老化因子と加齢に伴う身体機能変化に関する長期縦断的疫学研究

文献情報

文献番号
200200184A
報告書区分
総括
研究課題名
老化因子と加齢に伴う身体機能変化に関する長期縦断的疫学研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
下方 浩史(国立長寿医療研究センター疫学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 納 光弘(鹿児島大学)
  • 熊谷秋三(九州大学)
  • 葛谷雅文(名古屋大学)
  • 鈴木隆雄(東京都老人総合研究所)
  • 安藤富士子(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
当研究班は老化や老年病の成因を疫学的に解明しその予防を進めていくために、医学・心理学・運動生理学・形態学・栄養学などの広い分野にわたっての学際的かつ詳細な老化に関する縦断的調査データの収集および解析を行うことを目的にしている。
研究方法
(1)長寿医療研究センター老化縦断研究(NILS-LSA):長寿医療研究センター周囲の地域住民を対象とした老化の学際的縦断調査である。調査対象者は愛知県大府市および知多郡東浦町の地域住民からの無作為抽出者で観察開始時年齢が40歳から79歳である。長寿医療研究センターの施設内で、頭部MRI、末梢骨定量的CT(pQCT)および二重X線吸収装置(DXA)の4スキャンでの骨量評価、老化・老年病関連DNA検査、包括的心理調査、運動調査、写真記録を併用した栄養調査など2,000名をこえる対象者の全員に2年に一度ずつ、毎日7名を朝9時から夕方5時まで業務として行っている。
(2) 耐糖能異常者における健康感認知変容プログラムによる長期介入研究:境界型および軽症2型糖尿病患者189名を対象に健康感認知変容を用いた健康行動支援プログラムの継続・効果評価を行った。また内臓脂肪面積の目標値の設定について男女の耐糖能異常者54名を対象に約1年間の食事・運動療法を行い、最も妥当な内臓脂肪面積値を算出した。
(3) 地域在住高齢者における神経所見の縦断的研究:人口流動の比較的少ない離島K町(人口7524名)の60歳以上の在宅高齢者を対象に、神経内科専門医による神経学的診察を隔年毎に行った。1991年から2002年までの検診受診者の延べ人数は3,042名で、実数は1,436名であった。今回は8年間隔で検診を受けた119名(男性43、女性76名)を検討対象とした。また、1995年と2000年の栄養調査の比較検討も行った。
(4) アルコールと高血圧症発症との関係への加齢の影響に関する縦断的研究:対象は1989年から1998年に愛知県内の人間ドックを受診した者で初診時高血圧症未発症者であった17歳から89歳までの36,766人(男性23473人、女性13,293人)とした。性別、年齢、body mass index (BMI)、喫煙を調整要因としてアルコールおよびγGTPの高血圧症発症への影響を、年齢群別にハザード比を算出し検討した。
(5) 地域在住高齢者における生活機能自立度低下の予知因子としての老年症候群:秋田県K村在住の70歳以上の高齢者(786名)のうち1999年のベースライン調査参加者は605名であった。このうち、基本的日常生活動作(BADL)と手段的日常生活動作が共に自立していた者(555名)を解析対象者とし2年後のBADL・IADLに関する自立状況を調べた。
(6) ハワイ在住日本人における栄養摂取と心理的健康との関連:Honolulu Heart Program / Honolulu - Asian Aging Study (HHP/HAAS)はハワイ在住日本人を対象とした長期縦断疫学研究であり、当初は心疾患をエンドポイントとしたコホート研究であった(HHP)が、現在は老化や老年病をターゲットとした観察型の長期縦断疫学研究(HAAS)にその様相を変化させている。HHP/HAASで行われた栄養調査と抑うつ調査との間の関係から、壮年期の栄養摂取と老年期の抑うつとの関連について検討した。
