患者の看護計画を立案することとした。全身状態に関する情報のアセスメントは、初回観察時に必ず実施する。具体的には、栄養状態、水分出納、免疫機能、末梢循環、運動能力が含まれる。褥瘡局所に関する情報のアセスメントは、褥瘡状態評価尺度経過評価用DESIGN(0~28点)と創変化ツールを用いて行う(平成13年度作成 褥瘡ケア用創部アセスメントツール)。褥瘡局所のアセスメントから褥瘡部に治癒遅滞状態が生じていると判断された場合は、その治癒遅滞要因が看護ケアから生じていないかケアチェックリストを用いて評価する。ケアチェックリスト上の場面を明らかに否定できない場合は、該当すると判断して次のケアアルゴリズムに進む。治癒遅滞要因が看護ケアから抽出された時は、ケアルゴリズムから看護計画を選択する。看護ケアから抽出されなかった時には、全身状態から治癒遅滞要因をアセスメントする。褥瘡部の治癒遅滞状態を改善する標準看護計画は、骨突出、関節拘縮などの患者の身体要因に応じたケアが追加できるように立案されている。看護計画の再評価は2週間後に実施する。2. 褥瘡部ケアアルゴリズム:エビデンスの質が高いとされるシステマティックレビューやRCT手法によって検討された褥瘡治療ならびに看護技術は少なかった。批判的吟味の結果をもとに、褥瘡治癒に影響を及ぼす全身状態(栄養状態、水分出納、免疫機能、末梢循環、運動能力)に関するアセスメント指標を作成した。また、褥瘡保有高齢者に対する37ケアアルゴリズム(圧迫の排除、ずれ力の排除、スキンケア、栄養状態改善、局所ケア)、高齢者特有の身体要因に伴う6ケアアルゴリズムの計43を作成した。専門家パネル9名による議論を行い、褥瘡部ケアアルゴリズムの内容妥当性が確認された。3.高齢者の治癒遅滞褥瘡への適合度:患者の背景は、年齢69~87歳、男性1名、女性3名、主な疾患は脳血管障害3名、肺炎1名であった。創部アセスメントツールを用いた各症例の褥瘡部治癒遅滞状態とその要因、実施したケアと創変化は次のとおりであった。①症例1:仙骨部に発生したDESIGN 総点13点の褥瘡であった。滲出液(E)の「増加」は洗浄量不足、ポケット(P)の「一方向」は経管栄養中に発生する方向性のあるずれ力が遅滞要因であった。ポケット洗浄と経管栄養中の姿勢保持に関するケアアルゴリズムを実施した。実施できなかったケアは、経管栄養注入時間の短縮であった。2週間後に、E、P共に良好な治癒過程を示した。②症例2:坐骨結節部に発生したDESIGN 総点5点の褥瘡であった。サイズ(S)の「拡大」は尿失禁による創部汚染と周囲皮膚の浸軟が遅滞要因であった。尿失禁に関するケアアルゴリズムを実施した。実施できなかったケアは、集尿装具の装着と失禁コントロールであった。2週間後に褥瘡部は治癒した。③症例3:仙骨部に発生したDESIGN 総点16点の褥瘡であった。肉芽組織(G)の「全面不良肉芽」は、エネルギー摂取量不足、蛋白質摂取量不足が遅滞要因であった。栄養状態改善(エネルギー、蛋白質)に関するケアアルゴリズムを実施した。2週間後に良性肉芽の創底に占める割合が増加した。④症例4:仙骨下部に発生したDESIGN 総点17点の褥瘡であった。肉芽組織(G)の「陥凹」は、坐位時の創縁皮膚による圧迫が遅滞要因であった。創周囲皮膚補正に関するケアアルゴリズムが実施された。2週間後にGは不変、Pはサイズが縮小した。肉芽状態が改善しなかった理由は、患者の自力移動による褥瘡部への外力であった。
4例中3例の治癒遅滞褥瘡部にツール導入2週間後に改善がみられたことから、文献レビュー等から系統的に作成したツールは臨床褥瘡に適合すると考える。しかし、循環器系への負担が増加する危険性があり実施できなかったケア、熟練を要する排泄ケア、痴呆高齢者への実施困難な排泄ケアがみられ、今後検討が必要である。また、改善しなかった1例から、高齢者の可動性を維持しながら、褥瘡部の安静を保つ看護技術開発の必要性が示唆された。
結論
文献レビュー等から系統的に43のケアアルゴリズムを作成し、その内容妥当性を専門家パネル9名の討議により確認した。また、実際の高齢者の治癒遅滞褥瘡への適合度も確認した。次年度は、過去2年間で作成した高齢者用褥瘡部ケアツール(創部アセスメントツールと褥瘡ケアアルゴリズム)の妥当性を治癒期間と費用対効果から検証予定である。

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