(倫理面への配慮)本研究は、長寿医療研究センターでの基幹研究に関しては、国立中部病院における倫理委員会での研究実施の承認を受けた上で実施し、全員からインフォームドコンセントを得ている。人間ドック受診者に関しては、個人名や住所など識別データをファイルにしないなど個人のデータの秘密保護に関して十分に配慮し、研究を実施している。また分担研究でのフィールド調査では個々の研究者がその責任において、それぞれのフィールドで、自由意志での参加、個人の秘密の保護など被験者に対して十分な説明を行い、文書での合意を得た上で、倫理面での配慮を行って調査を実施している。
結果と考察
(1)長寿医療研究センター老化縦断研究(NILS-LSA):平成11年度にNILS-LSAは第1次調査を終了し、40歳から79歳までの地域住民2267名でのデータ収集を終えた。平成12年4月より第2次調査を開始、平成14年5月で2259名の調査が終了した。引き続いて第3次調査を開始し、平成15年2月末までに918名の調査が終了している。今年度には第1次および第2次調査で得られた数千項目の各種検査の性別年齢別標準値を、老化の基礎データとして英文でモノグラフとしてまとめインターネットを介して全世界に公開した (http://www.nils.go.jp/organ/ep/monograph.htm)。
(2)耐糖能異常者における健康感認知変容プログラムによる長期介入研究:本プログラムの継続率は44%であり、対象者の1年後の医療機関への通院率は50%であった。継続者に対する効果評価の結果、肥満、体力および糖・脂質代謝指標に有意な改善が認められた。約1年間の食事・運動療法を行い最も妥当な内臓脂肪面積値を求めた。解析の結果、最も適切な内臓脂肪面積の目標値は120 cm2であり、それに対応する男性のウエストは84.8 cmであった。
(3)地域在住高齢者における神経所見の縦断的研究:8年間に悪化した神経所見は、下肢振動覚低下、しゃがみ立ち困難、上肢振動覚低下、片足立ち困難、つぎ足歩行拙劣、Mann試験陽性、聴力障害、MMSEスコア低下などであった。一方、Babinski徴候、視野障害、上肢触覚低下、手袋靴下型感覚障害などは悪化率が低かった。ロジスティック回帰分析にて、眼球運動障害、聴力、聴力の左右差、尿失禁、片足立ちと年齢で有意な関連を認めた。MMSEスコアとカルシウム摂取量、たんぱく質摂取量との関連が認められた。
(4)アルコールと高血圧症発症との関係への加齢の影響に関する縦断的研究:多変量Cox検定で、60歳未満ではアルコールの多量飲酒(毎日ビールなら2本程度以上)、少量飲酒(時々または毎日ビールなら1本程度)およびγGTPの高値が年齢、性別、喫煙、BMIを調整しても独立した高血圧症発症リスク増加要因となった。しかし60歳以上群では上記の関連要因を調整しての検討で、アルコールは少量飲酒、大量飲酒ともに有意な危険因子ではなく、またγGTP も有意ではなかった。
(5)地域在住高齢者における生活機能自立度低下の予知因子としての老年症候群:解析対象者について2年後のBADL非自立に関連する要因と2年後のIADLのみ非自立に関連する要因を多重ロジスティック回帰分析にて検討した。BADL非自立に関連する要因は低認知機能で、IADLのみ非自立に関連した要因は、年齢と低認知機能であった。
(6)ハワイ在住日本人における栄養摂取と心理的健康との関連:HHP/HAASでの壮年期の栄養摂取と老年期の抑うつとの関連について検討した。全体の傾向としては、肉類・肉加工食品の摂取量が多い者ではその後の抑うつ頻度が高いという結果が得られた。
老化の縦断疫学研究は、さまざまな側面からの検討が必要であり、多くの研究者が共同して推進して行かねばならない。基幹施設での地域住民への包括的で詳細な疫学的調査研究を中心に、全国の研究者とともに様々なコホートでの老化の縦断的研究を進めた。
結論
本研究は老化や老年病の成因を疫学的に解明しその予防を進めていくために、医学・心理学・運動生理学・形態学・栄養学などの広い分野にわたっての学際的かつ詳細な縦断的調査研究を行うことを目的にしている。基幹施設である長寿医療研究センターでの地域住民への詳細な疫学的調査に基づく縦断研究では第1次及び第2次調査結果をモノグラフという形で発表し、またインターネット上でも公開した。各班員はそれぞれのコホートで縦断的個別研究を行い、日本人における老化縦断研究をすすめた。

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